<あらすじ>
かつて東銀座で普茶料理の店を営んでいた沢田伊佐子(米倉涼子)は、そこで出会った31歳年上の会社役員・沢田信弘の後妻として嫁いだ。伊佐子は、夫が長年勤める会社の新役員懇親記念パーティーに向かう車中で、信弘の役員待遇がどうなるのか気を揉んでいる。信弘は、渋谷区松濤に居を構える200坪の家を所有しているが、生活に関わる金銭はすべて家政婦・椿サキに管理される生活だ。もちろん伊佐子はこれに納得していないが、彼女には胸に潜めたある企みがあった。それは、3年後に信弘の資産十億円を“未亡人”となって独り占めすること。その日に向けて、伊佐子は夫の寿命を緩やかに縮めようと、密やかな計画を練っていた…。
また、伊佐子は信弘の妻を演じながら、夫以外の男性とも関係を持っていた。信弘をパーティーに送り届けたあと、伊佐子は年下の愛人・石井寛二のもとへ向かう。しかし、部屋に入ると、そこには頭から血を流し、ベッドに横たわる女性の姿が…。石井の元彼女・乃理子だ。石井曰く、喧嘩して揉み合った際に乃理子が頭を強打した挙句、石井が目を離した隙に睡眠薬で自殺を図ったという。すぐさま薬を吐かせ、乃理子が一命をとりとめたことを確認した伊佐子は、早く救急車を呼ぶよう石井を促し、自宅へと戻る。しかし、その日の夜、石井から“乃理子が死んだ”との連絡が入る…。
事件によって、石井との関係が明るみになることを恐れた伊佐子は、かつて夫と共に伊佐子の店の常連で、パトロン的存在だった食品会社副社長・塩月芳彦に連絡。事件を揉み消すべく、石井の弁護士の手配を懇願する。代議士の叔父をもつ塩月は、野心溢れる若手弁護士・佐伯義男を呼び、伊佐子を助ければ叔父を紹介すると約束して、石井の担当弁護士につかせることに。
疲弊して伊佐子が帰宅すると、信弘と地味な風貌の速記者・宮原素子が楽しそうに現れる。信弘が自叙伝を作るため、塩月の紹介で宮原に口述筆記をお願いしていたのだ。また、信弘の前妻との娘で、画家の卵をしている妙子も訪れており、伊佐子に対して不信感を抱く妙子は、『あなたが結婚したのは父ではなく資産』と言い放つのだった…。
ある日、伊佐子は塩月との密会中に、石井の件に関する報告を受ける。なんと、石井が逮捕されたというのだ。塩月曰く、殺人罪に問われる石井を、佐伯は『無罪にする』と自信を見せていると言うが…。
(公式HPより)
では、続きから(一部、あらすじと重複あり)……
伊佐子は沢田信弘の31歳年下の妻である。
とはいえ、其処に愛は存在しない。
伊佐子の目当ては沢田の所有する財産。
伊佐子は3年以内に沢田の財産10億円を遺産として相続する計画を立てていた。
つまり、高齢の沢田の身体に負担をかけて殺害するつもりなのだ。
まさに、凶悪な計画である。
もともと、伊佐子は奔放な女性であった。
沢田との結婚前には多くの男性との間に浮名を流した物である。
いや、今もその奔放さは失われてはいない。
伊佐子には若い愛人がいたのだ。
その名は石井寛二。
ところがある日、その石井が彼の元恋人・乃理子殺害容疑で逮捕されてしまう。
石井によれば、喧嘩の際に乃理子を突き飛ばしたところ負傷。
さらに、目を離した隙に睡眠薬で自殺を図ったのだそうだが……。
石井との関係が露見することを怖れた伊佐子は、これまた石井同様に愛人であった塩月芳彦に助けを求める。
塩月は大手食品会社の副社長で伊佐子のパトロンであった。
塩月は代議士の叔父を頼り、やり手で知られる若手弁護士・佐伯義男を呼び寄せる。
こうして、佐伯が石井の弁護を担当することとなった。
これで石井は大丈夫だろう。
とはいえ、思わぬアクシデントに見舞われた伊佐子は機嫌が悪い。
そんな伊佐子の機嫌を更に損ねる事態が!!
