2014年05月10日

「スキップ!山田くん」(大場つぐみ作、ろびこ画、集英社刊『週刊ヤングジャンプ』掲載)ネタバレ批評(レビュー)

「スキップ!山田くん」(大場つぐみ作、ろびこ画、集英社刊『週刊ヤングジャンプ』掲載)ネタバレ批評(レビュー)です。

集英社刊『週刊ヤングジャンプ』に特別読切として掲載されていた本作。
読んでみるとテレビで放送される「2時間サスペンス」が密接に絡んだ内容。
こうなれば、管理人が語るしかないでしょう!!

本作をより楽しむ為に、先にあることを明かしておくと「本作の主人公・山田君は任意で時間を飛ばすことが出来る」ようになります。
これ自体は割とよく目にする設定。
そして、同様の設定作品の多くは「時間を飛ばすことに嵌った主人公が面倒を避ける為に時間を飛ばし過ぎてしまう。しかし、いつしか失ってみてその時の大切さを知る」という結末が定石。

ところが、「スキップ!山田くん」は最期まで気付かない。
それでいて彼にとってもっとも大切な物が失われていたことが読者にのみ明かされます。
この皮肉な結末が見事!!

1つだけ忠告しておくと……このネタバレあらすじを先に読むのは損かもよ。
でないと、まさに山田君のような結末になるかも……。
出来るならば、先に今週号の「週刊ヤングジャンプ」を探して読むべし!!
その後で、ネタバレあらすじを読んで本作の構成を堪能して欲しい。

というワケで、ネタバレ批評(レビュー)です。

<ネタバレあらすじ>

山田君は17歳の高校生。
勉強は好きではない。
とはいえ、特に不得意といったワケでもなく、どちらかと言えば得意な方に入るだろう。

要は山田君は面倒臭がり。
楽を出来るならば楽をしたいのだ。
そして、少しでも2時間サスペンスを楽しみたい。
彼にとって、2時間サスペンスは一服の清涼剤にして生き甲斐であった。

一本でも多く視たい。
一作でも多く犯人を知りたい。

そんな彼にとって、学校の授業は退屈なモノに感じられてならない。
彼はいつも「この時間をスキップ出来たらなぁ……」とぼんやり考えていた。

そんなある日、この願いが叶ってしまう。
山田くんの前に現れたのは、時を管理する神・トキ。
女神であるトキによれば、山田君は任意の時間をスキップすることが出来るようになったのだそうだ。
だが、その間の記憶は山田君には無い。

例えば、1時間スキップすれば山田君の認識上は突然1時間先に跳ぶ。
その間、何が起こったのか山田君には分からない。
だが、山田君の行動自体は現実に1時間分存在しているのだそうだ。

また、スキップすることは出来るが、結果を知った上でリターンすることは出来ない。

つまり、純粋に嫌な時間を飛ばすことが出来る能力である。
お説教を喰らっているときなどに使用すれば、内容を聞かずにお説教を終わらせることが出来る。

これに山田君は大喜び。
授業時間をスキップして、早々に帰宅するとテレビで2時間サスペンスを楽しむ毎日を始める。

ところが、何時ものようにスキップしたところ、見たことも無い白い空間に投げ出された。
目の前には、老人と幼女が1人ずつ座り込んでいる。

何が起こったのか……困惑する山田君に老人は同情の視線を送る。
なんでも、何万分に1回の割合でスキップに失敗すると、この時の狭間に飛ばされてしまうらしい。

老人と幼女も山田君同様にスキップに失敗し飛ばされたのだそうだ。
この狭間には何もない、病気も飢えも加齢も存在しないらしい。
彼らは自身の境遇を諦めていた。
だが、中にはあまりの無為に精神を病み、目的地も無く何処かへと歩み去ってしまう者も居るそうだ。
しかし、それでも彼らは死ねない。
その場合、何時までも歩き続ける羽目になるだけだ。

これを聞いた山田君。
悲観するどころか大喜び。
老人は山田君がおかしくなったと心配し、一緒に居ようと申し出る。

しかし、山田君にとってその提案は有難迷惑な物であった。
山田君は、この空間に他人が居ることに煩わしさを感じていたのである。

誰も居ない、ただ1人の自由な空間を求めた山田君は老人と幼女をその場に残し旅に出た。
彼らの言葉通りならば、世界は無限に広がっている。
何も好き好んで煩わしさを抱え込む必要は無いからだ。

