ネタバレあります!!注意!!
<あらすじ>
現役通信社デスクが描く、ジェットコースター・ミステリー。
どんでん返しの連続が快感中枢を刺激する!
三年前に発生し、犯人逮捕で終結したはずの少女誘拐殺人事件。しかし、冤罪スクープを狙う通信社記者と、正義感に燃える女弁護士が事件を洗い直すと、意外な新事実が。死刑判決、小児性愛、ハニートラップ、偽証、老刑事の告白――。どんでん返しの連続の後、幾重にも張られた伏線が鮮やかに回収される、会心作!
(講談社公式HPより)
<感想>
サスペンスであり、恩田を主人公とするハードボイルド作品。
「サスペンス」と「ハードボイルド」、活字化された両者に共通する作品の肝は「世界観の構築」と「ストーリーテリング」。
その点、本作は恩田を中心に個々のキャラクターが独立しており世界観の構築は充分。
また、ストーリーテリングに関しても効果的な描写が多く好印象。
文体も読み易いし、完成度はなかなか高いと思う。
ただ、公式あらすじにある「二転三転」や「どんでん返し」が、本作に限定すれば作品それ自体の作風とそぐわないような向きも見られた。
特に「乙女ちゃん誘拐殺害事件」の犯人については、本作の世界観に没入出来ていないと「結局、それか〜〜〜い」とばかりに壁本(壁に本を投げつける)との結果に終わりかねないので注意!!
此の点は読む人を選びそう。
それと、割と2時間サスペンスに用いられるモチーフが多い点(黒幕の動機や栗原のトリックなど)も気にかかった。
だが、これは「活字よりも映像で視たくなる作品」であることの証明でもあると思う。
おそらく、上手く映像化すれば映えるだろう。
2013年11月23日には土曜ワイド劇場特別企画としてドラマ化されるとのことで期待!!
内容的には、本作終了後の恩田の立場を考えるとかなり辛いものになりそうだなぁ。
そして、希久子の想いゆえの行動に注目せよ!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
恩田和志:通信社の記者。希久子と共に3年前に発生した「乙女ちゃん誘拐殺人事件」の真相を追う。
櫻木希久子:人権派の弁護士。夫を亡くし娘・優希と母1人子1人で生活している。
櫻木優希:希久子の娘。
春薗秀紀:誘拐され殺された乙女ちゃんの父親。意外な秘密が……。
春薗加奈子:誘拐され殺された乙女ちゃんの母親。意外な秘密が……。
春薗乙女:誘拐され殺害された被害者。
山崎哲也:「乙女ちゃん誘拐殺人事件」の犯人とされる人物。
栗原稔:連続少女殺人事件の犯人。死刑判決が宣告されている。
村上清孝:捜査一課刑事。「乙女ちゃん誘拐殺人事件」の捜査担当。
小鳥遊純枝:「乙女ちゃん誘拐殺人事件」の目撃者。
恩田は通信社の記者。
仕事に打ち込むばかりに妻とは疎遠となり、別居を言い渡されたばかりである。
そんな恩田の下に櫻木希久子弁護士が訪れた。
希久子は12年前に夫を事故で喪い、今は娘の優希と2人暮らし。
そして、3年前に発生した「乙女ちゃん誘拐殺人事件」の犯人・山崎哲也の弁護人であった。
「乙女ちゃん誘拐殺人事件」は外食チェーン会社社長・春薗秀紀の娘・春薗乙女(当時10歳)が誘拐され身代金が奪われた上に殺害された事件。
捜査の結果、容疑者として山崎哲也が浮上し目撃証言などから逮捕されていた。
だが、身代金は未だに回収されていない。
希久子によれば山崎には冤罪の疑いがあると言う。
取り調べ方法に問題があり、獄中で山崎が無罪を訴えているそうなのだ。
最初は懐疑的であった恩田だが、これが事実ならば大スクープとなる。
早速、調査を開始することに。
まずは山崎の犯行を目撃した証人である小鳥遊純枝に当たる恩田。
すると、意外な事実が明らかに。
当時、純枝の息子が大麻で逮捕されそうになっており、これを目こぼしする代わりに証言していたことが分かったのだ。
純枝は山崎らしい人物を見ただけで確認出来ていたワケでは無かったのである。
さらに、純枝が折角助けた息子であったが、結局、再び大麻に手を出し逮捕されていた。
自身の行いを悔いていた純枝は、せめて真実を伝えたいと訴える。
さらに、恩田とも親しい当時の捜査員の1人・村上清孝も捜査手法に問題があったことを認める。
村上は余命幾許もなく病床に就いていた。
こちらも、せめて真実を伝えたくなったのだと言う。
何より、被害者である乙女の母・春薗加奈子すら山崎の犯行に疑惑を抱いていた。
どうやら、思い当たる人物が居るようだ。