夫である沢田が速記者・宮原素子を家に入れていたのだ。
沢田には自叙伝を出版する計画があり、この口述筆記を素子に依頼していたのである。
しかし、伊佐子は素子がどうにも気に喰わなかった。
伊佐子への態度に敵意を感じるのだ。
さらに、伊佐子には懸念が残されていた。
沢田の娘・妙子の存在だ。
伊佐子は沢田と結婚した際に、遺産相続に邪魔になる妙子と沢田の間を引き離すよう工作していた。
しかし、沢田も子の親である。
その情からいつ何時妙子に転ばないとも限らないからである。
事を急ぐ必要に迫られた伊佐子は計画を早めるべく、沢田に与える料理の栄養価を低くし始める。
さらに、沢田が心臓に持病を抱えることを知ると負担をかける方法を採る。
これに、沢田は文句も言わず従うのであった。
一方、石井の裁判が開始。
噂に違わぬ辣腕ぶりを発揮する佐伯に伊佐子は惹かれ、彼を愛人の1人に加えてしまう。
同じ頃、塩月が代議士の叔父を失ったことで失脚。
伊佐子はこれに利用価値を失ったとして愛想を尽かし佐伯を頼るように。
塩月にとってこれは許せないことであったが……。
そんな中、石井の裁判が判決を迎えた。
結果は佐伯により勝訴となる。
伊佐子はさらに佐伯に信頼を寄せる。
其処に掘り出し物件の話が飛び込んだ。
値段は10億円である。
沢田亡き後を考えれば伊佐子にとってまたとないチャンスである。
伊佐子は沢田の遺産をあてにこれを購入することに。
さて、こうなると尚更沢田の存在が邪魔になる。
もはや、目的を隠そうともしなくなった伊佐子は佐伯を利用してある計画を立てた。
佐伯との睦言をカセットレコーダーに録音し、これを沢田に聞かせることで心臓に負担をかけるとの工作だ。
その夜、睦言が実際に録音された。
「わたし弱いわよ。蟻のようなモノだもの」と語る伊佐子。
「ただし、強い蟻だけどね」と伊佐子の大胆さを讃える佐伯。
そして、伊佐子の計画が実行された。
これが図に当たり、沢田は死亡してしまう。
こうして佐伯という愛人と10億の遺産を手に入れたかに見えた伊佐子だが……。
直後に思わぬしっぺ返しを食らう。
なんと、掘り出し物件がとんだ食わせ物だったことが判明したのだ。
手を入れなければ到底、使用に耐える物件ではないらしい。
これでは話が違う。
さらに、自由になった石井が伊佐子と佐伯の仲を勘繰り出した。
嫉妬に駆られた石井は佐伯と伊佐子の密会現場に踏み込んで来た。
興奮する石井を落ち着かせようと佐伯は「ほら、これでも聞いて」と近くにあったレコーダーを再生してしまう。
その中身は沢田殺害時に使用されたアレである。
余計に怒りに駆られた石井により、佐伯は刺殺されてしまうのであった。
石井の怒りは伊佐子にも向けられ……伊佐子も背中を刺されてしまう。
数日後、入院中の伊佐子を素子が訪ねた。
ところが、今日の素子は何時にも増して伊佐子への敵愾心が剥き出しである。
素子は沢田に頼まれ遺言状を書き換えたことを明かす。
その受取人は妙子になっていた。
つまり、この遺言状が有効ならば伊佐子には遺産が入らないことになってしまう。
動揺を隠しきれない伊佐子に、素子はそれは嬉しそうに事情を語り出す。
どうやら、沢田は伊佐子の浮気に気付いていながらもそれを許していたのだそうである。
其処で沢田もまた伊佐子に意趣返しを目論み、ちょっとした悪戯で受取人を変更したのだ。
それが、此処に来て効果を発揮していた。
鬼の首を取ったような素子の姿に、伊佐子は彼女が誰の差金で沢田に近付いたかに気付く―――塩月だ。
沢田との結婚前、伊佐子は沢田と塩月を天秤にかけ遺産がすぐに自由に出来そうな沢田を選んだ。
これに塩月は不満を抱いていたのであろう。
其処で内情を調べさせるべく、沢田が自叙伝を出版しようとしていることを利用し素子を速記者として送り込んだのだ。
同様に伊佐子が掴まされたあの不良物件も塩月の差金だったのだろう。
伊佐子に捨てられたことへの復讐である。
すべてを察した伊佐子は素子の本心も見抜いていた。
素子が此処までするからには塩月の事を愛しているのだ。
此処で、折れないのが伊佐子だ。
伊佐子は素子にある提案を行う。
相続する遺産10億円のうち5億円を渡すから、その遺言状を無かったことにして欲しいと持ち掛けたのだ。
5億円もあれば、失脚した塩月を好きなように出来るだろうとの意味だ。
これに素子は乗った。
数ヶ月後、伊佐子は新たな獲物を狙っていた。
その隣では、愛する塩月を手に入れた素子が満足そうに笑っていた。
伊佐子の耳にレコーダーに吹き込んだ亡き佐伯の声が甦る。
「わたし弱いわよ。蟻のようなモノだもの」
「ただし、強い蟻だけどね」―――エンド。
<感想>
原作は松本清張先生『強き蟻』(文藝春秋社刊)。
『強き蟻』は過去にネタバレ書評(レビュー)してますね。
・『強き蟻』(松本清張著、文芸春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
では、ドラマの感想を。
中盤までは同じですが終盤のアレンジにより、原作とドラマでは結論が180度異なっていました。
原作では毒婦・伊佐子に批判的ですが、ドラマ版はむしろ伊佐子の人間力やその飽くなきバイタリティに敬意を表してか好意的な目線になっていましたね。
米倉さんの好演もあって、これがまたぴったりマッチしていました。
ドラマ版……完成度高いです!!
