2013年10月27日

『アリス殺し』(小林泰三著、東京創元社刊)

『アリス殺し』(小林泰三著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

大学院生・栗栖川亜理は、最近不思議の国に迷い込んだアリスの夢ばかり見ている。ハンプティ・ダンプティの墜落死に遭遇する夢を見た後大学に行ってみると、キャンパスの屋上から玉子という綽名の博士研究員が墜落死を遂げていた。次に亜理が見た夢の中で、今度はグリフォンが生牡蠣を喉に詰まらせて窒息死すると、現実でも牡蠣を食べた教授が急死する。夢の世界の死と現実の死は繋がっているらしい。不思議の国では、三月莵と頭のおかしい帽子屋が犯人捜しに乗り出していたが、思わぬ展開からアリスは最重要容疑者にされてしまう。もしアリスが死刑になったら、現実世界ではどうなってしまう? 彼女と同じ夢を見ているとわかった同学年の井森とともに、亜理は事件を調べ始めるが……。邪悪で愉快な奇想が彩る、鬼才会心の本格ミステリ
(公式HPより)


<感想>

管理人が2013年に読んだミステリの中で5本の指に入る衝撃度を誇った傑作です。
先に言っておきますが、残虐描写に耐性の無い方以外は読むべし!!
それくらいオススメ!!

『密室・殺人』や『大きな森の小さな密室』などでお馴染みの谷丸警部と西中島刑事も登場。
ファン大喜びの1作でもあります!!

本作の特徴は、なんといっても「幻想と残酷性が見事に同居している」こと。
いや、「童話の持つ残虐性を見事に表現し切った」ことか。

本来、童話とは残酷な物だ。
「シンデレラ」でも「白雪姫」でも原典はかなり残酷性を秘めた物語となっている。
そうでなくとも、「オオカミ少年」は村人の助けを得られず狼に追われるのだろうし、「赤ずきんちゃん」のお祖母さんは狼に食べられる。食べた狼は最後に腹を裂かれてしまう。
童話に心躍らせた者は皆、その残虐性を何処かに感じ取っていた筈。

その残虐性が後半、真犯人の回想の形で表現される。
その文章は容赦がない。
これでもかと残酷描写を読者にぶつけてくる。

特にハンプティ・ダンプティ殺害とトカゲのビル殺害は凄まじい。
いや、他の殺害も物凄いか。
背筋が凍りつき、ゾッとする。
それほど詳細に描写されている。

まさに本作はミステリであり、童話である。
童話に残虐性を嗅ぎ取った経験がある方は是非、読むべきだろう。

そして、本作はその構成自体が素晴らしい。

物語は、アリスと蜥蜴のビルとの遣り取りから始まる。
あの何気ない遣り取りに終盤の伏線がすべて盛り込まれていることに後ほど気付く筈だ。

後に、その遣り取りが栗栖川亜理の夢だと分かるのだが、此処から夢と現実が錯綜して行くことになる。
この時点では着地点が予想できない。
読者は作者の筆に運ばれることになるだろう。

さらに、作中であの人物が生きていたことにより世界が反転する。
このサプライズと来たら!!

他にも、白兎の特徴を活かしたトリックも素晴らしかった。

これらすべてが、2つの世界を行き来することで生じる乖離を活かしたトリックに奉仕している。
これらは同時に名前が記号に過ぎないことを示している。
アリス世界のAは地球でのBである。
それにどんな意味があるのか。
この相関関係が本作のキモであろう。

それにしても、地球世界が赤の王の見る夢を共有した物だとしたら、再構成された地球にはオリジナルであるアリスとハンプティ・ダンプティたちは存在しないのだろうか。

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:

・地球
栗栖川亜理:大学院生。アリスの夢を見るようになる。
井森:大学院生。アーヴァタールは蜥蜴のビル。
篠崎教授:広山准教授の上司。アーヴァタールはグリフォン。
王子:大学院生。アーヴァタールはハンプティ・ダンプティ。
李緒:大学院生。アーヴァタールは白兎。
広山准教授:大学准教授。公爵夫人を名乗る。
谷丸警部:刑事。アーヴァタールは不明。
西中島:刑事。アーヴァタールは不明。
ハム美:亜理のペット。アーヴァタールは不明。

