2014年06月25日

『半導体探偵マキナの未定義な冒険』(森川智喜著、文藝春秋社刊)

『半導体探偵マキナの未定義な冒険』(森川智喜著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

名探偵に深刻なエラーが発生しました!

主人公の正行は17歳の男子高校生。のんびり帰宅部の大人しい青年だが、彼には天才科学者の祖父がいた。祖父は現役引退後、研究所にこもってひそかに人間そっくりのAI搭載探偵ロボットを開発し、依頼人に派遣するボランティアをおこなっていたのだ。
ある日、3体の探偵ロボットがエラーを起こし、勝手に町に出て「探偵」活動を始めてしまった。唯一正常に機能している探偵マキナと正行のコンビは、あちこちで「捜査中」と思われる「探偵」たちを無事、見つけ出すことができるのだろうか?

京都大学推理小説研究会の「秘密兵器」と呼ばれた著者。鬼才の最新作は「犯人探し」ならぬ「探偵探し」です。探偵小説界を疾走する才能のきらめきを、ぜひその目で確かめてみてください。

今度は何を出してくる? と毎作、目が離せない。まことに「未定義な」才能の持ち主である。――綾辻行人
星新一と「ミステリーランド」が好きな人に薦めたい。――法月綸太郎
ロボット探偵がロボット探偵を探す。二十一世紀のパット・マガー!――我孫子武丸
EQ(エレクトロニック・カルテット)ここに爆誕!――麻耶雄嵩
(文藝春秋社公式HPより)


<感想>

『スノーホワイト 名探偵三途川理と少女の鏡は千の目を持つ』(講談社刊)にて「第14回 本格ミステリ大賞」を受賞された森川智喜先生の新作です。

第14回本格ミステリ大賞(小説部門、評論・研究部門)発表!!栄冠はどの作品!?

ポップな表紙に惹かれて手に取ってみましたが、なかなかに面白い!!

本作は「あらすじ」にもある通り探偵ロボットの1体マキナと共に、エラーを起こした為に暴走してしまった他の3体の探偵ロボットを捜し確保して行くストーリー。
その中で他の3体がそれぞれに抱えたエラーの原因を探っていくことになります。

このエラーの原因がある定義に基づくものであるのが本作の要。
それらは主に拡大解釈や主体の誤認に伴うものなのですが……。

実はこの拡大解釈や主体の誤認とは「ミステリ」の根幹を担うモノ。
本作は古くから存在するコレを、現代風に新しく味付けし直した作品と言えるのかもしれません。
また、まさにこれを通じて探偵ロボットの探偵である由縁が追及され、最終的には本作それ自体が「探偵」の定義にも繋がる点が秀逸。

そして、集結した4体の探偵ロボットがそれぞれの特徴(マキナが推理、クリクが機動性、オーガスタスが心遣い、イーディが軌道演算)を活かしたラストの一篇「RETURN」。これが良い!!

文章も読み易いので、気になった方は是非チェックされては如何でしょうか?

ちなみに、各ロボット名と章題もなかなかに捻っている印象。

まず、各ロボットの名前になりますが。

マキナは「デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)」からでしょう。
まさに「物語の結末を導く」モノ。

続いて、クリクは「機械探偵クリク・ロボット」からかな。
オーガスタスは「思考機械」こと「オーガスタス・S・F・X・ヴァン・ドゥーゼン教授」と思われる。
イーディは「Q.E.D.」の「E.D.」からかなぁ……イーディだけがよく分からない。
他の3者が機械に由来しているので、その辺りに何かあるのだろうとは思うのだけど。

でもって、各章題。
「プロローグ」ではなく「INCLUDE」から始まり、「DEBUG」が1、2、3と続き最後に「エピローグ」ではなく「RETURN」。
これまたプログラミング系の用語を使用しているのも特徴です。

世界観はバッチリ、キャラも魅力的とバランスも良いのでシリーズ続編も期待したい作品です。

ちなみに、毎度のことながらネタバレあらすじにはかなり改変を加えています。
すなわち、あくまでエッセンスを伝えるに留まっています。
本作の本質を楽しむ為には原典を読むことをオススメします!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:

坂巻正行:主人公。ごく普通(どちらかと言えば運動が苦手)の17歳の高校生。
坂巻茂之:正行の祖父、4体の探偵ロボットの開発者。冒頭にて死去・享年91歳。
マキナ:探偵ロボット4号機。正行との同年代の少女の姿をしており、4体中でもっとも最新鋭のAIを搭載している。開発コードは「CIMN4」。
クリク:探偵ロボット3号機。少女姿をしている。機動力に優れる。開発コードは「CIMN3」。
オーガスタス:探偵ロボット2号機。若い男性の姿をしている。心遣いに優れる。開発コードは「CIMN2」。
イーディ:探偵ロボット1号機。妙齢の女性の姿をしている。軌道演算が得意。開発コードは「CIMN1」。
竹田:坂巻博士の旧知。理学研究科の教授。
五十嵐:正行の友人の1人。


・INCLUDE

坂巻正行は17歳の平凡な男子高校生である。
失敬、語弊がありました。
正確には平凡で「運動の苦手な」男子高校生である。
しかし、そんな彼が非凡な体験を経験することになるのである。

事の発端は、彼の祖父で91歳になる坂巻茂之博士が作った探偵にあった。
その名は「開発コードCIMN4」こと「マキナ」。
正行と同年代の少女を模して作られた「彼女」は、最先端のAIを搭載する「探偵ロボット」だったのである。
今日も、正行はマキナに誘われ事件現場へと赴くことに。

今回の事件は現金窃盗事件。
依頼人は、茂之の旧知である竹田教授である。
何でも学術交流会の為に徴収した参加費11万6千7百円が研究室から何者かに盗まれたらしい。
本来なら出張に出る筈だった竹田教授が予定を変更し研究室に赴いたところ、これが発覚したのだ。
竹田教授はマキナの腕試しとばかりに犯人を突き止めるよう依頼して来たのである。

これをマキナは探偵ロボットである彼女ならではの方法で解決させる。
なんと、窃盗された現金の微妙な重さを計測し所持している犯人を突き止めたのだ。

犯人は竹田教授の助手の1人であった。
なんでも、横領していた研究費の穴埋めに使うつもりだったらしい。
本来は竹田教授の出張中に盗んだ金も戻しておく予定だったのだそうだ。
それが、竹田教授の予定が変更したことで計画が狂ったのだ。

こうして犯人は判明した。
もっとも、窃盗よりも横領が発覚したことが何よりも衝撃的であったが……。

・DEBUG1

マキナが突然、正行を訪ねて来た―――助けて欲しいらしい。
なんと、祖父・茂之が急死してしまったのである。
しかも、これによりマキナの先輩に当たる3体の探偵ロボットにエラーが発生。
エラーを抱えたまま、街へと飛び出してしまったのだそうだ。

彼らはその存在意義に基づき、エラーを抱えたまま独自の探偵活動を行っているに違いないようである。
しかし、通常時と違いエラーを抱えた状態では深刻な事態に発展しかねないと言う。
こうして、茂之に代わりマキナの新たなマスターとなった正行は他の3体を回収することとなった。

特にあてもなく街へと飛び出した正行とマキナ。
ところが、異常事態は向こうから彼らのもとへやって来た。

なんと、1人の少女がバイクとそれに乗った運転手を抱えて歩いているではないか。
そう、彼女こそ「開発コードCIMN3」こと探偵ロボットの1体「クリク」であった。

クリクに抱えられた運転手は「助けてくれぇ」と情けない声を上げていた。
運転手によれば「ペットボトルの分別をせずに捨てた犯人を捜してくれ」と依頼したところ、暫くして戻って来るなりこうなったと言う。

早速、クリクを捕まえようとするマキナだが、探偵ロボットでも機動性に優れたクリクに逃げられてしまう。
マキナによれば、クリクは彼女が事件解決に必要と考えている為に運転手を連れて行ってしまったようだ。
しかし、クリクは運転手を犯人と考えているワケではないようだが……。

