2013年10月22日

『長い休日』(米澤穂信著、角川書店刊『小説野性時代 2013年11月号 vol.120』掲載)

『長い休日』(米澤穂信著、角川書店刊『小説野性時代 2013年11月号 vol.120』掲載)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<感想>

「古典部シリーズ」のアニメ化作品である『氷菓』が好評を博した米澤穂信先生。
この『長い休日』は「古典部シリーズ」の最新短編です(2013年10月時点)。

「古典部シリーズ」には既刊として『氷菓』『愚者のエンドロール』『クドリャフカの順番』『遠まわりする雛』『ふたりの距離の概算』が、これに未収録短編として『連峰は晴れているか』『鏡には映らない』が存在しています。
つまり、『長い休日』は3作目の未収録作品になるワケです。
これに書下ろしを加えて、もう1、2年後には『遠まわりする雛』に続く短編集が出ないかなぁ……とファンとしては期待してしまいますね、フヘヘヘヘ。

さて、いずれ来る朗報を待ちつつ、早速読んでみたワケです。

内容的には「折木奉太郎が省エネ主義を採るようになった原因」が語られます。
また、原因が語られれば結果も伴うモノ。
そんな奉太郎が今になり変わりつつある様も描かれています。
此の点は流石の貫録です!!

でもって、あんな状況に陥ったら普通は当番替えに発展するものなぁ……。
それが無かった時点で、あの人の怠慢は明らかと言えるでしょう。
この「毒」の描き方も良かった。

そんな本作を一文字で表現するならば、まさに「粋」!!
必要最小限に多くを語らずも、多くが伝わる作品に仕上がっていました。
ファンは読め、とりあえず読め!!

そして、ラストが良かった!!
奉太郎の「長い休日」を終わらせたのは「古典部」であり「千反田える」だったんだろうなぁ。
供恵の深慮遠謀にも注目!!

<ネタバレあらすじ>

ある休日の朝―――折木奉太郎は何故か気力が充実している自分に気付いた。
「省エネ主義」を標榜する普段の彼にすればありえないほどの充実具合であった。

奉太郎は有り余る気力を持て余し、興が乗ったのか朝食を用意してみた。
我ながら良い出来である。
満足していると、姉・供恵がやって来て共に楽しむことになった。
いつになくやる気を見せる奉太郎に供恵は意外の感を抱かずに居られなかった。

奉太郎は溢れ出す気力のままに、外へと飛び出した。
大きな解放感に包まれた奉太郎は町内を歩くうちに、神社に辿り着く。
其処は福部里志曰く「桁上がりの4名家」の1つ・十文字かほの実家である。
しかも、タイミングよく何やら外に出て来たかほと出会う。

かほは奉太郎の顔を見るなり、何やら動揺。
えるが遊びに来ていることを教えると、奉太郎を半ば強引に自宅に連れ帰る。

かほ宅に上り込んだ奉太郎。
この姿を認めたえるは何やら照れる様子を見せる。
もっとも奉太郎も同様だが。

此処で、奉太郎はかほが自身を自宅へと誘った理由を知ることに。
「生き雛」の際の写真(『遠まわりする雛』でのエピソード)をえるとかほとで鑑賞していたらしい。
当然、其処には奉太郎の姿もバッチリ撮影されている。

だが……あまりに写真写りが悪過ぎた。
心当たりを覚える奉太郎。

実は、えるの美しさに心を奪われたまさにその一瞬を撮影されていたのだ。
どうやら、この写真を見ていた居心地の悪さを払拭する為に呼ばれたようだが……。
そんなに気を遣う必要はないのに……と思いつつ、暫し歓談する奉太郎。

時が経ち、ふとえるが気付く。
買い物は大丈夫ですか?と。

そう、かほは買い出しの為に外出しようとしたところを奉太郎に出会いすっかり忘れてしまったいたのだ。
かほは慌てて買い出しに向かうことに。
だが、これによりえると共に行う予定だった稲荷の祠掃除の人手が足りなくなってしまう。
どうしても捨て置けなかった奉太郎は自ら協力を買って出る。

