日本で100番目に早い(たぶん)、「相棒season12(twelve)」第2話「殺人の定理」(10月23日放送)ネタバレ批評(レビュー)。
<ネタバレあらすじ>
米沢(六角精児)と顔を突き合わせる右京(水谷豊)と甲斐(成宮寛貴)。
心なしか彼らの顔は少年のように紅潮している。
特に右京のソレは普段の彼からすれば想像できないほどだ。
彼らの前には「ダイイングメッセージ」が立ち塞がっていたのである。
会社員・大倉(山本剛史)の遺体が自宅アパートで発見された。
遺体傍のホワイトボードにはB型の血液で「a drink」の文字とそれを丸で囲うメッセージが!!
血液型と筆跡から大倉の文字と確定。
そう―――これこそが右京たちが今回挑む「ダイイングメッセージ」だったのだ。
こうして、右京と甲斐が捜査へと乗り出す。
現場の大倉の部屋には、数学関係の本がズラリ。
『数学ファン』などという雑誌までも棚に並んでいた。
大倉もまた投稿の常連らしく、どうやら数学を趣味にしていたようである。
大倉の遺した資料を目にした右京は「これは凄い」と声を上げる。
なんでも、整数論を幾何学からアプローチしているらしい。
右京によれば、画期的な思考法らしい。
さらに、大倉宅から見つかったメモからは謎の4桁の数字群と「一」「二」「M」「J」などの記号が……。
一方、同じ事件を伊丹(川原和久)らも捜査していた。
こちらは大倉の口座に注目。
定期的に出所不明の入金があり、3ヶ月前に600万円もが振り込まれていた。
だが、振り込み人は分からない。
甲斐の聞き込みで、一昨日に大倉がロイヤルホテルで女性と密会していたことが分かる。
伊丹たちは右京たちに先んじるべく、口座と並行してこちらの捜査へ。
対抗心を見せる伊丹たちだが、右京はと言えば「彼らに任せましょう」と余裕である。
右京たちは、大倉のデスクから「ファーガスの定理」の計算メモを発見する。
「ファーガスの定理」とは「数学の7つの未解決問題」の1つで100年間も解けなかった証明問題。
大倉は「ファーガスの定理」を研究していたのか?
特命係にて大倉の「ファーガスの定理」のメモ内容を精査する右京と甲斐。
これ横合いから覗き込んだ角田課長は口にする。
「それ、肥後教授のだろ。1億円だってね」
そう、「ファーガスの定理」は最近になって数学者の肥後教授(岡田義徳)により証明が成功されたと話題になったばかりだったのだ。
証明した肥後教授には1億円が贈られていた。
右京は奇しくも「ファーガスの定理」によって大倉と繋がれた肥後に注目。
すると、さらに意外な関係が明らかに。
肥後と大倉は、かつて同じ大学の同じ研究室に所属していたのだ。
しかも、大倉の会社に置いてあったメモから肥後の住所も確認される。
右京は「もしかすると大倉が自らの研究を肥後に送ったのではないか」と推理。
右京と甲斐はさっそく肥後教授のもとへ。
一躍時の人となった肥後教授。
その日は「ゼータ関数」についての授業であったが、大学の講義も立ち見が出るほど盛況だ。
講義を終えた肥後に事情を尋ねる右京たち。
肥後は大倉との交流を否定するが……実は配達記録から大倉が肥後に書類を送っていたことは確認されていた。
大倉は1ヶ月前に間違いなく「ファーガスの定理」についての資料を肥後に送ったのだ。
これを指摘された肥後は「そう言えば、ありましたね」と事実を認める。
その上で「理論に穴があったので送り返した」と答えるのであった。
右京は、資料が送り返されたのだとしたら現場から消えていたのは不自然と問題視するが……。
自身が疑われていると察した肥後は「僕が犯人だとして」と大胆に切り出す。
なんと、肥後教授は背理法を用いて仮定に矛盾がないか確認すると言い出したのだ。
「僕は大倉を殺した犯人だ」仮定した肥後。
「大倉は研究を僕に送った。
その研究を僕は奪った。
大倉はそれを世間に明らかにすると訴えた。
だから、僕は大倉を殺した」
ここまで論理を進めた肥後。
「だが、おかしい……僕は大倉を殺す必要があったのか。
仮に大倉が研究を盗まれたと主張しても、世間は大倉より僕を信用するだろう。
