ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
『誰か』『名もなき毒』に続く杉村三郎シリーズ、第3弾!
拳銃を持った老人によるバスジャックという事件に巻き込まれた杉村は、いつしか巨大な悪の渦の中に!
魂が震える現代ミステリー!!
(集英社公式HPより)
<感想>
宮部みゆき先生による「杉村三郎シリーズ」の1作です。
杉村三郎シリーズは主人公のサラリーマン・杉村三郎を通じて描かれる人間の悪意がテーマの作品。
2014年1月現在のところ、本作以外に『誰か Somebody』、『名もなき毒』が存在しています。
本作『ペテロの葬列』はそのシリーズ第3弾となります。
・『誰か Somebody』(宮部みゆき著、文芸春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『名もなき毒』(宮部みゆき著、文芸春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
内容として、探偵を志向した杉村……そんな彼に望む望まないに関わらず転機が訪れます。
シリーズを知る者であれば、意外なラストには驚きが隠せない筈。
それにしても……菜穂子は「杉村の為」を口にしているけど、まったく考えていないとしか思えないなぁ。
ある意味、杉村の負担を失くしたとも言えるけど、逆に杉村から家族を奪ったワケだからなぁ。
理由をみても、菜穂子自身の都合としか思えないし。
結局、大義を盾に夫よりも大きな包容力を持つ別の庇護者(実父)のもとに逃げたとしか思えない……。
これこそ、毒を怖れていた菜穂子が毒に呑まれたのか。
あるいは、菜穂子が毒をあれだけ怖れたのも、自身が既にそれを内包しておりその毒を良く知る故だったのだろうか……。
少なくとも、杉村と読者に対し強烈なインパクトを与えるのは間違いない。
毒……と一口に言っても青酸カリ、ヒ素、石見銀山、水銀など多々ある。
同様に人の持つ毒にも種類があるのではないか。
ヒ素は適量に慣らせば耐性があり、美白作用を持つと言う。
『誰か Somebody』の梶田梨子は表向き無害で水銀のようにジワジワと身体を蝕む毒であった。
『名もなき毒』の原田いずみはまさに劇薬、青酸カリのように即効性の毒であった。
『ペテロの葬列』の菜穂子はヒ素のように遅行性であり、適量を超えた為に毒薬となった。
そして、毒は増殖する。
作中の羽田から坂本へと伝播したように。
だとすれば、菜穂子の毒も別の誰かへと伝播するのかも……。
もっとも考え得るのは、両親の離婚を目の当たりにした桃子なのかもしれない。
ちなみに、この後のネタバレあらすじはかなりまとめ易く改変を加えています。
本作はもっと深いです。
是非、本作を!!
そして、いよいよ杉村が探偵になるのかにも注目!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
杉村三郎:シリーズの主人公。今回はバスジャックに巻き込まれる。
杉村菜穂子:今多家の妾腹の娘。ラストで意外な行動に。
杉村桃子:三郎と菜穂子の娘。
暮木:バスジャック犯。
坂本:暮木に人質にされた1人。
橋本:今多コンツェルンのエリート社員。
御厨:???
羽田:???
