2014年01月27日

『化石少女』最終話『赤と黒』(麻耶雄嵩著、徳間書店刊『読楽』2014年1月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『化石少女』最終話『赤と黒』(麻耶雄嵩著、徳間書店刊『読楽』2014年1月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<感想>

徳間書店刊『読楽』にて連載されていた『化石少女』が遂に最終回を迎えました。
著者は麻耶雄嵩先生、それだけに一筋縄ではいかないラストだろうと思ったらその通りでした。
単行本化されたときが楽しみな出来。

『化石少女』をご存じない方の為に、簡単に説明すると。

主人公は彰というペルム学園の1年生。古生物部所属。
とは言え、彰自身に古生物への興味はない。
実は父から言い含められ、お嬢様であるまりあのお目付け役として入部したに過ぎないのだ。

そんなまりあは古生物大好きの化石少女。
容姿端麗ながらも、その他の点に難があるとの個性的なキャラクター。

古生物部はまりあの趣味の為だけに存在しており、現行の生徒会により廃部の危機に。
そんな中、毎回事件が発生しこれをまりあが推理する。
その犯人として指摘されるのは現行生徒会メンバーである―――的なストーリー。

その最終話こそが「赤と黒」。
これまでの流れから、あの人が容疑者になるかと思いきや……。
さらに、これまでの流れ自体が大きなミスリードになっていることも判明。
さらにさらに、ラストにてこのサブタイトルの意味が明かされる際の衝撃と来たら!!
読むべし!!

<ネタバレあらすじ>

・登場人物一覧
まりあ:成績は常に赤点をキープする化石大好き少女。ペルム学園2年生。古生物部部長。
彰:まりあのお目付け役を命ぜられた少年。ペルム学園1年生。古生物部部員。
野志:学年2位の成績を誇るエリート。ペルム学園2年生。
荒子:ペルム学園現生徒会長。
水島:ペルム学園先代生徒会長。
用務員:ペルム学園の用務員。


良家の子弟子女が通うペルム学園。
其処に化石発掘を主な活動とする古生物部がある。

部員数はたったの2名。
部長は良家の子女で眉目秀麗でありながら、口を開けば残念発言を繰り返す2次元美少女・まりあ。
そして、そんなまりあの父から命じられ渋々お目付け役(御守役か……)を申し付けられた彰である。

もともと彰に古生物への興味はない。
古生物部はまりあの個人的な化石趣味から創設された部で、これに立場上つき合わされたに過ぎないのだ。

部員2名ながら部として認められているのには、ある理由が存在している。
まりあの父は先代の生徒会長・水島の父と親しく、その恩恵を受けたのだ。
だが、それも現生徒会長の荒子が就任するまでであった。

荒子と水島は家単位で仲が悪く、互いに派閥を形成していた。
まりあは、もちろん水島派である。
結果、古生物部にも廃部の危機が迫っていた。

しかし、荒子は決して狭量な人物では無かった。
むしろ、公明正大な人柄で廃部に当たって条件を提示して来た。

部員を5名、確保すること―――それが古生物部を廃部の危機から救う条件である。
通常なら、あと3人とやる気も出るのだが、生憎まりあの評判は悪い意味で凄過ぎた。
どんなに声をかけても誰も集まらないのだ。

このままでは廃部が実現してしまう。
そんな焦りからなのか、まりあは事あるごとに現生徒会と対立。
発生した殺人事件の犯人を彼女なりの推理で生徒会メンバーに当て嵌めようとしてしまうのだ。
まりあと生徒会の間に立たされた彰は肩身の狭い想いを強いられていた。

ところが、この事態を一変させるニューカマーが現れた。
その名は野志、まりあと同じ2年生である。
彼は学年2位で知られる秀才。
そんな野志が古生物部に入部しようと言い出したのだ。

そんな馬鹿な……と唖然とする彰に、まりあは野志との思わぬ出会いについて語り出す。

中間テストも迫ったある日、まりあが職員室へ日誌を届けに向かった。
すると、野志がじっと職員室の壁を眺めていたのだそうだ。
まりあによれば、その壁には古生物の化石が埋まっているのだそうで、すぐに同志だと分かったらしい。
声をかけたところ、野志は古生物部への入部を希望したのだそうだ。

何かあるのではないかと疑う彰だが、まりあは無邪気に喜んでいる―――。

野志が入部して数日、生徒会長の荒子がやって来た。
荒子は野志の顔を見るなり絶句する。
なんと、野志は荒子の弟分で次期生徒会長の最有力候補だったのだ。
そんな彼が水島派とでも言うべきまりあの古生物部の部員になっていたのである。
彰はなにやら不穏な物を感じ取る。

さらに数日後の放課後、試験を控えた彰がノートを取りに部室に戻った。
すると、まりあがいそいそと何処かへ出かけようとしている。
どうやら、野志に体育用具室へと呼び出されたのだそうだ。
体育用具室の壁に化石が見つかったらしい。

