ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
“甦り課”も頭を抱えるモンスター移住者が集落にやってきた!
(公式HPより)
<感想>
『軽い雨』に続く米澤穂信先生「甦り課シリーズ」第2弾です。
・オール讀物増刊「オールスイリ」(文藝春秋社刊)を読んで(米澤穂信「軽い雨」&麻耶雄嵩「少年探偵団と神様」ネタバレ書評)
ラストで明かされる上谷のある秘密。
それがある事実に繋がる点がサプライズで良かったですね。
さり気なく次回に繋がりそうな伏線もいろいろ見受けられますし、この「甦り課シリーズ」も今後に期待出来そうです。
それにしても、このシリーズ「○い○(後には頭文字にあが付く?)」でサブタイトルを統一しているのでしょうか。
次回は「丸い泡」、「青い麻」とかなのかも……こちらも気になりますね。
<ネタバレあらすじ>
垂水:南はかま市蓑石甦り課の職員。
観山:南はかま市蓑石甦り課の職員。垂水の後輩で新人。
課長:南はかま市蓑石甦り課の課長。
河崎:移住者の1人でタクシー運転手。由美子の夫。
由美子:河崎の妻。モンスター移住者。
上谷:無線を趣味としている男性。自然食にも力を入れるが……。
滝山:由美子に言い寄られ困っている。
南はかま市蓑石……過疎が進むこの地域を甦らせる為に住民誘致計画「よみがえれ!みのいしプロジェクト」を市が始めて1年余りが経過していた。
今では移住者は14世帯を数え、初期目標を達成していた。
「甦り課」の職員である垂水と後輩の観山遊香も移住者の性格を把握し「この人物は危険」、「この人物は大丈夫」と見極めがつけられるようになっていた。
目下のところ、垂水と遊香が危険視する人物として河崎由美子の存在があった。
彼女は化学物質が蔓延する都会に生活することを嫌い、夫でタクシー運転手の河崎を自身の健康を盾に半ば脅すようにして移住して来た。
ただ、自然主義と言えば聞こえは良いが由美子のソレは度が過ぎていた。
夫がタクシー運転手でありながら、車の排ガスを嫌悪しているのだ。
いや、憎悪していると言い換えてもいい。
だから、由美子の近くでは車は一切使えない。
夫の河崎はさぞ不便を被っていることだろう。
そんな中で、移住者に対する訪問面談が行われることに。
特に話を聞いて回ったからと言って何か出来るワケではないが、少なくともガス抜きは必要だからだ。
今回、訪問するのは3軒。
上谷、河崎、滝山家だ。
河崎家以外は特に問題のない人々だ。
ところが、次々とクレームが生じた。
すべて、ある1人に起因するものであった。
まず、上谷から由美子の無理難題を止めてくれと泣きつかれた。
上谷はラジオ無線が趣味であった。
移住して来たのもこれを楽しむ為であり、パラボラアンテナを設置していたのだが、この電波が身体に悪いと由美子からアンテナ撤去を求められたのたそうである。
電波が有害と言うなら携帯電話は一切、使えない。
しかもラジオ無線の電波はさほど人体に影響を与えないことが科学的に証明されている。
これについて説明したのだが、聞く耳を持たないらしい。
続いて、滝山からも由美子について泣きつかれた。
河崎が留守の日に限って、自宅に訪問して来るらしい。
どうやら、滝山に気があるようだ。
上谷と滝山を宥めつつ、気乗りしないが河崎家を訪問した垂水と遊香。
だが、河崎は不在。
応対に現れた由美子は早速、苦情を申し出る。
その内容は―――上谷のパラボラアンテナの撤去を求めるものであった。
感情的にさせるのは得策ではないと判断した垂水は法律上難しいことを説明。
遊香は「焦げが身体に悪いんですよね〜〜〜」と他にも潜在的な危険があることをアピールしつつ心情的に同意出来ると伝えて落ち着かせようとする。
だが、由美子は納得しない。
困った垂水は「とりあえず方法を考えましょう」と対応を棚上げし、その場を去ることに。
正直、どう対処していいモノやら頭が痛い相手であった。
その数日後、移住者たちによる触れ合いパーティーが開催された。