・アリス世界
アリス:連続殺人の容疑がかかることに。
女王:罪人は斬首を標榜する彼の世界の君主。
公爵夫人:女王とは複雑な関係。
ハンプティ・ダンプティ:転落死を遂げる。第1の被害者。
グリフォン:窒息死を遂げる。第2の被害者。
帽子屋:アリスに容疑をかける。
三月兎:アリスに容疑をかける。
白兎:アリスが犯人だと主張した目撃者。
メアリーアン:白兎のメイド。
トカゲのビル:アリスに協力するが……。
眠り鼠:アリスのポケットに入っているペット。
チェシャ猫:空間を自由自在に移動する謎の生物。
スナーク:怪物。
バンダースナッチ:怪物。
赤の王:夢と現を司る存在。


此処はアリスの世界。
白兎が慌ただしくアリスの前を駆け抜けて行く。
「どいて!!メアリーアン!!」
忙しなく駆けて行く白兎。
この様子を見ていたアリスに蜥蜴のビルが語りかける。
「合言葉を決めよう」
急なことにワケが分からないアリス。
もっとも、この世界の住人は理解出来ない事の方が多かったが。
面倒を避けたいアリスは「胸ポケットに入っている眠り鼠に盗み聞きされるから」と断るが、ビルは断りの文言についてまで1つ1つ意味を確認して来る。
余計に面倒になったと感じたアリスは合言葉を教えて貰いこの不毛なやり取りを終わらせることにした。
「ブージャムは」「スナークだった」
ビルから聞かされる前の時点で何故か記憶にあったアリス。
アリスにとって不幸なことに、此処からさらに不毛な会話が続いてしまうのだが……。

実はこのとき、重大な事件が発生していた。
ハンプティ・ダンプティが転落死したのだ。
何者かに殺害されたらしい……。

帽子屋と三月兎が犯人を捕まえるべく乗り出した。
そして彼らが犯人だと指摘した人物、それは―――アリスであった。
身に覚えのないアリスだが、会話が成立しないビルではアリバイ証人にならない。
しかも、唯一の目撃者である白兎が「アリスが犯人だ」と断言したらしい。
窮地に追いやられたアリスだが……。

此処で栗栖川亜理の目が覚めた。
「夢か……」
亜理は額にかいた汗を拭った。
亜理にとって夢とはアリス世界のことでしかない。
いつもいつでも、亜理の夢はアリス世界のそれであった。

栗栖川亜理は大学院の学生である。
ペットのハムスター・ハム美に「おはよう」と挨拶しつつ今日も大学に赴いた亜理だが、其処で「玉子」と呼ばれていた博士研究員・王子が転落死したことを知る。
片やハンプティ・ダンプティ、片や「玉子」と呼ばれる男。
不謹慎ながら夢との符号に不思議な繋がりを感じる亜理。

だが、これは単なる偶然では無かった。
王子の知人である井森と出会った亜理は、彼から「ブージャムは」と問いかけられる。
まさか、あの夢の……?
帰って来れなくなることを意識しつつ「スナークだった」と応じる亜理。
そう、井森はアリス世界でのビルの記憶を所持していたのだ。

井森は「やはり、君がアリスだったか」と納得しつつ、この現象について仮説を述べる。
井森があの世界でのビル、亜理があの世界でのアリスのように、地球とあの世界との間に相関関係を持つ人々が他にもたくさん居るらしい。
そして、お互いに記憶を共有している。

井森はあの世界での自分のことをアーヴァタールと呼んでいた。
どうやら、アバターのようなものらしい。
そして、亜理がアリスである限り危機が迫っていると告げる。
実は王子のアーヴァタールこそハンプティ・ダンプティだったのだ。
井森によれば、2つの世界には相関関係がある以上、あちらの世界での死はこちらの世界での死にも繋がる。
もちろん、アリス世界の犯人が地球で王子を殺害したワケではない。
だが、いずれかの世界での死は連動することになるのだ。
もし、アリスがハンプティ・ダンプティ殺害の犯人とされてしまえば、アリス世界を統治する女王により処刑され亜理もまた命を落としかねないのだ……。
亜理は井森に自身の無実を証明するよう協力を願う。

ところが、アリス世界では新たな殺人事件が発生していた。
グリフィンが牡蠣により窒息死させられたのだ……。
そして、地球では篠崎教授が牡蠣により死亡してしまう。
篠崎教授のアーヴァタールこそグリフィンだったのである。
とうとう連続殺人に発展したのだ。
もちろん、この容疑もアリスにかかることに……。

アリス世界から情報を得ることの困難さを実感している亜理たちは、まず地球で彼らと同じ立場の人々を探し始める。
これに篠崎教授の下で働いていた広山准教授が公爵夫人であると名乗り出た。
公爵夫人には、ハンプティ・ダンプティ殺害時に鉄壁のアリバイがある。
到底、犯人ではありえない。

