2014年07月23日

『川越にやってください』(米澤穂信著、早川書房刊『ミステリマガジン700 国内篇』収録)

『川越にやってください』(米澤穂信著、早川書房刊『ミステリマガジン700 国内篇』収録)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

日本1位世界2位の歴史を誇るミステリ専門誌の集大成的アンソロジー 創刊当時から最新の掲載作まで揃った日本ミステリ史も辿れる一冊。傑作エッセイも併録

【収録作品一覧】
「寒中水泳」結城昌治
「ピーや」眉村卓
「幻の女」田中小実昌
「離れて遠き」福島正実
「ドノヴァン、早く帰ってきて」三条美穂
「温泉宿」都筑道夫
「暗いクラブで逢おう」小泉喜美子
「死体にだって見おぼえがあるぞ」田村隆一
「クイーンの色紙」鮎川哲也
「閉じ箱」竹本健治
「聖い夜の中で」仁木悦子
「少年の見た男」原リョウ
「『私が犯人だ』」山口雅也
「城館」皆川博子
「鳩」日影丈吉
「船上にて」若竹七海
「川越にやってください」米澤穂信
「怪奇写真作家」 三津田信三
「交差」結城充考
「機龍警察 輪廻」月村了衛

エッセイ「証人席」 山田風太郎、渡辺啓助、日影丈吉、福永武彦、松本清張
(早川書房公式HPより)


<感想>

内容は米澤先生が見た不条理な夢の物語……と思いきや華麗なオチがつくところが流石!!
此処がストーリーテラーの面目躍如なんだろうなぁ。

ファンならば読んで損なし。
いや、ファンならずとも読んで損は無い。
まさに短編のお手本的な完成度を誇る作品。

ちなみに、本作を読む前に泡坂妻夫先生の短編『煙の殺意』(東京創元社刊『煙の殺意』収録)を読むことをオススメする。

『煙の殺意』(泡坂妻夫著、東京創元社刊『煙の殺意』収録)ネタバレ書評(レビュー)

あれを既読しておくと、本作が3倍楽しめる筈!!

<ネタバレあらすじ>

私が見た夢の話をしよう。

その日、夢の中の私は普段は滅多に使わないタクシーに乗っていた。
私は普段は地下鉄を用いている。
それなのに、このときに限ってはタクシーであった。
これも夢だからなのだろうか……。

ちなみに目的地は川越だ。
とはいえ、川越の何処といった具体的な目的地は無い。
そもそも川越についてもよく知らない。
とりあえず、そちら方面に向かいたかったので川越になったのである。

タクシーの運転手はほどよく愛想の良い人で、私は適当に相槌を打ちつつ車に乗っていた。
車窓からは見覚えのない光景が溢れていた。

今思えば、それも当然だ。
そもそも、夢を見た当人がその道を知らないのだから知った光景が登場する筈がない。
とはいえ、夢にしては奇妙に完成度が高く、此の点含め、なかなかにリアルな夢であった。

しかし、夢は夢である。
そのうち、タクシーの運転手が奇妙な行動を取り始めた。

道が分からないと言うなり、途中で立ち往生してしまったのだ。
私は途轍もなく急いでいたのだが、運転手にそう言われては致し方が無い。
仕方なく、運転手が道を確認するべく地図を広げる様子をじっと観察することとなった。
よくよく考えればGPSを搭載している以上、奇妙なことなのだが、それも夢だったからだろう。

そうこうしているうちに、警察のパトカーがやって来た。
私はこのタクシー運転手が何かをやらかしたのだろうか……と思いつつ、彼を眺め見て驚いた。
何時の間にか、運転手は煙のように消えていたのだ。

残された私は有無を言わせず、パトカーから降りて来た2人の刑事に連行されてしまった。
刑事によれば、ウェイトレス殺害の容疑が私にかけられているらしい。

確かに、そのウェイトレスとは顔見知りである。
だが、私には殺害する動機もないし、殺害した事実自体が存在しない。
弁解に励もうとする私だが、彼らはまったく聞く耳を持たない。

こうして、私はパトカーに乗せられ今来た道を引き返した。
私は激しく後悔していた。
あのとき、運転手に道が分からないと言われても無理を押し通してでも行かせるべきだったのだ。

そのうち、目的地である警察署が見えて来た。
門の前には多くの報道陣が構えていた。
どうやら、ウエィトレス殺害事件はとても大きな事件となっているようだ。

そのとき、報道陣の波をかき分け恋人が現れた。
もちろん、私には恋人と呼べる存在は居ない。
だから、実在しない恋人である。
しかし、彼女は可憐で美しかった。
きっと、恋人が実在すればこんな人なのだろう。

彼女は私に叫んだ―――「やっていないでしょ!!」と。
私はそんな彼女の真摯な眼差しを伏し目がちに躱した。

私は彼女に向け叫び出したかった―――「確かにやっていない」と。
だが、それは私には出来ない相談なのだ。
何故なら、私はもうすぐ発生する地下鉄爆破事件の犯人なのだから。
だから、私は地下鉄を避け、タクシーで川越に逃げようとしたのだ。
其処ならば管轄外になる以上、時間を稼げると思ったからである。
しかし、逃げ切れなかった。

こうなれば、事は自明の理である。
ウェイトレス1人の死の罪を背負うか。
地下鉄爆破事件で多数の死傷者の罪を背負うのか。
私はやっても居ないウェイトレス殺害の罪を背負うしかない。

「おお、君よ。許し給え」
私は恋人に心の中で別れを告げた―――そして、此処で目が覚めた。

私は目の縁に溜まった涙を拭いつつ、大きく伸びをした。
そして、思った。
それは泡坂であったなぁ―――エンド。

補足:此処で言う泡坂先生の作品こそ、他ならぬ『煙の殺意』のこと。
詳しくは『煙の殺意』を読むべし!!

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「川越にやってください」が収録された「ミステリマガジン700 【国内篇】 (ハヤカワ・ミステリ文庫)」です!!
ミステリマガジン700 【国内篇】 (ハヤカワ・ミステリ文庫)





ラストのオチの意味はコレ!!
「煙の殺意 (創元推理文庫)」です!!
煙の殺意 (創元推理文庫)





「世界堂書店 (文春文庫)」です!!
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満願





古典部シリーズ『長い休日』が掲載された「小説 野性時代 第120号」です!!
小説 野性時代 第120号





古典部シリーズ『連峰は晴れているか』が掲載された「野性時代 第56号 62331-57 KADOKAWA文芸MOOK (KADOKAWA文芸MOOK 57)」です!!
野性時代 第56号 62331-57 KADOKAWA文芸MOOK (KADOKAWA文芸MOOK 57)





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