そうこうしている内にも、クリクがあちこちで騒動を起こしていることが判明する。

例えばこうである。

赤ん坊を抱えた母親から落書き事件の解決を依頼されたクリク。
暫くして戻って来たかと思うと、依頼者の家に押し入ったと言う。
奥の間で寝ていた赤ん坊のもとまでズカズカと上り込んだかと思うと、クリクの暴挙に唖然とする母親の前で犯人の名前を明かしたのだそうだ。
結局、犯人の名前よりもクリクの態度に腹を立てた母親により、クリクは大人しく追い出されたそうである。

他にも、郵便局の職員や通りがかりの男性を先の運転手同様に何処かへ連れ去っているようだ。

これを聞いたマキナはクリクのエラーの正体が分かったと述べる。
マキナは事態を収拾するべく、逃げたクリクの後を追うことに。

その頃、クリクは縛り上げた3人の男性を前に何やら講釈を始めていた。
そっと近付く正行とマキナ。
どうやら、ペットボトル無分別事件の犯人を指摘しているようだ。

「以上により、犯人は米田さんです」
自身の推理を語り終え、満足そうな様子のクリク。
マキナは姿を現すと、これに歩み寄るがクリクは先程までと異なり逃げようとはしない。
マキナは隙を見てクリクの停止ボタンを押し、これを回収することに成功するのであった。

正行はクリクのエラーの正体を尋ねる。
マキナは笑って答えた。
「依頼人に対する定義の錯誤です」と。

クリクはどこからどこまでが依頼人の定義に属するかを理解出来なくなっていたのだ。
エラーを抱えたクリクにとって「依頼人」とは「依頼されたその場に居る人すべて」となっていた。
そして、ロボット探偵は「依頼人に依頼の成果を報告すること」を義務付けられている。

落書き事件の際は「赤ん坊を抱えた母親」に依頼を受けた。
正常な状態ならば依頼者は「母親」である。
だが、エラーを抱えたクリクにとっては依頼者は「赤ん坊と母親」の2人になっていたのだ。
其処で、犯人を突き止めたクリクは母親の制止を振り切り「赤ん坊と母親」を揃えようとした。
すべては成果を報告する為だ。
クリクにとって母親1人では依頼者になり得ない。
だから、制止を無視した。
しかし、その後に「母親と赤ん坊」が揃ったことで「依頼者」となり、言われるままに大人しく帰ったのだ。

ペットボトル無分別事件でも同様のことが起きていた。
クリクは運転手から依頼を受けた際に、その場に居た通りがかりの人々をも依頼者に含めた。
すなわち、郵便局員たちだ。
其処で、彼らに成果を報告するべく1箇所に集める必要に駆られたのである。
結果、各個人の意志に反し無理に拘束されることとなったのだ。

正行はあまりの結末に唖然とするのであった……。

・コーヒーブレイク1 

此処からはマキナの手記である。
其処には本編だとクリクが誤解されかねないので……との言葉と共に本来のクリクの活躍譚が記載されていた。

ある日、企業内スパイの捜査を依頼されたクリク。
容疑者は5人であるが、スパイは用心深く尻尾を出さない。
しかし、クリクは苦も無くスパイを炙り出した。
なんと、探偵ロボットとしての特徴と機動性を活かし、社内すべての指紋を瞬く間に照合し犯人を特定したのだ。

・DEBUG2

クリクの回収に成功した正行とマキナ。
マキナはクリクのエラー修復を開始する。

一方で2体目の探偵ロボット捜しをスタートさせていた。
と、正行は自身の通う高校で「開発コードCIMN2」ことシリーズ唯一の男性型探偵ロボット「オーガスタス」を発見することに。
オーガスタスは犯人を追っていると語るや姿を消すのだが……。

マキナと合流した正行はオーガスタスが引き受けた依頼を突き止めた。
それは「猫を捨てた犯人を突き止めて欲しい」との依頼。

ところが、マキナはあっさりと犯人を突き止めてしまう。
犯人は幼い少女であった。
何でも、野良猫を拾い自宅に連れ帰ったが、猫嫌いの父に飼うことを反対された為に元の場所に戻したらしい。
言わば、犯人とも言えない事件である。

