2013年12月31日

「妄想少女」(汐里作、講談社刊「週刊モーニング」掲載)ネタバレ批評(レビュー)

「妄想少女」(汐里作、講談社刊「週刊モーニング」掲載)ネタバレ批評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<ネタバレあらすじ>

「美女と野獣」と言えば、美女が野獣の容姿に怯えずこれを愛したことで、実は魔法により野獣にされていた王子の魔法が解け、美女と真実の愛で結ばれる―――そんな物語。

此処にそんな「美女と野獣」に憧れる少女が居た。
その名は、神宮寺花音。
学級委員を勤め、容姿端麗、成績優秀、人望も厚く、教師受けも良い―――そんな万能美少女である。

だが、彼女は妄想家であった。
周囲の同年代の女生徒が合コンでの恋愛話などで盛り上がる中、彼女は1人理想の男性を追い求めていた。
そう、野獣のような男性を。

彼女には理想があった。
野獣のような男性に虐げられつつ愛を捧げることにこそ「真実の愛」がある―――と。

そして、彼女はその愛を捧げる対象を見出していたのである。
その名は、久瀬原涼一。
眼鏡を架け陰気な風貌を持つ花音の担任教師である。

花音は今日も日誌を久瀬原に届ける。
そして、執拗に臀部を揉みしだかれてしまう。
明らかにスキンシップの域を超えている、セクハラだ。

だが、花音は目を伏せて表情を隠しつつ、これを喜ぶ。
久瀬原の遣り口は周到だ。
相手が抵抗しないことを確認すると、周囲の死角をキープしつつ、当たり障りのない会話で誤魔化し続ける。

どこまでも卑怯、卑劣極まりない手口。
だが、これに花音は歓びを感じていた。
久瀬原の人間としての良心を欠いた態度に“獣”を見出したからだ。
まさに、花音の理想とする“獣”―――それが久瀬原であった。

そんな花音をそっと見守る人物が居た。
彼の名は如月風牙。
これまた容姿端麗、スポーツ万能、街を歩けば異性の目を惹きつけて止まず、周囲から女子が絶えたことのないイケメンである。

風牙は花音の幼馴染。
そして、ずっと彼女を愛していた。
だが、花音には振り向いて貰えない。
何故なら、花音にとって恋愛対象は獣なのであって、爽やかなイケメンではないからだ。

風牙は知っている、そんな花音の嗜好を。
幼い時から、花音は痴漢や変質者に惹かれる傾向があったからだ。
その上で、風牙は花音を愛していた。
しかし、花音は風牙に振り向かない……。

そんなある日、今日も人気のない教室で2人きりになった久瀬原と花音。
久瀬原はいつにも増して積極的に花音を求める。
それこそ、花音が愛する獣の姿。

とはいえ、傍目には生徒を襲う教師にしか見えないだろう。
そんな2人の様子をこっそりと撮影する影が……。

翌日、久瀬原に呼び出された花音はスキップするほど弾んだ気持ちで彼のもとへ向かい……驚いた。
なんと、久瀬原が土下座したのだ。

「これまでのことは黙っていてくれ頼む。出来心だったんだ……」
息も絶え絶えな久瀬原の様子。
一体、何が起こったのか?

場面はその日の朝に戻る。

出勤して来た久瀬原は自身の下駄箱を覗き込み、言葉を失った。
中には1通の封筒。
その中身は久瀬原が好色な表情を浮かべ、獣のように花音を貪っている一枚の写真であった。

久瀬原の脳裏にこれまでの彼の人生が走馬灯のように過る。

久瀬原の人生は不遇であった。
容姿は人並み、雰囲気は暗く垢抜けない―――周囲からは蔑まれ、苛められる日々。
「なにくそ!!」と奮起して教職に就いたが、生徒からも馬鹿にされる始末。
そんな中、彼が出会った光こそが花音であった。

花音は久瀬原にとって眩し過ぎた。
本来ならば高嶺の花である。

だが、ある日のこと、偶然から花音の身体に久瀬原の手が触れた。
しかし、花音は特に嫌がる素振りを見せなかった。
少なくとも久瀬原にはそう見えた。

これは神の与え給うたチャンスだ!!
久瀬原は勝手にそう思い込み(実際は正しかったワケだが……)、花音へのセクハラを強めて行った。

だが、だが……久瀬原にとって何より掛け替えのないのは自身の生活だ。
これが1番である。
それを何者かはこの写真により壊そうとしている。
守らなければならない。
絶対に守らなければならない。

