ネタバレあります、注意!!
登場人物一覧:
燈馬想:言わずと知れた主人公。
水原可奈:言わずと知れたヒロイン。
天道星子:オレンジ・エージェンシーの新人社員。可奈の親戚。
世見一夏:ベストセラー作家。
桑形広:著作権代理会社オレンジ・エージェンシー代表取締役。
株戸繁樹:オレンジ・エージェンシーの社員。被害者。
揚葉千代:オレンジ・エージェンシーの社員。
<あらすじ>
著作権代理会社オレンジ・エージェンシーの社員・株戸繁樹が何者かに殺害された。
第一発見者は匿名の人物から通報を受けた警察官。
現場には大きな穴が掘られており、犯人は株戸の死体を埋めようとしたが、警察官の来訪に気付いて逃げ出したものと思われた。
こうして、捜査が開始されたのである。
一方、株戸の死を受けてオレンジ・エージェンシーは大騒ぎであった。
株戸こそが社運を握っていたからである。
オレンジ・エージェンシーは作家と出版社の間を繋ぐ架け橋となる会社。
とはいえ、実際はある1人の作家の本に支えられている。
それがベストセラー作家・世見一夏。
その世見の担当が殺害された株戸だったのだ。
そして、何より大事なのは世見から作品を受け取ることが出来る人物が株戸以外に存在しないのだ。
これはオレンジ・エージェンシーに限った話ではない。
文字通り株戸以外には誰も世見一夏から原稿を受け取ることが出来ないのだ。
それほど、世見は偏屈な作家として知られていた。
世見は人嫌いで有名で滅多に人前に姿を現さない。
当然、編集者も容易には近づけない。
そんな世見に唯一、認められていたのが株戸だったのだ。
だからこそ、オレンジ・エージェンシーは業界で唯一、世見の作品を取り扱うことで生き残っていられたのである。
その株戸が死亡してしまった。
まさにオレンジ・エージェンシー危急存亡の秋である。
この非常事態に社長の桑形広は大胆な奇手に出た。
雑用ばかりをこなしていた新人社員・天道星子に後任を委ねたのだ。
……とはいえ、これには切実な事情があった。
桑形は世見を接待した際に「騒がしい」と嫌われている。
他に有能な社員として揚葉千代が居るが、彼女は普段から「セレブとお近づきになりたい」と語る女傑である。
おそらく、世見に嫌われる可能性が高い。
となれば、とりあえず新人に様子を見させてみようとなったのだ。
上手く行けばしめた物、失敗しても新人ならば謝罪もし易いとの計算だ。
星子を知る千代らはこの決定に不安がる。
せめて、原稿の在処さえ分かれば……と洩らす桑形。
死亡した株戸によれば、世見の新作は既に完成しており「女のもと」にあるらしい。
だが、世見は世に知られた人嫌い。
家族も無く交際相手も居ない。
それらしい人物が居ないのだ。
もちろん、株戸も同様である。
こうして、至極消極的な理由で選び出された星子。
だが、彼女はこの機会に燃えていた。
早速、世見の家を訪問する星子であったが……。
数時間後、可奈が星子に呼び出されていた。
実は親戚であった星子と可奈。
星子は可奈の父が警部であることを頼りに捜査情報を教えて貰おうとしていたのだ。
あの後、世見宅を訪れた星子。
だが、世見には家に上げて貰えず、インターフォン越しで追い返されてしまった。
世見から、株戸を殺した犯人を捕まえて来たら原稿を渡すと条件を突き付けられたのだ。
其処で星子は、犯人は無理としても少しでも情報を得ることで世見に許して貰えればと考えたのである。
これを聞いた可奈は星子の窮状を理解し協力を約束する。
だが、その傍に想は居ない。
何故なら、想は必要が生じて外国語教室に通っていたからである。
こうして、星子と可奈の奮闘が始まった。
星子は可奈から聞いた情報をもとに世見に迫る。
これにより、原稿を貰うまでは行かなかったが世見本人に会うことが出来た。
一見、眼鏡をかけた理知的な風貌の世見。
ところが、世見はかなりの変人であった。
ファンから届いた封筒は目を通すことも無くゴミ箱へ。
ダイニングには、機嫌が悪い時にでも割ったのか食器類一式が割られた挙句に捨てられていた。
冷蔵庫を覗けば、中にあるのは牛乳だけだ。
これでどうやって生活しているのだろう……疑問に思う星子。
だが、世見は星子を気に入ったようである。
封筒をゴミ箱に捨てる理由については明かしてくれた。
なんでも、ストーカー紛いのファンが居り、自分の書いた原稿を読ませようと勝手に投函して行くのだそうだ。
「同じ作家を目指すならライバルだろうに、何を考えているのか。第一、人に読ませようとするだけで自身で動こうともしない」
世見は苦言を呈する。
これにそんなものかと納得する星子。
一方、未だに原稿が手に入らない状況に桑形は困り果てていた。
遂に、自身が乗り出すことに決めるのだが―――怒涛のラストに続く。
<感想>
「月刊少年マガジン+(プラス)」2014年8号掲載「代理人」です。
あらすじの後、桑形もまた落命することに。
狼狽する星子と可奈に、想が「真実」の光を示すこととなります。
タイトルである「代理人」が意味深長です。
株戸たちの職業を示しつつも、真犯人が思わぬ代理を果たしていたことも示していました。
そして、登場人物が昆虫の名になっていました。
「天道星子」が「天道虫」、「世見一夏」が「蝉」、「桑形広」が「鍬形」、「株戸繁樹」が「甲虫」、「揚葉千代」が「揚羽蝶」か。
特に世見については名前が一夏となっており、蝉の生態を示すと同時に三日天下であったことも示していましたね。
三日天下と言えば、真犯人が「憧れの人を目指す」ことの意味を履き違えていた点が恐ろしい。
あくまで目指す以上、同じように作家となることを目指すのが王道。
しかし、真犯人は本物から彼そのものを奪い取ることを考えた。
だが、実力が伴わないのに続けることが出来る筈がない。
しかも、真犯人は自身と同様に“あの人”に憧れ小説を投函し続けた青年を見下し続けました。
それこそ、過去の彼であったにも関わらず。
この辺りも真犯人の狂気が見て取れるのかもしれません。
そして、最後まで明かされなかった真犯人の本名。
彼が“あの人”になろうとして、自身を喪失したことを象徴しているようで印象的でした。
トリックもなかなかでした!!
ただ、序盤から桑形の回想で登場した“あの人”が顔を黒塗りにされていたので「これは何かある!!」と勘繰ってしまい其処から真相は直ぐだったかな。
とはいえ、この手のトリックは文章表現上で用いられることが多く、漫画で表現するには不利な題材だった筈。
にも関わらず、あの真犯人が“あの人”として登場していたのは星子の認識中のみだったり、桑形たちの認識中では黒塗りであり続けたりと、あくまでフェアな描写であった点が素晴らしかった。
敢えて不利な題材でありながらも作品として完成されている点も高評価です!!
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