ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
奇妙な客たちが訪れる夜の公園。そこで起きた事件の意外な真相とは? 第10回ミステリーズ!新人賞受賞作
(公式HPより)
<感想>
「サーチライト」は自ら対象を照らし出す物。
「誘蛾灯」は自らを照らすことで対象を誘き出す物。
公園という舞台装置を中心に、照らし出された結果は誘蛾灯に誘き出された人々の姿でした。
そんな本作は「第10回ミステリーズ!新人賞」受賞作です。
第10回は応募総数562編、佳作が選ばれなかったので票が割れることなくその頂点に立った作品と言えるでしょう。
つまり、それだけ作品の完成度が高かった物と思われます。
・「第10回ミステリーズ!新人賞」受賞作発表!!第11回も募集中!!
実際、選評を目にしても各選者3人ともが本作を必ず候補に推しており、それだけ高い評価を受けたことが見て取れます。
緻密であり無駄の無い伏線も特徴的でした。
ただ、選評でも指摘されている通り、泡坂妻夫先生『紳士の園』(東京創元社刊『煙の殺意』収録)を髣髴とさせる作風なのは否めないかな。
『紳士の園』に亜愛一郎を登場させた感じと言えば近いかも。
特に主人公・魞沢と吉森の掛け合いは亜愛一郎のソレを思い起こさせます。
とは言え、本作ではコレを自家薬篭中のモノとしているようにも思えます。
狙ってあの作風を使えると思えない以上、『紳士の園』を髣髴とさせるとの評は最高の褒め言葉ではないでしょうか。
なお、『サーチライトと誘蛾灯』は単品で電子書籍でも発売されているようなので、興味をお持ちの方はチェック!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
魞沢:公園で何やらテントを作ろうとしていた、不心得者?
吉森:どんぐり公園の治安を守るべく自警活動をしている老人。
泊:公園でカメラを手に隠れていた、不心得者?
草薙:公園生活者の1人。似顔絵が上手い。
ギラギラした男:公園で連れの女性と事に及ぼうとしていた、不心得者。
その夜、吉森は1人で「どんぐり公園」を巡っていた。
吉森は「どんぐり公園」の治安を守るべく自警活動を行っている隊員の1人。
本来ならば見回りは2人1組が原則なのだが、相棒が風邪を引いて休んだのだ。
だから、何処か心細い。
懐中電灯を手にあちこちを巡る吉森。
ライトの中に、怪しげな男女が照らし出された。
どうやら、事もあろうに公園で事に及ぼうとしていたようだ。
吉森は相手を観察してみた。
精力的なギラギラした双眸の男である。
このタイプは苦手だ、対処を誤れば暴力に繋がりかねない。
なにしろ、今日は1人なのだ。
暴力沙汰は避けたかった。
吉森は警戒しつつ、男女に声をかけた。
男はうろんな表情で吉森に相対する―――。
吉森は身分を明かし下手に出つつ、風紀を守る為に他所でやってくれないかと頼み込んだ。
男は「いけねぇ、少しフライングしちまったか」と照れつつ、女とその場を後にする。
何事も起こらなかったことにほっと息を吐く吉森。
だが、巡回はまだまだこれからなのだ。
次に吉森の目に飛び込んで来たのは怪しげな男であった。
男は何やらテントを組み立てているようだ。
(これは公園に住み着くつもりか……)
吉森は相手の様子を窺うと居丈高に批難した。
怪しげな男は謂れのない批難を受けたと傷付いた表情を見せつつ、自身を魞沢と名乗った。
開き直ったように「クサナギ、クサナギが……」と洩らす魞沢。
草薙とは公園で生活していた絵の上手い男である。
さては奴の仲間か。
「草薙を知っとるんか!!」―――身構える吉森に魞沢は弁明を始める。
どうやら、「クサナギ」ではなく「サナギ」のことだったようで、住み着くつもりはなくカブトムシを採集しようとしていただけらしい。
だが、吉森は「いい大人がそんなことをするなんて」と信じられない。
自然、態度にもそれが出るのだが、魞沢には通じないようだ。
それどころか吉森以外にも注意されたがその人は理解してくれたなどと言い訳を始める。
苛立つ吉森。
それでも暫く言い争いを続けた末に、魞沢は公園の治安を守る為だとの主旨を理解したらしく、渋々、公園を退去することに同意した。
もしかすると、戻ってくるかもしれない……そう疑った吉森は自身の巡回に魞沢を同行させることに。
少なくとも、公園を去る現場を目にしなければ信用出来などはしないのだ。
他には特に問題は無さそうだ……ほっと一息つきかけたそのとき。
魞沢が何かを発見した。
カメラを携えた男が茂みの影に寝ていたのだ。
これこそ治安を乱す敵だ!!
吉森は男を詰問するが……。
これまた魞沢同様にのらりくらりと躱す男。
男は自身を泊と名乗ると、カメラは仕事上必要な物で特に治安を乱すつもりはないと語る。
一方、この間に魞沢は何やら木の上を気にし始めた。
(何をやってるんだこいつらは!!)
さらに苛立つ吉森は問答無用で2人を公園の外へと連れ出す。
これで平穏無事になる筈であったが……事態は真逆の方向に進み始めた。
翌朝、公園内にて泊が死体で発見されたのである。
何者かと争って殺害されたらしい。
しかも、殺害現場は泊が寝ていたあの場所であった。
吉森は、もしかしてあの魞沢が殺したのではないかと疑うが。
数日後、吉森は魞沢を見つける。
思い切って、魞沢に詰め寄る吉森。
だが、魞沢は誤解を主張。
それどころか、ある人物を探していたと説明を始める。
その人物こそ、草薙であった。
「ほら、やっぱり仲間だったんじゃないか!!」
怒り出す吉森を魞沢は落ち着くよう促す。
なんでも、草薙が犯人を知っているらしい。
よもや、草薙が泊殺害の犯人なのか!?
疑問符が浮かぶ中、草薙のもとへと向かう魞沢に同行する吉森。
草薙と出会った魞沢は彼が真犯人を目撃した筈だと主張する。
何故なら……草薙はあの夜も公園に居たから。
では、草薙は何処に居たのか?
公園は吉森ら自警団によって管理されていた。
その目を逃れる為に、草薙は公園の木の上で生活していたのである。
泊と出会った際に、魞沢が樹上を気に留めたのも当然であった。
その上に、草薙の寝床があったのだから。
吉森の前に魞沢に退去するよう声をかけた人物も草薙であった。
魞沢が目立つことで、公園の警戒自体が強化されるのを恐れたのであろう。
当然、あの晩も寝床に戻っていたのである。
だとすれば、泊の殺害自体を目撃していたに違いない。
魞沢は草薙に犯人についての情報を警察に提供するよう説得するのであった。
そして、泊はカメラを所持し仕事と語っていた。
彼は探偵だったのである。
探偵が公園で張り込んでいたすれば……浮気調査だ。
このとき、吉森の脳裏にあの男の姿が浮かんだ。
ギラギラしたあの男の姿が……。
あの男は吉森に注意され一旦、退去したが戻って来たのだろう。
其処を泊と出くわしてしまったに違いなかった。
数日後、警察署に犯人の似顔絵を手に出頭する草薙の姿があった―――エンド。
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