<ネタバレあらすじ>
東京―――この物語は彼の地に男が迷い込んだ3日間の出来事を描いたモノである。
その日、男は陽光の眩しさにうっすらと目を開けた。
光に目を細めつつ空を見上げる……天井は無い。
風は直接、彼の頬を撫でている。
喧噪の音も近い。
どうやら、外のようである。
そして、日は既に高いようだ。
男は痛む頭を振りつつ、自身を見た。
何をどうしたものかヨレヨレの服。
身体の下には段ボールが敷かれている。
此処で男は少しだけ状況を理解した。
本当に少しだけ。
男は出来る限りの状況を整理した。
強かに酔った挙句、何時の間にか路上で寝入ってしまったようである。
昨晩の自分に悪態を吐き、ヤレヤレと思いつつ腰を上げてみて驚いた。
立ち上がってみれば、見知ったモノが何もない……。
周囲を歩く人々も自分とは似ても似つかぬ姿をしていた。
そう、其処は異国の地であったのだ。
その場所の名は「トウキョウ」。
仏国の男性である彼にとって、その地は見知らぬ土地であった。
何故、此処に!?
自分は誰だ!?
此処で彼は自分の記憶が欠落していることに初めて気付いた。
慌ただしく周囲を行き交う人々の波に揉まれつつ、ふらふらと彼は街へと躍り出た。
こうして、彼の冒険が始まったのである。
人は多いが、誰も自分を知らない。
そして、自分もまた彼らを知らないのだ。
言葉すらも通じない。
まさに都会の孤独を痛感した彼は、どうして良いやらワケも分からずただただ流されるままに歩き続けた。
グ〜〜〜。
そのうちに、腹が自己主張を始めた。
本能は彼の危機感を裏切ったようだ。
彼は不安よりも先に空腹を覚え、近くの「吉野家」を外から眺め続けた。
(なんだろう、アレは……)
中では深めの器に入った白飯と上に載せた何かを軽快にガッツク男たちが座っている。
男たちは一様に押し黙ったまま、粛々と食べ進めている。
それは何か神聖な儀式のように彼には思えた。
「どうしたの?」
急に声をかけられ彼は振り向いた。
其処には、ボサボサ髪の男が人懐こい笑顔を浮かべて立っていた。
言葉は……フランス語である。
「言葉、分かるの?」
「ああ……」
短い遣り取りの中で、彼は男に厚い信頼を寄せて行く自分を感じ取っていた。
誰とも言葉が通じないことがこれほど恐ろしいことであり、言葉が通じる相手を見つけられたことがこれほど心強いことだったとは本当に知らなかったのだ。
男は自身を「ハラグチ」と名乗った。
ハラグチは彼を吉野家に誘った。
「でも、金が無いんだ」
彼は訴えたが、ハラグチはまたも人懐こい笑顔を浮かべて「俺が奢るよ!!」と応じた。
彼はハラグチの案内で初めて「牛丼」なるものを食べた。
「ナミモリ、ツユダク」呪文のようなものを唱えるハラグチ。
出て来た料理を彼は一心不乱に口に入れた。
そんな彼の様子は、不思議なことに先程彼が窓の外から目にした男たちと同じ姿であった。
腹が膨れた彼は自身の置かれた状況をハラグチに告げた。
彼が記憶喪失だと知ったハラグチだが、疑うでもなく嫌な顔1つ浮かべず気さくに笑っていた。
「まずは靴だな」
彼はハラグチに言われて気が付いた。
靴を履いていなかったのである。
彼がハラグチに連れられて行った店はなんとも不思議な場所であった。
