ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
――偶然検索した売買物件。この間取図、もしや私の生活空間?
(新潮社公式HPより)
<感想>
前作『物件探偵 田町9分1DKの謎』(『小説新潮 2014年2月号』掲載)に続く『物件探偵』シリーズ第2弾です。
今回も、物件探偵・不動尊子が新たな謎に挑むことに。
その謎とは……集合住宅の一室で発生した怪現象の数々!!
身に覚えのない録画映像、放り込まれたダンゴ虫、壊れたエアコン、動かされた形跡のある家具などなど。
其処に潜んでいた悪意の正体とは……果たして何か!?
尊子の明快な推理により、解き明かされた苦く辛い真相とは!?
尊子は叫ぶ「物件が泣いているわ」と!!
と、此処までで興味を持った方にとっては必読の作品となっています。
もう、本作自体を読むべし。
其処には意外なサプライズが待っている筈なので。
ちなみに、管理人の通う書店では女性作家の棚に並ぶ乾くるみ先生。
で・す・が、れっきとした男性です(これもある意味叙述か)!!
乾先生、市川尚吾名義で評論もされてます。
<ネタバレあらすじ>
寺川万記子は独身教師である。
現状、浮いた噂も無く独身者用アパートに暮らしているが、特に不満らしい不満は彼女には無い。
そんなある日、何気なく万記子が不動産サイトを眺めていたところ、面白い発見をすることに。
なんと、自身が住むアパートが売却されようとしていることに気付いたのだ。
どうやら、現オーナーが不動産ごと売却しようとしているらしい。
とはいえ、これだけとってみればオーナーが変わるぐらいのものである。
店子である自分には関係ない筈であった。
そんな万記子がもっとも興味を惹かれたのは、同じ物件情報に記載されていた「空室1部屋アリ」との表記。
万記子は5年前から205号室に住んでいるが、確か空室など存在しない筈であった。
特に住人が転居したような話も聞いていない。
このとき、万記子は不思議に思ったものである。
以来、万記子はそれとなく周囲に気を配るようになったが転居者が出たような事実は確認出来なかった……。
ところが、この日を境に万記子の部屋では奇妙な現象が多発するようになったのである。
まず、録画した覚えのない番組が2分だけHDレコーダーに保存されていた。
なんとも気味の悪い出来事であった。
次いで、部屋の中にダンゴ虫が3匹ほど仲良く転がっていたのである。
これまでにこんなことは起こったことがなく、万記子の中で「誰かが嫌がらせをしているのでは……」との不安が広がって行く。
さらに、万記子が住むアパートを管理するウミウシ不動産からオススメ物件の広告が連続して投函され始めることに。
当初は不動産会社が空き物件を埋める為に別の住宅を勧めているのかと思ったが、万記子が別の場所に転居したところで205号室は空いてしまうワケでウミウシ不動産全体としては何も変わらない筈であった。
そうこうするうちに、備え付けのエアコンが故障してしまった。
うんともすんとも動かない。
慌てた万記子はウミウシ不動産の管理物件担当者・西本に連絡を入れる。
しかし、西本は非協力的であった。
なんでも、エアコンは備え付けの物の為に何をするにもオーナーの許可が必要となるらしい。
ところが、旧オーナーと新オーナーの間で売買契約中の為にいずれに許可を取るべきか判然としないらしいのだ。
「エアコンも自由に使えないなんて!!」と憤慨しつつも耐えるしかない万記子。
これでは、言外に退去を言い渡されたようなものである。
とりあえず、学校行事で数日留守にすることがこれほど頼もしく感じたことは無かった。
ところが、外出先から戻ったところ、どうも家捜しされた形跡がある。
家具の位置が全て動いているのだ。
それもあからさまなものではなく、ほんの少しずつの微妙な差異だ。
まるで、地震でもあったかのような……。
事此処に居たり、いよいよ大きく不安に駆られ出した万記子。
そんな万記子の前に、不動尊子が現れた。
齢15歳にして宅建を取得した彼女は、苗字からして不動産会社勤務が適職と思われる、まさに業界の申し子であった。
