ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
世界初の脳移植手術を受けた平凡な男を待ちうけていた過酷な運命の悪戯!
脳移植を受けた男の自己崩壊の悲劇。
平凡な青年・成瀬純一をある日突然、不慮の事故が襲った。そして彼の頭に世界初の脳移植手術が行われた。それまで画家を夢見て、優しい恋人を愛していた純一は、手術後徐々に性格が変わっていくのを、自分ではどうしょうもない。自己崩壊の恐怖に駆られた純一は自分に移植された悩の持主(ドナー)の正体を突き止める。
(講談社公式HPより)
<感想>
『変身』とのタイトルで浮かぶ作品と言えばフランツ・カフカの『変身』。
世には「華麗に変身を遂げる」などポジティブな意味で使われることも多い「変身」ですが、このカフカの『変身』のように文学作品で用いられるタイトルとしては内容的に悲劇的な作品が多いようです。
当然、本作である東野圭吾先生『変身』もまた悲劇的な作品となっています。
あの結末に「愛」を見て取れるかどうかで本作の捉え方も些か変わって来るのでしょうが、多くの方はこれに同意頂けるのではないでしょうか。
少なくとも、あれが登場人物全員がスキップしながら諸手を上げるタイプのエンディングであったと首肯する方は居りますまい。
というワケで、本作の原典をこれから読もうとされる方は悲劇であるとの覚悟が必要なので注意!!
ちなみに、ネタバレあらすじにはそれだけの力は無いので安心を。
なにしろ、原典の持つ力が凄いのです。特に訥々と流れるあの文体が。
では、此処からいきなり内容に踏み込みます。
まず思ったことは「人の欲望が成瀬を京極に変えて行ったのか」とのこと。
成瀬は手術直後から変貌を遂げつつはあったけど、その推移を緩やかにする術はあったのではないか。
少なくとも、彼の気持ちを刺激するようなことが起こらなければ、悲劇的な結末を回避することは不可能でも、緩やかにすることは出来たかもしれないんじゃないかなぁ……。
そして作中で印象的な描かれ方をしていた「ピアノ」と「絵画」。
「ピアノ」は京極の象徴、「絵画」は成瀬の象徴。
術後の成瀬の嗜好が「絵画」から「ピアノ」に移り、同時に恵への想いも失われて行くのは切なかった。
これこそが成瀬が成瀬ではなくなっていく事実を明確にしていたんだなぁ。
このアイデンティティの喪失は、ある意味、認知症の問題にも近いかもしれない。
人を形作るモノは「感情」と「記憶」なのだろうか。
これら2つが兼ね備えられたモノこそが「人格」なのだろうか。
だとすれば、人格は何処に宿るのか!?
脳か心臓か……それとも心なのか!?
京極の心に成瀬の身体となれば、それは「成瀬」なのか「京極」なのか!?
京極として生きるのか、成瀬として死を選ぶのか!?
同時に京極として生きることは成瀬としての死ではないのか。
読者に様々な想いを呼び起こさせる作品でもありますね。
それと「ネタバレあらすじ」はかなり端折っているので注意!!
興味のある方は原作を読むべし!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
成瀬:温厚な人柄だったが……。
恵:成瀬の恋人。
京極:極悪非道な男。
堂元:成瀬に手術を行った研究者。
直子:堂元の助手。
成瀬は過去に画家を志望しながら、これを実現出来なかった青年である。
しかし、彼は今も絵を描き続けていた。
また、成瀬には恋人・恵がおり平凡ながらも幸せに暮らしていた。
ところがある日、成瀬は残虐な男・京極が引き起こした事件に巻き込まれ、生死の境を彷徨うことに。
京極は直後に自殺を遂げた。
この間、命を助ける為に堂元により成瀬に手術が施された。
次に成瀬が目覚めたとき、彼の世界は変わっていた。
世界がこれまでとは別の見え方をするようになったのである。
それに伴い成瀬もまた性格が変わって行く。
より衝動的に、より破壊的に、より凶暴に。
手術前の成瀬は穏やかな男であったが、手術後の成瀬は少しずつ変貌していた。
これに成瀬は途轍もない不安を抱いていた。
そして、成瀬は知る。
彼が他人の脳の一部を移植されたことを。
そして、それが成功することが稀有なケースに該当するのだと言うことを。
彼はまさに特別な成功例だったのだ。
しかし、成瀬は素直には喜べなかった。
どんどん自分が自分で無くなっていく感覚が続いていたからだ。
さらにある日、気付いてしまった。
成瀬に移植されたのは事件を起こした当の京極の脳だったのだ。
成瀬の意識は少しずつ希薄になって行き、日に日に京極の意識に覆い尽くされて行く。
成瀬の思考はいつしか京極の思考となっていた。
自身を喪失する恐怖に苛まれた成瀬に直子が近付く。
今や恋人の筈の恵にすら愛情を覚えられなくなっていた成瀬は直子に惹かれて行く。
だが、直子は研究対象を監視していたに過ぎなかった。
これに逆上した成瀬は直子を殺害してしまう。
しかし、この事実すら成瀬を研究対象とする人々に隠蔽されてしまう。
日に日に消えて行く自分。
成瀬は必死にあれほど好きだった絵画に打ち込もうとするが、それすら覚束なくなってしまう。
もはや、成瀬は意識の迷い子となっていた。
だが、そんな成瀬を今もって献身的に見守っている存在があった。
恵である。
成瀬は恵に支えられ、自身を保とうとする。
しかしある日、恵もが裏切るのではないかと考えるように。
遂にはこれを手にかけようとして……恵の涙を目にし自身の行動に気付くことに。
愛する人すら信じられず殺そうとしてしまうことに恐れ戦いた成瀬。
せめて、死ぬその時は自分自身で居たいと堂元のもとへ。
成瀬は堂元に手術前の状態に戻すよう依頼。
これを断られると拳銃自殺を図る。
責任を感じていた堂元は成瀬の行動に胸を打たれ、移植部分を切除することに。
以来、成瀬は生きたまま眠り続ける生活を送ることとなった。
皮肉なことに、成瀬の絵が些か認められたこともあって彼の絵により彼は命を永らえた。
ある日、遂に彼は事切れた。
本当に眠るような死であったと言う。
だが、成瀬は成瀬を全うした。
そして、その傍らには恵が最期まで付き添っていたのだそうである―――エンド。
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