しかし、オーガスタスは未だにこの犯人を追っているようである。
これはどうしたことなのだろうか。

オーガスタスの捜査の痕跡を追跡したマキナと正行は彼がXX社から始まり、大学、高校、中学と移動していることに気付いた。

此処にマキナはオーガスタスのエラーの正体が分かったと述べる。
オーガスタスの移動場所に先回りしたマキナと正行は彼を回収することに成功するのであった。

オーガスタスのエラーの正体を問う正行に、マキナは笑って答える。
「犯人に対する定義の錯誤です」と。

依頼を受けたオーガスタスはマキナ同様に少女に辿り着いた。
だが、オーガスタスは此処で終わらなかった。
彼女に猫を捨てさせた者こそが真犯人だと思考したのである。

この場合は猫嫌いの父親だ。
しかし、オーガスタスは此処で終わらなかった。
では、猫嫌いの父親を猫嫌いにした者こそが真犯人だと思考したのである。
其処で、父親が勤務している会社から大学、高校と彼の経歴を遡って調べていた。

とはいえ、この追及はキリが無い。
何故なら、父親を猫嫌いにした者を突き止めても、そんな行動を取らさせた別の何かを追及する必要が生じる。
仮にそれを突き止めても、その別の何かの原因となった何かを追わねばならない。
永遠に終わらないのだ。

「通常ならば有り得ないことなんですけどねぇ……」
感想を洩らすマキナ。
「お前、頑張り過ぎなんだよ」
正行はオーガスタスにツッコミを入れるのであった。

・コーヒーブレイク2

此処からは再びマキナの手記である。
其処には本編だとオーガスタスが誤解されかねないので……との言葉と共に本来のオーガスタスの活躍譚が記載されていた。

ある日、オーガスタスは家出人の少年の捜査依頼を引き受けた。
これは直ぐに成功したが、戻って来たオーガスタスからは腕が消えていた。

事情を問う茂之にオーガスタスは答えた。
実は家出人の少年は家出ではなく、泊まり込みでバイトをしていたのである。
なんでも、親へプレゼントをするお金を貯めていたらしい。
オーガスタスにとっては少年を連れ戻すことが依頼内容ではあるが、少年にとっては道半ばで家へ戻れば意味が無い。
其処で、オーガスタスは自身の腕を金に換え、少年に与えたのである。

これにより、オーガスタスは依頼を完遂。
少年も家に戻ることとなった。
もちろん、少年はオーガスタスに少しずつでも返済する予定なのだそうだ。

このように、オーガスタスは心遣いが特徴の探偵ロボットなのである。

・DEBUG3

オーガスタスの回収も無事終わり、残る探偵ロボットは1体となった。
その名は「開発コードCIMN1」こと最初の1体にして軌道演算に優れる女性型探偵ロボット「イーディ」だ。
「イーディ」の特徴は何と言っても、その射撃の技量である。
軌道演算により、まるで芸術のような射撃を行うことが出来るのだ。

その日、イーディを探すべく茂之の研究所を訪れた正行。
すると、充電装置の中に探偵ロボットの姿があった。

イーディが射撃が得意であることを聞かされていた正行はふと不安に駆られ、充電装置の中のロボットに向けて「護ってくれよ」と呟く。
これに「OK、マスター」と応じる声が……。

しかし、それは正行の知るマキナの声とは異なっていた。
まさか……と怯える正行の前で充電装置から現れたのは当のイーディであった。
どうやら、マキナに見つからないよう隠れてエネルギーを補充していたようである。
流石は最初の1体と言えようか。

イーディはシニカルな笑顔を浮かべると「必ず護ります」と言いつつ、正行に向けて発砲する。
腰が引いていたことで弾丸を避けることが出来た正行の脳裏に、イーディのエラーの正体がちらつく。
まさか、こいつ守ると殺すを間違えているのでは……悪夢のような想像に正行の身体が縮み上がる。

その間にもイーディは「マスター、離れないで下さい」と呼びかけつつ、正行へと銃口を向けている。
そして、発砲。
運動が苦手な正行だが、そうも言ってはいられない。
咄嗟に物影へと飛び込み、これを躱す。

