2014年04月21日

「妄想少女」2話(汐里作、講談社刊「週刊モーニング」掲載)ネタバレ批評(レビュー)

「妄想少女」2話(汐里作、講談社刊「週刊モーニング」掲載)ネタバレ批評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

登場人物一覧:
神宮寺花音:主人公。「美女と野獣」に憧れ「卑怯卑劣を貫く獣」に恋をする少女。
如月風牙:花音を愛するイケメンだが報われない。しかし、その正体は……。
久瀬原涼一:花音の担任教師。1話に登場。
君園邦彦:花音の中学時代の家庭教師。2話に登場。

<ネタバレあらすじ>

「美女と野獣」と言えば、美女が野獣の容姿に怯えずこれを愛したことで、実は魔法により野獣にされていた王子の魔法が解け、美女と真実の愛で結ばれる―――そんな物語。

此処にそんな「美女と野獣」に憧れる少女が居た。
その名は、神宮寺花音。
学級委員を勤め、容姿端麗、成績優秀、人望も厚く、教師受けも良い―――そんな万能美少女である。

だが、彼女は妄想家であった。
周囲の同年代の女生徒が合コンでの恋愛話などで盛り上がる中、彼女は1人理想の男性を追い求めていた。
そう、野獣のような男性を。

彼女には理想があった。
野獣のような男性に虐げられつつ愛を捧げることにこそ「真実の愛」がある―――と。
しかし、その捧げるべき相手が見つけられずに居たのである。

そんなある日、花音は図書館で君園邦彦と再会した。
邦彦は花音の中学時代の家庭教師。
花音が高校に入学してからは疎遠になっていた。

邦彦と軽く挨拶を交わす花音。
花音のそれは、あくまで知人に対するもの。
一方、邦彦は美しく成長した花音を目にし、内心で妄想を膨らませていた。

図書館を出た花音。
すると、店の外からはかしましい声が。
目を遣れば、1人のイケメンを中心に複数の女性が歓声を上げている。

花音は溜息を吐いた。
イケメンの正体は如月風牙。
花音の幼馴染にして容姿端麗、スポーツ万能、街を歩けば異性の目を惹きつけて止まず、周囲から女子が絶えたことのない人物である。
風牙は花音を愛しており、その恋人を自称していた。

だが、花音が彼に振り向くことは無い。
花音の求める獣とはかけ離れ過ぎていたからである。
しかし、花音は知らないのだ……風牙の本性を。
そもそも、風牙がこうして店外で花音を待ち構えていること自体がストーカー紛いの行為なのだが……。

風牙を軽くあしらいつつ、その場を去ろうとした花音の耳にある言葉が届く。
それは館内から出て来た女性2人の会話。

「君園、居たよ〜〜〜」
「気持ち悪いよね〜〜〜」

彼女たちの会話によれば、邦彦は学生時代に階段から女子生徒のスカートの中を覗き見しようとしたことがあるらしい。
これが花音の琴線に触れた。
花音は邦彦に獣の姿を見出したのである。

こうして、花音のアタックが始まった。
花音は邦彦に勉強を見て貰いたいと口実を作り、通い詰めた。
遂には邦彦の自宅にまで足を運ぶ。

そんな花音の態度に邦彦は「これはイケる!!」と下種な野望を抱いた。
しかし、邦彦には過去のトラウマがあり、交際を申し込むとの発想は無い。

邦彦のトラウマ……それは階段の下から覗きを行ったことが同級生に知られ、周囲から蔑まれ続けたことであった。
それは今も続いている。
そんな自分が告白したところで受け入れられるワケがない。

同じ過ちは犯さない……そう誓う邦彦は過去の事例からある教訓を得ていた。
直接、見たからバレたのだ。
ならば、直接見なければ良い。
こうして、邦彦はこともあろうに盗撮の道を選ぶ。
ペンカメラを用意し、それとなく花音を嘗め回すように撮影を繰り返したのである。

花音の視線はいつもペンカメラを外れていた。
それを良いことに、胸元やスカートに向けてペンを近づけ続ける日々。
だが、邦彦の欲望は日に日に強まって行く。

もっと、もっとだ!!

ある日、邦彦はテーブルの下にペンカメラを隠した。
花音が足を崩せば……バッチリ撮影出来る筈なのだ。

そして、花音がやって来た。
期待に胸を躍らせる邦彦。
其処へ来訪者が……。

些か興を削がれつつ、席を外した邦彦。
来訪者は奇妙な勧誘について話を持ちかけて来る。
時間を割きたくはないが、相手も退かない。
仕方なくそれが数分続いた。
その間、花音は部屋に1人なっていた。

それから数時間後、花音が邦彦宅を去った。
邦彦は喜び勇んで、ペンカメラの映像を再生した。
もしかすると、自分が離席中に花音は1人である開放感からあられもない姿を曝したかもしれない。

邦彦の妄想は膨らむばかり、そんな中、映像が流れ始めるが……。
それは邦彦の度胆を抜くものであった。

「君園先生!!」
映像では、花音がペンカメラを見詰めて話しかけていた。
花音は邦彦の盗撮に気付いていたのだ。

花音は笑顔で続ける。
このようなことをするあなたは獣だ―――と。
そんなあなたを受け止められるのは私しか居ないし、だからこそ、私はあなたを愛する―――と。

それまで紅潮していた邦彦の顔がみるみる青褪めた……。

翌日、花音は図書館の前で邦彦を待っていた。
映像の最後に「此処で待っている」とメッセージを残していたのだ。
愛が成就すれば、邦彦はやって来る筈であった。
期待に膨らませる花音。

と、そのとき人影が花音の前に立った。
花音は喜びに顔を綻ばせ、相手を見遣るのだが……。

其処に居たのは風牙であった。
「やっぱり来なかったろ」
風牙はそれが当然とばかりに告げる。
これに花音は悄然と肩を落とした。
「いや〜〜〜俺頑張ったろ。勧誘役まで演じたんだぜ」
風牙は元気を無くした花音の表情を眺めつつ、自身をアピールする。
それは彼の本性ゆえのことなのかどうか……。

(あの人なら、きっと大丈夫と思ったのに……)
花音は心の内で呟く。
こうして、花音の恋は再び破れたのであった―――エンド。

<感想>

『週刊モーニング』版「ちばてつや賞」第64回受賞作。
1話が2013年12月『週刊モーニング』に掲載されましたが、この度不定期掲載になったとのこと。
この2話に続き、3話も掲載予定だとか……楽しみです。

「妄想少女」(汐里作、講談社刊「週刊モーニング」掲載)ネタバレ批評(レビュー)

では、早速1話に続きネタバレ批評(レビュー)を。

またも花音により獣(ただし、恥の概念は奥底に抱えているようだ)が狩られました。
いや、事実がどうあれ結果としてはそうなる。

きっと、邦彦は再起不能にまで追い込まれたことでしょう。
なにしろ、自身にとって目にしたくない最も穢れた部分(穢れた行為)を直視させられたのですから。
しかも、それは邦彦にとって過去のトラウマに直結するもの。
花音の行動は「好きなんです(はあと)」よりは「オラ、分かってんだぞ!!出て来いゴラァ!!付き合わんかい、ワレェ!!」と変わりがないレベル。
うん、半分以上脅迫だ。
2サスなら殺人事件に発展しても不自然ではないほどで、これで邦彦が再起出来る筈がない。
そもそも、邦彦は気弱だからこそ鬱屈し、その許されざる衝動に身を任せていたのだろうから。
あれで開き直れるほどの肉食系男子だったら、もっと直球で迫っていただろうし。

その点、花音の好みには大きな矛盾が存在していますね。
花音の恋する相手(もっとも、この恋自体が怪しいものなのですが……)は常に鬱屈を内包しており、花音の行動を素直に受け入れられるワケがない人ばかり。
これが本物の獣ならば花音の想いは遂げられるのでしょうが、花音自身がそういった対象を見分けている節があるし(例:如月風牙)。
仮に本物の獣だった場合は風牙が排除するんだろうしなぁ……。
此の点、花音は既に理想の相手を手に入れているワケなのだが。
花音の青い鳥は風牙だと気付くのは何時なのか……。

とはいえ、鬱屈を抱えた獣を花音が受け入れれば王子になる……との花音の理想自体も怪しいもの。
どうにも、花音自身が恋に恋する乙女状態で、本当に相手を見ているのかどうか……。
獣に恋する自分に酔っているのかもしれないなぁ……だからこそ、最期の一線は超えない相手を選んでいるのか。

これは次回以降も花音により獣(ただし、それなりに恥の概念を知る者に限る)が駆られて行くことになりそうだ。
うむ、獣を愛する花音もまた単なる妄想少女に非ず。
彼女もまた立派な愛の狩人なのかもしれないなぁ。

本作の特徴は、何と言ってもその可愛らしい絵柄に比して迫る痛さ。
その痛さは価値観の違いに基づくものであり、読み進めるうちに心にグイグイ来る。
是非、『週刊モーニング』本誌をご覧頂き、確かめて欲しい!!

◆関連過去記事
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・こちらは『週刊ヤングマガジン』版「ちばてつや賞」優秀新人賞受賞作。
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