2014年08月14日

『さよなら神様』(麻耶雄嵩著、文藝春秋社刊)

『さよなら神様』(麻耶雄嵩著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

『神様ゲーム』の神様こと鈴木太郎が復活

「犯人は〇〇だよ」。鈴木の情報は絶対に正しい。やつは神様なのだから。衝撃的な展開でミステリー界を震撼させた神様探偵が大復活。

隣の小学校の先生が殺された。容疑者のひとりが担任の美旗先生と知った俺、桑町淳は、クラスメイトの鈴木太郎に真犯人は誰かと尋ねてみた。殺人犯の名前を小学生に聞くなんてと思うかもしれないが、鈴木の情報は絶対に正しい。鈴木は神様なのだから――。衝撃的な展開と後味の悪さでミステリー界を震撼させた『神様ゲーム』の神様こと鈴木太郎が帰ってきました。あり得ない設定の中で交わされる小学生たちのガチガチの推理合戦は、まさにミステリーの「前衛かつ王道」。他の追随を許さない超絶推理の頂点です。
(文芸春秋社公式HPより)


<感想>

麻耶雄嵩先生「神様シリーズ」の短編集です。
「神様シリーズ」は講談社刊『神様ゲーム』にて登場した「不可謬(絶対に間違えない)」の存在である神様・鈴木君(小学5年生として降臨)とそんな彼と関わったことにより翻弄される「俺」こと美少女・淳(小学5年生)の物語。

とはいえ、本編中での鈴木君の存在はあくまで物語に貢献する機械的な役割に終始しています。
その役割について此処で明かすと―――犯人の名を指摘するのです。

あれ、これだけだと名探偵には普通じゃない?と思った方は、些か早合点。
同作者による『貴族探偵』を思い出して頂きたい。

『貴族探偵』(集英社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『貴族探偵対女探偵』(麻耶雄嵩著、集英社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『貴族探偵』は自ら推理を行ったか、答えは「NO」!!
推理を行うのは、彼に仕える使用人たちでした。
そして、使用人の推理はすなわち雇用者の推理に他ならないとの論理で「貴族探偵」は「探偵」足り得ていたのです。

似たようなことが『神様シリーズ』でも行われます。
鈴木君は物語の開始早々に犯人の名を教えてくれますが、推理自体は行いません。
何故なら、鈴木君は推理を行い犯人に辿り着くのではなく、神様という絶対者として「犯人を初めから知っている」のです。
なので、鈴木君が挙げた犯人の名に間違いはありません。
ただし、鈴木君は絶対者らしいおおらかさと非情さで素直には教えてくれません。
例えば、この「初めから」という点が曲者で、これが『バレンタイン昔語り』などにも影響して来ています。
だからこそ、淳は鈴木君が挙げた名前に対し、自身で「何故、その人物が犯人となるのか」を推理しながら右往左往することになるのです。

言わば、鈴木君の口から初めに犯人が明かされることで「変則的な倒叙モノ」と言えるでしょう。
これに「不可謬の推理を司る」との点で『メルカトル鮎』の、「自身は推理を行わない」との点で『貴族探偵』の、それぞれの特徴を組み合わせたような作品だと言えそうです。

そんな『さよなら神様』の収録作は文藝春秋社から刊行された各種雑誌(『オール讀物』など)に掲載された次の6篇。

『少年探偵団と神様』(オール讀物増刊『オールスイリ vol.1』掲載)
『アリバイくずし』(『オール讀物』掲載)
『ダムからの遠い道』(『つんどく vol.3』掲載)
『バレンタイン昔語り』(オール讀物増刊『オールスイリ vol.2』掲載)
『比土との対決』(『オール讀物』掲載)
『さよなら、神様』(『オール讀物』掲載)

このうち『少年探偵団と神様』、『バレンタイン昔語り』、『さよなら、神様』の3作は過去にネタバレ書評(レビュー)していますね。

オール讀物増刊「オールスイリ」(文藝春秋社刊)を読んで(米澤穂信「軽い雨」&麻耶雄嵩「少年探偵団と神様」ネタバレ書評)

・『バレンタイン昔語り』ネタバレ書評(レビュー)はこちら。
『オール・スイリ2012』(文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『さよなら、神様』(麻耶雄嵩著、文藝春秋社刊『オール読物』2013年10月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)

発表順的には『ダムからの遠い道』が最新作となるのですが、作中時系列では『さよなら、神様』が最終話となっています。

まさかの『神様シリーズ』最新作が登場!?その名は『ダムからの遠い道』!!