こうして、えると2人で祠の清掃を行う奉太郎。
溢れ出る気力は未だ有効で、ついつい鼻歌まで飛び出すことに。

普段の奉太郎らしからぬ様子に驚きながらも嬉しそうなえる。
話題は「奉太郎の省エネ主義がいつ生まれたか」へと進む。

どうしたことだろうか、いつもの奉太郎ならば答えなかったであろうその問い。
だが、今日の奉太郎はこれに応じた。

奉太郎は小学生時代の出来事をえるに語って聞かせる。

当時の奉太郎は省エネ主義とは無縁であった。
頼まれれば否とは言えず、担任教師はそんな奉太郎にさまざまな仕事を依頼していたほどだ。

そして、小学生と言えば何と言っても「当番制」が大きな特徴となるだろう。
例えば「飼育係」「掲示係」などだ。
奉太郎の小学校にもこの「当番制」があった。

とはいえ、「当番制」はクラス全員に割り当てる必要がある。
当然、その中には「なんでこんなものを?」と首を傾げるような水で薄めたような当番も存在する。
奉太郎が担当したのがコレであった。
奉太郎は「水遣り係」に任命されたのだ。

「水遣り係」はその名の通り、校庭の花壇に水を遣る係。
水遣りと言っても、遣り過ぎは草花を枯死させることになる。
だから、毎日ではなく様子を見つつ間隔を空けてとなった。

そして、当番と言えば2人1組だ。
奉太郎のコンビは田中(仮名)と言う女子生徒で特に親しくもない相手。
田中はポケットの無い服を好んで着用しており、種を運ぶ際も必死に手で運ぶタイプであった。
とはいえ、「水遣り係」の性質上2人で交互に担当すれば良いとの結論に至っていたが……。

ある日、奉太郎は担任教師付き添いの下で、田中から当番の肩代わりをしてくれるよう頼まれた。
水遣りは主に放課後に行われていたが、田中の家がリフォームの間一時的に引越しすることからバス通学になったので放課後に水遣り出来なくなったらしい。
出来ないのならば仕方ない―――奉太郎はこれを引き受けることに。

奉太郎は1人で当番をこなし続けた。
そんなある日、事件が起きた。

放課後、クラスメートと話し込んでいた奉太郎の前に慌てた様子の田中が現れた。
踊り場に置いておいた田中のランドセルが、遊んでいる内に無くなったらしい。
その日もポケットのない服を着ていた田中に、担任に助けを求めるよう助言する奉太郎。

結局、奉太郎、田中、担任教師の3人が探し回ることになった。
話し込んでいたクラスメートは面倒事を避けてか何時の間にか誰も居なくなっていた。

どれくらい探し込んだだろうか……ランドセルは忘れ物として職員室に届けられていた。
失くし物を見つけた田中は大喜び。
だが、学年主任の教師はそんな田中の不注意を叱りつける。
これを執成すように担任は大切なモノが無くなっていないか確認するよう促した。

そのとき、田中はランドセルの中の筆記用具を一番に気にかけた。
お気に入りのシャーペンが消えていないかが不安だったようだ。
他に大切な物がないか問う担任にも、田中は首を横に振る。

これを目にした奉太郎はショックを受けた。
その夜、重さに耐え切れなかった奉太郎は供恵に涙ながらに訴えた。
自分の優しさが体良く周囲の人々に利用されていたに過ぎなかったことを。

奉太郎は田中がバス通学していないことに気付いたのだ。
最初は事実だったのかもしれない。
だが、少なくとも最近はバス通学の必要性が無くなっていたに違いない。

最初の疑問は、田中が放課後に遊んでいたことであった。
水遣りが出来ないのに遊んでいたことに「おやっ?」と思ったのだ。
だが、これはバスの時間が差し迫って無かったからかもしれないと無理に思い直した。

ところが、実際にランドセルを発見した田中は大事な物としてシャーペンを上げた。
本当にバス通学ならば、もっと確認しなければならない物があるにも関わらずだ。

確認しなければならない物……それは交通費あるいは定期だ。
本当にバス通学ならば、いずれかは欠かせない。

だが、田中はそれを気にも止めなかった。
肌身離さず持っていた?
いや、これもない。
そもそも田中の服にはポケットが無かった。

つまり、田中はバス通学の必要性からは解放されていたのだ。
にも関わらず、奉太郎の優しさを利用して水遣りをさせていた。

そして、それを担任も知っていたのである。
あのとき……田中がシャーペンを大切な物として上げたとき、担任は露骨に「しまった」と表情に顕したのだ。
担任もまた奉太郎の優しさを利用していたに過ぎなかった。

もう他人に利用されるのは嫌だ!!と訴える奉太郎。
こんなことなら……と。

そんな奉太郎に供恵は、これから奉太郎が「長い休日」に入ることを告げる。
それにより、奉太郎の心は守られるのだ。
こうして、奉太郎の「長い休日」こと「省エネ主義」が始まったのである。

