2013年11月24日

『小説 3億円事件 「米国保険会社内調査報告書」』(松本清張著、新潮社刊『水の肌』収録)

『小説 3億円事件 「米国保険会社内調査報告書」』(松本清張著、新潮社刊『水の肌』収録)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

平凡な日常に潜む、黒い転機!!周到な合理主義のエリート会社員はなぜ転落したのか。傑作短編5編。

妻の実家の金で留学した男が旅先で資産家の娘と知りあい、妻の前から蒸発する。妻に落度があれば離婚は成立する。私立探偵を雇い、秘かに動向を監視し続けるが、その妻が知らぬ間に、軽蔑していたかつての同僚と再婚していたのを知った時男の心に理不尽な怒りが湧く。表題作をはじめ計りがたい人間の愛憎と欲望をテーマに、現代社会の不確実な内面を抉る推理小説集。全5編を収録。

目次


水の肌
留守宅の事件
小説 3億円事件 「米国保険会社内調査報告書」
凝視
(新潮社公式HPより)


<感想>

『水の肌』に収録された短編です。
戦後最大の謎となった事件の1つ「三億円事件」をモチーフとした短編です。

内容としては、米国保険会社調査員であるG・セーヤーズが事件を調べ、その結果を彼の上司に報告したものとなっています。
当然、ある結末が其処には描かれています。
果たして、その結末とは!?

簡素な筆により淡々と語られており、これが何とも言えない圧迫感をもたらしている作品です。

<ネタバレあらすじ>

これは、米国に拠点を持つ保険会社の調査員であるG・セーヤーズが「三億円事件」について調査し、本国の部長へとその状況を報告した書簡をもとにしたものである。

まず、来日したセーヤーズは「三億円事件」の資料を集めた。
その結果、あのあまりに有名な白バイ警官に扮した盗難事件が発生する前の段階で、脅迫状が数度に渡り送られていた事実を突き止めた。

セーヤーズは語っている。
この時点では「単独犯」と「複数犯」いずれの可能性も考えられた、と。

次いで、セーヤーズはある強力な容疑者の存在に注目した。
その男の名は浜野健次。
姉と義兄のもとに同居していた青年だ。
ちなみに、健次の義兄は警備会社にて経理の仕事に就いている。
警備会社の社長は義兄の叔父である。

健次は素行不良の青年で、車やバイクに造詣が深い。
此の点も容疑者として適っていた。

当時の捜査本部もこれを重視していたようで、彼のもとを訪れている。
ところが、その翌日には健次は青酸カリにより服毒死してしまう。
義兄によれば、疑われたことを儚んでの自殺だそうだ。
つまり、当人は犯行を否定していたことになる。
実際、健次の死後となるが事前に送り届けられた脅迫状の筆跡と健次のソレが異なっていたことが確認され嫌疑は晴れたようだ。

だが、セーヤーズはこれに疑義を挟んでいる。
此処でセーヤーズは複数犯行説を採用した。
手紙を送ったのは共犯者、実行したのは健次である、と。
健次と共犯者が協力して犯行に及んだと主張したのだ。

セーヤーズはこの共犯者らしき人物についても突き止めている。
だが、この人物は消息不明になっていた。

セーヤーズは健次と共犯者による犯行と断定した上で、他に協力者が居ると推測していた。
なにしろ、3億円という大金である保管場所がない。

此処でセーヤーズは健次の義兄に注目した。
彼が勤める警備会社社長は彼の叔父である。
彼らの協力があれば、犯行はより容易となる。
当然、保管場所も彼らが提供したのではないか。

セーヤーズはこの仮説に基づき、警備会社を調べた。
すると、三億円事件発生直後の3年間のみ景気が上向いていたことが分かった。
つまり、奪った3億円を経営資金に充てたのだ。

この観点に立ってセーヤーズは主犯が健次ではなく、むしろ義兄とその叔父なのではとの疑惑を新たにした。
彼らは健次を利用したのではないか。
だとすれば、健次の死すらも彼らの計画の内なのでは―――。

セーヤーズが調べた結果、義兄が健次が死亡する3年前に同じ毒物を入手していたことが分かった。
どうやら、義兄にとって健次はそもそも邪魔な存在となっていたようである。