そんな中、恩田と希久子は既に死刑が執行された連続少女殺人犯・栗原の手紙に乙女殺害を仄めかす記述を発見。
しかも、栗原自身に当時のアリバイがないことが分かる。
もしや、栗原の犯行なのでは……なおさら、山崎の冤罪疑惑が深まることに。
矢先、春薗秀紀が謎の事故死を遂げる。
これに何かがあると感じた恩田は加奈子を訪問。
彼女から驚愕の事実を聞き出す。
加奈子は乙女殺害を夫・秀紀の犯行ではないかと疑っていたのだ。
其処で、秀紀に直接問い質したところ事故死してしまったらしい。
実は、乙女は秀紀の娘では無かった。
加奈子は秀紀との結婚直前に見ず知らずの2人組から性的暴行を受け、乙女を妊娠した。
つまり、父親は名も知らない2人組なのだ。
この事実を加奈子は秀紀に伏せていた。
だが、乙女に疑問を抱いた秀紀はDNA鑑定を行い、自身の娘ではないことを知ってしまった。
これが3、4年前の出来事である。
だからこそ、自身の血を引かない乙女を殺したのだ……加奈子はそう言い募る。
この事実を明かすことは出来ない。
だが、いずれにしろ山崎の冤罪は確実のように思われた。
恩田は冤罪であるとの主旨で記事を書いた。
これは大反響となり、世論の後押しを受けた希久子の尽力で山崎は釈放されることとなった。
恩田の記事は大スクープとなった。
別居中の妻も恩田にお祝いの連絡を寄越すほどで、これを機に夫婦仲も回復の兆しを見せた。
その数日後、ある骨髄移植手術のニュースが世間を騒がせた。
提供者は不明、提供された人物はとある少女らしい。
さらに、栗原を担当していた刑務官2人が死亡してしまう。
1人は大金を所持していた。
捜査によれば、何らかの手段で大金を得た2人が内輪揉めした挙句に死亡したようだ。
しかも、これに前後して加奈子までもが自殺未遂を引き起こす。
見えない何かが動いている……引っ掛かりを覚えた恩田は秘密裏に調査を続行し、驚愕の真実に辿り着いた。
希久子を呼び出した恩田。
すべての黒幕が希久子であることを彼女に告げる。
乙女を誘拐し殺害した犯人は、やはり山崎だったのだ。
これと接見し彼の犯行を知った希久子だが、取引を行うことにした。
未だ見つからぬ身代金を譲り受け、もう1つの条件に応じさせる代わりに、彼を釈放させることを請け負ったのだ。
まず、希久子は栗原の担当刑務官を手に入れた身代金と自身の身体で籠絡した。
その上で、栗原が所持していた歌集を利用し、それらしく見える文面を本人に書かせたのだ。
これが例の手紙の正体であった。
だが、買収した刑務官同士で金を巡り殺し合いが起こるとは希久子にとっても想定外だったらしい。
とはいえ、希久子はもっとも重要な目的を既に達成していた。
それこそが、もう1つの条件である。
そう、白血病に苦しむ希久子の娘・優希に型が一致する山崎がドナーとなること。
これこそが、希久子の動機のすべて。
夫を亡くし、娘と2人きりになった希久子。
優希までは喪えない……それゆえの工作であった。
先日、報道された骨髄移植手術のニュースこそがそれだったのだ。
何故か、素直に罪を認める希久子を不思議がる恩田。
希久子によれば、刑務官とメールの遣り取りをした履歴が残っており捜査の手が自身まで及ぶことを確信しているらしい。
だからこそ打ち明けたのだと語る。
そんな希久子に、恩田は加奈子の自殺未遂について理由を教える。
加奈子は夫である秀紀の犯行を疑っていた。
そして、問い詰めて事故死に追いやってしまった。
だが、秀紀にアリバイがあることが分かったのだ。
乙女の出生の秘密を知らない秀紀は、加奈子の不倫を疑い苦しんでいた。
そんな秀紀に同情した彼の女性部下が居た。
いつしか、2人は男女の仲になっていた。
乙女が誘拐し殺害された当日も、2人は逢引中だったのだ。
当の秀紀の不倫相手からこの事実を知らされた加奈子は「自分が秀紀を殺した」と罪の意識を抱き自殺未遂を起こしたのである。
希久子の工作により、秀紀が死亡し加奈子が自殺未遂に至った……これを聞かされた希久子は涙ながらに出頭を決意する。
「何故、自分を選んだのか?」
問う恩田。
「あなたは死んだ主人に雰囲気が似てたの」
希久子は振り返ることも無く一言だけ残すと去り行くのであった―――エンド。
・土曜ワイド劇場 特別企画「冤罪死刑 逆転の誘拐!!一本の毛髪で作る警察組織の完全犯罪!?消えた身代金6000万円の謎…記者を待つ偽りの罠!!」(11月23日放送)ネタバレ批評(レビュー)
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