日本で100番目に早い(たぶん)、「相棒season12(twelve)」第8話「最後の淑女」(12月4日放送)ネタバレ批評(レビュー)。
<ネタバレあらすじ>
右京(水谷豊)は、甲斐峯秋(石坂浩二)から矢嶋小百合(大谷英子)という若い女性を紹介された。
小百合の父・矢嶋(高木稟)は20年前に失踪。
矢嶋は当時の峯秋が通っていたサロンの管理人であった。
以来、小百合は母・弘恵と2人で峯秋から援助を受けて生活していた。
峯秋は小百合にとって大恩人であり、今回もある相談を持ちかけたのだそうだ。
相談の内容は次の通りである。
小百合の母・弘恵が最近になって没した。
小百合が弘恵の遺品を整理したところ、矢嶋の失踪と時を同じくして自殺した文豪・夏河郷士(野崎海太郎)が書いたと思われるノートを発見したのだそうだ。
ところが、このノートが問題であった。
中身に目を通した小百合は驚いた。
其処にはこう書かれていた(内容を抜粋、概略をまとめた物)。
以下、ノートの記述〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
突然、音がした。
あの男が玄関に入って来る。
私は書き物を終え、階下へ降りた。
私はあの男の罪を告発するつもりだ。
あの男は私の決意に既に気付いている。
だとすれば、あの男は私を殺しに来るに違いない。
あの男が私を殺そうとするのならば、それは容易いことだろう。
毒を盛るなり、突き落とすなり、どうとでも出来る。
あの男の罪は喩えるなら「ホトトギスの罪」だ。
思い出す、10月の始めあの男とペアを組んだ。
あの男は怪我をした。
私の所為だ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここまで、ノートの記述。
これを読んだ小百合は「私」が「夏河」で「あの男」が「矢嶋」ではないかと疑ったらしい。
だとすれば、20年前の夏河の死は自殺ではなく、矢嶋が殺害したのかもしれない……。
右京は甲斐(成宮寛貴)と共に捜査に乗り出す。
米沢(六角精児)の鑑定では、夏河の物とされるカレンダーの筆跡と鑑定した結果、ノートは夏河の手によるものだそうだ。
右京たちは、夏河が住んでいた「慈朝庵」と呼ばれている大豪邸を訪ねる。
夏河死後、「慈朝庵」は女性や子供を精力的に援助し篤志家として広く知られる江花須磨子(岩下志麻)の手にあった。
当時の様子を問う右京たちに、最初は否定的な須磨子。
だが、小百合からの依頼であると知るや態度を軟化させる。
「慈朝庵」には、夏河を中心に当時の文化人を自負するメンバーによるサロンがあった。
世俗を超越し、粋を知る者のみが参加を許されたそのサロン。
もともとは、須磨子の夫・幸彦がサロンのメンバーであり、その縁で須磨子も出入りしていたらしい。
夏河死亡後はサロン自体が活動を停止し消滅、「慈朝庵」も失われようとしていた。
これを惜しんだ須磨子が「慈朝庵」を引き受けたのだそうだ。
夏河は1階の書斎で仕事を良くしていたらしい。
夏河と矢嶋の写真を確認した右京。
夏河は偉丈夫、矢嶋は小男であった。
そして、須磨子は小百合には内密にと前置きし、矢嶋の秘密を伝え始める。
矢嶋には傷害致死の前科があった。
これを伏せた上で、サロンの管理人に雇い入れられていたらしい。
これを聞いた右京は「ホトトギスの罪」が「傷害致死」のことであり、これを作品にしようとした夏河と矢嶋が揉めた末、矢嶋が夏河を殺害したと結論付けることに。
一旦、「慈朝庵」を辞去する右京たちだが……。
小百合に確認したところ、矢嶋の傷害致死は秘密でも何でもなかったことが判明する。
サロンに出入りするメンバー全員が知る事実だったのだそうだ。
だとすれば、何故、須磨子は嘘を吐いたのか!?
右京は真相に気付き、再び「慈朝庵」を訪れる。
須磨子に詰め寄る右京。
右京はノートの中の2つの点から「私」が「夏河」ではないことを証明する。
まず1つ目、「突然、音がした。あの男が玄関に入って来る。私は書き物を終え、階下へ降りた」のくだり。
夏河の書斎は1階にあった。
だとすれば、階下に降りることはあり得ない。
さらに、夏河の屋敷に管理人とは言え断りも無く矢嶋が入ることは許されないだろう。
2つ目、「あの男が私を殺そうとするのならば、それは容易いことだろう。毒を盛るなり、突き落とすなり、どうとでも出来る」のくだり。
写真で分かる通り、夏河は偉丈夫、矢嶋は小男だ。
突き落とすことは難しい。
つまり、「あの男」の罪を告発しようとしている「私」は「夏河」ではない。
むしろ、「あの男」こそ「夏河」なのではないか。
では何故、夏河の物とされるカレンダーとノートの筆跡が合致したのか?