以上を以て、セーヤーズは結論と代えている。
書簡の最後には「当保険会社にて多額の負担を強いられた当該事件について解決すべく鋭意調査中である」旨が記載され締め括られていた―――エンド。

◆松本清張先生関連過去記事
【小説】
「霧の旗」(松本清張著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)

「書道教授」(松本清張著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)

「球形の荒野」(松本清張著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『寒流』(松本清張著、新潮社刊『黒い画集』収録)ネタバレ書評(レビュー)

『市長死す』(松本清張著、光文社刊『青春の彷徨』収録)ネタバレ書評(レビュー)

『熱い空気』(松本清張著、文芸春秋社刊『事故―別冊黒い画集1』収録)ネタバレ書評(レビュー)

『波の塔 上下』(松本清張著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『危険な斜面』(松本清張著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『疑惑』(松本清張著、文藝春秋社刊)ネタバレ批評(レビュー)

『十万分の一の偶然』(松本清張著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『事故』(松本清張著、文芸春秋社刊『事故―別冊黒い画集1』収録)ネタバレ書評(レビュー)

『留守宅の事件』(松本清張著、文藝春秋社刊『証明』収録)ネタバレ書評(レビュー)

『黒い福音』(松本清張著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『密宗律仙教』(松本清張著、文藝春秋社刊『証明』収録)ネタバレ書評(レビュー)

松本清張先生原作「砂の器」が5回目のテレビドラマ化決定。テレビ朝日制作、主演は玉木宏さん!!&「砂の器」ネタバレあらすじ

【ドラマ】
月曜ゴールデン特別企画 松本清張生誕100年スペシャル「中央流沙」(12月14日放送)ネタバレ批評(レビュー)

月曜ゴールデン特別企画 松本清張生誕100年記念スペシャルドラマ『火と汐』(12月21日放送)ネタバレ批評(レビュー)

松本清張ドラマスペシャル「顔」(12月29日放送)ネタバレ批評(レビュー)

「フジテレビ開局55周年特別番組 松本清張スペシャル『顔』 清張作品の原点 傑作がドラマで甦る!大女優へのぼり詰めた女には“殺人”という秘密の過去があった。顔がスクリーンに映し出される前に過去を消さなければ」(10月3日放送)ネタバレ批評(レビュー)

金曜プレステージ「松本清張ドラマスペシャル 山峡の章」(1月29日放送)ネタバレ批評(レビュー)

生誕100年記念作 松本清張ドラマスペシャル〜霧の旗「歌舞伎界のプリンスが現代劇初主演!原作と異なる衝撃のラスト!魔性の女3人に振り回される傲慢敏腕弁護士誰もが陥る心の闇と罠の先に待つ真実の幸せとは?真犯人は誰?」(3月16日放送)ネタバレ批評(レビュー)

金曜プレステージ 文化庁芸術祭参加作品 松本清張2夜連続SP球形の荒野・前編「連続殺人の裏に隠された昭和史の光と影〜奈良古寺に残る亡霊の筆跡!」(11月26日放送)ネタバレ批評(レビュー)

土曜プレミアム 松本清張2夜連続SP球形の荒野・後編「昭和39年東京オリンピック開催日にすべての謎は明かされる!刑事も涙した戦争で引き裂かれた父娘の結末」(11月27日放送)ネタバレ批評(レビュー)

サスペンス特別企画「砂の器〜松本清張の最高傑作遂に放送へ!秋田−東京−伊勢−出雲、日本縦断3000キロの殺人捜査!!操車場の死体とカメダの謎!?二人の刑事が追う宿命…」(9月10日放送)ネタバレ批評(レビュー)

サスペンス特別企画「砂の器〜松本清張の最高傑作遂に完結へ!日本縦断3000キロの捜査が暴く連続殺人の罠!?二人の刑事が見た父子永遠の旅!!天才作曲家の殺意…衝撃の結末」(9月11日放送)ネタバレ批評(レビュー)

水曜ミステリー9「松本清張3週連続スペシャル 張込み〜平凡な幸福を壊す殺人者!美しい人妻の秘められた過去!密会現場で刑事が最後に見た真実(3週連続松本清張特別企画“張込み” 強盗殺人犯追う刑事逃亡の果てに昔の女は家族を捨てるか?)」(11月2日放送)ネタバレ批評(レビュー)