だが、そのうちに山田君は重大なことに気付いた。
この世界では2時間サスペンスが視聴出来ないのだ。

視たい、視たいのにない!!
このジレンマに頭を抱えた山田君は一心に「2時間サスペンス」を視聴出来る環境を願う。

やがて、それは唐突に叶えられた。
山田君の前にテレビと録画機器が出現したのである。
山田君は心行くまで2時間サスペンスを楽しみ……。

其処で山田君は元の世界に戻って来た。

「ああ、良かった!!」と山田君の安否を気遣うトキ。
そんなトキに、山田君は「あちらの世界が良かったのに!!」と叫ぶ。

山田君から事情を聞いたトキは驚いた。
時の狭間は神をも寄せ付けない世界。
その世界には行こうとしても行ける場所ではなく、想いの強さが反映される場所なのだそうだ。
本来、テレビが出現するなどあり得ないし、元の世界に戻って来れたこと自体が奇跡なのだ。
おそらく山田君の2時間サスペンスへの愛がこの奇跡を引き起こしたらしい。

これを聞いた山田君はもう1度あの世界に行きたいと願うように。
しかし、トキでもそれは不可能である。
可能性があるとすればスキップを失敗し、時の狭間に落ちるしかない。

山田君は失敗を狙ってスキップを繰り返した。
そして、そのうちに1分、2分ではなく規模の大きい年単位の方が可能性が高いのではないかと思い至った。

山田君は連続してスキップを続けた。
あるときには見知らぬ女性が隣に座っていた。
次に気付けば、その女性との間に娘が出来ていた。
さらに進めると、娘はぐんぐんと成長して行く。
やがて、娘は嫁に行った。

だが、山田君に感慨は無い。
そもそも、知らない子なのだから。

山田君は只管、彼の理想郷を求めスキップを続けた。
そして―――遂に山田君は老衰で死去した。

年齢は80代、なかなかに長く生きた。
だが、実際の彼は17年とちょっとしか生きていない。
そして、彼があれほど望んだ2時間サスペンスも普通に生きた人々の平均以下しか視聴出来なかったのである―――エンド。

<感想>

前述しましたが「スキップ!山田くん」の魅力はその諧謔的なオチ。

山田君にとって、何よりも優先されるべき物は「2時間サスペンス」。
ところが、この視聴を目的に行動したところ、本来得られるべきであった筈の視聴時間をも失ってしまった。
まさに本末転倒。
しかも、山田君はこれに最期まで気付かなかった。

普通だと「主人公がスキップを繰り返す中で違和感を覚え、最終的に失ってみてその時の大切さを知る」のがパターン。
敢えてこのパターンを崩して来たところに、本作の目新しさがあるのだと思います。

このラストに向かって「スキップ」だけではなく、それに付随する「時の狭間」の設定が生じたのでしょう。
同時に、この「時の狭間」の設定は奇跡を起こすほど山田君が「2時間サスペンス」を愛していることも示しています。
これが山田君が失った物の皮肉をより強調している点も見逃せないでしょう。

また、山田君が「煩わしさから逃げる」とのネガティブな目的の為に終始行動していたことにも注目。
山田君のスキップ理由は次の通り。

前半部:嫌な時間から逃げる為にスキップで時を飛ばす。
後半部:時の狭間を求めてスキップで時を飛ばす。

一見、同じ「スキップにより時を飛ばす」行動でも「逃げる」と「求める」で目的が異なるように見えますが、いずれも「現実逃避」に基づいている点は変わらない。
その逃げた結果があのラストに繋がったとすれば、厳しいようですが「因果応報」との言葉も浮かびますね。

あくまで「2時間サスペンス」は一服の清涼剤。
用量用法を正しく守って、明日への活力に繋げる快適な生活の為に視聴しましょう!!

◆関連過去記事
【遂に最終回】「へ〜せいポリスメン!!」最終話「どっちっスか!」(稲葉そーへー著、集英社刊『週刊ヤングジャンプ』連載)ネタバレ批評(レビュー)

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