一方、アリスへの疑いは日に日に深まって行く。
だが、犯人ではないことはアリスが一番良く知っている。
容疑を晴らす為には……まず、目撃証言を引っ繰り返さなければらない。
つまり、キーは白兎が握っている。

白兎を訪ねたアリスとビル。
お手伝いであるメアリーアンの出迎えを受けつつ、白兎と面会する。
目が余り良くないらしい白兎。
だが、白兎は自説を譲らない。
あくまで、アリスだったと固執したのだ。
白兎では話にならないと判断したアリスは彼女の現身の正体を探る。
すると……白兎の正体は亜理の先輩・李緒であった。
アリスは自分が亜理であることを訴えるのだが、白兎は事実は事実であると主張する。
そもそも会話自体がなかなか成立しないのだ、どうしようもない……。

地球での李緒は白兎と異なり、亜理に一定の理解を示す。
だが、やはり目撃証言について撤回するつもりはないらしい。
別れ際、「ああ、前に言ったビルのビックリパーティーについては誰にも伏せておいてね」と口にする李緒。
しかし、亜理に憶えは無い。
なんのことだろうか?

広山に白兎について相談した亜理。
広山は「彼はああ見えてもいい人よ。相手の為にビックリパーティー開くぐらいだから」と庇うが……。

李緒と広山と心強い仲間を得た亜理たちであったが、その前に谷丸警部と西中島刑事が現れる。
彼らはアリス世界と地球での2件の殺人の相関関係に気付いており、真犯人を追っていた。
彼らもまたアリス世界にアーヴァタールを所持しているのだ。
どうやら、地球世界では事故死になるので裁くことは出来ないが、アリス世界で犯人を裁くつもりらしい。
では、彼らが帽子屋と三月兎なのか……彼らに対し警戒心を持つ井森は協力を拒否。
さらに、井森によればアーヴァタールを自己申告されても信用は出来ないと言う。
偽っている可能性もあるからだ。
もし、騙されればアリス世界で大きなハンデを背負い込むことになる。
このリスクがある限り亜理も井森に同調せざるを得ない。

矢先、李緒と共に外出していた亜理が不審な男に襲われる。
だが、男の狙いは李緒であった。
男は李緒を刺殺すると、自身も自殺してしまう……。

谷丸警部と西中島に事情を問われる亜理。
なんと、少し前にアリス世界で李緒のアーヴァタールである白兎がスナークにより絶命していたのだ。
目撃者であるメアリーアンとビルによれば、草刈り機に偽装されたスナークに油断しての死だったらしい。
白兎の死により、李緒もまた命を奪われたのだ……。

唯一の目撃者・白兎の死により、アリスの立場はさらに悪化した。
なんとかしなければ……焦るアリス。
そんな折、ビルに宛てて公爵夫人から呼び出しの手紙が届く。
1人で来て欲しいらしい。
これに応じたビルだったが……。

翌朝、谷丸警部と西中島が亜理の前に現れた。
2人は井森が泥酔したところを野犬に襲われ絶命したことを告げる。
そう、ビルまでもが殺害されてしまったのである。
その遺体の近くには「公爵夫人は犯人ではありえない」とダイイングメッセージが残されていた。
井森の死を無駄には出来ない。
亜理は自身の知る情報―――広山が公爵夫人であることなどを谷丸警部たちに教える。
すると、谷丸警部たちは奇妙な表情を浮かべる。
「公爵夫人はなぁ……弱ったな」
互いに顔を見合わせる谷丸警部と西中島。
亜理は2人が事なかれを貫いていると憤る。
こうなれば自分で犯人を捕まえるしかない。

亜理は広山のもとを訪れていた。
ビルの遺したダイイングメッセージから犯人が分かったのだ。
ビルは「公爵夫人は犯人ではありえない」と書いた。
公爵夫人が犯人ではないことは最初から分かっている。
だが、ビルは敢えてそれを書いた。
つまり、ビルこと井森は「公爵夫人に注意しろ」すなわち「公爵夫人を名乗る広山に注意しろ」と言い残したのだ。

広山は犯人しか知り得ない事実を口にしていた。
白兎がビックリパーティーを開くことを知っていたことだ。
白兎こと李緒は、亜理に「ビックリパーティーについて伏せておくよう」告げた。
李緒は誰かと亜理を勘違いしていたのだ。

そもそも、白兎がハンプティ・ダンプティ殺害時に目撃した人物は誰なのか?
白兎は目が悪く匂いで相手を判断していた。
そして、匂いによりアリスとメアリーアンとを混同していた。
場合により、アリスをメアリーアン、メアリーアンをアリスだと思っていたのだ。

