2013年12月07日

『恋』(小池真理子著、早川書房、新潮社刊)

『恋』(小池真理子著、早川書房、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

・新潮社版

誰もが落ちる恋には違いない。でもあれは、ほんとうの恋だった――。小池文学の頂点を極めた直木賞受賞作。

1972年冬。全国を震撼させた浅間山荘事件の蔭で、一人の女が引き起こした発砲事件。当時学生だった布美子は、大学助教授・片瀬と妻の雛子との奔放な結びつきに惹かれ、倒錯した関係に陥っていく。が、一人の青年の出現によって生じた軋みが三人の微妙な均衡に悲劇をもたらした……。全編を覆う官能と虚無感。その奥底に漂う静謐な熱情を綴り、小池文学の頂点を極めた直木賞受賞作。

・早川書房版

〔直木賞受賞作〕連合赤軍が浅間山荘事件を起こし、日本国中を震撼させた一九七二年冬。当時学生だった矢野布美子は、大学助教授の片瀬信太郎と妻の雛子の優雅で奔放な魅力に心奪われ、かれら二人との倒錯した恋にのめりこんでいた。だが幸福な三角関係も崩壊する時が訪れ、嫉妬と激情の果てに恐るべき事件が!?
(公式HPより)


<感想>

第114回直木賞受賞作。
読み始めると、全編に溢れる熱に圧倒されることでしょう。
好みこそ分かれると思いますが、確かに力を秘めた作品だと思います。

内容的には、40代にして儚く散った布美子の真の生涯を綴った物。
布美子にとって人生とは片瀬夫妻と共に過ごした青春しか存在しなかったのかもしれませんね。
大久保を射殺した時点で既に終わりを迎えていたのかも。

罪深く、業深きは布美子をそんな状況に追いやった片瀬夫妻。
自身の罪と業に若い布美子を巻き込んだとしか思えません。

確かに、彼らは事件を通じて本当の夫婦となれたのでしょう。
信太郎は半身不随となることで性から解放され、悩みが無くなった。
また、これにより雛子は身体の関係を抜きにして介護に尽くし、純粋に信太郎を愛することが出来るようになったのかもしれません。

ですが、夫婦にとって布美子は何だったのでしょうか?
結局、布美子は片瀬夫婦のダシにされてしまったのでしょうか?
こう考えたとき、片瀬夫妻は本当の夫婦なのかとの疑問が湧きます。

もしかすると、片瀬夫妻の繋がりは上のような陽性の物ではなく、過去同様に後ろ暗い物なのかもしれません。
つまり、片瀬たち自体に愛は無く、布美子の犠牲(献身的な愛?)に報いるべく半強制的に夫婦を続けているだけなのではないか。

しかし、これは裏を返せば、夫婦にとって布美子の事件自体が夫婦の過去がそうであったように新たな共犯関係を築くスパイスにされてしまったことも示しています。

だとすれば、片瀬夫妻の本質は常に変化していないことになる。
どうにも複雑な印象を受けます。
やはり、男女の事は一筋縄ではいかないのでしょう。

いずれにしろ、布美子の存在は片瀬夫妻に奉仕したとしか言えないような気がします。
少なくとも第3者から見れば報われたとは言い難い。

だが、此処で重要なのは第3者の感想ではなく布美子本人が納得しているのかどうか。
布美子は片瀬夫妻の危機を救った。
布美子にとっては、その事実に片瀬夫妻がどう思っているかが重要だったのではないでしょうか。

夫妻の真意はラストにて鳥飼のもとに届いた『ローズサロン』の謝辞に表れているとは思います。
ですが、布美子は最期までこの事実を知りませんでした。
そして、知らない布美子は鳥飼に秘密を打ち明けた―――この事実は大きい筈。

過去に信太郎が雛子との秘密を布美子に打ち明けたように、布美子にとっても打ち明けざるを得ないような精神状況に置かれていたのでしょう。
だとすれば、本人自身も納得していたとは思えず、あまりに辛い結末だったとしか言えないのではないでしょうか。

ちなみに本作『恋』がTBS系列にて2013年12月16日にドラマ放送されるそうです。
詳しくはこちらの過去記事をどうぞ!!

小池真理子先生原作『恋』(早川書房、新潮社刊)がTBS系にてスペシャルドラマ化!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
矢野布美子:稀代の悪女とされる人物。
片瀬信太郎:英文学助教授。
片瀬雛子:信太郎の妻、大久保と不倫の恋に走る。
大久保勝也:電器店のアルバイト。
鳥飼三津彦:ルポライター。
佐野:編集者。


矢野布美子が死亡した。
布美子は20年ほど前に痴情のもつれから、猟銃を用いて1人を射殺、1人を重傷へと追い込んだ悪女とされていた。
それゆえ、その葬儀はあまりに寂しい物となった。
葬儀を出すことにすら反発する親族も居たと言う。

布美子の葬儀に参列したライターの鳥飼三津彦は彼女の死に深い感慨を抱いていた。
何故なら、鳥飼は布美子を知っていたから。

最初は単なる取材対象であった。
だが、彼女自身の口からあの日の真相を伝え聞いてからは鳥飼にとって彼女は特別な存在となっていた。
それは余りに壮烈な物語であった。

学生時代の布美子は、書籍『ローズサロン』の翻訳を経て英文学助教授である片瀬信太郎、その妻・雛子と知己を得た。
布美子は信太郎に惹かれ、雛子に憧憬の念を抱いた。

信太郎と雛子は性に対して倒錯を求めており、やがて布美子を交えた3人で背徳的な関係を結ぶこととなった。
この3人の背徳的な関係は初心な布美子にとって衝撃的であり、また、大変魅惑的でもあった。
やがて、布美子はこの関係に溺れ、掛け替えのないものと思い始める。

