2014年08月26日

『ソロモンの偽証 第1部、第2部、第3部』(宮部みゆき著、新潮社刊)

『ソロモンの偽証 第1部、第2部、第3部』(宮部みゆき著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

・第1部 事件
その法廷は十四歳の死で始まり偽証で完結した。五年ぶりの現代ミステリー巨編!

クリスマスの朝、雪の校庭に急降下した十四歳。その死は校舎に眠っていた悪意を揺り醒ました。目撃者を名乗る匿名の告発状が、やがて主役に躍り出る。新たな殺人計画、マスコミの過剰報道、そして犠牲者が一人、また一人。気づけば中学校は死を賭けたゲームの盤上にあった。死体は何を仕掛けたのか。真意を知っているのは誰!?

・第2部 決意
期間はわずか15日。有志を集め証人を探せ! 14歳の夏をかけた決戦、カウントダウン!

もう大人たちに任せておけない――。保身に身を窶す教師たちに見切りをつけ、一人の女子生徒が立ち上がった。校舎を覆う悪意の雲を拭い去り、隠された真実を暴くため、学校内裁判を開廷しよう! 教師による圧力に屈せず走り出す数名の有志たち。そして他校から名乗りを上げた弁護人の降臨。その手捌きに一同は戦慄した……。

・第3部 法廷
この裁判は仕組まれていた!? 最後の証人の登場に呆然となる法廷。驚天動地の完結篇!

その証人はおずおずと証言台に立った。瞬間、真夏の法廷は沸騰し、やがて深い沈黙が支配していった。事件を覆う封印が次々と解かれてゆく。告発状の主も、クリスマスの雪道を駆け抜けた謎の少年も、死を賭けたゲームの囚われ人だったのだ。見えざる手がこの裁判を操っていたのだとすれば……。驚愕と感動の評決が、今下る!

・第1部文庫版 上巻
彼の死は、自殺か、殺人か――。作家生活25年の集大成、現代ミステリーの金字塔。

クリスマス未明、一人の中学生が転落死した。柏木卓也、14歳。彼はなぜ死んだのか。殺人か、自殺か。謎の死への疑念が広がる中、“同級生の犯行”を告発する手紙が関係者に届く。さらに、過剰報道によって学校、保護者の混乱は極まり、犯人捜しが公然と始まった――。ひとつの死をきっかけに膨れ上がる人々の悪意。それに抗し、真実を求める生徒たちを描いた、現代ミステリーの最高峰。

・第1部文庫版 下巻
彼の死は、自殺か、殺人か――。作家生活25年の集大成、現代ミステリーの金字塔。

もう一度、事件を調べてください。柏木君を突き落としたのは――。告発状を報じたHBSの報道番組は、厄災の箱を開いた。止まぬ疑心暗鬼。連鎖する悪意。そして、同級生がまた一人、命を落とす。拡大する事件を前に、術なく屈していく大人達に対し、捜査一課の刑事を父に持つ藤野涼子は、級友の死の真相を知るため、ある決断を下す。それは「学校内裁判」という伝説の始まりだった。
(新潮社公式HPより)


<感想>

この『ソロモンの偽証』、2013年のランキングでは『早ミス』対象期間外、『本ミス』で23位、『文春』2位、『このミス』2位を記録した作品。
この年には横山秀夫先生『64』があり、これを除けば『文春』『このミス』で1位になっていた作品です。
2015年には映画化が発表されています。

2013年(2012年発売)ミステリ書籍ランキングまとめ!!

宮部みゆき先生『ソロモンの偽証』(新潮社刊)が映画化、キャスト募集は2014年1月25日まで!!

「常に特別であろうとした若さゆえの万能感、それが転じての閉塞感」
これこそが全ての罪となるのでしょうか。

人は成長するにつれ、幼き日に思い浮かべた自分から乖離して行くことに気付きます。
幼い日、あれになりたい、これになりたいと思い浮かべます。
其処には無限の可能性が広がっている。
しかし、年を重ねるにつれ、この可能性の幅はどんどんと狭くなって行く。

人はそれを「挫折感」と呼ぶのですが、おそらく柏木を殺したのはこれだったのでしょう。
自身を特別と自負する柏木にとってコレは許し難いモノであった。
其処で柏木はこの「挫折感」を乗り越える為に、神原を利用した。
歪んだ優越感を以て、自身の挫折を糊塗しアイデンティティの崩壊を防ごうとしたのでしょう。
しかし、そんな柏木の行為は「見下していた筈の神原が挫折感を乗り越えた」ことでさらに自身を追い込むことに。
それは柏木自身にとって完全に想定外の出来事。
だから、自身を持て余し対応すべき術を失った柏木は死を選ばざるを得なかったのでしょう。

