2014年05月19日

「妄想少女」3話(汐里作、講談社刊「週刊モーニング」掲載)ネタバレ批評(レビュー)

「妄想少女」3話(汐里作、講談社刊「週刊モーニング」掲載)ネタバレ批評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

登場人物一覧:
神宮寺花音:主人公。「美女と野獣」に憧れ「卑怯卑劣を貫く獣」に恋をする少女。
如月風牙:花音を愛するイケメンだが報われない。しかし、その正体は……。
久瀬原涼一:花音の担任教師。読切1話に登場。
君園邦彦:花音の中学時代の家庭教師。読切2話に登場。
間地:花音が電車で出会った痴漢。読切3話に登場。

<ネタバレあらすじ>

「美女と野獣」と言えば、美女が野獣の容姿に怯えずこれを愛したことで、実は魔法により野獣にされていた王子の魔法が解け、美女と真実の愛で結ばれる―――そんな物語。

此処にそんな「美女と野獣」に憧れる少女が居た。
その名は、神宮寺花音。
学級委員を勤め、容姿端麗、成績優秀、人望も厚く、教師受けも良い―――そんな万能美少女である。

だが、彼女は妄想家であった。
周囲の同年代の女生徒が合コンでの恋愛話などで盛り上がる中、彼女は1人理想の男性を追い求めていた。
そう、野獣のような男性を。

彼女には理想があった。
獣のように卑怯卑劣な男性に虐げられつつ愛を捧げることにこそ「真実の愛」がある―――と。
しかし、その捧げるべき相手が見つけられずに居たのである。

幼馴染で周囲の異性を惹きつけて止まないイケメンの如月風牙も、そんな花音にかかっては歯牙にもかからない相手の1人である。
今日も今日とて風牙が声をかけて来るが、花音にとっては溜息の種でしかない。

だが、この風牙には花音の知らない本性がある。
風牙は影から花音に近付く男たちを排除しているのである。
彼もまた卑怯卑劣な獣であった―――。
しかし、これを花音は知らない。花音は常に卑怯卑劣の獣を探している……。

そんなある日、花音は通学途中の電車で痴漢に出会った。
これこそ卑怯。これこそ卑劣―――花音の胸が震えた。

と、突如、背後で揉み合う気配と共に「何をしているんだ、コイツ!!」との怒声が上がった。
続いて、駅に停車するなり花音の手が引かれる。
その手に連れられるように、花音は下車した。

電車は何事も無かったように発車し、ホームには花音と風采の上がらない男、それに男の手を掴み逃がさないように拘束する紳士然とした中年の3人が残された。

「コイツが君に痴漢していたんだよ。何て卑劣な奴だ!!」
紳士然とした中年が花音の表情を窺いながら、手柄を声高に叫ぶ。
中年に拘束された男は、うつむきがちに花音の視線を避けた。

その姿こそ、まさに花音が望んで止まないもの。
一方的に欲望をぶつけておいて逃げようなんて……なんて、素敵なのかしら!!
花音の胸の高鳴りは強まるばかりである。

そんな花音の様子に、中年男性が不審を抱いた。
彼はさらに拘束した男の非をあげつらう。
だが、そうすればそうするほど花音の痴漢男への好感度は高まって行く。

花音は愛しの王子様を拘束する中年男をキッと睨みつけた。
さらに「私はこの方と話がしたいんです。あなたには用はありません」と切って捨てた。

中年男は感謝されると思いきや、思わぬ敵意を向けられ激しく動揺。
「何なんだコイツは……」と不満を洩らしながら足早にその場を逃げ去った。
まさに、本来とは逆の役回りを強いられたのだ。

中年男が消え、花音は彼女の王子様と2人きりになった。
花音はとびっきりの笑顔を彼に向ける。
痴漢男は花音の中に天使を見出し、のぼせ上ることに……。

数時間後、花音と別れた痴漢男は天にも昇る気持であった。
痴漢男の本名は間地というサラリーマン。
彼は職場でも孤独な存在であった。
自身の意志を強く主張することが苦手な間地は、後輩からも体良く利用されていた。
失敗があればスケープゴートにされ、上司から身に覚えのない叱責に曝されたことなどはザラである。
その上、それを後輩たちに嘲笑される。
間地の心はささくれだった。

花音への行為は、そんな傷心時に起きた出来事であった。
まさにふとした出来心だったのだ。
しかし、花音はそれを理解し彼の行為を許した。
そして、彼に微笑んでくれた―――間地にとってはそれが全てであった。
間地は花音に恋をした。

以来、間地は花音を探した。
花音もまた運命の相手と信じる間地を追った。
そして、再び例の電車で再会することとなるのである。

これを逃せばチャンスは無い。
思い余った間地は花音に告白した。

あれは傷心から発した出来心であったこと。
本当の自分はあんな卑怯な真似はしないこと。
だから、あれは忘れて改めてお付き合いして欲しいこと。
間地は自身の思いの丈を存分に告げた。