其処へ騒動を聞きつけたマキナが現れた。
すると、イーディはマキナにまで発砲を行う。
もともと頑丈では無いマキナはあっという間にボロボロに、しかも声帯まで破壊されてしまう。

それでも正行を庇うマキナ。
しかし、イーディに遠慮は無い。
重ねて発砲すると、跳弾を利用しマキナの停止ボタンを押すとの離れ業まで見せる。
正行は停止したマキナを置いて逃走を余儀なくされることに。

これを追うイーディ。
彼女は「逃げないで下さいマスター。敵が多過ぎます」と警告しつつ、未だに発砲を繰り返していた。

こうなればイーディに対抗するにはエラーを処置したクリクとオーガスタスしか居ない。
しかし、当のクリクとオーガスタスはのんびりしたもの。
正行の危機感を理解していない様子で、全く頼りにならない。

やはり、マキナしか居ない!!
正行はマキナが停止した研究室へと戻ることに。

どうやら、イーディは居ないようだ。
しかし、いつ現れるか分からない。

正行はマキナの再起動を行いつつ、現在置かれた状況を必死に説明するのだが……。
起動したマキナもが、正行へと銃を向けるではないか!!
驚いた正行は慌ててマキナの停止ボタンを押すしかなかった……。

まさか、マキナまでもが狙って来るなんて……思わぬ裏切りにショックを受ける正行。
だが、果たしてマキナの裏切りは事実だろうか。
これまでの事件を通じて正行とマキナの間には信頼関係が育まれていたのである。

そんな正行の目にマキナが印刷したと思われる用紙が飛び込む。
其処には1文字「光」とのみ書かれていた。

これを見た正行はイーディのエラー真の正体に気付いた。
数時間後、イーディは停止、マキナは再起動すると声帯を修復することとなった。

正行はマキナを疑ったことを詫び、ヒントを与えてくれた礼を述べる。
これに「今回の事件は正行さんが1人で解決したものです」と評するマキナ。

実はイーディのエラーは「人に対する定義の錯誤」にあった。
「正行の影」を「人」と誤認してしまったのだ。

イーディは正行から警護依頼を引き受けたと認識していた。
ところが、「正行の影」を「人」と誤認したイーディはそれを「敵」であるとみなしてしまった。
其処で、正行ではなく執拗に影を狙っていたのだ。
だから、何度撃っても消えない「影」に発砲し続ける羽目に陥った。

マキナは再起動されるまでの間にこの事情に気付いた。
しかし、声帯を破壊されており事実を伝えられない。
其処で「光」とのヒントを残しつつ、影が出来ないよう部屋の照明を破壊しようとしたのだ。
銃口の先には照明があったのだが、それが正行への発砲と誤解されてしまったのだ。

正行はマキナのヒントから、この事実に辿り着いた。
部屋の灯りを落とすと、影を作らないようにイーディに接近し停止ボタンを押したのだ。
こうして、イーディもまた回収されることに。

ちなみに、マキナによればイーディが本気なら正行を狙った最初の一発で済んでいたとのことである。

・コーヒーブレイク3

此処からはまたもマキナの手記である。
其処には本編だとイーディが誤解されかねないので……との言葉と共に本来のイーディの活躍譚が記載されていた。

ある日、イーディは依頼人と共にビルの一室にて悪漢に追い詰められていた。
手には重要書類が握られている。
悪漢の目的はコレである。
だが、イーディは書類を無事にビル外へと持ち出さなければならない。
しかし、イーディはともかく依頼人はこの場から逃げられそうにない。

其処で咄嗟にイーディはビルの窓を開けると書類を手放した。
書類はヒラヒラと何処かへ飛んで行く。
悪漢は書類が失われたと知るや、彼らを見逃した。
とはいえ、これでは依頼失敗かに思われたのだが……。

後日、依頼人宅に書類が郵送されて来た。
追い詰められたイーディは咄嗟に書類を紙飛行機にすると、窓から手放すふりをして郵便ポストまで飛ばしたのだ。
書類には何時の間にか切手も貼られていた。
だから、依頼人の手許に届いたのである。