そもそもカレンダーのメモ書き自体が夏河以外の第3者の物だったのだ。
それはノートの次の箇所から窺われる。
「思い出す、10月の始めあの男とペアを組んだ。あの男は怪我をした。私の所為だ」
テニスの試合でペアを組んだ記述だが、この際に「あの男」である「夏河」は腕を怪我したのだ。
だから、怪我をさせたペアの相手が夏河の為に介護を引き受けカレンダーにメモを書き込んだ。
そして、この筆跡は須磨子の物と酷似している。
つまり、「私」こそ「須磨子」なのである。
「あの男」が「夏河」、「私」が「須磨子」。
では、須磨子が告発しようとし、夏河から命を狙われかねないような罪とは何か!?
「あの男の罪は喩えるならホトトギスの罪」
ホトトギスの習性でもっとも有名な物は托卵である。
そう、小百合は矢嶋ではなく、夏河の娘であった。
夏河は矢嶋を雇う代わりに、その妻・弘恵と関係を持っていたのだ。
20年前、須磨子は夏河の罪を責めた。
だが、夏河は厚顔にも開き直った。
須磨子の夫・幸彦も同じように弘恵と関係を持っていたこと、それどころかサロンの他のメンバーも同じ穴の貉であると嘲ったのだ。
気が付けば……須磨子は夏河を手にかけていた。
須磨子は出頭することを決め、矢嶋に打ち明けた。
ところが、矢嶋は何かあれば自身が須磨子の罪を被るからと思い留まるよう懇願した。
矢嶋自身、小百合の実父が夏河であることは知っていた。
矢嶋は今の生活に辛さを感じており、独りになりたがっていた。
其処で夏河を自殺に偽装し、姿を消したのだ。
須磨子によれば、矢嶋は今も何処か遠くで存命しているらしい。
「サロンは気取り済ました俗物たちでいっぱいだった。だが、そんな中で峯秋だけは異なっていた……」
峯秋の息子である甲斐に、その父だけは純粋であったことを伝える須磨子。
実は、弘恵・小百合母娘に援助していたのは峯秋ではなく、須磨子であった。
須磨子が「最後の淑女」として慈善事業を行い、また周囲に毅然として振る舞って来たのはサロンの男どもへの復讐だったのである。
しかし、須磨子の行為は果たして復讐だけだったのであろうか……。
須磨子は伊丹たちに事情を問われることになった。
連行されて行く須磨子。
そんな須磨子を人知れず見つめる影があった。
車の中から見送るその正体は―――峯秋である。
峯秋は須磨子の背中が離れて行く姿を最期まで見守ると静かにその場を去る。
「俺たちも行きましょうか」
父が去ったことを確認した甲斐が呟く。
頷く右京、その耳にほととぎすの鳴き声が届く。
屋敷を振り返った右京。
其処には1つの時代が形となって残されていた。
そして、確かに淑女が護った最後の砦があった―――8話了。
<感想>
シーズン12(twelve)8話。
脚本は戸田山雅司さん。
サブタイトルは「最後の淑女」。
ちなみに、ネタバレあらすじはまとめ易く分かり易くを目指し、かなり個人的に改変しています。
幾らか端折った部分もありますが、活字に起こすにあたりスッキリ出来たのではないでしょうか。
さて、内容について。
須磨子は、世俗を超越していた筈のサロンの誇りを誰よりも大切に思い守り通そうとしたのでしょう。
高尚であろうとした須磨子。
だからこそ、後に弱者を救う慈善活動に傾倒した。
それは、復讐ではなく誇りゆえの行為。
そんな須磨子だからこそ、当時の夏河の行為は許せなかった。
まさに「ノブレス・オブリージュ」。
須磨子が「最後の淑女」たる由縁は其処にあるのだと思います。
そして、全体的にテキストを基にした推理展開、さらに抒情的な物語に魅せられました。
特に何と言っても作品の持つ雰囲気が良い。
これは、現実を切り取った映像からではなく、散文的かつ誌的なテキストの形式で右京と甲斐の口を介して物語の設定や構成が明かされて行ったことが大きいと思う。
あくまでテキストが根底にある世界が中心となり、これにより非現実感が増したことが効果を表したのでしょう。
そう言えば、名前やテキストの内容を繰り返ししたことも効果的でした。
此のテキストにより紡ぎ出された非現実的で美しいサロンの世界。
ところが、ラストで須磨子が夏河を殺害した動機が明かされることで此の世界観が崩壊し、その内実(峯秋を除き世俗的なメンバーばかりだった)が判明することで、唐突に現実が突き付けられた点こそが諧謔的で良かった。
この世界観の反転。
これこそがまさにサプライズ!!
個人的にシーズン12中でベストの出来と思います。
楽しめました!!
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