たしか、体育用具室の壁はコンクリートのうちっぱなしでは―――不安に思った彰はまりあに同行することに。
偶然、体育用具室前にて荒子と用務員に出会う彰たち。
事情を説明し、中を覗き込むが誰もいない。
跳び箱やマットが無造作に転がっているだけだ。
結局、野志を諦め、用務員が部屋に施錠してその日を終えた。

ところが翌日、施錠された体育用具室から野志の死体が発見されるのである。
野志は体育座りをした姿勢で発見された。
天井付近の2つの換気口は空いていたが人が出入り出来る大きさではない。
扉は施錠されており出入り出来た人間は居ない―――そう、密室殺人であった。

警察が捜査を開始、関係者の聴取が行われた。
もっとも時間を割かれたのは誰あろうまりあであった。
野志が古生物に興味を抱いていなかったことが判明したのだ。
にも関わらず急に古生物部に入部した。
此処に何らかの事情を勘案しない人間は居ないだろう。

そんなまりあは今回も生徒会の犯行を疑っていた。
槍玉に挙げられたのは……荒子である。
タイミングよくあの場に現れたことが怪しいと主張するまりあ。

さらに、密室トリックの解明にまで及んだ。
まりあの推理はこうだ。

あの日、確かに体育用具室の床に野志の死体はなかった。
だが、天井はどうだろうか。
誰も天井は確認していない。
2つの換気口の間にハンモックのようにマットを吊るす。
この中に野志の遺体がくるまれていたとしたら……。
施錠後、犯人はマットを解き野志の遺体を床に据えた。
これで密室トリックは完成だ。

だが、彰はこれを「ありえない」と否定する。
あの日、放課後の為に薄暗い体育用具室にはライトが点いていた。
まりあのトリックならばライトに影が出来てしまうのだ。
結局、まりあはいつも通り自説を否定せざるを得なくなった。

捜査自体は難航していた。
動機では無く実行可能かどうかが問題視されるようになり、今は用務員に容疑が向けられている。

古生物部は事件の余波とクラブ棟の部室が確保できたこともあり、存続を許された。
まりあは事件のことなど忘れたらしく上機嫌だ。
彰はそんなまりあに誤った推理をあちこちで言いふらすことの危険性を説き、今後は自分以外には絶対に告げないようにと約束させるのであった。

翌日、休みを利用し彰は過去に事件が起こった現場を訪問していた。
あの時も、まりあは生徒会メンバーの犯行と主張していた。
そのまりあの推理が正しいと仮定して、証拠となる品を探しに来たのだ。
それは湖底に沈んでいた。

彰はまりあの推理の正しさを認めざるを得なかった。
そして、確信した。
これまでのすべての推理が同様に正しいのだろう、と。

今回の推理もある点までは正しかったのだ。
そう、吊し上げたのは事実であった。
ただし、マットでは無く跳び箱を。
そして、吊し上げたのは施錠前では無く施錠後であった。

犯人は野志の死体を跳び箱の中に隠した。
跳び箱には換気口に向けてロープが結び付けられている。
そして、まりあたちに目撃させておき、全員が居なくなったところを見計らって換気口のロープを引き跳び箱を持ち上げ移動させた。
だから、野志は体育座りの姿勢だったのである。

彰は自身の犯行を振り返った。
そう、彰こそが野志殺害の犯人だったのである。

実は、野志はまりあを殺害しようとしていた。
そもそもの出会いからある欺瞞が含まれていたのだ。
野志は職員室前に立っていた。
まりあによれば壁の化石を見ていたとのことだが、彼は古生物に興味が無かった。
にも関わらず、嘘を吐いた。何故か?

そのとき、野志は試験を盗み出そうとしていたのだ。
常に2位だった野志、次期生徒会長として1位が欲しかったのかもしれない。
あるいは、2位自体が盗み出した結果だったのかもしれない。
いずれにしろ、マズイ所をまりあに目撃されたワケだ。

焦る野志にまりあは古生物部への入部を誘った。
これは野志にとっては脅迫と同じだっただろう。
怯えつつ、入部することとなった。
ところが、入部してみて水島派の部活であると分かった。
このとき、野志はまりあに罠に嵌められたと思ったのだ。
そして、まりあへの憎悪を募らせ、これの抹殺を企んだ。

だが、野志の様子を監視していた彰はこれを止めようとした。
錯乱した野志は彰をも殺害しようとして、返り討ちに遭ったのである。
跳び箱のトリックも野志の発案だ。
彰はそれを利用したに過ぎない。
ある意味、野志は因果応報と言うべきだろう。

まりあの推理はもう一息まで迫っていた。
もしも、野放しにすれば誰かが真相に気付くかもしれない。
だから、自分以外に推理を明かさないよう彰は約束させた。
今後も推理を告げられるたびに、彰は否定するつもりだ。
そうすれば、まりあが真相に辿り着くことはないだろう。

彰は思う。
こんな赤点探偵と腹黒ワトソンが居てもいいじゃないか、と―――エンド。

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