こうして、久瀬原の花音への土下座に繋がったのである。
これを見た花音は久瀬原に告げる。

「何を仰るんですか、その醜い保身こそがあなたの本性でしょう。あなたは自分がやりたいからやりたいようにやった。まさに獣なんです」と。
これは花音にとって異性への最高の褒め言葉であった。
だが、久瀬原はそれを知らない。

数日後、久瀬原が教職を辞し学校を去った。
1人取り残され呆然とする花音。

これを目にしていた風牙が笑う。
実は彼こそが写真の送り主であった。
風牙はこれまでにも同様の手段により、恋敵を排除して来たのだ。

放課後―――愛する人を失った花音は彼とのやり取りを記した日誌をめくる。
その最終頁。

「先生が居なくなって寂しいです」
「君の言う通りだ。僕は本当に卑劣だった。君を苦しめて済まなかった。僕は二度と君の前に現れない」
花音の言葉に応えることなく、久瀬原は一方的な決別を誓っていた。

日誌を手に、震えるように花音は背を屈めた―――エンド。

<感想>

『週刊モーニング』版「ちばてつや賞」の第64回受賞作。
一読してみて、惹かれる物を感じたのでネタバレ批評(レビュー)してみました。

価値観の違いが描かれた傑作にして、なんとも皮肉な物語です。
これもまた美女と野獣の愛だったのかもしれないなぁ……。

花音は獣を求めるが、獣はそんな彼女に畏れを抱く。
彼女が獣を褒めれば褒めるほど、相手を傷付けより警戒を深められてしまうワケだし……。
そして、花音に決して振り向いて貰えない如月風牙こそが、もっとも花音の言う「卑怯卑劣を貫く獣」である事実。
青い鳥は意外に近いところに居るものなのだろうか。

正直、風牙は本性を素直に花音に伝えることで振り向いて貰えそうな気もするけど……。
もっとも、花音が獣と認知する条件に心根以外に獣のような容姿が含まれているのならばイケメンの風牙は条件を満たさないか。
とはいえ、風牙自身は「そんな振り向いて貰えない自分」を楽しんでいる節もあるので、ある意味もっとも心の闇を抱えた人物なのかもしれないなぁ……。

それとも、花音は風牙の本性を見抜いた上で無意識に避けているのだろうか。
花音の条件的にはストーカーも十分に彼女の欲求を満たす筈だし。
花音自身が最後の一線で危険に曝されていないのも、花音が相手の本質を見抜いているからなのか、風牙が相手を排除しているからなのかも分からないなぁ……。
これによって物語にもっと深みが加わりそうだけど。

う〜〜〜ん、こうなると花音が求める「獣」の定義が気になって来たぞ。
とりあえず、これを詰めて行こう。

花音の台詞によると「卑怯卑劣な行いを好む異性がタイプ」のようだ。
また、風牙によると過去にも同様のタイプが好みだった様子。
つまり、外見上のみ卑劣に見えるが本質的には比較的善良であることを見抜いて好きになるワケではないらしい。
久瀬原の場合も同様。

それと、花音が最終的に何を望んでいたかもポイントだな。
「美女と野獣」のように真心を捧げることで獣が王子に変化することを期待していたのか、それともそのままを愛していたのか。

前者ならば、最終的には素敵な王子に変身するワケだから、獣と言う導入部にこそ違和感があるが最終的な異性の好みはそう他者と変わらないのかもしれない。
いわば、将来的な出世を見越しての愛のような物だ。

だが、後者だとすればこれは相当変わり者と言えるだろう。
もしかすると、獣に愛を捧げる自身を愛していたのかもしれないな。

これらによっても変わって来そう。
こう考えると、登場人物の中で最も歪な筈の久瀬原こそが最も常人に近いとの矛盾した結末が導き出されるような気がする。
まぁ、比較対象である花音と風牙が常識外過ぎるだけなのだが……。

結局のところ、久瀬原は花音の本質を掴めず表面のみを愛してしまったのだろうか。
これが本質を掴めていれば、花音の愛は成就していたのかもしれないなぁ。
ただ、それに花音が満足するかすら不明なのも困りものなのだが。

いろいろと考えさせられる作品で、まさにタイトル通り妄想家の強さを実感できるかな。
可愛らしい絵柄の中の毒もなかなか良く、是非、一読して欲しい作品と言えそうです。

◆関連過去記事
・こちらは『週刊ヤングマガジン』版「ちばてつや賞」優秀新人賞受賞作。
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