柏木を殺したのは「彼の若さ(幼さ)」だったのか……結末がとても苦いです。

ちなみに上記解釈及び下記あらすじについては、あくまで1つの解釈に過ぎません、
本作はエピソードの取捨選択により、様々に色を変える作品。
捉え方は読者に委ねられているように思うので。
例えば、上記解釈も終盤に登場する柏木の日記(小説)を加味すると多少色が変わるでしょう。
他にも柏木家の面々の証言などによっても変わって来る点があるように思います。
ネタバレあらすじではこれを含め、いろいろと省いている点があります。
これによりまとめ易くしたのですが、その反面で描写が浅くなってしまいました。
此の点をご注意頂きつつ、皆さんも是非、本作それ自体を読んで自身の感想を見つけてください。

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
柏木卓也:謎の転落死を遂げた少年。
神原和彦:柏木の友人。学校内裁判では弁護士役。
藤野涼子:学校内裁判では検事役。
大出俊次:柏木とトラブルを起こしていた。学校内裁判での被告人となる。
三宅樹里:大出からイジメを受けていた生徒。
浅井松子:樹里の親友。事故死を遂げる。
津崎:城東第三中学校の校長。
茂木悦男:学校問題に詳しいジャーナリスト。

クリスマスの朝、中学生・柏木卓也の死体が彼が通う城東第三中学校の校庭で発見された。
果たして、如何なる理由による死か―――。

情報を統制しようとする校長・津崎の対応に批判が集中。
そんな中、匿名の告発状が事態を大きく動かした。
なんと、柏木卓也の死は他殺だとしていたのだ。
しかも、その犯人は大出俊次であるとされていた。

実は、柏木卓也は大出俊次と衝突し登校拒否になっていたのだ。
大出は札付きのワルとして校内はおろか地元でも有名な人物。
これと衝突してしまった故に、追い詰められた柏木が自殺したと思われていたのだが……。
告発状の内容が事実ならば、大出による他殺となってしまう。

この告発状を津崎は隠滅しようとする。
ところが、学校問題に詳しいジャーナリスト・茂木悦男がこれに乗り出し、すべてを透破抜いてしまう。

此処に柏木卓也の死は奇妙な色を帯び始めた。
単なる1個人の死ではなく、其処に大きな問題提起が含まれているとされだしたのだ。

関係者の様々な思惑により情報が錯綜する中、告発状は大きな役割を果たした。
疑心暗鬼に陥る生徒たち。

しかし、季節が夏になっても事態は解決しない。
其処で柏木や大出の級友・藤野涼子が学校内裁判を提案。
これに柏木の友人で他校に通う神原和彦が加わり、学校内裁判は実現を見た。
藤野涼子が検事役、神原和彦が弁護役、柏木の死体の第一発見者・野田健一が弁護助手、大出俊次が被告である。

そんな中、浅井松子という少女が死亡してしまう。
交通事故死であった。

しかし、此処から告発状の主が判明することに。
主の正体は三宅樹里であった。
彼女は大出にイジメを受けていた。
だが、クラスの誰も彼女を救おうとはしなかったのだ。
其処で自身を死の直前まで追い詰めた大出を、告発状で柏木殺害犯として告発したのだ。

松子はそんな樹里の唯一の親友であった。
告発状作成に協力したのだが、茂木により報道されたことで事態が大きくなったことを憂慮し不安から事故に遭ってしまったのだ。
樹里は自分が松子を殺してしまったと罪を訴える。

様々な人の想いを飲み込みつつ、なおも淡々と進む学校内裁判。
最後に登場した証人は……神原和彦であった。
そして、この学校内裁判を企んだのもすべて和彦だったことが此処で明らかに。

和彦は柏木と自身の歪な友情を明かし出す。
柏木は友人のふりをしつつ、和彦を見下し続けていたのだ。

和彦の父母は養父母であった。
和彦の実父はアルコール中毒で妻を殺害し自殺していたのだ。
つまり、和彦の実父は実母を殺害していたのだ。
これは和彦にとってトラウマであった。

そんな和彦の傷を癒したのは養父母であった。
心の何処かに傷を抱えつつ、表向き普通の中学生として振る舞えていたのは彼らの力が大きい。

そんな和彦は柏木と出会った。
柏木は家庭に不満を抱いていた。
自身を特別と任じる彼にとって、幾ら両親の注目を集めても其処に愛情を感じられなかったのだ。
おそらく、思春期特有の寂しさだったのだろう。

