2014年07月14日

『月は囁く』第9話「月とブログの女」(宮崎克原作、青木朋画、小学館刊『ビッグコミックオリジナル7月増刊号』掲載)ネタバレ批評(レビュー)

『月は囁く』第9話「月とブログの女」(宮崎克原作、青木朋画、小学館刊『ビッグコミックオリジナル7月増刊号』掲載)ネタバレ批評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
藤村月:陽一の父が再婚したことで、陽一の義妹となった。犯罪心理学と観相学を駆使する天才少女。
藤村陽一:警視庁捜査一課勤務、35歳。
陽一の父:犯罪心理学者。多くの事件解決に寄与した。

井川勤:痴漢の加害者とされる男性。
白鷺才子:痴漢被害を訴え出た女性。
大峰:才子の弁護士。

岸川駅―――其処で女性が男の手を取り叫んだ。
「この人、痴漢です!!」と。
急に手を掴まれたことに困惑しつつ男は無実を訴えようとするが、女性は「青い袖の男が犯人だ」と主張して譲らない。
事実、男は青い袖の服を着ていたのである。
こうして、男は弁明する余地も与えられず拘束されてしまった。

この様子を眺め見ていた月は被害者の女性の顔に「嘘吐きの相」を看て取るが……。

数日後、陽一は月の態度に圧倒されていた。
月は不満を隠すことなく全身に表現していたのである。
それもその筈、月は大学で講師を始めたのだが受講生からの評判が悪く、受講者が集まらないのだ。

曰く、ぶっきらぼう。
曰く、生意気。
曰く、上から目線。
曰く、優しくない。
曰く、レポートが多過ぎ……などなど。

これに月は本気で怒っていたのである。
「そんなに嫌なら受けなきゃいい!!」とまで断言した月の講義は見る間に受講者が減り、今では3人にまでなっていた。

そして、今日も授業の日がやって来た。
わずかな生徒を相手に授業を終えた月。
そんな月のもとに1人の男性受講者が駆け寄って来る。

その名は井川勤。
井川は月に「もう授業に出られなくなりました」と頭を下げる。
井川のやる気を買っていた月はその理由を尋ねずには居られなかった。
すると……井川は意外なことを口にし始めた。

なんと、バイトを増やす必要が出来たのだそうだ。
井川は痴漢の罪で被害者に慰謝料を払うことになっていたのである。
だが、井川自身は冤罪であると主張する。

これを聞いた月は数日前の騒動を思い出した。
なるほど、あのときの……だとすれば……。
月は「私に任せて欲しい」と井川に訴える。
こうして、井川は月にすべてを託すことに。

月は井川の証言から、被害者とされる白鷺才子について調べ始めた。
才子は丸の内に勤務するOL。
自身でブログを開設し、日々の出来事をそれに綴っていた。
もちろん、井川の痴漢事件もそれには記載されている。
しかも、過去記事を振り返ったところ、才子はこれまでにも3度ほど被害に遭っているようだ。
日時もバッチリである。

さらに数日後、月は井川の代理を名乗り白鷺才子を喫茶店に呼び出す。
才子は弁護士の大峰を同行していた。
才子は月を見るなり、井川に慰謝料を払うよう請求する。
これに一旦は応じる素振りを見せる月だが……。

その隣の席に座っていた男女が突然に騒ぎ出した。
どうやら痴話喧嘩のようだ。
激怒した様子の女性が席を立ち足早に店を去る。
これを男性が慌てて追いかけて行く。

呆気にとられる大峰。
才子はと言えば、何が面白かったのかニヤついている。
これに月がいきなり質問を切り出した。

先程の男性の服の色と女性の鞄を覚えているかと尋ねたのだ。
これに才子は自信を持って「覚えていますよ!!」と語る。

才子は男性の服の色と、女性の鞄がブランド物だったと自信満々に主張する。
ところが……これを聞いた途端に月が微笑んだ。

それを合図に、先程店を出た筈の男女が戻って来る。
しかし、男性の服の色は才子の言葉と異なっており、女性の鞄に至っては紙袋であった。

「才子さん、あなたは嘘吐きですね」
才子の言葉が嘘であったことを指摘する月。
同様のことが井川の場合も行われたと断言する。

反発する才子だが、月はさらに重大な事実に触れる。
そもそも、痴漢自体が嘘だったのだ。
月は才子のブログを確認し、過去3件の痴漢事件の犯行時刻を調べた。
そのいずれもが、才子の会社の始業時刻ギリギリであった。
そう、才子は遅刻の言い訳の為に痴漢事件を捏造したのだ。

これを指摘された才子は二の句を告げず俯いてしまう。
傍らの大峰弁護士は事の推移に唖然としている。
彼もまた才子の嘘に騙されていたようだ。

それから、さらに数日後のことである。
才子から井川への告訴は取り下げられた。
こうして、井川の無実は証明されたのだ。

さて、その翌日。
今日も月の講義の日がやって来た。
受講者のことを思い憂鬱な表情を浮かべながら歩く月に、助けられた井川が礼を述べる。
そのまま2人が講義室へと入ると……中から歓声が上がった。

室内には溢れ返らんばかりの人間で満席である。
それどころか立ち見も出るほどの盛況ぶりであった。
月による事件解決の評判を聞きつけ、多くの受講希望者が訪れていたのである。
月に笑顔が戻る―――10話に続く。

<感想>

先頃完結した「幇間探偵しゃろく」でお馴染みの青木朋先生が宮崎克先生とタッグを組み、新たなミステリコミックの連載を「ビッグコミックオリジナル 増刊号」で開始されました。
タイトルは「月は囁く」。
捜査官・藤村陽一と、顔相学を修めたその義妹・藤村月が犯罪事件を解決する物語。

まさに陽一(太陽)と月(月)の物語です。

では、9話を読んだ感想を。
何と言っても特筆すべきは犯人の動機にありました。
まさか「遅刻を誤魔化す為」だったとは……。
あまりにも非道な動機に、目にしたときには大峰同様に絶句してしまいました。

そんな白鷺才子の名前もよくみると、これを表現していますね。
詐欺犯であることを示す白鷺に、サイコな人間であることを示す才子。
なるほど、名前の時点で既に動機を示していたワケか……。

それにしても、井川は救われたが才子はこれまでにも同様の行動を取っているとのこと。
他の被害者も救済の必要があるのではないでしょうか。

ちなみに本作に登場した「岸川駅」は架空の駅名。
同じ痴漢冤罪を描いた映画「それでもボクはやってない」に登場した駅名です。
本作は『月は囁く』版「それでもボクはやってない」だったと言えそうです。

ちなみに、ルナは父親に対しトラウマがある様子。
その天才的な力により、父に虐待されていたのかな。
結局、父と母はこれが原因で離婚。
そして、母が陽一の父と再婚といった流れか。

ルナとしては離婚の原因が自身にあると考えて、以来、人と距離を置くようになったか。
ところが、無邪気な陽一に癒されていく展開か。
イイですね。
最終的にはルナがトラウマとなった父と和解する(乗り越える)展開もありそうかな。

興味を抱かれた方は是非、『ビッグコミックオリジナル 増刊号』にて本作を確認されたし。

◆関連過去記事
『月は囁く』第1話「月は囁き、花は語る」(宮崎克原作、青木朋画、小学館刊『ビッグコミックオリジナル3月増刊号』掲載)ネタバレ批評(レビュー)

『月は囁く』第2話「月とドッペルゲンガー」(宮崎克原作、青木朋画、小学館刊『ビッグコミックオリジナル5月増刊号』掲載)ネタバレ批評(レビュー)

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