ちなみに、最終話『さよなら、神様』ですが細部に些か手が加えられていましたが内容は掲載時と同じでした。
ただ、個別の短編が1つにまとめられたことで『比土との対決』から『さよなら、神様』への流れがより強調されていてサプライズも大きくなっているように感じられましたね。
此の点、各短編を既読の方でも楽しめるように思います。

とはいえ、管理人の感想ではなかなか衝撃が伝わりにくいかと思いますので、より詳細な具体例として中の1篇『比土との対決』をネタバレ書評(レビュー)して行きたいと思います。

まず、『比土との対決』を読む前提として知っておきたいのはその人間関係。
同作に登場する主な人物は鈴木君、淳、小夜子、比土、市部の5人。

このうち、市部は淳に好意を寄せています。
比土はそんな市部に片思い状態。
小夜子は淳の親友です。

そんな中、小夜子が学校に侵入したと思われる不審者に殺害されてしまうことに。
これに、鈴木君は神様として「不審者ではなく比土が犯人だ」と淳に教えるのですが……比土が小夜子を殺害するには絶対的なアリバイがあったとのストーリー。
そのトリックについてはまさに衝撃的なもので、これについてはネタバレあらすじをご覧頂きたい。

そして、これと同様の短編が他に5篇も収録されているのです。
どうです、読みたくなって来たでしょう?
この記事で興味を抱いた方は『さよなら神様』を是非、読むべし!!

ちなみに、同じ麻耶雄嵩先生と言えば『化石少女シリーズ』も既に完結しており、こちらもいずれ短編集化される筈。
『おじさんシリーズ』ももう1話くらいで完結しそうだし、こちらも注目です。

そして注目と言えば「謎解きLIVE」で麻耶雄嵩先生「忍びの里殺人事件」が放送決定。
こちらも見逃すな!!

「英国式ウィークエンド殺人事件」の衝撃ふたたび!!なんと今度の「謎解きLIVE」は麻耶雄嵩先生「忍びの里殺人事件」だ!!

<『比土との対決』ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
俺(淳):男言葉を用いる美少女。小学5年生。
鈴木:全知全能の神様。
市部:淳の同級生にして少年探偵団の団長。淳に好意を抱いている。
小夜子:淳の同性唯一の親友。
比土:市部に好意を抱いている。

淳の親友・小夜子が学校に侵入したとみられる不審者により殺害されてしまった。
これに淳は強いショックを受け、鈴木に犯人の名を問い質すことに。

すると、鈴木は犯人として同級生である「比土」の名を上げる。
衝撃を受けつつも、比土に事実確認を行う淳。

比土は悪びれることもなく、鈴木の言葉を認めてしまう。
比土によれば、小夜子にある秘密を知られ脅迫されたので口封じしたとのことだったが……。

しかし、比土には鉄壁のアリバイが存在した。
小夜子は作業室での当番の最中に殺害されたのだが、これは3人による交代制。
その日、小夜子が作業室に居るかどうかは当日ギリギリまで比土には分からなかったのだ。
比土が小夜子の当番であることを知るには教室で確認するしかないのだが、教室で確認した上で作業室へ向かい犯行に及ぶには時間がかかり過ぎる。
それだけの時間、比土が1人で居たとの事実は存在しなかった……。
だとすれば、比土に犯行は不可能である。

鈴木が誤ったのか、あるいは嘘を教えたのか?
いや、いずれも有りえない。
鈴木はそういう存在だからだ。
だとすれば、一体どうなっているのだろうか……。

淳の様子に不審を抱いた市部は鈴木の言葉を気に留める必要は無いと助言するが、淳はどうしても気にかかって仕方がない。
やがて、互いの信念の相違から市部との間に奇妙なすれ違いが生じてしまうことに。