白兎と面会し自身が亜理だと訴えた際、白兎はメアリーアンが亜理だと誤認してしまった。
つまり、ビックリパーティーについて白兎が明かした相手はアリスではなくメアリーアンであった。
メアリーアンしか知らない筈の情報を広山は知っていた。
すなわち、広山の正体は―――公爵夫人ではなくメアリーアンなのだ。
何故、嘘を吐いたか……犯人だからである。

これを広山は認める。
広山は自身の夢がアリス世界に住むもう1人の自分・メアリーアンの記憶であることに気付いた。
そして、互いの世界に相関関係があることにも。

広山の動機は自身の栄達。
昇進の邪魔になる人物のアーヴァタールをアリス世界で殺害することにより、地球での邪魔者を殺害する完全犯罪だったのだ。

当初、篠崎のアーヴァタールがハンプティ・ダンプティだと思っていた広山ことメアリーアン。
昇進に邪魔な篠崎を殺害するべく、ハンプティ・ダンプティを手にかけた。
哀れなハンプティ・ダンプティは「人違いだ」と繰り返し主張していた。
本人とアーヴァタールの関係は特に密接ではなく、容姿や性格が似通うモノでもないらしい。
なんだ、失敗だったか……だが、計画を知られた以上は生かしておくことは出来ない。
ハンプティ・ダンプティの必死の懇願を撥ね退け、城壁から蹴落してやった。
奴は素っ頓狂な声を上げつつ、地面へと消えて行った。

続いて、グリフォン。
奴には牡蠣を勧めて無理矢理食べさせた。
呑気な奴は最初は殺意に気付かず、無造作に食べさせれていた。
やがて、気付いた時にはもう遅い。
こちらの首を絞めようと抵抗して来たが、1分と経たずに絶息した。

そして、白兎。
アリスに罪を着せるべく、奴の勘違いが訂正されないうちに抹殺する必要があった。
ビルをアリバイに利用しつつ、草刈り機に偽装したスナークをプレゼントした。
哀れ、白兎は「ブー……」と最後まで言い残すことも出来ず死亡した。

さらに、蜥蜴のビル。
バンダースナッチを操りじわじわと弄ぶように殺害したのだが、多少、甘く見過ぎたようだ。
これが仇になろうとは……。

亜理に弾劾された広山は奥の手を使うことにした。
大声で悲鳴を上げ、周囲の人々を呼び集めると「脅迫するなんて」と狼狽しつつ自殺する。

目の前の急展開に呆然とする亜理。
だが、此処で気付いた。
亜理の無実を証明できるのは犯人である広山しか居なかったことに。
しかも、亜理は脅迫犯の汚名も被ってしまったのだ。

アリスは困り果てていた。
広山が死亡し連動してメアリーアンが死亡してしまった以上、無実を証明する方法は絶たれてしまったのだ。

其処へフードを目深に被った女性が訪ねて来る。
顔は見えない。
不審に思うアリスに、女性は「アリスの無実を証明する方法を教えたい」と告げる。
真犯人であるメアリーアンはもう居ない。
他に無実を証明する方法もない。
アリスは彼女について行くことに。
ところが……。

アリスが連れて行かれた先は白兎の家であった。
中に連れ込まれたアリスは、フードの女性の正体を知り愕然とする。
メアリーアンだったのだ!!

「なんで……」
絶句するアリスに、メアリーアンは真相を教える。
実はこの世界こそが現実世界であり、これまで現実世界だと思っていた地球こそが夢の世界なのだということを。
亜理たちが存在する世界はすべて、赤の王が見る夢をアリスたちが共有しているに過ぎないのだ。

つまり、この世界の死は夢の世界でも死に至る。
だが逆に夢の世界での死は、この世界での死には当たらない。

ハンプティ・ダンプティたちはこの世界で殺された。
だから、地球で王子たちが死亡した。

だが、メアリーアンこと広山は地球でしか死亡していない。
当然、本体であるメアリーアンが生存している限り、広山も不滅なのである。
今頃は、悪い夢として処理され生き返っていることだろう。

メアリーアンは、すべての事件の犯人としてアリスに死んで貰うと告げる。
だが、まず拘束するつもりらしい。
抵抗しようとするアリスだが、今はチャンスを窺うべきと考えて大人しく拘束されることに。

両手両足、そして首に鎖つきの拘束具を嵌めるアリス。
そんなアリスにメアリーアンはクッキーを奨める。
逃げる為にも体力は必要だと考えたアリスはこれを口にしてしまう。

途端に笑い出すメアリーアン。
クッキーには巨大化の粉が入っていた。
みるみるうちにアリスは大きくなってしまう。
だが、拘束具は小さいままだ。

メアリーアンはアリスに殺害方法を教える。
巨大化するアリスの身体が拘束具によってバラバラに引き裂かれることこそが狙いなのだ。

血の気が引くアリスだが、もう遅い。
まず、足に強烈な痛みが走った。
次いで、鮮血。
その瞬間には、見覚えのある足が身体から離れていた。

そして、手と首がむくみだす。
もはや死は逃れられない。
だが、無駄死にはしない。
切り札を……切り札を逃がさなければ!!