タイトルである「強き蟻」の意味も大きく異なりました。
端的にまとめると。
原作は「強いと雖も蟻は蟻」だったのに対し、ドラマ版は「蟻と雖も強い蟻」との印象。
説明するとこんな感じ。
原作の伊佐子は「強者であると自負し他者を蟻と見下していた」が「彼女自身確かに強者だがやはり蟻」であり其処からは抜け出せなかった。
ドラマ版の伊佐子は「本人が蟻であると自嘲していた」が「単なる蟻ではなく強き蟻」として一歩抜きん出ていたと言ったところ。
さらに、原作だと沢田は伊佐子を許さず、彼女の目的を阻むことで復讐を果たす。
ところが、ドラマ版は愛情で許している点などもあってかなりマイルドに。
他にも原作では復讐を見事に果たした塩月も、ドラマ版では素子により軍門に降ることに。
これにより、新たな悪女・素子も誕生しており、まさに悪女讃歌とでも言えるドラマとなっていたように思えます。
そして、通常だと不快を覚える筈の点すら全体的になんとも逞しさを覚える感じ。
全体に漂う「一寸の虫にも五分の魂」的な主張と相まって、何故だか許せてしまうのは米倉さん演じる悪女・伊佐子の魔法にかかってしまっているからなのでしょうか。
<キャスト>
米倉涼子 ほか
(公式HPより、順不同、敬称略)
◆松本清張先生関連過去記事
【小説】
・「霧の旗」(松本清張著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「書道教授」(松本清張著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「球形の荒野」(松本清張著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『寒流』(松本清張著、新潮社刊『黒い画集』収録)ネタバレ書評(レビュー)
・『市長死す』(松本清張著、光文社刊『青春の彷徨』収録)ネタバレ書評(レビュー)
・『熱い空気』(松本清張著、文芸春秋社刊『事故―別冊黒い画集1』収録)ネタバレ書評(レビュー)
・『波の塔 上下』(松本清張著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『危険な斜面』(松本清張著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『疑惑』(松本清張著、文藝春秋社刊)ネタバレ批評(レビュー)
・『十万分の一の偶然』(松本清張著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『事故』(松本清張著、文芸春秋社刊『事故―別冊黒い画集1』収録)ネタバレ書評(レビュー)
・『留守宅の事件』(松本清張著、文藝春秋社刊『証明』収録)ネタバレ書評(レビュー)
・『黒い福音』(松本清張著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『小説 3億円事件 「米国保険会社内調査報告書」』(松本清張著、新潮社刊『水の肌』収録)ネタバレ書評(レビュー)
・『密宗律仙教』(松本清張著、文藝春秋社刊『証明』収録)ネタバレ書評(レビュー)
・『時間の習俗』(松本清張著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『強き蟻』(松本清張著、文芸春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・松本清張先生原作「砂の器」が5回目のテレビドラマ化決定。テレビ朝日制作、主演は玉木宏さん!!&「砂の器」ネタバレあらすじ
【ドラマ】
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【その他】
・『眼の壁』から出題がありました。
「ミステリーキューブ 名作ミステリーを凝縮▽華麗なトリックを見破り密室から脱出せよ!▽松本清張が仕掛けたわなに挑戦だ」(8月20日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・【特報】松本清張先生、未収録短編発見さる!!その名も『女に憑かれた男』!!
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ずっとずっと前、原作を読んだ時とラストが違う気がしましたが、「強いといえども蟻は蟻」と「蟻といえども強い蟻」の感想を読んでものすごく納得しました。
小説の方のネタばれ感想も読み、とてもすっきりしました。
ドラマ版ラストは、ほんとうに米倉さんにぴったりでしたね。
P.S.あらすじ中ほど「石井により、沢田は刺殺されて…」は「佐伯は刺殺されて…」の印字ミスだと思いますよ。
こんばんわ!!
管理人の“俺”です(^O^)/!!
こちらこそ、お気を遣わせてしまい申し訳ないです。
「殺人偏差値70」も「強き蟻」も共に印象的で感想をまとめるのに時間がかかってしまいました。
とはいえ、まとめている間にそれぞれのドラマの世界観に想いを馳せることが出来て濃厚な「2時間サスペンス」タイムを過ごせました。
ちょっと得した気分です。
そんな「強き蟻」のドラマ版。
米倉さんが凄く良かったですね。
役者さんが役を演じるのではなく、役そのものになっていたような気がします。
そして、あらすじ中盤で「石井が刺殺した相手」が「佐伯」ではなく「沢田」になってますね……。
これでは「沢田」が2度死んでしまい、新たなミステリーが生じてしまう。
早速、訂正せねば!!
ご指摘ありがとうございます(^O^)/!!