2013年12月15日

『大癋見警部の事件簿 青森キリストの墓殺人事件』(深水黎一郎著、光文社刊『ジャーロ』掲載)

『大癋見警部の事件簿 青森キリストの墓殺人事件』(深水黎一郎著、光文社刊『ジャーロ』掲載)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、未読の方は注意!!

<感想>

『ジャーロ』にて連載されていた深水黎一郎先生「大癋見警部の事件簿シリーズ」最終話です。

『現場の見取り図 大癋見警部の事件簿(ザ・ベストミステリーズ2012収録)』(深水黎一郎著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『大癋見警部の事件簿(番外編)』(深水黎一郎著、光文社刊『宝石 ザ ミステリー2』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『ジャーロ』連載版では、毎回ミステリに纏わるテーマが明かされ、それに沿った物語が展開されていました。
今回のテーマは「バールストン先攻法」と「リドル・ストーリー」。

「バールストン先攻法」は「犯人が事件開始前、あるいは事件開始直後に死亡あるいは犯行不可能と思われる形で退場することにより容疑の圏外へと逃れる」アレです。

「バールストン先攻法」と言えば、隕石が衝突する事故が原因との退場法もありましたね……こちらの作品です。

そして「リドル・ストーリー」は「敢えて物語の結末をぼかすことにより、読者に結末をアレコレ考えさせて余韻を残す方法」のこと。

フランク・R・ストックトンによるリドルストーリー『女か虎か』が有名ですね。
『女か虎か』と言えば、その異版を山口雅也先生が著されています。
原典を上手く活かしたなかなかの作品です。

『異版 女か虎か』(アブラハム・ネイサン著、山口雅也訳、早川書房刊『謎(リドル)の謎(ミステリ)その他の謎(リドル)』収録)ネタバレ書評(レビュー)

そして、これまた東野圭吾先生も独自のアレンジを加えてますね。

・『虎も女も』収録。
『あの頃の誰か』(東野圭吾著、光文社刊)ネタバレ書評(レビュー)

「リドル・ストーリー」は、かように読者のみならず他の作者にも影響を与える手法と言えそうです。

「バールストン先攻法」、「リドル・ストーリー」共にミステリ読者には馴染み深く、当ブログでも取り上げることの多いテーマと言えるのではないでしょうか。

さて、そんな馴染み深いテーマを大癋見警部がどう料理したのか。
これこそが本作のポイント。
本作では全体的に次のような流れとなっています。

まず、事件発生。
次に、通常の解決。
続いて「バールストン先攻法」を用いた解決。
さらに「リドル・ストーリー」を用いた解決。
最後に本作らしさを加えつつ両方を伴った解決。

これにより実例を確認しつつ、サプライズも楽しめる贅沢な構成と言えるでしょう。
さらに、相変わらずの「大癋見警部」の傍若無人ぶりに笑ってしまう筈。
ラストのオチも強烈でキャラがきちんと仕事をしていますね。
アリです。

この作品も、ネタバレあらすじより本作をきちんと読まれた方が良いでしょう。
オススメです。

<ネタバレあらすじ>

いよいよ最終回を迎え、大癋見警部も感慨深げだ。
その為か、今回のテーマは一気に2つ。

1つ目「バールストン先攻法」。
犯人が物語序盤で何らかの事情で舞台から姿を消し、容疑者の枠から逃れること。

2つ目「リドル・ストーリー」。
結末が明確に描かれないことで、読者に想像の余地を残す手法のこと。

この2つが今回は盛り込まれるらしい。

矢先、青森にて殺人事件が発生。
何故かこの事件に管轄を越えて大癋見警部が挑むことになった。
この際、これに疑問を呈した鶴岡刑事が大癋見警部により負傷し残念ながら同行出来ない仕儀となった。

さて、それはそれとして大癋見警部は青森に到着。
早速、捜査を開始する。
被害者はキリストの殉教の地は青森だと主張していたらしい。
だが、周囲に信用されず遂には墓を暴こうとしていたそうだが……。

大癋見警部はいつもの調子だが、周囲の手により被害者の妻が犯人と判明。
妻によれば、夫ではなくフィギュア好きのあの人にこそ自分が必要だった……ということらしい。
どうやら、夫以外の別の男性が居たようである。

だが、大癋見警部は納得しない。
いや、そもそもテーマが消化されていない以上、読者が納得しないだろう。

大癋見警部は、まず「バールストン先攻法」を用いた解決を提示。

どうやら、既にいないあの人こそが犯人らしい。
この事件で既にないと言うと……被害者なのか?
だが、被害者は遺体で確認されている。
だとすれば……まさか被害者に墓を暴かれようとしていた“あの人”なのか。
まさか、何千年越しの「バールストン先攻法」だったとは―――「バールストン先攻法」了。

そのとき、“あの人”の墓が動き始めた。
そして、中から何かが―――「リドル・ストーリー」了。

だが、大癋見警部が意図していたのは“あの人”では無かった。
彼が意図していた犯人は「最初に物語から消えた鶴岡刑事」であった。
果たして、大癋見警部の推理は何処まで正しいのか―――エンド。

◆関連過去記事
【大癋見警部の事件簿シリーズ】
『現場の見取り図 大癋見警部の事件簿(ザ・ベストミステリーズ2012収録)』(深水黎一郎著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)

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【その他】
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