2014年05月22日

『あかずの扉』(麻耶雄嵩著、新潮社刊『小説新潮』2014年2月号掲載)

『あかずの扉』(麻耶雄嵩著、新潮社刊『小説新潮』2014年2月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<感想>

「何でも屋のおじさん」シリーズの第5弾。

叔父の犯行も凄味を増して来たなぁ……との感想。
もはや、意図的に犯行を仕組むシリアルキラーの域なのかもしれない。
こうなると、単行本化されたときの締めの短編(シリーズ最終話)はきっと奇想天外な物が来る筈だ。

一方、優斗にも不穏な影が。
真紀と明美との関係がどうにも怪しい……。
特に真紀と明美の2人とも10月生まれであることにも意味がありそうな……。
シリーズ最終話は優斗関連も絡みそう。
叔父に憧れる優斗の去就からも目が離せない。

どうにも様々な伏線が配されていそうな第5話。
読むべし!!

<ネタバレあらすじ>

・登場人物一覧
俺(優斗):主人公の男子学生。
叔父:優斗の叔父。何でも屋を営む。

武嶋陽介:優斗の幼馴染。
美雲真紀:優斗のガールフレンド。
明美:優斗の元彼女。両親の都合で都会に出ていたが『転校生と放火魔』で帰郷した。

尾平:旅館を経営する尾平家の息子。
尾平父:尾平の父。ぎっくり腰になっている。
尾平母:尾平の母。礼子の姉。
観音寺礼子:尾平母の妹。
奥実秀夫:地元の名士である奥実家の入り婿。

地元の祭りがメディアに取り上げられることとなり、周囲がにわかに活気づくことになった優斗。
当然、観光客も見込めるワケで、旅館経営者の息子で優斗の同級生でもある尾平は笑いが止まらない。

ところが、尾平の父親がぎっくり腰になってしまった。
ちょうど1人でも多くの客を宿泊出来るよう「あかずの間」を整えようとしていた矢先の出来事に、困った尾平は優斗と陽介にアルバイトを持ちかける。
どうやら、叔父さんの紹介らしい。

尊敬する叔父の紹介でもあるし、アルバイト代は……優斗たちにとってなかなかの金額である。
10月である真紀の誕生日に向けてプレゼントを用意したい優斗はアルバイトを引き受ける。

尾平の父親も母親も気さくで良い人物。
手伝いには、叔父の他に尾平の叔母・観音寺礼子と地元の名士である奥実家の入り婿・秀夫らも参加しており負担も少ない。
優斗はバイトして良かったと改めて思っていた。
だが、この感想はまだ早かったのである。

その日、礼子の物らしき手帳を拾った優斗。
落とし主を確認すべく中を覗こうとすると、叔父に止められた。
プライバシーに関わることで失礼だと言うのだ。
もっともな意見である。
優斗は叔父に従い、返却しておくからと述べる叔父に手帳を預けた。

その夜、バイトを終えた優斗と陽介に尾平の両親は露天風呂の使用を許可した。
これも役得とばかりに風呂に入った優斗たち。

叔父はと言えば、既にバイトを終え祭に向けて人形を製作しているようである。
これは浴場へ来る途中に陽介が確認したそうなので間違いないだろう。

暫く陽介と入浴していた優斗。
真紀へのプレゼントの件などを話題にした後に風呂を出た。
そして、ふと戻ってみると奥実秀夫が湯船に浮かんでいたのである。
もちろん、奥実は既に事切れていた……。

外部犯は考えられず、優斗と陽介以外に犯行は不可能。
とはいえ、2人に動機があるでもなく、捜査は困難を極めた。

結局、奥実は湯船で転倒し死亡。
そのまま沈んでいたが、十数分後に浮かび上がったものと思われた。

釈然としないものを感じる優斗だが、それはそれ。
手に入れたバイト代にてオパールではなくトルマリンを購入する。

何故なら、明美の誕生日も10月。
先にオパールをプレゼントしてしまったからである。
もしも、互いに被ってしまったら……困るからだ。

これで安心と胸を撫で下ろした優斗。
そんな優斗に叔父は真紀へのプレゼントについて尋ねる。
一切、プレゼントについての相談をしなかったにも関わらず。

此処で優斗は気付いた。
あの日、あの浴場に叔父もまた居たことに。
優斗と陽介以外にもう1人、犯行可能な人物が居たのである。
だが、叔父は犯行時刻には部屋で人形制作を行っていた筈なのだが……。

これを指摘された叔父は真相を語り出す。

実は奥実と礼子は不倫関係にあった。
優斗が拾った手帳はやはり礼子のもの。
中には不倫についても触れられていたのだろう。
奥実は必死にそれを取り戻そうとしていた。

其処で叔父に目星をつけ、叔父の部屋を漁った。
これが陽介が目撃した人形制作していた人影の正体であった。
人影は奥実だったのだ。

手帳は叔父が肌身離さず所持していた。
奥実は物色を終えると、人目につかないよう特別なルートを用いて浴場へ赴いた。
其処で叔父と揉み合いとなり、誤って転倒し死亡したのだ。

優斗と陽介が入浴した際には、叔父は奥実の死体と共に隅に屈み込み背景に紛れ込んでいたらしい。
これが真相であった。

叔父は語る。
「あかずの扉」は開けてはならないのだ、と―――エンド。

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