もちろん、河崎と由美子夫妻、上谷、滝山らも参加している。
皆がバーベキューを楽しむ中、上谷は裏山で採取したとキノコを持ち込む。
どうやら、自然食にも興味があるようだ。
これならば、由美子と分かり合える日が来るかもしれない……希望的観測と分かって居ながら縋りつきたくなる垂水。
だが、由美子にはさらなる悪癖が。
他人を絶対的に信用しない彼女は、自分で皿に取った物しか食べないのだ。
河崎、上谷、滝山らが1つのテーブルを囲むことになり、不穏な空気を感じ取った垂水は気が気ではない。
案の定、由美子が痙攣しながら倒れてしまう。
毒キノコを口にしたらしい。
救急車を呼ぶことにすら抵抗感を抱く由美子を黙らせ、病院へと運び込んだ垂水。
だが、一命を取り留めた由美子は垂水に感謝するでもなく、逆に激怒されてしまう。
始末書を書かされる羽目に陥った垂水は不満を募らせる。
一方で、誰かが由美子に毒キノコを食べさせたのではないかと疑惑を抱くことに。
だが、由美子は自分で取り分けた物しか口にしない。
だとすれば、犯人はどうやって由美子に毒キノコを食べさせたのか?
本人が選んだつもりでも、他者に選択させられている「マジシャンズ・チョイス」を疑う垂水だが、マジックに詳しい観山によれば、全員が何を取るか分からないあの場でそれは不可能らしい。
数日後、上谷が夜逃げしてしまう。
結局、キノコを用意した上谷による事故説が有力となり結論とされるが……。
垂水から報告書と始末書を受け取った課長は、河崎を呼び出す。
課長は会議室へと河崎を案内させると「今回の責任を取るよう」彼に迫る。
そう、由美子に毒キノコを食させたのは河崎だったらしい。
そんな馬鹿な……と唖然とする垂水に課長は説明を始める。
マジシャンズ・チョイスはあの場でも可能だったのだ。
課長は、垂水に報告書に記した由美子の嫌いな物を挙げるよう促す。
おそるおそる「車の排ガス」と「パラボラアンテナの電波」を挙げる垂水。
だが、課長によればもう1つ新しく加わった物があると言う。
それが「焦げ」だ。
観山から「焦げが危険である」ことを聞かされた由美子はこれを避けたのだ。
とはいえ、バーベキューである以上、焦げ跡と無縁ではあり得ない。
つまり、食材の中に由美子が焦げを認められない物が混ざっていたことになる。
だから、由美子は消去法でそのキノコに口をつけた。
河崎は上谷から「裏山のキノコを採って参加する」と事前に聞かされていた。
其処で、事前に焦げ跡がつかない調理法(蒸したのだ)によるキノコを用意しておいた。
これを会場で混ぜるだけで良い。
すべてを見抜かれた河崎は真相を明かす。
河崎の標的は由美子ではなく、滝山であった。
由美子が滝山に色目を使うことが許せなかったらしい。
キノコ自体も嫌がらせで済む程度の物を選んだと語る河崎。
だが、意図せず由美子がそれを選んで食べてしまったのである。
これを聞いた課長は上谷が夜逃げの際に置いて行った手紙の内容を伝える。
実はあのキノコは上谷が裏山から採取した物では無かった。
市販のキノコだったのだ。
自然物であるキノコに詳しいとなれば、排ガスや電波を嫌う由美子と少しは上手く折り合えるのではないか。
上谷なりに工夫した結果であった。
ところが、由美子は毒キノコに倒れてしまう。
上谷は驚愕した。
安全な筈の市販のキノコでこんなことが起こる筈はない。
つまり、意図的に毒キノコを混ぜた者が居るのだ。
そんな人間が住む場所で生活など出来る筈がない。
こうして、上谷は命大事と夜逃げした。
「此処までして歩み寄ろうとしてたんですね。なんとも健気じゃないですか」
上谷の手紙を見せる課長に言葉もない河崎。
河崎夫婦は数日と経たないうちに蓑石を出た―――エンド。
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◆米澤穂信先生の作品はこちら。
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