「ドンキ・ホーテ」なるその店は、特定の商品を扱うことなく、彼が見る限り多種多様な商品を取り揃えていた。
むしろ、彼は品揃えに脈絡がないとまで感じたほどである。
其処で彼はハラグチから靴をプレゼントして貰った。
「う〜〜〜ん、手掛かりがあるかもしれないし。元居た場所に行ってみようか」
店を出たハラグチは彼に告げた。
彼にとってハラグチはこれ以上ない先導者であった。
彼はハラグチを目覚めた場所へと案内した。
ハラグチは其処で奇妙な紙袋を発見した。
中には彼のコートが入っていた。
そして、もう1つ……血塗れの包丁が添えられていたのである。
ハラグチの目が大きく見開かれた。
彼は慌てて首を横に振る。
「いや、覚えていないけど、そんなことはしていない!!」
ハラグチは少し考えたようだが、彼の必死な様子を目にしたことで信じてくれたようである。
ハラグチがコートを探ると、ポケットから3つのアイテムが転がり出た。
ポケットティッシュが2つと、奇妙な切り抜きである。
まずは、ポケットティッシュ。
1つは耳かき専門店のもの。
もう1つはメイドカフェのもののようだ。
そして、奇妙な記事の切り抜き。
記事の内容は何やら花をあしらえたもののようだ。
ハラグチはこれらをじっと眺めると、彼に笑いかけ告げた。
「まぁとりあえず、観光でもしようか」と。
彼はハラグチからダニエルとの名を付けられると、あちこちを巡った。
中でもダニエルの印象に残ったのは「パチンコ屋」と「銭湯」。
いずれもダニエルにとっては初めての体験で、驚きの連続であった。
その夜、ダニエルはハラグチの仲間に引き合わされた。
ハラグチの仲間は皆気の良い人物で、ダニエルの境遇を聞くと同情しカンパしてくれた。
さらに、ポケットティッシュから「秋葉原」なる地名が浮かび上がった。
「本当にありがとう」
異郷の地で人情に触れ、涙ぐむダニエル。
「きっといつか仏国にやって来たときには恩を返させて欲しい」と口にする。
これに、何故かハラグチは渋い表情。
どうやら、ハラグチは飛行機が怖くて海外へ行けないらしい……。
気の良い人々とすき焼きを楽しんだダニエルは、夜中に彼らを残して旅立った。
翌朝、目覚めたハラグチはダニエルが書いたメモを目にした。
「わが友よ。これ以上、君に迷惑をかけることは出来ない」
ハラグチはメモを手にダニエルの無事を祈った。
2日目、ダニエルは1人で秋葉原へとやって来た。
其処は「トウキョウ」の中でも、一際、印象的な街であった。
街中にはコスプレに身を包んだ人々が立ち、妙な活気がある。
言葉が通じない中、ダニエルは身振り手振りで会話をこなし、遂に耳かき店を突き止めた。
だが、有益な情報は得られない。
続いて、メイドカフェへ。
ダニエルは其処でメイドの1人「カオリ」と出会う。
カオリは可憐な少女で仏語を勉強しており、彼と会話が出来た。
カオリによれば、一昨日もダニエルが来店したらしい。
店のイベント楽しんだ後、記念にティッシュを持ち帰ったのだそうだ。
しかし、カオリもダニエルが何者なのかまでは知らなかった。
肩を落とすダニエル。
そんな彼にカオリが協力を申し出る。
カオリによれば、残る1つは「花を模した和菓子」ではないかとのことだが……。
そのとき、ダニエルの目に家電量販店のテレビが映った。
其処には何故かダニエルの写真が!!
