ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
――自殺の原因は「呪いの動画」? 双子姉妹にふりかかった災難とは
(新潮社公式HPより)
<感想>
前々作『泡』、前作『甘い毒』に続く知念実希人先生『統括診断部の事件カルテ』シリーズ第3弾。
『甘い毒』からだと4ヶ月ぶりのシリーズ続編です。
・『泡 統括診断部の事件カルテ』(知念実希人著、新潮社刊『小説新潮 2013年6月号』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
やっぱり主人公・鷹央のキャラが良いですね。
そして名探偵にはワトスン役とライバルが必須。
ワトスン役には優が居たのですが、今回はライバルも登場。
さらに鷹央が唯一敵わないことを認める天敵も……。
鷹央のキャラが深まりましたね。
さらに、鷹央に恋人が居ないことも判明。
などなど、キャラクター的には文句なしの作品です。
一方、内容的には「ポケモンショック」を思い出しました。
「ポケモンショック」とは、1997年12月16日に起こったある事件のことです。
ご存じない方は調べられるかもしれないので念の為に注意すると、これを調べる時は必ず部屋を明るくしておくこと。
検索エンジンによっては画像も同時に表示されるのですが、動画ではなく静止画でも暗い中だと複数のシーンが一度に表示されることで目がチカチカすることがあるので。
ある意味、静止画でも並びによってはパラパラ漫画的な効果があるのかもしれないなぁ……。
ちなみに「ネタバレあらすじ」はまとめ易いように一部に改変を加えた上にかなり端折ってます。
本作を正確に味わうには、本作それ自体を読むべし!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
天久鷹央:ご存知「天上天下唯我独尊」な主人公。統括診断部のボスで実際に優秀。
小鳥遊優:鷹央に頭が上がらない医師。愛称は「小鳥」。
天久真鶴:鷹央の姉。鷹央が唯一敵わないことを認める相手。
墨田淳子:精神科の医師。鷹央の研修時代の指導医。
木村真夏:真冬の双子の姉。
木村真冬:真夏の双子の妹。駅ホームへ謎の転落を遂げてしまう。
村田:真冬が振った同級生。
木村真夏と真冬は時に喧嘩もするけれど割と仲の良い双子の姉妹である。
ある日、真夏は真冬に「呪いの動画」の存在について告げる。
なんでも、異性と別れたばかりで動画を見た者には危機が迫るらしい。
真夏はこの動画を一緒に見ないかと真冬に持ちかける。
これに対し本気で嫌がる真冬。
真冬は最近になって、村田という同級生と一方的に別れたばかりであった。
もっとも……それもその筈、村田は真冬以外にも交際相手が居たのだ。
そう、二股だったのだ。
この事実を真夏が突き止め、真冬に教えたのである。
当然、真冬は激怒し村田に別れを切り出したのだ。
村田自身は別れることに難色を示していたようだが、自業自得であるどうしようもない。
もちろん、真夏もこれを理解している。
理解した上で、動画の力を信じていない真夏はあくまで話題として面白がっているのだ。
実は推薦で大学合格を決めている真夏に対し、これから試験を控える真冬はコンプレックスを抱いていた。
真夏の意図を察した真冬はからかわれることを怖れ受けて立つことに。
こうして、帰路にあたる駅のホームで2人はスマホから動画を確認した。
何やら、チカチカと激しく明滅が繰り返されたかと思うと臓物のようなものが映り込む。
さらに明滅が激しさを増し、その合間合間に血や死体の顔らしきものがアップになる。
どう考えても、趣味の良い代物とは言えなかった。
動画を終えた真夏は「気持ち悪い」と素直に感想を洩らす。
だが、真冬からは言葉も無い。
不審に思った真夏が真冬を見ると、何を思ったのか真冬はホームから線路へと飛び降りてしまった!!
