2014年02月03日

『疾走する死者』(島田荘司著、講談社刊『御手洗潔の挨拶』収録)

『疾走する死者』(島田荘司著、講談社刊『御手洗潔の挨拶』収録)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

嵐の夜、マンションの11階から姿を消した男が、13分後、走る電車に飛びこんで死ぬ。しかし全力疾走しても辿りつけない距離で、その首には絞殺の痕もついていた。男は殺されるために謎の移動をしたのか?奇想天外とみえるトリックを秘めた4つの事件に名探偵御手洗潔が挑む名作。
(講談社公式HPより)


<感想>

御手洗は意図せずとも事件に出会う。
事件発生により御手洗が呼ばれたワケでも、事件発生が予見された為に御手洗が居たワケでもない。
ただ、御手洗あるところに事件が起こる。
それこそ、彼が名探偵たる由縁だろう。
そんな事件が本作。

マンションの11階に居た筈の男が、13分後に走る電車に飛び込んで死亡してしまう。
11階からでは、全力疾走しても現場までは届かない。
だが、実際に事件は発生しているのだ。
果たして、何が起こっているのか?
奇想とでも呼ぶべきトリックに感嘆せよ!!

さらに、キャラクター面でも注目。
我らが御手洗と、その助手・石岡君に加えて、『糸ノコとジグザグ』で登場したマスターの糸村も再登場。
さらに、第3者から見た石岡君の御手洗への態度も窺い知れる短編で、ファンにとっては見逃せない一篇だろう。

2014年2月には「ミタライ」にてコミカライズ予定の本作。
あのシーンがどう描写されるのか……。
『山高帽のイカロス』同様に映像で視たかった作品だけに見逃すなかれ!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
御手洗潔:言わずと知れた名探偵。
石岡:御手洗の助手にしてベストパートナー。

菜村夏樹:同席していたセールスマン。
久保:事件の被害者。
糸村:ジグザグのマスター


此処はマンションの11階、好事家たちが集う一室である。
此の部屋は「ジグザグ」のマスターである糸村(『糸ノコとジグザグ』参照)が同好の士の為に開放した場所なのだ。

今日は其処に御手洗と石岡、菜村夏樹、久保らの姿があった。
好事家同士の会話も一定の盛り上がりを迎え、さらに場を盛り上げる為か、菜村は占いと称して各自から1つずつ合計7つの貴金属を提示するよう述べた。
その場に居た面々は御手洗や久保を除き、これに応じることに。

机の上に置かれた貴金属類合計7つ。
なかなか壮観である。
中でも注目は真珠のネックレスであろう。
他の物よりも明らかに高級そうなそれは一際異彩を放っていた。

さて、当の菜村は貴金属を前に占いとも手品ともつかぬ何やら思わせぶりな解説を述べ始める。
手馴れている様子の菜村の口上に気を惹かれる面々。
御手洗は何やらニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべ様子を眺めている。

と、これを眺めていた久保が席を立った。
暫くして戻って来た久保。
すると、部屋の灯りが消えた―――停電である。
場が一時ざわつくが、特に何も起こらず、その場を終えることに。

口上を述べ終えた様子の菜村は何やら不満そうな表情で外へ。
後を追うように久保も姿を消した。
これに御手洗は拍子抜けしたような表情を浮かべている。

数分後、またも停電に。
と、室内に何者かが侵入した気配。
さらに慌ただしい音が流れ、菜村が叫んだ。
久保が逃げた―――と。

一同は菜村の叫びに促され、人気を追い外へ。
すると、真っ先に飛び出したらしき様子の菜村が廊下に悄然と立っていた。

急に逃げ出した久保を追ったところ、久保は飛び移ろうと廊下の柵を乗り越えたが階下に転落してしまったらしい。
この場は11階である。
転落した者の命運は既に分かり切ったことであった。

とはいえ、確認しないワケにはいかない。
面々はそれまでの陽気な気分から一転、冷や水を浴びせられた表情で階下へと降りて行く。
1人、御手洗は鼻歌まじりに上機嫌であったが。