鬱屈を抱えていた柏木は和彦に影を感じ取ると、これに近付いた。
和彦はそんな柏木に何処か近しいモノを感じていた。

柏木は和彦相手に「死」について語り、そんな柏木を和彦は励ました。
同時に和彦は柏木を落ち着かせる為に自身の境遇を明かした。
これに柏木は大きく満足を示した。

しかし、日に日に柏木は塞ぎ込んで行った。
それは家庭だけでなく、学校での彼の置かれた境遇も影響していたのかもしれない。
柏木は大出と衝突していたのだ。
これは柏木にとって想定外の出来事だったらしい。

大出は怖い、登校はしたくない。
しかし、そんな大出を怖いからと詫びを入れるのは許せない。
だからといって、対決することも不可能だ。
さらに、転校するのは負けを認めることになる。
もはや、自身のプライドを守る為には退くに退けず、進むに進めない状態であった。

柏木は和彦と顔を会わすたびに「死」について熱く語り出した。
それは当時の和彦が柏木を放置することで彼が自殺しかねないと感じるほどになった。

そんな中、柏木は和彦相手にゲームを提案した。
和彦が実父や実母との想い出の地を巡り、これを克服出来るかどうか……それが柏木の言い分であった。
和彦はそれで柏木が救われるならとゲームに乗った。

そして、想い出の地を巡ったのだ。
和彦は自身でも途中で挫折するだろうと思っていたそうだ。
しかし、養父母の愛情が彼を救ったのだろうか。
和彦は辛い想い出だけではなく、楽しい想い出を其処に見出した。
和彦は完走することに成功する。

クリスマス前日の夜、柏木はゲームの締め括りとして和彦を校舎の屋上に呼び出した。
和彦は柏木の提案したゲームによりトラウマを乗り越えられたことを感謝しつつ、其処に足を運んだ。

だが、そんな和彦からの感謝の言葉に柏木は絶望したのだ。
柏木は和彦の完走を望んでいなかった。
むしろ、挫折するであろうと期待していたのだ。
柏木にとってまたも想定外の出来事が起こった。
そして、柏木は期待に反した和彦を責め立てた。

和彦は柏木が自身をどう見ていたかを初めて知った。
柏木は和彦を見下し、彼の存在により優越感を得ていたのだ。
それにより、精神の均衡を保っていたのである。

これを知った和彦は柏木に対して何もかもが面倒になった。
和彦はその場を去ろうとする。

ところが、柏木は和彦が去るならば自殺すると主張し始めた。
これが余計に和彦を苛立たせた。
柏木の身勝手さに腹を立てた和彦は、彼を見捨てて帰宅してしまった。

次の日の朝である、柏木が死体で発見されたのは。
和彦は、あのとき怒りに任せて柏木を見捨てたことに激しく後悔した。
そして自身の罪を責めた。

結果、そんな自分を裁く為に学校内裁判との場を設けたのだ。

和彦は「未必の故意」を主張し自身の罪を問う。
これに裁判を通じて和彦と共に戦いその人柄を知った戦友・健一は必死に反発する。
何故なら、和彦の言う殺意とは健一が知るそれとはかけ離れていたからだ。

実は健一は実母に殺意を抱いたことがあった。
しかし、それを思い留まっていたのである。

健一は柏木がゲームを通じて和彦を精神的に追い込み死に追いやろうとしていたのだと主張。
だから、和彦の行為は身を守るための正当防衛なのだと訴える。
しかし、和彦は納得しようとしない。

和彦の証言により、事実のすべてが明らかになった。
学校内裁判の判決は次のようなものとなった。

被告・大出俊次は無罪。
殺人犯は別に居る。
その殺人犯とは……柏木卓也自身である。
柏木は自身で自身を殺害してしまったのだ、と。

これに和彦は救われたのか、弁護士役ではなく1人の年頃の生徒としてその場を去った。
そして、この学校内裁判は伝説となった。

それから十数年後の2010年、城東第三中学校に教師として健一が戻って来た。
彼は現在の校長に当時の背景について問われ、こう応じた。
「なんでも聞いてください。あれで僕たちは本当の友達になれたんです」と―――エンド。

本作から20年後を描いた中編『負の方程式』はこちら。

『負の方程式』(宮部みゆき著、新潮社刊『ソロモンの偽証 第3部 法廷 下巻』収録)ネタバレ書評(レビュー)

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