さらに、人を殺すのは大変なリスクだ。
リスクを押してまで、僕は大倉を殺す必要はない」
「証明終了」とばかりに笑う肥後。
これを聞いていた右京は肥後の正しさを認めることに。
2人の遣り取りを聞いていた甲斐は「似た者同士だ」との印象を抱く。
肥後の正しさを認めた右京だが、今度は研究室に届いた肥後宛の手紙に注目する。
どうやら、肥後の評判を知った数学ファンからの挑戦状やファンレターだそうだ。
その数は段ボール1箱にも及んでいる。
肥後の助手によれば、肥後は1通1通目を通し内容に対して返信しているらしい。
数学ファンの多さを知った甲斐は「数学の楽しさが分からない……」とぼやく。
これを聞きつけていた肥後は甲斐に対し「紙1枚で月に行く方法」を出題。
分からなかった甲斐に、右京が宿題としましょうと提案。
つまり、肥後との再会を約したのだ。
肥後の元を辞去し、大倉について調べ続ける右京たち。
大倉が投稿していた『数学ファン』の編集者によれば、大倉の才覚は素晴らしいモノらしい。
編集者からすれば、肥後とも比肩するだろうとのことだが。
ちなみに「ファーガスの定理」証明の朗報から、次号では肥後教授の特集が組まれるようだ。
それにしても大倉は何故、数学の道に進まなかったのか?
肥後と大倉を育てた指導教授によれば、15年前、肥後と大倉は互いにライバルとして認めあっていたそうだ。
その好奇心たるや純粋なもので、数学クイズを出し合っていたらしい。
しかも、教授の目にも大倉は肥後に負けず劣らず優れていたようである。
さらに、教授は大倉の卒業論文「素数理論」が目を見張るものだったと告げる。
それほどの大倉が何故、数学の道を断念したのか……。
この謎も重要だが、甲斐の「紙1枚で月へ向かう」宿題も遅々として進まない……。
一方、右京も「a drink」と「丸」の謎に苦戦。
とはいえ、流石は右京である。
もう1つの謎―――4桁の数字の後に「一」「二」「M」「J」の謎は解いてしまった。
それぞれ「東証1部」「2部」「マザーズ」「ジャスダック」を示していた。
4桁の数字は株取引の証券コードだったのだ。
その頃、伊丹たちの捜査で大倉が密会していた女性が「東国大使館員・趙美麗」だと明らかに。
伊丹たちは「きな臭くなった」とぼやきつつ、俄然やる気を見せる。
さらに、大倉のカーナビの履歴から、週末ごとに肥後の自宅を訪問していたことも判明。
とりあえず、宿題の解答は棚上げし肥後を訪問した甲斐と右京。
右京は、大倉が「ファーガスの定理」の原稿を送った理由が謎だと新たな謎を提示。
その一方で、抜け目なく情報を集める。
肥後が休職していたことや、届いた郵便物の情報を盗み見る。
いや、郵便物については何か封筒を紛れ込ませたようにも見えたが……。
肥後の助手に接触する右京たち。
彼女によれば、肥後は休職中に「リーマン予想」に挑んでいたようだ。
「リーマン予想」とは「ジョン・ナッシュ」や「アラン・チューリング」ら高名な数学者をして挫折させた「数学者殺し」の謎。
肥後は3年の間、これに挑んだが成果を得られなかったらしい。
この間、肥後は誰にも会おうとしなかったが大倉とだけは交流を持っていたそうである。
空白の3年、この1ヶ月の大倉との交流―――どうにも怪しい肥後教授に揺さぶりをかけ続ける右京たち。
その夜「花の里」で右京たちは寛ぐ。
幸子は「微分・積分」「三角関数」が好きだったと意外な側面を見せる。
「人は見た目によらないって本当ですね」感想を洩らす甲斐。
其処へ伊丹たちが押しかける。
内村たちから「東国大使館・趙美麗」の捜査打ち切りを言い渡されたらしい。
なんだかんだで向かうところは同じである伊丹たちは、右京たちにこの情報を託す。
翌朝、圧力など何処吹く風の右京たちは美麗に接触。
美麗によれば「大倉へ支援しただけだ」とのこと。
だが、右京は「支援ではなく依頼では無かったか」と指摘。
美麗は返答を拒否し、その場を去ってしまう。
数学者ならば他にも居た筈なのに、何故、学者ではない個人の大倉なのか。
もしかして、表に出せない類の依頼ではないか……右京は推測する。