水曜ミステリー9「松本清張3週連続スペシャル 鉢植を買う女〜愛したから殺した!?金に執着する女2人の戦い!死体が語る消えた3000万と花壇の謎(3週連続松本清張特別企画“鉢植を買う女” 愛する殺人…優雅な暮らしの金貸し女が愛欲に溺れたとき、不幸は始まった)」(11月9日放送)ネタバレ批評(レビュー)

水曜ミステリー9「松本清張企画最終章 聞かなかった場所〜謎に満ちた夫の急死!燃える山鹿灯籠が暴く愛人との密会…女性官僚が堕ちた獣道(3週連続松本清張特別企画“聞かなかった場所” 夫に愛人が?女性官僚が堕ちた罠…俳句に隠された密会の屋敷)」(11月16日放送)ネタバレ批評(レビュー)

松本清張没後20年特別企画『市長死す 死体になるまでの5日間に市長が見たものは何か?日記に隠された市長の意外な一面が驚くべき真実を浮かび上がらせる!たった一行の文章に秘められた誰も知らない12年前の出来事…53年ぶりに隠れた名作を映像化!』(4月3日放送)ネタバレ批評(レビュー)

松本清張没後20年特別企画「ドラマスペシャル 波の塔 汚職官僚連続殺人!!捜査検事に仕掛けられた女の罠!?“点と線”に続く大ベストセラーを完全映像化!東京〜京都〜富士、証言者を追う1000キロの旅衝撃の結末」(6月23日放送)ネタバレ批評(レビュー)

松本清張没後20年特別企画「危険な斜面 偶然再会した元恋人によって、眠っていた“出世欲”に目覚めてしまった男…しかし芽生えたのは殺意だった!普通の男から悪魔へ…このまま男は昇りつめるか転落するか?」(9月30日放送)ネタバレ批評(レビュー)

金曜プレステージ 松本清張没後20年特別企画第3弾「疑惑 夫殺しの疑いをかけられた若き悪妻はシロかクロか?個性派女性弁護士が史上最強の悪女と闘う〜無実だったら覚えていろ!衝撃の真相とは」(11月9日放送)ネタバレ批評(レビュー)

水曜ミステリー9「松本清張没後20年特別企画 事故〜黒い画集〜 疑惑の事故が招く連続殺人!不倫密会の代償点と線を結ぶ捜査が暴く死体移動トリック」(12月12日放送)ネタバレ批評(レビュー)

テレビ朝日開局55周年記念 松本清張没後20年 2週連続ドラマスペシャル「十万分の一の偶然〜激突!事故か殺人か!?東名高速四重衝突!!一枚の写真が暴く赤い火の玉の謎…結婚目前に消えた娘〜父の追跡」(12月15日放送)ネタバレ批評(レビュー)

月曜ゴールデン「松本清張没後20年スペシャル『寒流』〜黒い画集より〜エリート行員の不倫の恋が上司の嫉妬を生み運命が転がる!一体誰が悪で誰が善なのか?幻の名作の意外な結末とは」(1月14日放送)ネタバレ批評(レビュー)

水曜ミステリー9「松本清張没後20年特別企画『留守宅の事件』〜証明より〜妻は何故殺されたか?密会と密告の罪深い闇 空白5日間の不在証明を追う刑事達の執念」(4月24日放送)ネタバレ批評(レビュー)

「テレビ朝日開局55周年記念 松本清張二夜連続ドラマスペシャル 三億円事件 戦後最大の未解決事件〜衝撃の推理初映像化!!消えた真犯人VS保険調査員!!最後の真実」(1月18日放送)ネタバレ批評(レビュー)

【その他】
・『眼の壁』から出題がありました。
「ミステリーキューブ 名作ミステリーを凝縮▽華麗なトリックを見破り密室から脱出せよ!▽松本清張が仕掛けたわなに挑戦だ」(8月20日放送)ネタバレ批評(レビュー)

「水の肌 (新潮文庫)」です!!
水の肌 (新潮文庫)





こちらはキンドル版「水の肌」です!!
水の肌





「松本清張サスペンス 傑作選[大映テレビ・TBS編] [DVD]」です!!
松本清張サスペンス 傑作選[大映テレビ・TBS編] [DVD]



【関連する記事】
posted by 俺 at 12:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評(レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック