ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
日本1位世界2位の歴史を誇るミステリ専門誌の集大成的アンソロジー 創刊当時から最新の掲載作まで揃った日本ミステリ史も辿れる一冊。傑作エッセイも併録
【収録作品一覧】
「寒中水泳」結城昌治
「ピーや」眉村卓
「幻の女」田中小実昌
「離れて遠き」福島正実
「ドノヴァン、早く帰ってきて」三条美穂
「温泉宿」都筑道夫
「暗いクラブで逢おう」小泉喜美子
「死体にだって見おぼえがあるぞ」田村隆一
「クイーンの色紙」鮎川哲也
「閉じ箱」竹本健治
「聖い夜の中で」仁木悦子
「少年の見た男」原リョウ
「『私が犯人だ』」山口雅也
「城館」皆川博子
「鳩」日影丈吉
「船上にて」若竹七海
「川越にやってください」米澤穂信
「怪奇写真作家」 三津田信三
「交差」結城充考
「機龍警察 輪廻」月村了衛
エッセイ「証人席」 山田風太郎、渡辺啓助、日影丈吉、福永武彦、松本清張
(早川書房公式HPより)
<感想>
内容は米澤先生が見た不条理な夢の物語……と思いきや華麗なオチがつくところが流石!!
此処がストーリーテラーの面目躍如なんだろうなぁ。
ファンならば読んで損なし。
いや、ファンならずとも読んで損は無い。
まさに短編のお手本的な完成度を誇る作品。
ちなみに、本作を読む前に泡坂妻夫先生の短編『煙の殺意』(東京創元社刊『煙の殺意』収録)を読むことをオススメする。
・『煙の殺意』(泡坂妻夫著、東京創元社刊『煙の殺意』収録)ネタバレ書評(レビュー)
あれを既読しておくと、本作が3倍楽しめる筈!!
<ネタバレあらすじ>
私が見た夢の話をしよう。
その日、夢の中の私は普段は滅多に使わないタクシーに乗っていた。
私は普段は地下鉄を用いている。
それなのに、このときに限ってはタクシーであった。
これも夢だからなのだろうか……。
ちなみに目的地は川越だ。
とはいえ、川越の何処といった具体的な目的地は無い。
そもそも川越についてもよく知らない。
とりあえず、そちら方面に向かいたかったので川越になったのである。
タクシーの運転手はほどよく愛想の良い人で、私は適当に相槌を打ちつつ車に乗っていた。
車窓からは見覚えのない光景が溢れていた。
今思えば、それも当然だ。
そもそも、夢を見た当人がその道を知らないのだから知った光景が登場する筈がない。
とはいえ、夢にしては奇妙に完成度が高く、此の点含め、なかなかにリアルな夢であった。
しかし、夢は夢である。
そのうち、タクシーの運転手が奇妙な行動を取り始めた。
道が分からないと言うなり、途中で立ち往生してしまったのだ。
私は途轍もなく急いでいたのだが、運転手にそう言われては致し方が無い。
仕方なく、運転手が道を確認するべく地図を広げる様子をじっと観察することとなった。
よくよく考えればGPSを搭載している以上、奇妙なことなのだが、それも夢だったからだろう。
そうこうしているうちに、警察のパトカーがやって来た。
私はこのタクシー運転手が何かをやらかしたのだろうか……と思いつつ、彼を眺め見て驚いた。
何時の間にか、運転手は煙のように消えていたのだ。
残された私は有無を言わせず、パトカーから降りて来た2人の刑事に連行されてしまった。
刑事によれば、ウェイトレス殺害の容疑が私にかけられているらしい。
確かに、そのウェイトレスとは顔見知りである。
だが、私には殺害する動機もないし、殺害した事実自体が存在しない。
弁解に励もうとする私だが、彼らはまったく聞く耳を持たない。
こうして、私はパトカーに乗せられ今来た道を引き返した。
私は激しく後悔していた。
あのとき、運転手に道が分からないと言われても無理を押し通してでも行かせるべきだったのだ。
そのうち、目的地である警察署が見えて来た。
門の前には多くの報道陣が構えていた。
どうやら、ウエィトレス殺害事件はとても大きな事件となっているようだ。
そのとき、報道陣の波をかき分け恋人が現れた。
もちろん、私には恋人と呼べる存在は居ない。
だから、実在しない恋人である。
しかし、彼女は可憐で美しかった。
きっと、恋人が実在すればこんな人なのだろう。
彼女は私に叫んだ―――「やっていないでしょ!!」と。
私はそんな彼女の真摯な眼差しを伏し目がちに躱した。
私は彼女に向け叫び出したかった―――「確かにやっていない」と。
だが、それは私には出来ない相談なのだ。
何故なら、私はもうすぐ発生する地下鉄爆破事件の犯人なのだから。
だから、私は地下鉄を避け、タクシーで川越に逃げようとしたのだ。
其処ならば管轄外になる以上、時間を稼げると思ったからである。
しかし、逃げ切れなかった。
こうなれば、事は自明の理である。
ウェイトレス1人の死の罪を背負うか。
地下鉄爆破事件で多数の死傷者の罪を背負うのか。
私はやっても居ないウェイトレス殺害の罪を背負うしかない。
「おお、君よ。許し給え」
私は恋人に心の中で別れを告げた―――そして、此処で目が覚めた。
私は目の縁に溜まった涙を拭いつつ、大きく伸びをした。
そして、思った。
それは泡坂であったなぁ―――エンド。
補足:此処で言う泡坂先生の作品こそ、他ならぬ『煙の殺意』のこと。
詳しくは『煙の殺意』を読むべし!!
・『煙の殺意』(泡坂妻夫著、東京創元社刊『煙の殺意』収録)ネタバレ書評(レビュー)
◆関連過去記事
・「インシテミル」(文藝春秋社)ネタバレ書評(レビュー)
・「儚い羊たちの祝宴」(新潮社)ネタバレ書評(レビュー)
・「追想五断章」(集英社)ネタバレ書評(レビュー)
・「折れた竜骨」(東京創元社)ネタバレ書評(レビュー)
・『Do you love me ?』(『不思議の足跡』収録、米澤穂信著、光文社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『下津山縁起』(米澤穂信著、文藝春秋社刊『別冊 文芸春秋 2012年7月号』)ネタバレ書評(レビュー)
・『リカーシブル』(米澤穂信著、新潮社刊『小説新潮』連載)ネタバレ書評(レビュー)まとめ
・『リカーシブル リブート』(『Story Seller 2』収録、米澤穂信著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
【短編集『満願』収録】
・『満願』(米澤穂信著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『一続きの音』(『小説新潮 2012年05月号 Story Seller 2012』掲載、米澤穂信著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『死人宿(ザ・ベストミステリーズ2012収録)』(米澤穂信著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『柘榴』(米澤穂信著、新潮社『Mystery Seller(ミステリーセラー)』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・「万灯(小説新潮5月号 Story Seller 2011収録)」(米澤穂信著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『関守』(米澤穂信著、新潮社刊『小説新潮 2013年5月号』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・「満願(Story Seller 3収録)」(米澤穂信著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
【古典部シリーズ】
・「氷菓」(角川書店)ネタバレ書評(レビュー)
・「愚者のエンドロール」(角川書店)ネタバレ書評(レビュー)
・「クドリャフカの順番」(角川書店)ネタバレ書評(レビュー)
・「遠まわりする雛」(角川書店)ネタバレ書評(レビュー)
・「ふたりの距離の概算」(角川書店)ネタバレ書評(レビュー)
・『鏡には映らない』(米澤穂信著、角川書店刊『野性時代』2012年8月号 vol.105掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『長い休日』(米澤穂信著、角川書店刊『小説野性時代 2013年11月号 vol.120』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
【小市民シリーズ】
・「夏期限定トロピカルパフェ事件」(東京創元社)ネタバレ書評(レビュー)
【S&Rシリーズ】
・『犬はどこだ』(米澤穂信著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
【太刀洗シリーズ】
・『さよなら妖精』(米澤穂信著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「名を刻む死(ミステリーズ!vol.47掲載)」(米澤穂信著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「蝦蟇倉市事件2」(東京創元社)ネタバレ書評(レビュー)
(ナイフを失われた思い出の中に)
・米澤穂信先生、次なる新作は太刀洗シリーズ最新長編『E85.2(仮)』とのこと!!
【僕と松倉シリーズ】
・『913』(『小説すばる 2012年01月号』掲載、米澤穂信著、集英社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『ロックオンロッカー』(米澤穂信著、集英社刊『小説すばる 2013年8月号』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
【甦り課シリーズ】
・オール讀物増刊「オールスイリ」(文藝春秋社刊)を読んで(米澤穂信「軽い雨」&麻耶雄嵩「少年探偵団と神様」ネタバレ書評)
・『黒い網』(米澤穂信著、文藝春秋社刊『オール読物 2013年11月号』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
【その他】
・探偵Xからの挑戦状!「怪盗Xからの挑戦状」(米澤穂信著)本放送(5月5日放送)ネタバレ批評(レビュー)
古典部シリーズ『連峰は晴れているか』が掲載された「野性時代 第56号 62331-57 KADOKAWA文芸MOOK (KADOKAWA文芸MOOK 57)」です!!
野性時代 第56号 62331-57 KADOKAWA文芸MOOK (KADOKAWA文芸MOOK 57)
野性時代 第56号 62331-57 KADOKAWA文芸MOOK (KADOKAWA文芸MOOK 57)
古典部シリーズ『鏡には映らない』が掲載された「小説 野性時代 第105号 KADOKAWA文芸MOOK 62332‐08 (KADOKAWA文芸MOOK 107)」です!!
小説 野性時代 第105号 KADOKAWA文芸MOOK 62332‐08 (KADOKAWA文芸MOOK 107)
小説 野性時代 第105号 KADOKAWA文芸MOOK 62332‐08 (KADOKAWA文芸MOOK 107)
◆米澤穂信先生の作品はこちら。
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