その矢先、3人の関係を崩壊させる男が現れた。
男の名は大久保勝也、地元の電器店のアルバイトであった。
雛子は勝也に惹かれ始め、2人は不倫の関係に陥ってしまう。

残された信太郎と布美子。

布美子は雛子を失ったが、信太郎を愛そうとする。
しかし、信太郎は布美子を受け入れない。

信太郎にとって、布美子との関係は雛子あってこその物であった。
信太郎は布美子との関係解消を申し出る。
この際、雛子と自身の秘密を布美子に打ち明けた。

信太郎は何処までも雛子を愛していた。
だが、信太郎と雛子は異母兄妹だったのだ。

まったく別の環境で育てられた2人はこの事実を知らず愛し合った。
ところが、最初の関係を結んだ直後に事実が判明。
一時は別れることも考えた。
しかし、背徳的な情熱の味が忘れられずズルズルと関係を続けることとなったのだ。
いや、寧ろ2人はこの秘密すら快楽のエッセンスとした。

やがて、2人は結婚。
この際に子供だけは作らないようにしようと決める。

2人の結婚生活は愛し合うソレとは異なり、共犯者同士が互いに感情を燃やすに似ていた。
あまりに非生産的な関係。
やがて雛子は倦み始め、信太郎はこれを打開すべく布美子に夫婦のカンフル剤となることを求めたのだ。
しかし、それでも雛子は信太郎との関係に飽いた。
いつしか別の男性を求めるようになり、そんな雛子の前に現れたのが大久保であった。

信太郎による衝撃の告白から数日後、雛子は正式に信太郎に別れを切り出した。
雛子と信太郎の離婚が成立すれば、あの関係は永遠に失われてしまう……秘密を教えられ尚更、信太郎たちから離れられなくなった布美子を恐怖が襲った。
怯える布美子は信太郎たちとの関係を続けるべく、雛子を大久保から取り戻そうと決意する。

そして、あの日がやって来た。
雛子と大久保の密会先に踏み込んだ布美子は大久保に信太郎と雛子の秘密を打ち明けた。
これで大久保が動揺する筈であった。

ところが……大久保は既に秘密を知っていた。
出会った直後に雛子から聞かされていたのだ。
しかも、布美子と片瀬夫妻の関係すらも赤裸々に伝えられていた。

この事実を知った布美子は自身が夫妻にとって特別では無かったことを悟った。
大きな衝撃を受ける布美子。

さらに、布美子は大久保から「君は一時的な快楽に逃げているだけだ」と諭されてしまう。
挙句、信太郎の雛子への想いも「共犯心理」に過ぎず、雛子を愛しているのは大久保だけだとまで宣言されてしまった。
雛子もそんな大久保の言葉を認める。

なんなんだ、この男は……。
なんなんだ、この女は……。

布美子の頭が真っ白になった。
この時点で、過去に雛子に抱いていた憧憬は失われていた。
気付けば猟銃を手に大久保を撃っていた。
扱い方は蜜月を築いた時代に片瀬夫妻から教わっていた。

そして……次は雛子だ。
布美子は体内を巡る奇妙な熱に促されつつ撃った。

だが、このとき射線上に思わぬ人物が飛び込んだ。
信太郎である。

信太郎は事態に気付き、慌てて駆け付けたのだ。
そして、雛子を庇った。

この瞬間、布美子の熱が冷めた。
布美子はその場を逃げ出すと、自首し刑に服した。
動機は布美子と信太郎と大久保3者の痴情のもつれ、雛子のことは明かさなかった。
後に分かることだが、大久保は絶命、信太郎は一命を取り留めたが半身不随となった。

獄中の布美子のもとに刊行された『ローズサロン』が届いた。
布美子にとって『ローズサロン』は片瀬夫妻と自身の仲を繋いだ大切な本。
中に信太郎からの感謝の言葉を探したが、当然ある筈もなかった。
布美子は落胆しつつ、時を過ごすと刑を終え社会に復帰。
そして、40代で病死した。

まさに炎のような生涯であった。
その最期に触れたのが、取材した鳥飼だったのだ。

鳥飼は片瀬夫妻が布美子の葬儀に現れなかったことに不満を抱いていた。
彼は片瀬夫妻のその後を追った。
夫妻は今も夫婦仲良く生活していると言う。

伝手を用い『ローズサロン』の編集者であった佐野に接触した鳥飼。
片瀬夫妻に取り次ぎを依頼するが、夫妻からは強い拒否の言葉が返って来たそうだ。

それから数年が経過し、鳥飼のもとに佐野からある手紙が届いた。
それは『ローズサロン』本来の「あとがき」であった。
何でも、本来はこの形だった物を影響を考えた佐野が信太郎に掛け合い変更させたのだそうだ。
其処には「本書出版の辞」として、イニシャルではあるが布美子への謝辞が述べられていた―――エンド。

「恋 (ハヤカワ文庫JA)」です!!
恋 (ハヤカワ文庫JA)





こちらは上のキンドル版「恋」です!!






こちらは新潮社版「恋 (新潮文庫)」です!!
恋 (新潮文庫)





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