これに基づき、証券コードのメモを調べたところ、そのどれもが不審な値動きを示したものばかり。
角田の調査により、サイバー犯罪で摘発された「新日本インベンスメント」こそが大倉への入金元であることが判明。
「新日本インベンスメント」の背後には「東国」が控えているらしい……。
大倉の専門分野は「素数」。
肥後が空白の3年間に挑んでいたのは「リーマン予想」。
共に「素数」が関わるものだ。
そして「素数」と言えば「暗号解析」に繋がる。
現在の暗号は素数によって出来ている。
よって素数を知れば解析もまた可能になるのだ。
仕組み自体はシンプルだが、組み合わせにより生じる総量自体は膨大なもので到底計算し尽くせない。
美麗は、これを大倉に依頼したのではないか。
さらに、右京は「肥後がリーマン予想に挑み挫折した」との事実それ自体に疑惑の目を……。
再度、肥後を訪問した右京と甲斐。
右京は大倉が美麗から依頼を受け、証券市場などの暗号解析アルゴリズムを作成していたと明かす。
さらに、肥後が「ファーガスの定理」を証明したニュースを知った大倉がある事実にを気付いたのだと断言。
大倉は、肥後が「ファーガスの定理」を証明したように「リーマン予想」を解き明かしたのではないかと気付いたのだ。
肥後は「リーマン予想」に敗れてはいなかった。
逆である。
「リーマン予想」を解き明かしていたのだ。
「人に話すことが出来ない」
肥後は空白の期間について大倉にこう語っていたそうである。
それは恥ずかしさからではなく、本当に話せない何かを突き止めたからではないか。
そう、「リーマン予想」の先にある究極の真実―――素数の謎を解き明かしてしまったのではないか。
肥後はこれに辿り着いた。
そして、この事実を危険と判断し封印することにしたのだ。
だが、肥後が解き明かしたことに気付いた大倉はこれを公表しようとした。
だから、殺人にまで繋がったのではないか。
空想に過ぎないと一笑に付す肥後。
此処で右京は大倉のダイイングメッセージを持ち出す。
「大倉さんのダイイングメッセージ、その意味は……分かりませんでした」と語り出す右京。
だが、ある人にお願いして解いて貰ったらしい。
そのある人とは―――肥後であった。
右京は1数学ファンのふりをして挑戦状を送り、肥後にそれと知らせずダイイングメッセージの謎に挑ませたのだ。
これに肥後は次のように答えていた。
「a drink」と「丸」。
「丸」は「円」のことで、「円」は「円周率3.1415……」を表す。
円周率には覚え方がいろいろあるが、海外では「How I want a drink, alcoholic of course, after the heavy lectures involving quantum mechanics!」で親しまれている。
これはアルファベットの文字数がそのまま数字を示している。
例えば「How」で「3」、「I」で「1」、「want」で「4」、「a」で「1」、「drink」で「5」といった具合だ。
此処までで「3.1415」を示す。
「a drink」は「15」を示す。
ここまでが肥後の解答。
そして、ここからが右京の解答だ。
日本語の円周率の覚え方も様々あるが、次のようなものがある。
「妻子肥後の国」=「3141592」。
この「15」とはすなわち「肥後」。
つまり「a drink」とは「肥後」を指し示していたのである。
肥後は自分で自分の犯罪を立証してしまったのだ。
これに肥後は罪を認めることに。
肥後が突き止めた「リーマン予想」の先にあった「素数の謎」は世界を揺らがすものであった。
素数の謎が解けてしまえば、素数によって成り立つ暗号は意味を為さなくなる。
当然、世の中の安全は保てない。
だが、大倉はこの謎を公表しようとした。
肥後が封印しようとしてたソレを。
大倉は肥後が居るからこそ、数学から身を退いた。
だからこそ、肥後の素晴らしさを証明しようとしたのだ。
「この美しい式さえあれば何もいらない。其処には世界などない」
あくまで発表に拘る大倉と揉み合う内に肥後は彼を殺害してしまった。
