2014年08月16日

『ほたるいかの思い出』(米澤穂信著、新潮社刊『小説新潮 2014年7月号』掲載)

『ほたるいかの思い出』(米澤穂信著、新潮社刊『小説新潮 2014年7月号』掲載)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

――何気なく作った酒のつまみに、夫が語り出したこととは
(新潮社公式HPより)


<感想>

やっぱり、良いわぁ……。

内容的にはかなり辛く切ないストーリーなんだけど、妻の視点から描くことで夫が1度は失った家族を新たに得たことが言外に良く分かる点がポイント。
特に、妻が夫に真相を明かすのではなく夫の真意を悟って話を変える結末が秀逸。
あのラストで心がホッとする。

それと、夫が海へ向かうシーンはその後の夫を象徴しているようでかなり切ない。
過去を語りたがらない夫が、この夜に過去を語ったのは単に夜空の条件が合致したからだけではないよね。
それだけ、心を許せる相手だからでしょう。
本当に良いお嫁さんを見つけられて良かったねぇ……。

もう、心にグッと来捲りだよ。
本作もオススメの短編です、読むべし!!

<ネタバレあらすじ>

気象庁より琴座流星群を観察するのに「これ以上ない」とお墨付きを頂いた新月の夜のこと。
私は夫と共に、これを観察するべくベランダで今や遅しとその時を待っていた。

夫はあまり過去のことを語りたがらない。
だから、私は夫の過去を良く知らない。

そんな夫が夜空の美しさとつまみに並んだほたるいかに惹かれてか過去を語り出した。

「こんな夜だからちょうどいい」と切り出した夫、その物語は彼が小学生の時代に遡る。

当時、富山県に生活していた夫。
ある日、同級生の野口から「ホタルイカの身投げ」について教えられ興味を抱いた。

その頃、夫の家庭には何やら不穏な空気が流れており、父は外出がち、母は心からの笑顔を浮かべることも少なくなっていた。
夫は子供心に両親を力づけようと、浜辺に流れ着くホタルイカを掬い取って来ようと決意した。

とはいえ、「ホタルイカの身投げ」は夜のことである。
子供であった夫が早々夜に外出できる筈もない。

夫は母親に「ホタルイカの身投げ」について尋ねた。
その母親は「季節は秋頃。満月の夜、10時ごろに起こるらしいよ」と夫に教えた。
夫はカレンダーで満月の夜を確認すると、都合良くその日に印が入っていたと言う。

そして、満月の夜。
その日も父は不在で、夫は母に秘密で作戦を決行した。

こっそりと家を抜け出した夫。
だが、誰にも見咎められることは無く、これに成功する。

ところが、秋口の夜の風は子供には辛かった。
たちまち、芯から冷えた身体を抱え、夫は家へと戻った。
すると、蒲団の上に防寒着が並べられていたそうである。
夫は防寒着を着込むと改めて家を出た。

今度は夜の闇に怯えながら、ひたすら海を目指すのみだ。
1人きりの心細さと子供の足である、永遠にも思われる時間が過ぎた頃、ようやく海に辿り着いた。
しかし、其処には彼が期待していた光景は存在していなかったのである。

夫はがっかりしつつも、待てるだけ待つことにした。
しかし、幾ら待てど暮らせど「ホタルイカの身投げ」は起こらない。
寒さに負けた夫は自宅へと戻った。

―――ところが、その時には自宅は消えていたのだ。

後に分かることだが、夫の留守中に父が帰宅し母を刺殺すると火を放ち死亡したらしい。
無理心中である。

夫の父には連帯保証人の借金があった。
夫の父は線の細いタイプの人だったらしく、周囲に返済の為の金を借りようと奔走したが、この日、最後の宛も失われていたのだ。
絶望した夫の父は帰宅するなり、無理心中を決行していた。

こうして、夫は天涯孤独の身となり、引き取ってくれる親戚もなく施設で成長したのである。

夫は此処まで語り終えると席を外した。
残された私は夫の話の中にある矛盾を見出し疑問を抱いていた。

「ホタルイカの身投げ」は満月ではなく新月の夜なのだ。
但し、秋頃なのは合っている。
季節まで合致している以上、夫の母は何故そんな嘘を吐いたのだろうか……。

そして、用意されていたらしい防寒着。
さらに、カレンダーに残されていた印。

答えは1つしかない。
夫の母はその夜に起こることを事前に予期しており夫を避難させたのだ。
だが「お父さんが危ないから」では子供が不安がる。
其処で、夫が「ホタルイカの身投げ」に興味を持っていることを知り、これを利用しようと思い立った。
防寒着もリスクを避ける為に、少しでも長く外に滞在させようとしての物だろう。
夫は母に愛されていたのだ。

私はベランダに戻って来た夫にこれを伝えようとして……はたと気付いた。
夫は昔語りの最初に何と言ったか。

「こんな夜だからちょうどいい」と言ったのだ。
「こんな夜」とはどんな夜か。

琴座流星群?
いや、違う。新月の夜だ。

夫は既に答えを知っているのだ。
その上で、彼なりに過去と向き合っている。
だとすれば、私が口を出すべきではない。

私は夫と語らいつつ流星群の到来を待つことにした―――エンド。

◆関連過去記事
「インシテミル」(文藝春秋社)ネタバレ書評(レビュー)