慌てた真夏が必死に真冬に呼びかける。
其処へ次の列車が迫って来た……。
数時間後、真冬は天久中央病院へ。
奇跡的に腕の骨折のみで助かったのだ。
だが、真冬の行為は自殺志願者として見られ、精神科に運び込まれることに。
しかし、真冬は知っている。
彼女自身にはその気が全く無かったことを。
こうして、抵抗を示す真冬。
だが、だとすれば真冬が線路に落ちたのは動画の力になってしまう。
真夏もまた事の経緯を知るだけに、動画の力を主張するのだが……。
騒ぎは鷹央の耳にも入った。
実はこういったモノには目が無い鷹央は、喜び勇んで謎の解明に乗り出すことに。
もちろん、優も一緒である。
ところが今回の鷹央はどうにも様子がおかしい。
傍若無人な点はいつも通りだが、精神科に対して何か後ろめたいことがあるようだ。
なんと、人目を避けて乗り込んだのである。
しかし、上手く行く筈がない。
案の定、姉妹に接触することには成功するのだが、その担当医である墨田淳子に捕まってしまうのであった。
鷹央を蛇蝎の如く忌み嫌う淳子。
実は、鷹央と淳子には因縁があった。
淳子は鷹央の研修時代の指導医。
ところが、鷹央は淳子が患者に施した処方に誤りがあることを看破するや、淳子の断りも無く正しい治療法により患者を治療したのだ。
しかも、1人ではなく大勢を。
さらに、患者には正しいことを伝える義務があるとして、淳子のミスと自身の行いを包み隠さず教えていたのである。
これでは指導医である淳子の面目は丸潰れとしか言いようがない。
以降、淳子は鷹央を執拗に恨んでいたのだ。
とはいえ、鷹央は悪びれない。
人目を避けたのも淳子に見つかるよりは効率を重視してのことと主張する。
当然、鷹央と淳子は激しく対立。
結果、鷹央は真冬に接触禁止にされてしまう。
打つ手を失ったかに見えた鷹央。
だが、真冬のもとへ出向いた甲斐はあった。
真相を明らかにすると主張した鷹央に真夏が興味を抱いたのだ。
こうして、真夏から事情を聞いた鷹央はある仮説に辿り着く。
鷹央と優は動画を視聴することに。
幾ら鷹央とは言え、相手は女性である―――動画の効果について大丈夫か確認する優。
すると、鷹央からは「そもそも異性と交際したことがない」との返事。
これを聞いた優は、そんな鷹央を「初心」と捉えず「だったら同性とは交際したことがあるのか」と空恐ろしく感じるのであった。
どうやら、優の鷹央への苦手意識は相当なようである。
ソレはソレとして置いておいて。
さて、動画を視聴した鷹央。
あっさりと呪いの動画と呼ばれていた理由に気付く。
鷹央と同時に視聴した優は、動画内に挿入してあったカットからサブリミナル効果を疑うが……鷹央によればどうやら違うらしい。
そんな中、今度は真夏が動画を視聴した直後に階段から転落を遂げてしまう。
病院に運び込まれた真夏に、淳子は真冬と同じく自殺願望があると断言するのだが……。
此処へ鷹央が優を引き連れ颯爽と現れた。
さながら気分は正義のヒーローだ。
鷹央は動画についての謎を解明し始める。
まず、鷹央が注目したのは「動画の視聴者すべてが事故に遭うワケではない」ことだ。
つまり、一定条件が存在することを示す。
次に、事故に遭ったのは「失恋かそれに類する精神的痛手を被っていた人物に限られる」こと。
つまり、精神的なバランスを崩したことが原因なのだ。
例えば、真冬は入試を控えピリピリしていた。
だからこそ、動画を視聴し事故に遭った。
では、最初は何ともなかった真夏が2度目に視聴した際に事故に遭ったのは何故か?
最初、真夏は推薦で合格を決めており、真冬に動画を勧めるほどの心の余裕があった。
だが、2度目は真冬が事故に遭ったことで責任を感じていた為に精神的緊張状態にあった。
だからこそ、真冬と同じ状態になったのだ。
そして、動画を目にした鷹央が下した診断とは……てんかんであった。
件の動画は色調も映像も激し過ぎた。
特に繰り返し明滅することで、視聴者にてんかん発作を促したのだ。
こうして、鷹央により呪いの動画の謎は解き明かされた。
またもしてやられた淳子は歯噛みして悔しがるがどうしようもない。
一方、これを契機にホラー映画に興味を抱いた優。
鷹央からある有名作品を借り受けるのだが……軽く見ていた作品のあまりのリアルさと怖さに深いダメージを負うことになるのであった―――エンド。
◆関連過去記事
・『誰がための刃 レゾンデートル』(知念実希人著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『ブラッドライン』(知念実希人著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『泡 統括診断部の事件カルテ』(知念実希人著、新潮社刊『小説新潮 2013年6月号』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・『彼女が瞳を閉じる理由』(知念実希人著、角川書店刊『小説野性時代 2014年2月号 vol.123』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
・知念実希人先生、新作刊行予定を明かす。タイトルは『50/50ダンス(仮)』とのこと。
・知念実希人先生、新作長編はタイトル『ブラッドライン』!!2013年7月発売予定とのこと!!
・知念実希人先生、受賞後第一作は短編『泡 -統括診断部の事件カルテ-』に!!『小説新潮 2013年6月号』に掲載予定とのこと!!
・第4回「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」受賞作決まる!!
・知念実希人先生長編第3弾のタイトル判明!!その名は『優しい死神の飼い方』2013年11月発売予定とのこと!!
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