2014年06月19日

『彼女が瞳を閉じる理由』(知念実希人著、角川書店刊『小説野性時代 2014年2月号 vol.123』掲載)

『彼女が瞳を閉じる理由』(知念実希人著、角川書店刊『小説野性時代 2014年2月号 vol.123』掲載)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<感想>

『誰がための刃 レゾンデートル』(講談社刊)にて「第4回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」を受賞された知念実希人先生の短編です。

患者に共感できる研修医・諏訪野が担当した患者・瑠香にはある秘密があった。
果たして、その秘密とは!?

上記のような内容の物語。
謎はもちろん、張り巡らされた伏線により、表と裏が引っくり返る点が良かったです。

個人的には『統括診断部の事件カルテシリーズ』の方が好きですが、これはこれでなかなかに面白い新シリーズとなりそうな予感。

「ネタバレあらすじ」はまとめ易いように一部に改変を加えた上にかなり端折ってます。
本作を正確に味わうには、本作それ自体を読むべし!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
諏訪野:研修医。 
瑠香:救急外来に運び込まれた患者。
岡部彰:瑠香の元夫。
立石:精神科の医師。


研修医の諏訪野はある患者を担当することとなった。
その名は瑠香、睡眠薬を多量に摂取したとして病院に運び込まれた患者である。

とはいえ、何故、研修医の諏訪野が担当することとなったのか。
それには理由があった。

瑠香には身体のあちこちに傷が残されていた。
なんでも自傷癖によるものらしく、腕には「アキラ命」と煙草による痛々しい火傷の痕すらあった。
ちなみに、「アキラ」とは瑠香の元夫の名前である。

また、毎月月末から月初にかけて睡眠薬を服用したと詐称しては入退院を繰り返していたのだ。
担当医は瑠香のこの行為について「初めから死ぬ気が無く、周囲に騒いで欲しがっているのだろう」と結論付けていた。

だが、精神科医の立石は瑠香が何かを隠しているのではないかと疑っていた。
其処で白羽の矢が立ったのが、研修医の諏訪野だったのだ。
諏訪野は感応性が強く、患者に共感し易いとの特性があった。
立石からすれば「精神科医になれば5年ともたずに患者側に回るタイプだろう」と評されていたが、そんな諏訪野だからこそ、瑠香の本質に迫れるかも……と期待したのである。
とはいえ、諏訪野は自分に何か出来るとは思っていなかったが……。

担当した翌日、瑠香の元夫で「アキラ」本人である岡部彰が唐突にやって来た。
なんでも、元夫として妻の現状が心配らしい。
岡部によれば、瑠香の激しい独占欲と自傷癖に疲れ果て離婚したのだそうだが……。
岡部は瑠香の安否を確認すると、顔も見せずに帰ってしまった。

岡部に同情心を抱く諏訪野。
だが、瑠香のカルテを眺めた際に真実に気付く。

瑠香の退院時期が毎月5日に集中していたのである。
その日は生活保護の受給日であった。

そして、瑠香の傷はすべて他者からつけられた傷であった。
「アキラ命」も利き腕につけられた火傷痕だったのだ。

これらから、諏訪野が導き出した結論は次のようなものであった。

瑠香は岡部にDVを受けていたのだ。
火傷痕も岡部によるものだろう―――だからこそ離婚した。

だが、岡部は今も瑠香に付きまとっている。
何故か?
それは瑠香から生活費を奪い取っているからだ。

瑠香は岡部から暴力を受け続けていた。
だが、岡部は金を渡せば機嫌よく帰ってくれる。
だから、毎月5日になり入金があるまでの間、病院を避難所代わりに用いていたのだ。
この為に、睡眠薬を服用したと詐称する必要があった。

岡部が唐突に様子見に現れたのも瑠香を普段から監視していたからに他ならない。
さらに、直接顔を見せずに帰ったことも、瑠香本人を心配してでのことではなく、金ヅルを失わないように注意していただけに過ぎない。

諏訪野は瑠香に岡部と別れるように助言するが……瑠香は諏訪野を振り切るように退院してしまう。

そして数日後、瑠香が再び病院へと運び込まれた。
だが、今度は睡眠薬では無く外傷によるものであった。
傍らには警察官も付き添っていた。
一体、何が起こったのか?

最悪の想像が過る諏訪野に瑠香は力強い笑みを返す。
瑠香は諏訪野の助言通り、岡部と別れたのだ。
だが、これを承服しなかった岡部に暴力を奮われたのであった。
しかし、これが騒ぎとなり、岡部は逮捕されたのだと言う。
瑠香は諏訪野が居たからこそ思い切れたと礼を述べるのであった。

その翌日、事の顛末を聞きつけた立石が諏訪野を褒め称えていた。
立石によれば、諏訪野を精神科に招くべきとの声も上がっているのだそうだ。
だが、諏訪野はこれを丁重に断る。
何故なら、立石による自身の診たての正しさに確信があったからである。
もしも、患者になった際には割引でお願いします……。
諏訪野は軽いジョークを飛ばすのであった―――エンド。

◆関連過去記事
『誰がための刃 レゾンデートル』(知念実希人著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)

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