長い長い奉太郎の物語は終わりを告げようとしていた。
同時に、祠の掃除も終わろうとしていた。

掃除を終えた奉太郎は柄にもないことを喋ったと反省し、その場を去ろうとする。
そんな奉太郎にえるは事情を明かしてくれたことを感謝するのであった。

奉太郎の「長い休日」が始まったあの日、供恵はこうも奉太郎に語っていた。
「でもね、いつか誰かが休日を終わらせるだろう」と―――エンド。

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『長い休日』が掲載された「小説 野性時代 第120号」です!!
小説 野性時代 第120号





予告が発表された「小説 野性時代 第119号 (KADOKAWA文芸MOOK 121)」です!!
小説 野性時代 第119号 (KADOKAWA文芸MOOK 121)





古典部シリーズ『連峰は晴れているか』が掲載された「野性時代 第56号 62331-57 KADOKAWA文芸MOOK (KADOKAWA文芸MOOK 57)」です!!
野性時代 第56号 62331-57 KADOKAWA文芸MOOK (KADOKAWA文芸MOOK 57)





古典部シリーズ『鏡には映らない』が掲載された「小説 野性時代 第105号 KADOKAWA文芸MOOK 62332‐08 (KADOKAWA文芸MOOK 107)」です!!
小説 野性時代 第105号 KADOKAWA文芸MOOK 62332‐08 (KADOKAWA文芸MOOK 107)





◆米澤穂信先生の作品はこちら。


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posted by 俺 at 12:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 書評(レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
以前、コメントさせていただいことかがあるパンプキンです
お久しぶりです
m(__)m

とっくに読んでいましたが、何となく「長い休日 米澤穂信」で検索してやってきました(笑)


この話も良かったですよね
小学生の頃から奉太郎が鋭かったことがわかりましたし、一人称が「ぼく」な上、素直に姉ちゃんに泣きついてる奉太郎が可愛かった
(*^^*)


この話も含めて、単行本未収録短編が3つとも奉太郎の過去についての話なので、次に出る短編集はそういう話を集めたものになるのかな?と期待しています
(それなら年度の違う「連峰」が収録されても違和感が少ないですし)

「鏡」までの時は奉太郎以外のキャラの視点から見た奉太郎についての話、みたいな括りを期待していましたが……
(千反田視点、里志視点に加えて、入須視点、十文字さん視点、大日向視点みたいな感じで最後に奉太郎視点の話を書き下ろしでとか……)
そうなると「連峰」は未収録のままになりますけどね……
(((^^;)

長々と失礼致しました
m(__)m
Posted by パンプキン at 2013年11月02日 04:49
Re:パンプキンさん

こちらこそお久しぶりです!!
管理人の“俺”です(^O^)/!!

パンプキンさんには、米澤穂信先生繋がりだと『鏡には映らない』についてもお世話になってましたね。
あのときは掲載誌名とかを間違ってたりしてて……。
もしも、ご指摘頂かなければ今も気付かなかった筈だと思うと……本当に感謝です(^O^)/!!

>この話も良かった〜〜〜

管理人も同じ気持ちです!!
幼き日の奉太郎の気持ちが胸にグッと来てしまいました。

>この話も含めて〜〜〜

ワンテーマに沿う短編集の方がシリーズらしくて良いですよね。
奉太郎の過去をテーマに据えた短編集……管理人もその方が好みです。

>「鏡」までの時は〜〜〜

実は管理人もそれを期待してました。
多視点から奉太郎が描かれることにより、より奉太郎のキャラクター(人間性)が深まるのではないか……と。
ですが、本作を読んで「コレはコレでアリだな」と考えを改めました。
奉太郎から自身を振り返らせることも、より彼のキャラクターを深めることに繋がるような気がします。
とはいえ、ある意味で本『長い休日』は供恵視点での奉太郎が描かれていると言えなくもないかなと思うところもあったり。

すみません、熱く語ってしまいました。
いずれにしてもファンとしてはシリーズ最新作が発表されたこと自体が嬉しくて嬉しくて。
もう、胸がいっぱいになって……。

しかも、ファンとは現金なもので。
早くも、次なる「古典部シリーズ」新作が読みたくて心待ちにしてます(^O^)/!!
Posted by 俺 at 2013年11月03日 00:12
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