だが、これを聞いた花音の表情はどんどん曇って行った。
何故なら、花音の求める獣が其処に存在しなかったからである。
痴漢は出来心で、普段はそんなことはしないらしい男。
ならば、花音にとって男に何の意味があるだろうか―――他の有象無象と変わりがないのだ。
花音はあからさまに失望を示すと、その場を去って行った。

風牙は自身が何をするでもなく破局を迎えた2人(そもそも始まってすら居なかったのだが)を見詰め、笑顔を浮かべた。
しかし、ふと考えた。
花音にとって間地は虚像でしかなかった。
では、間地にとって花音はどうだったのか……。

数日後、間地はあの電車で花音を見かけた。
彼にとって、彼女は想いを寄せながら一方的にフラれた相手。
それもまた許されたと勝手に思った故の虚像だったのかもしれない。
だが、間地はそれでも満足していた。
なにしろ、花音があの時あの場所で彼に向けた笑顔だけは本物だったのだから。
間地にとって、どう思われようとも花音は天使なのだ―――エンド。

<感想>

『週刊モーニング』版「ちばてつや賞」第64回受賞作。
『週刊モーニング』誌上にて2013年12月に1話が、2014年4月に2話が掲載された本作。
その2014年5月に掲載された3話です。

「妄想少女」(汐里作、講談社刊「週刊モーニング」掲載)ネタバレ批評(レビュー)

本作、心情描写とキャラが面白いです。
恋に恋して自分基準の独特な愛を求める美少女・花音。
そんな花音をもっとも理解し、もっとも彼女の理想に近いが、もっとも相手にされない風牙。
そして……1話ごとに現れては消えて行く花音の王子様たち。
この3者が織り成すストーリーは必読です!!

では、早速ネタバレ批評(レビュー)を。

この3話、何よりも特筆すべきは変化球だったこと。
これまでは、花音が想いを寄せるも彼女の見ていた物を知るや相手が身を退くパターンでした。
しかし、今回は花音自身が相手から逃げ出すことに。
まさに、花音の妄想家ぶり、愛の狩人ぶりが発揮された回と言えるでしょう。
自分の期待に沿えない相手だと理解した途端の掌返しは「恋に恋する乙女」の真骨頂です。

それと、今回は読後感が良かったように思いますね。
全員が結末に納得しているからでしょうか。

花音は運命の相手には出会えませんでしたが、自分から相手を振ることが出来た。
風牙は手を下すまでもなく終わった。
間地はフラれながらも、彼の理想を守った。
間地には、花音とのことを美しい想い出に昇華させて前向きに生きて欲しいものです。

ただ、見方を変えるとこれも怪しい。
一見、3話の中で間地こそがもっとも幸福な王子様だったように見える。
しかし、あの結末は花音の実像から目を逸らし虚像に逃げたとも言えるワケで。
彼が自身の殻に閉じ籠ってしまったとも考えられるのが……。
もしも、こちらだと間地の苦悩は続くだろうし、同じような過ちを続けることになるでしょう。
花音だからこそ許されたワケで花音でなければ……。

うむ、こうしてイロイロ考えさせられる点こそ本作の本領なのかもしれない。

ちなみに、花音の好みには大きな矛盾が存在していますね。
花音の恋する相手(もっとも、この恋自体が花音にとって都合の良いモノなので怪しいのですが……)は常に鬱屈を内包しており、花音の行動を素直に受け入れられるワケがない人ばかり。
これが本物の獣ならば花音の想いは遂げられるのでしょうが、花音自身がそういった対象を見分けている節があるし(例:如月風牙)。
仮に本物の獣だった場合は風牙が排除するんだろうしなぁ……。
此の点、花音は既に理想の相手を手に入れているワケなのだが。
花音の青い鳥は風牙だと気付くのは何時なのか……。

とはいえ、鬱屈を抱えた獣を花音が受け入れれば王子になる……との花音の理想自体も怪しいもの。
どうにも、花音自身が恋に恋する乙女状態で、本当に相手を見ているのかどうか……。
獣に恋する自分に酔っているのかもしれないなぁ……だからこそ、最期の一線は超えない相手を選んでいるのか。

これは次回以降も花音により獣(ただし、それなりに恥の概念を知る者に限る)が駆られて行くことになりそうだ。
うむ、獣を愛する花音もまた単なる妄想少女に非ず。
彼女もまた立派な愛の狩人なのかもしれないなぁ。

本作の特徴は、何と言ってもその可愛らしい絵柄に比して迫る痛さ。
その痛さは価値観の違いに基づくものであり、読み進めるうちに心にグイグイ来る。
是非、『週刊モーニング』本誌をご覧頂き、確かめて欲しい!!

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posted by 俺 at 12:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 漫画批評(レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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