どうやら、追われているらしい。
やはり、何かをしてしまったのか……不安に駆られるダニエル。
こうして、カオリから大きな手掛かりを得たダニエルは迷惑をかけない為にそっと姿を消す。
その夜、ダニエルはカプセルホテルを初めて経験した。
それは大柄なダニエルにとってはとても狭かった。
だが、ダニエルは何故か母の胎内を思い起こした。
3日目、ダニエルは和菓子店を歩き回った。
そして、遂に切り抜きの店に辿り着いた。
しかし、店の者もダニエルについて詳しくは知らない。
困ったダニエルだったが、此処にカオリが現れる。
和菓子店を手掛かりにずっとダニエルを探していたのだ。
あれからずっと考えていたと言うカオリ。
「もしかして……」とダニエルに尋ねる。
カオリの言葉にダニエルの記憶がうっすらと甦った。
カオリに連れられ、その実家に向かったダニエル。
カオリ宅で厨房を借りると包丁を握りしめた。
そう、ダニエルは料理人だったのだ。
あとは驚くほど速やかに記憶が溢れ出た。
ダニエルはフランスの料理人であった。
和菓子の記事を目にしたダニエルはそれに魅せられ、食べたくなった。
其処で来日したのだ。
和菓子を食べ、メイドカフェなどを楽しんだダニエル。
その夜、研究の為に活けづくりの店を訪れた。
目の前で見た包丁捌きに感動したダニエル。
上機嫌になった彼は酔って正体を失くしてしまった。
持参した包丁を取り出すと、店員が止めるのも聞かず自身も魚を捌いてみたのである。
これが血塗れの包丁の理由だったのだ。
そして、この魚捌きもまた上手く行った。
大喜びしたダニエルは鼻歌を歌いながら、暗い路上を歩き階段から転落し記憶を喪失したのだ。
ダニエルの本名は「フランソワ・カリエール」。
なんと、大統領専属のシェフであった。
テレビに写真が映ったのは、捜索願が出ていた為だったのだ。
こうして記憶を取り戻したダニエルことフランソワ。
彼は、カオリたちお世話になった面々を集め食事を振る舞った。
しかし、其処にハラグチの姿は無い。
ハラグチとは連絡が取れなかったのだ。
数日後、フランス。
お洒落なカフェのオープンテラス。
其処に本を片手に紅茶を楽しむ男性の姿があった。
誰あろう……ハラグチだ。
飛行機嫌いの彼だが、遂に海を渡ったのだ。
そんな彼に長身の人影が近付く。
「おう、シェフ!!」
ハラグチが声を上げた。
立って居たのはフランソワである。
ハラグチの隣にどっかと腰を下ろしたフランソワ、其処には気負いもてらいもない。
彼らは既に親友であった。
「一杯やろうか?」
あの日のハラグチのように、今度は自身が陽気に笑いかけるフランソワ。
これに大きく頷くハラグチであった―――エンド。
<感想>
日曜日の夜に何気なくテレビを眺めていたら放送されたのがこの番組でした。
不思議な雰囲気とナレーションに惹かれて視聴。
いや、これが面白かった!!
舞台は東京なんだけど、主人公である記憶喪失の仏人男性の目を通じて語られるから全くの異郷の地。
彷徨う男が土地の人情や風俗に触れつつ、真相に迫るストーリーは本当に面白かった。
フランソワを助ける人物としてハラグチ1人ではなく、カオリも居たのが良かった。
これが1人だと狭い世界観になっちゃうけど、2人居たことで広がりが与えられていた。
ラスト、フランソワとの出会いを通じてハラグチもまた苦手を克服したのはグッと来た。
さらに、「異邦人から見た東京」とのテーマの他に、「フランソワの謎と正体」というドラマ上のテーマがあったのも良かった。
しかも、1つ1つのエピソードが丁寧に描かれていたのも良かった。
ドキュメンタリーでもあり、ドラマでもあるこの番組。
何でも「ドキュメンタリー・ルポタージュ」と言うのだそうです。
この試み、アリですね!!
是非、再放送して欲しいし、同一の試みで「京都篇」や「大阪篇」も欲しい作品です!!
ラベル:3月31日 LOST IN TOKYO
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関西だからのか、先程放送されていました
偶然このドラマを見て
私も全く同じ感想を持ったので
コメント残させていいただきます
なにげにチャンネルを合わせたら始まったばかりで
どんどん引き込まれていきました
直ぐに検索してこちらにたどり着きました
ストーリーを書いてくださっているので助かりました
大阪や京都編もこのスタイルで
物語として見てみたい気がします
こんばんわ!!
管理人の“俺”です(^O^)/!!
同じ感想を持った方が居て下さって嬉しいです!!
本作、不思議な魅力が溢れていて良いですよね。
東京を舞台にしつつ異国情緒あふれる作風も良い。
調べてみたところ、4月13日(日)0時55分から1時45分にかけて再放送があったとのこと。
ご覧頂いたのはこの放送のようです。
これにより管理人の要望の1つ「再放送して欲しい」が既に叶っていたことになります。
こうなると、残るもう1つ「京都篇」や「大阪篇」も是非、達成して欲しい(^O^)/!!