そんなある日、淳は小夜子宅を訪問する。
小夜子の母は娘を思わぬ形で亡くし、悲嘆に暮れていた。
そんな小夜子の母を励ます淳は、彼女から故人の想い出を聞かされある矛盾に気付く。

比土が小夜子に脅迫されたとする日には、小夜子は病気の為に一日中家に居たらしいのだ。
これはどういうことなのだろうか?
さらに、淳は「公転」を契機にふと真相に辿り着く。
要は発想の逆転が必要だったのだ。

比土を呼び出した淳はこれと対決することに。
淳は比土に告げる。
そもそも、比土の動機が嘘だったのだ―――と。

比土は小夜子に脅迫されたことでこれを殺害したと主張していた。
だが、小夜子の母からも聞いた通り、比土が脅迫されたとする日には小夜子は病欠しており不可能であった。
しかも、これにより比土は小夜子が病欠していた事実すら知らなかったことになる。
つまり、比土は小夜子に対し殺害するまでさほど興味を抱いていなかったのだ。

そう、比土にとって小夜子を殺害する必然性は一切なかった。
比土のアリバイは小夜子が作業室に居るかどうかを確認する必要があったと思われた故に成立したモノ。
これがそもそも作業室に居る者ならば誰でも良いとの無差別殺人ならば、アリバイは成立しない。
比土にとって作業室に小夜子が居る確率は3分の1である。
小夜子であればベストだが、別人でもそれで良い―――比土の犯行はまさに不完全なモノだったのだ。

では、其処までして作業室に居る人間を殺す必要があったのは何故か?
もちろん、比土自身にアリバイを生じさせる為である。
比土は3人のうち、誰を殺すことになっても「その人物に脅迫されたから殺した」と主張するつもりであった。
これにより教室で確認する必要が生じ、比土の犯行は不可能になる。

その上で、淳が事件に興味を抱き鈴木に犯人を尋ねることを見越していた。
これは淳が強い興味を抱くよう親友である小夜子がベストだが、他の2人が被害者でも同様の流れになる筈であった。
そして、鈴木はすべてを知る故に比土の目論見を理解しつつも犯人の名前しか明かさない。
こうなれば淳は比土を疑うが、犯人であると証明は出来ない。
そして、市部と意見の相違を見せる内に仲違いすることを期待したのだ。

そう、比土の動機は好意を寄せる市部を自身に振り向かせるべく淳と仲違いさせることにこそあった。
小夜子はその為に殺害されたに過ぎなかったのだ。

淳に真相を突き付けられながらも、薄笑いを浮かべる比土。
その余裕は淳の推理が鈴木の言葉を発端にしていることにある。
つまり、淳が如何に比土の犯行を声高に訴えたところで、その推理の根本である「比土が犯人」との事実は鈴木の存在抜きでは証明出来ないことにあった。
これは鈴木の力を知る淳たちだからこそ成立する推理なのだ。

そんな比土に、淳は小夜子の復讐をすべく痛烈な一撃を加える。
市部もまた真相に辿り着くだろうと告げたのだ。

比土は市部を甘く見過ぎている。
淳が辿り着けたのだから、明敏な市部もいずれは真相に辿り着く。
いや、それが無理ならば淳が市部に真相を教えよう。
そうすれば、市部が比土に振り向くだろうか!?

こう告げられた比土は言葉を失う。
それは比土にとって考え得る中で最悪の結末であった。
比土はショックを抱えつつ、その場を後にすることに―――『さよなら、神様』に続く。

『さよなら、神様』(麻耶雄嵩著、文藝春秋社刊『オール読物』2013年10月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)

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オール讀物増刊「オールスイリ」(文藝春秋社刊)を読んで(米澤穂信「軽い雨」&麻耶雄嵩「少年探偵団と神様」ネタバレ書評)

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『オール・スイリ2012』(文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)

『さよなら、神様』(麻耶雄嵩著、文藝春秋社刊『オール読物』2013年10月号掲載)ネタバレ書評(レビュー)

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さよなら神様





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