「儚い羊たちの祝宴」(新潮社)ネタバレ書評(レビュー)

「追想五断章」(集英社)ネタバレ書評(レビュー)

「折れた竜骨」(東京創元社)ネタバレ書評(レビュー)

『Do you love me ?』(『不思議の足跡』収録、米澤穂信著、光文社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『下津山縁起』(米澤穂信著、文藝春秋社刊『別冊 文芸春秋 2012年7月号』)ネタバレ書評(レビュー)

『川越にやってください』(米澤穂信著、早川書房刊『ミステリマガジン700 国内篇』収録)ネタバレ書評(レビュー)

『リカーシブル』(米澤穂信著、新潮社刊『小説新潮』連載)ネタバレ書評(レビュー)まとめ

『リカーシブル リブート』(『Story Seller 2』収録、米澤穂信著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)

【短編集『満願』収録】
『満願』(米澤穂信著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『一続きの音』(『小説新潮 2012年05月号 Story Seller 2012』掲載、米澤穂信著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『死人宿(ザ・ベストミステリーズ2012収録)』(米澤穂信著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『柘榴』(米澤穂信著、新潮社『Mystery Seller(ミステリーセラー)』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

「万灯(小説新潮5月号 Story Seller 2011収録)」(米澤穂信著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『関守』(米澤穂信著、新潮社刊『小説新潮 2013年5月号』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

「満願(Story Seller 3収録)」(米澤穂信著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)

【古典部シリーズ】
「氷菓」(角川書店)ネタバレ書評(レビュー)

「愚者のエンドロール」(角川書店)ネタバレ書評(レビュー)

「クドリャフカの順番」(角川書店)ネタバレ書評(レビュー)

「遠まわりする雛」(角川書店)ネタバレ書評(レビュー)

「ふたりの距離の概算」(角川書店)ネタバレ書評(レビュー)

『鏡には映らない』(米澤穂信著、角川書店刊『野性時代』2012年8月号 vol.105掲載)ネタバレ書評(レビュー)

『長い休日』(米澤穂信著、角川書店刊『小説野性時代 2013年11月号 vol.120』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

【小市民シリーズ】
「夏期限定トロピカルパフェ事件」(東京創元社)ネタバレ書評(レビュー)

【S&Rシリーズ】
『犬はどこだ』(米澤穂信著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)

【太刀洗シリーズ】
『さよなら妖精』(米澤穂信著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)

「名を刻む死(ミステリーズ!vol.47掲載)」(米澤穂信著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)

「蝦蟇倉市事件2」(東京創元社)ネタバレ書評(レビュー)
(ナイフを失われた思い出の中に)

米澤穂信先生、次なる新作は太刀洗シリーズ最新長編『E85.2(仮)』とのこと!!

【僕と松倉シリーズ】
『913』(『小説すばる 2012年01月号』掲載、米澤穂信著、集英社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『ロックオンロッカー』(米澤穂信著、集英社刊『小説すばる 2013年8月号』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

【甦り課シリーズ】
オール讀物増刊「オールスイリ」(文藝春秋社刊)を読んで(米澤穂信「軽い雨」&麻耶雄嵩「少年探偵団と神様」ネタバレ書評)

『黒い網』(米澤穂信著、文藝春秋社刊『オール読物 2013年11月号』掲載)ネタバレ書評(レビュー)

【その他】
探偵Xからの挑戦状!「怪盗Xからの挑戦状」(米澤穂信著)本放送(5月5日放送)ネタバレ批評(レビュー)

『ほたるいかの思い出』が収録された「小説新潮 2014年 07月号 [雑誌]」です!!
小説新潮 2014年 07月号 [雑誌]





「世界堂書店 (文春文庫)」です!!
世界堂書店 (文春文庫)





2014年の短編集「満願」です!!
満願





古典部シリーズ『長い休日』が掲載された「小説 野性時代 第120号」です!!
小説 野性時代 第120号





古典部シリーズ『連峰は晴れているか』が掲載された「野性時代 第56号 62331-57 KADOKAWA文芸MOOK (KADOKAWA文芸MOOK 57)」です!!
野性時代 第56号 62331-57 KADOKAWA文芸MOOK (KADOKAWA文芸MOOK 57)





古典部シリーズ『鏡には映らない』が掲載された「小説 野性時代 第105号 KADOKAWA文芸MOOK 62332‐08 (KADOKAWA文芸MOOK 107)」です!!
小説 野性時代 第105号 KADOKAWA文芸MOOK 62332‐08 (KADOKAWA文芸MOOK 107)





◆米澤穂信先生の作品はこちら。


【関連する記事】
posted by 俺 at 00:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 書評(レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
あらすじの引用元が早川書房になってますよ。
Posted by 名無し at 2014年08月19日 23:56
Re:名無しさん

こんばんわ!!
管理人の“俺”です(^O^)/!!

あっ、確かに間違ってますね……。
早速、訂正せねば!!
ご指摘感謝です(^O^)/!!
Posted by 俺 at 2014年08月22日 00:53
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。