園田:広報室の編集長。杉村の上司。
杉村三郎は今多コンツェルン広報室に勤務している。
杉村の妻は、会長の娘・菜穂子。
彼ら夫婦の間には可愛い盛りの娘・桃子が居る。
お嬢様育ちの菜穂子は世間の毒(悪意)を極度に警戒していた……。
時に菜穂子の警戒は心配し過ぎであるように杉村には見えた。
そんな折、編集長の園田と共に取材をした帰路、杉村は偶然に乗車したバスでバスジャックに巻き込まれてしまう。
バスジャックを起こしたのは暮木という老人。
暮木は園田ら一部の人間を降車させると、たちまちのうちに残された人質の人心を掌握する。
そのやり方に手練手管を感じる杉村。
しかも、暮木は人質に慰謝料を払うと約束までする。
それは大きな金額であった。
これに心動かされる人質たち。
大学へ進学する資金が欲しいと主張していた坂本はかなりの動揺を示す。
暮木は人質たちのコントロールに成功したと判断するや、要求を伝える。
それは暮木が名を上げた3人を連れて来ることであった。
しかし、要求が果たされることは無かった。
強行突入が行われ、暮木は自殺してしまったからである。
こうして杉村たちの身に平穏が戻って来たかに思われたが……なんと、暮木の言葉通りに慰謝料がそれぞれのもとに届けられたのだ。
もちろん、杉村も例外ではない。
園田も慰謝料を受け取ったが、対処を杉村に一任する。
どうも、園田らしくない言動が目立つようだが……。
そんな中、杉村を含めた人質たちは慰謝料を受け取るべきかどうかに悩み始めた。
お金は欲しい、だが、出処が分からない故に手出しが出来ないのだ。
其処で、杉村たちは金の出処を調べることとなった。
差出人や発送元、暮木が要求した3人などから暮木の意外な素性が判明する。
暮木は偽名で、本名は羽田であった。
羽田は過去にST(センシティビティ・トレーニング)の講師をしており、人心掌握の術に長けていた。
その経験を活かし、元同僚の御厨と共に詐欺グループのコンサルタントを行っていたのだ。
だが羽田は今になってこれに後悔していた。
羽田が要求した3人はねずみ講の被害者であり、もっとも多く会員を集めた加害者でもあった。
被害者を名乗っているが、決して一方的な被害者とは言えない彼ら。
むしろ、加害者でありながら被害者のふりをする彼ら。
そんな彼らを世間の目に曝すことで、同じような事件が起こることを防ごうとしたのだ。
その為にバスジャック事件を起こし世間の耳目を集め、その場で告発し制裁を加えるつもりだったらしい。
つまり、慰謝料として渡された金は詐欺によって得られたものであった。
これを知った杉村たち。
ある者は寄付を。
またある者は自身の権利を他者に譲ることにした。
そんな中、坂本の様子が……。
また、園田が普段の彼女らしからぬ行動を取った理由が判明。
園田は過去にSTにより自殺寸前にまで追い込まれており、トラウマを抱いていたのだ。
数日後、今度は坂本が羽田と同じようにバスジャックを起こす。
坂本の要求は御厨を連れて来ること。
それまでは真面目に生きて来た坂本。
だが、羽田から慰謝料を貰えると聞いて欲が出た。
なんと、それとは別にねずみ講に手を染めてしまったのだ。
それは儲かるからであったが、羽田のエピソードを知り自身の罪深さに気付いた。
もはや、引き返せない。
そう察した坂本はすべての悪を憎んだ。
結果、寄付したとはいえ、慰謝料を受け取った杉村たちをも憎悪したのだ。
坂本は自身と杉村たちを裁くべく、羽田と同じ行動に出たのだ。
世間の耳目を集め、真相を暴露するのである。
同時に、羽田の罪を憎んだ。
その矛先は羽田と共に行動していた御厨にまで及んだのだ。
杉村は坂本が追い詰められていると察し、御厨を探す。
だが、御厨は罪を悔いた羽田により殺害されていた。
これを知った坂本は人質を解放し投降するのであった。
しかし、時既に遅し。
坂本の告発は皮肉にも功を奏したのである。
世間に周知の事実となり、関わった杉村たちは批難の対象となった。
すべてに大きなダメージを受けたのだ。
こうして、杉村は退職を余儀なくされることに。
園田も編集長の職を辞し、部署を異動することとなった。
さらに、杉村を衝撃が襲う。
菜穂子は今回の事件中にエリート社員の橋本と不倫していた。
杉村が居なければ何も出来ないことに気付き、何かをしようと思った結果、そうなったらしい。
だが、不倫が目的ではない以上、橋本とは別れると言う。
さらに、杉村が自身と居る時よりも事件を調べる時の方が生き生きしていることに気付いたと語る菜穂子。
杉村の為にも、自身がその庇護下を脱するためにも必要なことであるとして、離婚を切り出してくる。
結局、杉村は菜穂子と離婚することに。
桃子は菜穂子が育てることとなった。
仕事も失い、家族も失った杉村。
果たして、再起はなるのか―――エンド。
◆宮部みゆき先生関連過去記事
【書評】
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・宮部みゆき先生原作、杉村三郎シリーズが『名もなき毒』のタイトルでドラマ化!!
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