ところが、此処で一同が目を疑う出来事が起こった。
なんと、階下には久保の転落死体が存在していなかったのである。
これに何より驚いたのは、転落する久保を見たと主張していた菜村。
彼は顔面蒼白で立っているのもやっとの様子であった。
久保の死体は何処に消えてしまったのであろうか。

御手洗を除く全員が首を捻る中、数分後に警察が現れた。
なんと、久保が此処から少し離れた電車の線路に飛び込み死亡したと言うのだ。
それは久保が逃げ出したとされる時間から13分後の出来事であった。

転落死した筈の人間が電車に轢かれるなどといったことが起こり得るであろうか。
そもそも、マンションから線路までは13分では到底移動できる距離ではない。

しかも、久保の所持品から翡翠のネックレスが発見。
どうやら、久保は停電を利用して参加者から貴重品を盗んでいたらしい。
これを聞いた菜村の顔色がさらに蒼白に。

消えた死体に、瞬間移動、さらに盗まれた翡翠のネックレス。
謎が謎を呼ぶ中、御手洗だけはただニヤニヤと状況を眺めていた。
ところが、この御手洗の態度が豹変する事態が発生する。

御手洗が尊敬するシンガーのライブが数時間後に放送されることが判明したのだ。
今すぐ帰宅しなければ放送には間に合わない。
だが、参加者全員が久保の死の真相が明らかにならない限り、マンションに拘束されている状況である。

これに御手洗がキレた。
御手洗は放送を視聴する為に、事件解決を宣言。
いきなり菜村が犯人であると断言する。

御手洗は語る―――菜村と久保は窃盗犯として共謀していた、と。
菜村が例の占いとも手品ともつかぬ技を披露し貴金属を集める。
頃合いを見て、久保が停電騒動を起こし、もっとも高価そうな獲物を奪う。
それを階下に置いている車にテグスを使って11階から運び込むのだ。
こうしておけば持ち物検査も怖れるに足らない。
完璧な犯罪の筈であった。

ところが、今回に限って久保が何も盗まなかった。
少なくとも菜村にはそう見えた。

しかし、実際は異なっていた。
実は久保は翡翠のネックレスを発見し、菜村に黙って真珠のネックレスよりも高級そうなこちらの獲物に切り替えたのだ。
もちろん、菜村に黙って自身がくすねる為である。
おそらく、菜村に対しては何らかの事情で失敗したと言い抜けるつもりだったのだろう。

ところが、菜村は烈火の如く怒った。
菜村は激情に駆られ、久保を殺してしまった。

ふと、冷静に戻った菜村は困ってしまった。
このままでは逃げられない。

其処で、獲物を車に運ぶテグスを利用し久保の身体を吊り下げると、逃げ出した久保が柵を乗り越え飛び移ろうとして階下へ転落死した状況を作り出そうと目論んだ。
あとは吊り上げた久保を階下へと落とすだけだ。

ところが此処で、菜村にとって誤算が発生した。
吊り上げられた久保の身体は振り子の要領で揺さぶられ、当初の落下地点を大きくオーバーしてしまったのだ。
実際は久保の身体は大空へと舞い上がり線路にまで飛んでしまったのである。

菜村がこれに気付かなかった為に、異様な不可能犯罪に発展してしまったのであった。

御手洗は菜村と久保が共謀し窃盗を行おうと企んでいることに早くから気付いていた。
だから、自身は参加せず事の成り行きを眺めていたのだそうだ。
むしろ、当初は何事も無かったことに呆然としていたそうである。

こうして事件は解決。
逮捕された菜村は「何故、自分が怪しいと気付いたのか」と問う。

これに御手洗は答えた。
菜村が提出させた貴重品は合計7つ。
そして、菜村の名前は夏樹。
つまり、菜村夏樹(なむらなつき)で略せば「ななつ」になるからであった―――エンド。

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