肥後にとって、大倉は数学の楽しさを教えてくれた親友だったのに。
「燃やしておくべきだったんです……」
事故とは言え大倉を殺してしまった肥後は後悔から素数の謎を燃やしてしまっていた。
もう、肥後以外には誰も分からない。
伊丹たちに連行されていく肥後は宿題の答えを甲斐に教える。
それは「紙を42回折る」ことであった。
0.2ミリの紙を42回折ると月に届く高さになるのだ。
翌日、特命係にて。
「数学がそんなに恐ろしいモノなんて……」
感想を呟く甲斐の手には、折られ行く紙が1枚。
だが、どんなに足掻いても一定回数以上は折り畳むことが出来ない。
理論上は可能でも、実現は不可能なのだ。
ふと、甲斐は大倉の胸中を思う。
大倉にとって肥後は特別な存在だったのだろう。
そう、嫉妬しつつも憧れ誇りでもあったのだ……。
「最後のダイイングメッセージでさえも、大倉さんから肥後さんへの挑戦だったのではないでしょうか」
右京も大倉の胸中に想いを馳せる。
大倉にとってダイイングメッセージは学生時代の数学クイズそのままの感覚だったのではないか。
甲斐の手元から折られた紙を奪い、紙飛行機として飛ばす右京―――2話了。
<感想>
シーズン12(twelve)2話。
脚本は金井寛さん。
サブタイトルは「殺人の定理」。
数学の楽しさが理解出来ない甲斐。
数学の楽しさが理解出来る幸子。
数学の楽しさが理解でき、恐ろしさも理解する肥後、大倉、右京。
力を持つ者はその力の責任をも果たせねばなりません。
ですが、大倉は自身の欲望を優先させようとした。
影響の大きな立場には、それに見合った適性も必要と言えるでしょう。
此の点、やはり学者に向かないタイプだったのかもしれません。
だからこそ、肥後の責任を果たそうとする姿が輝きますね。
それにしても、「リーマン予想」が「数学者殺し」である理由は「ジョン・ナッシュ」や「アラン・チューリング」も解けたけれどもその恐ろしさから肥後と同じく公表しなかったのかもしれないですね。
これこそ力を持つ者のみが行き当たる悩みであり、責任なのかも。
本作は、展開が強引なのと「美麗から大倉への依頼の内容」と「リーマン予想」との間に些か乖離を感じなくもないですが、それでも個人的には好きです。
肥後が大倉から功績を奪ったのではなく、大倉が肥後の功績を明かそうとしていた。
肥後が大倉から功績を奪ったのではなく、肥後自身が功績を隠した。
ここらも良かったのではないでしょうか。
ただ「証明」ついでに、ひとつ大きな証明が残されてしまってますね。
それが「動機の証明」。
これ、右京たちと視聴者は動機が分かってるけど、大倉殺害で肥後を立件する際に動機を証明出来ないですね。
裁判でも無理でしょう。
「素数の謎」を肥後が明かすワケもない以上、「素数の謎」の存在自体が証明できない。
だから、それを巡る動機による犯行であることが証明出来ない。
よって犯行それ自体を立件できたとしても、動機自体は最大の謎となりそうです。
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今回は数学つながりで「容疑者Xの献身」をちょっと思い出しました。
功績を横取りされて犯行…は確かに今までによくあるパターンですけど、今回は功績を世に発表してくれるというのに、それが許せなかったのですね。数学の奥深さは底知れぬものなのか。奥深くを知ってしまっても世のために知られてはならないものなの??
数学は極めると哲学になるみたいです。
円周率をおよそ3と習っている今の子は、このダイイングメッセージわかったでしょうか?
こんばんわ!!
管理人の“俺”です(^O^)/!!
管理人も「肥後と大倉」が「湯川と石神」に見えるところがありました。
互いに認め合う天才との設定からでしょうか。
功績を横取りされてではなく、功績を評価されては困るから殺害というのは珍しかったですね。
この動機の特異性から数学の奥深さが窺われるのも面白かった。
そして、学問は突き詰めるとすべて哲学に至るのかもしれないですね。