ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
異変を修復するもの。それは、この事件に関する正しい推理なのかもしれません。
反骨の検事・名城政人が殺人容疑で逮捕された。検察内部の不正を告発しようとしていた彼の罪状には、冤罪の疑いが色濃い。後輩検事の菊園綾子は、好敵手で弁護士の森江春策に協力を仰ぎ、証拠品の放射光による鑑定と、関係者が集った洋館ホテル〈悠聖館〉での事情聴取に乗り出す。しかし、放射光鑑定をするはずの研究機関で暴走事故が起こり、〈悠聖館〉では新たな殺人事件が発生する。それは、菊園検事を謎と推理の迷宮へといざなう招待状だった──
(光文社公式HPより)
<感想>
もうこれを面白いと呼ばずして何を面白いと呼ぶのかと断言してしまうほど面白い。
2014年のミステリランキング上位には本書の名が出ている筈―――それくらいの作品。
奇書とまで呼ばれた『綺想宮殺人事件』も確かに面白かったが、その内容からとっつきにくかったのに対し、こちらは『シュレディンガーの猫』についてさえ知っていれば十分に楽しめる敷居の低さが魅力。
さらに、森江春策と菊園綾子のキャラクターものとして成立している点も好みだったりします。
・「綺想宮殺人事件」(芦辺拓著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
そんな『異次元の館の殺人』は「特殊設定パズラーもの」の作品。
「特殊設定パズラーもの」とは「ある特殊な状況下(主に超常現象)で事件が発生。登場人物たちは事件解決に奔走するが超常的な現象ゆえの特殊ルールに翻弄されることに。また、そのルールに沿ったトリックや仕掛けが作中に施されている作品」を指す。
例えば、『人格転移の殺人』や『複製症候群』などで知られる西澤保彦先生が有名です。
特に同著者による『七回死んだ男』はミステリファンを名乗るなら絶対に読んでおくべき作品。
・『七回死んだ男』(西澤保彦著、講談社刊)ネタバレ批評(レビュー)
さて、本作『異次元の館の殺人』での特殊状況は次の通り。
ある殺人事件の現場に居合わせた森江春策と菊園綾子。
観測機「霹靂]」の事故により、菊園がパラレルワールドへと飛ばされてしまう。
その世界の森江(オリジナルとは微妙に違う)に相談したところ、元の世界に戻る為には事件を正しく解決しなければならないらしい。
こうして菊園は何度となく推理を繰り返し、これを誤る度に別のパラレルワールドに飛ばされつつ真相へと近付いて行くこととなる……。
ちなみに、この試行錯誤を繰り返す様子がまさに『七回死んだ男』を髣髴とさせるもので、本作は芦辺先生版『七回死んだ男』と呼べるような名作になっている。
とはいえ、そこは芦辺先生。
この「特殊設定パズラーもの」に加え、従来の作風である「本格要素」も健在。
さらに、パラレルワールドとの設定を活かした工夫も施されている点が素晴らしい。
特に「江森春策」と「菊園から誤った推理を聞かされた犯人が正鵠を得ていると誤認した理由」には完全にやられた。
ちなみに本作はこの「菊園から推理を聞かされた犯人が誤認した理由」や成宮明日美殺害、箱中和恵殺害ともに「錯誤」がメイントリックになっている点もポイントと言えるであろう。
ネタバレあらすじは本作の序盤から中盤少し前にかけてをまとめています。
雰囲気を掴んだら本書を読むべし!!
<ネタバレあらすじ>
森江と菊園の司法修習生時代の恩師で清廉潔白で知られる名検事・名城政人が成宮明日美殺害容疑で逮捕、起訴され有罪判決を受けた。
名城の人柄を知る菊園はその無実を証明しようと動き出す。
その矢先、同じく森江もまた名城の無実を証明しようと再審請求を行っていた。
こうして、互いに目的が合致した2人。
森江に対しライバル心を剥き出しにする菊園だが、今回ばかりは共同戦線を張ることに。
森江は1つだけ名城の無実を証明する方法があると指摘。
それは成宮明日美殺害方法に関わるものであった。
明日美は毒殺されており、この毒を持ち出すことが出来たのが名城であったことから犯人とされていたのだが、そもそも同種の毒を事前に用意することで犯行が可能だったのだ。
しかも、最後に確認された明日美の生存時刻も別の人物が変装することでクリア可能だったのである。
此処で森江は用いられたのが同種の毒だとしても詳細に分析すれば差異が分かる筈と、世界最新の観測機「霹靂]」を用いるよう提案する。
こうして、分析を依頼したその帰路。
これまた森江の提案で服部男爵が建造した「悠聖館」に立ち寄ることに。
実は、この「悠聖館」にこそ明日美殺害の動機を持つ人物が集っていたのだ。
実は明日美はある人物を告発しようとして名城に相談を持ちかけようとして、口封じに殺害されていた。
「悠聖館」には碓氷久達や箱中和恵らが滞在していた。
そんな中、箱中和恵が何者かにより「天神の間」に隣接する「海神の間」で殺害されてしまう。
どうやら、明日美を殺害した犯人が箱中の口をも封じたようだ。
すなわち、この事件を解決することもまた「霹靂]」同様に名城の無実を証明することに繋がるのだ。
こうして、事件解決に乗り出した森江と菊園。
ところが、菊園は森江を出し抜こうと暴走し、ある推理に辿り着く。
さらに、これを披露した途端に彼女の知る世界から似て非なる「パラレルワールド」へと飛ばされてしまうのであった。
その世界の森江(名前が微妙に違う)によれば「霹靂]で不可思議な事故が発生しており、それと連動しているのが原因ではないか」とのこと。
さらに、誤った推理を行ったことがパラレルワールドの扉を開くことが判明するのだが……。
果たして、菊園は元の世界に戻れるのか。
そして、森江へのコンプレックスが晴れることはあるのか―――続きは『異次元の館の殺人』を読むべし。
【ドラマ化情報】
・【至急報】謎の推理ドラマ情報が!!果たして「KvsA」とは!?
・「KvsA」の正体判明!!土曜プレミアムSPドラマ「金田一耕助vs明智小五郎」だった!!
・【朗報】「KvsA」続編製作中とのこと!!つまり「金田一耕助VS明智小五郎」第2弾放送決定!?
◆関連過去記事
【明智小五郎対金田一耕助シリーズ関連】
・『明智小五郎対金田一耕助』(芦辺拓著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『金田一耕助VS明智小五郎』(芦辺拓著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『明智小五郎対金田一耕助ふたたび(前篇)』(芦辺拓著、角川書店刊『小説野性時代』掲載)ネタバレ書評(レビュー)
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「殺人喜劇の13人」」(芦辺拓著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「綺想宮殺人事件」(芦辺拓著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)
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