アリスは胸ポケットに入っているソレを窓へと駆け寄り、千切れかけた拳ごと出来る限り放り投げた。
アリスの行動に驚くメアリーアンだが、膨張し続けるアリスに近寄ることは出来ない。
迂闊に近付けば、自身も巻き添えになりかねないのだ。

そして、遂に破滅の時が訪れた。
アリスの五体はメアリーアンの望み通りバラバラになった。
血しぶきのシャワーを浴びるメアリーアンは、ふと外へとアリスの拳を探しに出かけた。
万一があるかもしれないと考えたのだ。

外にはアリスの拳があった。
拾い上げたメアリーアンは中身を見て大声で笑った。
中には何も無かったのである。
メアリーアンを不安がらせる為のアリスのお芝居だったのだろうか……。

ところが翌日、広山のもとへ意外な人物が訪ねて来た―――亜理だ。

「そんな……死んだ筈」
あの夜のアリスのように、今度は広山が絶句する番のようだ。
そんな広山に、亜理は確かにアリスが死亡したことを告げる。

アリスの現身はハム美だったのだ。
アリスこと、ハム美は前夜に投げ込まれた石によりガラス片が四肢に刺さりバラバラにされ絶命していた。

そして、アリスが遺した切り札こそが亜理。
亜理の正体は……アリスの胸ポケットで眠り続けていた眠り鼠であった。
アリスと常に行動を共にしていた為に情報を共有していたのである。
そう、広山が公爵夫人であると勘違いされた様に、亜理もまたアリスと勘違いされていたに過ぎなかったのだ。

驚きの余り声が出ない広山だったが、冷静さを取り戻すと犯行を認めた上で「どのみちお前では何も出来ない」と嘲笑う。
眠り鼠が証人だとして、誰が信じるだろうか!?

だが、証人はまだ居たのだ。

「それは罪を認めたと受け取って良いのですね」
そう言って、奥から出て来たのは谷丸警部と西中島刑事。

「ふん、証人が1人から3人になったところで同じこと。あの女王が認めない限りは無意味なのよ」
勝利を確信し、本性を露に叫ぶ広山。
広山は「女王は直接、目にし耳にしたもの以外は信じる筈がないからね」と3人を嘲り笑う。

これに西中島が正体を明かす。
彼の正体は公爵夫人であった。
だからこそ、広山が公爵夫人を名乗っていると聞いたときから広山を疑っていたらしい。

「公爵夫人がどうしたって言うんだい。女王はどのみち信じないよ」
多少、怯みつつも抵抗を示す広山。
だが、谷丸たちに動揺はない。

「いや、それが信じるんですな。何しろ、直接目にし耳にしていますから」
そして、谷丸は正体を明かした。
彼の正体こそ……女王であった。

広山ことメアリーアンの処刑が行われることになった。
処刑方法はもちろん、斬首だ。
だが、兵士たちは実際に斬首を行ったことがない。
メアリーアンの首はなかなか落ちない。
骨が斬れないのならば鋸が居る。
鋸を使うが、刃がこぼれた。
刀では半分のところで止まってしまう。
その度に激痛にのた打ち回り泡を吹くメアリーアンだが、その苦しみは未だに続いている。

亜理は広山が電車事故に遭い入院したことを知った。
入院先では正視するのも憚られるような悶絶ぶりを示しているそうだ。

そんな亜理の前にチェシャ猫が現れた。
なんで、この世界に……驚く亜理にチェシャ猫はメアリーアンの行動が夢と現実の境界線を曖昧にした為に赤の王が目覚めつつあることを教える。

赤の王が目覚めれば、この世界は泡沫の如く消え去ってしまうのだ。
崩れゆく世界―――恐怖を感じながら亜理は目を閉じる。
目を開けば、新しい世界が広がっているのだろうか……と考えながら。

今度の地球はもっと良い地球でありますように。
おはよう、アリス―――エンド。

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