もちろん、郵便ポストまでの距離や空気抵抗も計算した上での投擲である。
軌道演算が得意なイーディだからこそ出来た芸当であった。

・RETURN

イーディ、オーガスタス、クリク、マキナと4体の探偵ロボットが正行のもとに揃った。
正行は正式に彼らのマスターになった。

そんなある日、正行の旧友・五十嵐から依頼が飛び込む。
何でも、五十嵐が自転車を停めていたところ、荷物籠に乗せていた鞄が盗まれたらしい。
中には貴重なサイン本が入っており、それが犯人の目的だったに違いないと主張する五十嵐。
しかも、鞄には想い出のキーホルダーが付いているので何としてでも取り返して欲しいらしい。

「何とか五十嵐が満足するように出来ないだろうか」とマキナたちに相談する正行。
これにマキナたちが立ち上がった。

まずは事件発生現場に足を運んだ正行とマキナたち。
其処は高台になっており、かなり下には野原が広がっていた。

現場に到着するや否や、マキナは下の野原を覗き込む。
すると……あった!!五十嵐の鞄だ。

そもそも盗難自体が五十嵐の勘違いだったのだ。
五十嵐が停めた自転車は高台の風に煽られ倒れた。
籠の中の鞄は下の野原へ落ちてしまった。
その後、親切な人が倒れた自転車を見かねて立ち上げた。
其処に五十嵐が戻って来た為に事情に気付かなかったのだ。

機動性を活かしてクリクが鞄を回収する。
中には、雨風に曝されぐしょぐしょになったサイン本が入っている。
だが、キーホルダーは無いようだ。

鞄自体は手に入れたのだし、これで依頼完了だろうと考える正行。
ところが、マキナたちは浮かぬ顔だ。
ぐしょぐしょに濡れたサイン本と同じ本を入手すると、巧妙にサインを真似て施した。
さらに、キーホルダーも寸分違わぬモノを購入し揃えた。

どうやら、マキナたちは失った状態の鞄を再現し五十嵐に返却しようとしているようだ。
なんで其処まで……と言いかけて正行は気付いた。

マキナたちと正行の間で依頼者と依頼内容の認識に相違があることに。

正行にとっては五十嵐からの依頼であった。
だが、マキナたちにとっては正行が相談した時点で依頼者は正行なのだ。

当然、求められる依頼内容も変わって来る。

正行は、五十嵐から言われた通り「ただ鞄を取り戻せばよい」と考えた。
だが、マキナたちは正行に言われた通り「何とか五十嵐が満足するように出来ないだろうか」=「如何にして五十嵐を満足させるか」になっているのである。
其処に事実であるかどうかは含まれていない。

まさにオーガスタスの心遣いが活きて来る展開なのだ。
だから、五十嵐の鞄は強風に煽られた結果、高台から落ちた物であってはならない。
だから、サイン本もキーホルダーも無事でなければならないのだ。

こうして、サイン本とキーホルダー付きの鞄を用意したマキナ。
正行は真相を告げず、わけあって犯人から取り戻したとの態で五十嵐に返却しようとする。

ところが、その日現れた五十嵐は意外なことを言い出した。
キーホルダーが部屋で見つかったのだ。
どうやら、最初から鞄に付いて居なかったらしい。

これは想定外である。
用意した鞄にはキーホルダーが付いて居る。
この状態で返却すれば嘘がバレてしまう。

困惑する正行だが、そのとき五十嵐が突然クシャミを始めた。
その隙を突き、マキナが鞄からキーホルダーを外す。
五十嵐が立ち直った頃には、彼が望む状態の鞄が其処にはあった。

こうして、五十嵐は真相も知らず意気揚々と帰って行った。

それにしても、都合よくクシャミをしたものだ……正行がほっと胸を撫で下ろしていると。
「流石はイーディです」マキナが感想を口にした。

正行が周囲を確認すると風上にイーディが立っていた。
そして、その手には胡椒の瓶が握られていたのである―――エンド。

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