ネタバレあります、注意!!
登場人物一覧:
神宮寺花音:主人公。「美女と野獣」に憧れ「卑怯卑劣を貫く獣」に恋をする少女。
如月風牙:花音を愛するイケメンだが報われない。しかし、その正体は……。
久瀬原涼一:花音の担任教師。1話に登場。
君園邦彦:花音の中学時代の家庭教師。2話に登場。
間地:花音が電車で出会った痴漢。3話に登場。
夏芽:朝子の夫、保健教諭。4話に登場。
夏芽朝子:アパレル会社経営のキャリアウーマン。4話に登場。
<ネタバレあらすじ>
「美女と野獣」と言えば、美女が野獣の容姿に怯えずこれを愛したことで、実は魔法により野獣にされていた王子の魔法が解け、美女と真実の愛で結ばれる―――そんな物語。
此処にそんな「美女と野獣」に憧れる少女が居た。
その名は、神宮寺花音。
学級委員を勤め、容姿端麗、成績優秀、人望も厚く、教師受けも良い―――そんな万能美少女である。
だが、彼女は妄想家であった。
周囲の同年代の女生徒が合コンでの恋愛話などで盛り上がる中、彼女は1人理想の男性を追い求めていた。
そう、野獣のような男性を。
彼女には理想があった。
獣のように卑怯卑劣な男性に虐げられつつ愛を捧げることにこそ「真実の愛」がある―――と。
しかし、その捧げるべき相手が見つけられずに居たのである。
幼馴染で周囲の異性を惹きつけて止まないイケメンの如月風牙も、そんな花音にかかっては歯牙にもかからない相手の1人である。
今日も今日とて風牙が声をかけて来るが、花音にとっては溜息の種でしかない。
だが、この風牙には花音の知らない本性がある。
風牙は影から花音に近付く男たちを排除しているのである。
彼もまた卑怯卑劣な獣であった―――。
しかし、これを花音は知らない。花音は常に卑怯卑劣の獣を探している……。
そんなある日、花音の前に王子様候補が現れた。
今度の王子様候補は保健室の養護教諭。
彼は花音に身体に良い薬と偽り睡眠薬を与えると、横たわった花音に悪戯する男であった。
もちろん、彼は花音がその行為に気付いていることを全く知らない。
しかし、花音は彼にゾッコンである。
さて、帰宅の途についた花音。
その目の前に、助手席に風牙を乗せた見知らぬ美女運転の車が停車した。
花音に声をかける風牙。
風牙によれば、美女は彼の親戚でアパレル会社を経営する夏芽朝子。
朝子は風牙から花音の噂を聞きつけて興味を持ったらしい。
その容姿を一目見て気に入った朝子は「モデルにならないか」と花音を誘う。
だが、花音にとっては王子様以外に興味はない。
あっさりと断られてしまうことに。
それでも諦め切れない朝子は、自身の名刺を花音に預ける。
これを見た花音の目が怪しく光った……。
翌日、今日も今日とて保健室に足を運んだ花音。
彼女の王子様候補は今日も「いつもの薬」として睡眠薬を渡す。
これを疑いもせず口に運ぶ花音。
やがて、ベットの上からは規則正しい寝息が聞こえて来た。
途端、男の表情が露骨に下卑たものに変わる。
ニヤニヤと粘着質な笑いを浮かべると、今日もフルコースだとばかりに花音の太ももに頬ずりし始めた。
男がこの行為を続ける理由、それは彼の家庭にあった。
彼は過去にもある女子生徒に全く同じ行為を続けていた。
その行為は彼にとって堪らない興奮を与えるモノであった。
しかし、彼にとって幸運だったのはその女子生徒が彼を好きだったこと。
結局、女子生徒は彼の行為を知らぬままに彼と交際を始め結婚した。
こうして、女子生徒は彼の妻になった。
彼は彼の理想を手に入れた……かに見えた。
しかし、彼にとって「保健室」と「女子生徒」は特別な想い出となっていたのである。
数年後、彼の妻は大人の女性へと脱皮した。
彼女は企業家となり、彼はそんな彼女に不満を抱くようになった。
其処からは、あの弱く儚い……だが、だからこそ美しい学生時代の彼女の姿が失われていたからである。
彼は、あの甘美な保健室での儀式を思い出した。
あの特別な想い出を再現したい。
そんなとき、彼は花音に出会った。
それはまさに運命の出会い。
あのときの妻以上に儚く可憐な花音を相手に想い出を再現すればどんなにか気持ち良いことだろうか。
彼はこうして、禁断の一歩を踏み出したのだ。
そんな理由で、今まさに花音への暴虐を続ける彼。
すると、花音の寝息がピタリと止まった。
「あれ……」
首を傾げつつ花音の顔を彼が覗き込むと同時に、花音が起き上がった。
花音と彼の顔がこれ以上ないほど接近する。
「お前っ、起きていたのか!?」
狼狽する彼に、花音はあの邪気の無い笑顔を浮かべ囁いた。
「ええ、私はあなたからの薬を1度も飲んでいません。この意味が分かりますね」
攻守が逆転し、蛇に睨まれた蛙のようにコクコクと頷く彼。
花音は続ける。
「私はあなたの行いのすべてを知っています。あなたの醜さを良く知っています。どうか、私の王子様になってください」と。