尊子は「家が泣いている!!」と断言する。
これに万記子は藁にも縋る思いで事情を打ち明け助けを求める。
すべてを聞いた尊子は何かを確信した様子で、まずは外へ。
アパートの近隣住民に、此処数日中に引っ越し業者が訪れなかったかを尋ねる。
すると……なんと引っ越し業者が2日続けて訪れていたと言う。
しかも、業者が荷物を出し入れしていたのは205号室―――すなわち留守にしていた万記子の部屋であった。
一体、何がどうなっているのか困惑する万記子。
尊子は万記子を連れ、205号の隣の住人のもとへ。
其処でウミウシ不動産と交わした入居時の契約書を確認する。
隣室の住人が入居したのは8年前。
尊子が注目すべきポイントとして指し示したのは家賃の振込先であった。
隣室の住人の振込先は真栄田という個人になっていた。
どうやら、オーナーの名前である。
住所からすると熊本に住んでいるようだ。
此処からは余りに遠く離れている。
だからこそ、不便を感じ売却しようと決意したのだろう。
ところが、万記子の同じ契約書の振込先は別人の口座となっていた。
振込先の名は西本である。
これに万記子はピンと来た。
まさか……。
そんな万記子に大きく頷く尊子。
隣室の住人に迷惑をかけたお詫びをしつつ、自室に戻った万記子に尊子は全てを教える。
これまで部屋で起こった怪現象はすべてウミウシ不動産の西本の仕業であった。
その動機は、万記子を部屋から追い出す為。
そう、西本は万記子からの家賃をオーナーや会社に黙って横領していたのだ。
西本は万記子との契約を真栄田には伏せ、いつまでたっても一部屋埋まらないと伝えていた。
そして、万記子からの家賃を自身の口座に振り込ませ堂々と横領し続けた。
ところが、真栄田がアパートを売却することになった。
困ったのは西本である。
彼個人で行った不正の為に取り繕うことが出来ないのだ。
結果、売却物件情報には「空室1部屋アリ」との表記になった。
万記子が興味を持ったこの空室こそ、当の万記子が住む205号室を指していたのである。
とはいえ、誤魔化せるのも新オーナーが決まるまでだ。
其処で西本はそれまでに万記子を追い出そうと企んだ。
物件担当である西本は合鍵も所有している。
これを使い心霊現象を仕立てようと目論んだのである。
まずは万能リモコンを用い、万記子宅の電化製品を登録した。
これを外から用いて万記子を驚かせようとしたのだが……上手く行かず奇妙な録画現象が起こってしまったのだ。
この失敗に苛立った西本はさらに大胆な嫌がらせを行う。
合鍵を用いて、室内にダンゴ虫を3匹放り込んだのである。
並行して、転居先にオススメの物件を紹介すべく広告を投函した。
しかし、万記子は気味悪がりながらも動かない。
こうなれば……と西本は実力行使しエアコンを破壊した。
だが、それでも万記子は動かない。
そうこうしている内に新オーナー候補が「空き室があるのなら見てみたい」と申し出て来た。
焦った西本は時間を稼ぎつつ、万記子の職場に注目した。
学校行事をHPで調べたところ、近く外泊することを突き止めたのだ。
西本はこれを利用することに。
引っ越し業者には部屋の改装に必要と言い含め、一度荷物を運び出した。
その後、内見が済み次第に荷物を元に戻したのだ。
これが引っ越し業者が連日訪れた理由であった。
あまりにも辛く切ない真相を知った万記子は絶句してしまう。
そんな万記子に尊子は「やっぱり、家が泣いている」と繰り返すのであった―――エンド。
◆「乾くるみ先生」関連過去記事
・『カラット探偵事務所の事件簿2』(乾くるみ著、PHP研究所刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「六つの手掛り」(乾くるみ著、双葉社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・乾くるみ先生『イニシエーション・ラブ』(文藝春秋社刊)が映画化とのこと!!
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