言葉を失う彼に、花音は最後にこう切り出した。
「でも、あなたは既に別の方の王子様になっていますね。選んで頂けますか」と。
そして、花音が差し出したのは1枚の名刺だ。
これを見た彼は混乱の極みを迎えた。
其処には「夏芽朝子」の名があったのだ。
それこそ、彼の妻の名であった。
状況を理解出来ず滝のような汗を流す夏芽。
すると、その携帯が突然鳴り出した。
ディスプレイに表示されたのは「妻」の文字。
すなわち、朝子からの電話である。
「ひぃはぁぁぁぁぁぁはぁはがぁ」
夏芽は奇妙な叫び声を上げると、その場を逃げ出した。
その翌日、夏芽は学校を退職した。
数日後、花音は風牙と共に友人たちと談笑していた。
ふと、話題が夏芽について触れる。
花音が夏芽と保健室で2人きりになっていた噂に話が及び、風牙が気色ばむ。
しかし……花音は動じない。
静かに微笑むと「さぁ、私は知りません」と応じるのであった―――エンド。
<感想>
『週刊モーニング』版「ちばてつや賞」第64回受賞作。
『週刊モーニング』誌上にて2013年12月に1話が、2014年4月に2話が、2014年5月に3話が掲載された本作。
その2014年6月に掲載された4話です。
・「妄想少女」(汐里作、講談社刊「週刊モーニング」掲載)ネタバレ批評(レビュー)
本作、心情描写とキャラが面白いです。
恋に恋して自分基準の独特な愛を求める美少女・花音。
そんな花音をもっとも理解し、もっとも彼女の理想に近いが、もっとも相手にされない風牙。
そして……1話ごとに現れては消えて行く花音の王子様たち。
この3者が織り成すストーリーは必読です!!
では、早速ネタバレ批評(レビュー)を。
回を重ねるにつれて花音の狩人ぶりが顕著になって行きますね。
1話では純粋に妄想家であったように見えた花音。
しかし、この4話では「事前に何処まで夏芽のことを知っていたのか」が気になるほど。
ある意味、花音は恋愛武闘派だよなぁ。
恋に落ちるのではなく、恋を掴みに行くタイプか。
そして、4話最大のサプライズが王子候補が冒頭の夏芽朝子の夫であったこと。
確かにサプライズではあったのですが……これは表現的に溜めが無かったこともあって些か不発気味。
おそらく上記サプライズに、夏芽が思い描く理想の女性像(花音に存在し朝子に存在しなくなった「少女」と「大人の女性」との差―――すなわち少女期特有の儚さ)を絡めることで夏芽の心情を強調する手法だったのだと思います。
この意図は素晴らしいのですがこれが上手く反映されていない印象。
もっと、じっくり仕掛けた方が効果が高かった気がします。
それと、4話は上記の性質上、本作最大の魅力を上手く表現出来ていなかったかもしれない。
悪くは無いんだけど、3話までに比べると少し弱い。
此の点も惜しい。
次回掲載も確定とのことで、次回に期待!!
ちなみに、花音の好みには大きな矛盾が存在していますね。
花音の恋する相手(もっとも、この恋自体が花音にとって都合の良いモノなので怪しいのですが……)は常に鬱屈を内包しており、花音の行動を素直に受け入れられるワケがない人ばかり。
これが本物の獣ならば花音の想いは遂げられるのでしょうが、花音自身がそういった対象を見分けている節があるし(例:如月風牙)。
仮に本物の獣だった場合は風牙が排除するんだろうしなぁ……。
此の点、花音は既に理想の相手を手に入れているワケなのだが。
花音の青い鳥は風牙だと気付くのは何時なのか……。
とはいえ、鬱屈を抱えた獣を花音が受け入れれば王子になる……との花音の理想自体も怪しいもの。
どうにも、花音自身が恋に恋する乙女状態で、本当に相手を見ているのかどうか……。
獣に恋する自分に酔っているのかもしれないなぁ……だからこそ、最期の一線は超えない相手を選んでいるのか。
これは次回以降も花音により獣(ただし、それなりに恥の概念を知る者に限る)が駆られて行くことになりそうだ。
うむ、獣を愛する花音もまた単なる妄想少女に非ず。
彼女もまた立派な愛の狩人なのかもしれないなぁ。
本作の特徴は、何と言ってもその可愛らしい絵柄に比して迫る痛さ。
その痛さは価値観の違いに基づくものであり、読み進めるうちに心にグイグイ来る。
是非、『週刊モーニング』本誌をご覧頂き、確かめて欲しい!!
◆関連過去記事
・「妄想少女」(汐里作、講談社刊「週刊モーニング」掲載)ネタバレ批評(レビュー)
・「妄想少女」2話(汐里作、講談社刊「週刊モーニング」掲載)ネタバレ批評(レビュー)
・「妄想少女」3話(汐里作、講談社刊「週刊モーニング」掲載)ネタバレ批評(レビュー)
・こちらは『週刊ヤングマガジン』版「ちばてつや賞」優秀新人賞受賞作。
「虫(第65回ちばてつや賞優秀新人賞受賞作品)」(活又ひろき作)ネタバレ批評(レビュー)
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