2014年09月17日

『すべてがFになる』(森博嗣著、講談社刊)

『すべてがFになる』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<感想>

「S&Mシリーズ」記念すべき第1作目にして、森先生のデビュー作。

本作はそのインターネットを用いた先駆性が評価されているが、それ以外にも大胆な「バールストン先攻法」にも注目すべきだろう。
さらに、独特な世界観も含めて非常に完成度の高い作品と言える。

ちなみに本作のトリックには「内包性」とのテーマがある。
真賀田研究所に隔離との形で内包された四季。
そんな四季がレッドマジック内に残したトロイの木馬。
そして15年前の四季の中にあった○○。
まさに「内包性」に彩られた作品なのだ。

そんな本作を読むにあたり、1ファンとして心得ておきたいことが1つある。
それは、決して本作それ自体で完結しているワケではない点。
いや、確かに作品としては完結している。
だが、あくまで他のシリーズ含めて世界観を形作る1つのピースとのポジショニングだと思う。
なので、四季が登場するプロローグ作品だと思えば間違いない。
ただ、これを言ってしまうと四季生存が明らかになり『すべてがFになる』自体の壮大なネタバレになってしまうのが頭の痛いところなのだが……。
まぁ、四季生存については公式のあらすじや続編の裏表紙、ひいてはあるシリーズのタイトルにもなってるぐらいだし、この記事がネタバレ書評(レビュー)でもある以上、お許し願いたい。

それと、本作を読んだ方はS&Mシリーズ最終作『有限と微小のパン』も必読。
消えた四季が意外なところから登場するので……って、これもネタバレかぁ。
なんとも、難しい。

ちなみに、「シキ」と言う名の「キャラクター」と耳にすると『空の境界』の「両儀式」か本シリーズの「真賀田四季」が浮かぶくらい印象の深い登場人物。
それ故に、管理人は「S&Mシリーズ」は真賀田四季の物語だと断ずる。
こう述べるとシリーズファンの方には怒られるだろうか。
だが、そう思うのだから仕方がない。

とはいえ、シリーズ中で四季が登場する作品は限られている。
それでも四季の物語と言えるのかと問われる方は居るだろう。
だが、その不在中も犀川や萌絵に与える影響は計り知れない。
彼女は犀川や萌絵の思考や言動に反射されて常に表に現れる。
その意味で、彼女は不在の在となっている。

また「S&Mシリーズ」は「犀川&萌絵」の意味だけでは決してないと思う。
だって、何で犀川は苗字で萌絵は名前なのだろう。
これならば「犀川&西之園」で「S&Nシリーズ」でも良い筈だ。
あるいは「創平&萌絵」でも良い。
ああ、これでも「S&Mシリーズ」となるだろう。
しかし、敢えて「S&Mシリーズ」は「真賀田四季(イニシャルSM)」の物語だと言いたい。

例えば苗字で並べれば「犀川&真賀田」すなわち「S&M」。
そして名前で並べれば「四季&萌絵」すなわち「S&M」。
四季はシリーズ中で何度となく犀川と萌絵に影響を与え続けている。

そもそも「真賀田四季」の姓名だけでも「S&M」が成立する。
他にも「四季&ミチル」でも「S&M]だ。

どうだろう、かように四季は本シリーズを支配している。
実は管理人は未だに「S&M」も含めた全シリーズ(「Vシリーズ」「Gシリーズ」「Xシリーズ」など)が「四季の想像」説を捨てられない。
犀川や萌絵自体が四季の空想の産物、あるいは彼女の多重人格の一部なのではないかと思っていたのだ。
もっとも、S&Mシリーズ最終作『有限と微小のパン』にも萌絵視点でこれに近いことが語られ、即座に否定されている以上、ありえないのだが。

とはいえ、それほど四季の印象は強い。
そんな四季の読者へのデビュー作が本作『すべてがFになる』だ。
とはいえ、管理人にとっては『すべてが四季になる』の始まりなのかもしれない。

感想を読んで興味を持たれた方は原典を読むべし!!
きっと、シリーズ続編も読みたくなる筈だ。

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
犀川創平:国立N大学建築学部の助教授。
西之園萌絵:犀川の恩師の娘にして犀川の教え子。
真賀田四季:まさに天才の名に相応しい天才の中の天才。ある事件により真賀田研究所内に隔離されている。
新藤清二:真賀田研究所所長、四季の叔父。
山根幸弘:真賀田研究所副所長。


真賀田四季博士、彼女は天才であり殺人犯である。
彼女は15年前、14歳の折に両親をその手にかけ逮捕された。
だが、その天才性を惜しんだ周囲の人々により、心神喪失状態下での犯行とみなされ愛知県妃真加島にある真賀田研究所の一画に隔離され、今も人類の未来の為の研究を行っていた。

真賀田研究所、四季を抱えるその研究施設は四季ほどではないとしても才気溢れる者たちの楽園であった。
外の世界では特異な存在である彼らも、この島では普通の人間として生活出来たのだ。
その設備は四季が開発に力を貸したプログラム「レッドマジック」により管理され、その創造主である彼女を檻に閉じ込める役割も果たしていた。
ちなみに、この所長は四季の叔父・新藤清二が勤め、副所長には山根幸弘が居る。

そんな真賀田研究所を訪れたグループが居た。
国立N大学建築学部の助教授である犀川創平と西之園萌絵を始めとするその教え子たちだ。

犀川、彼もまたある種の天才の1人である。
彼は物事を多方向から観察することが出来る。
まさに、研究者として天賦の才の持ち主。

そして、萌絵。
彼女もまた尋常ならざる発想力の持ち主であった。

天才たちが集ったとき、事件が起こるのは必然だったのかもしれない。

その日、新藤所長不在の中、殺人事件が発生した。
ウェディングドレスを着用し両手両足を切断された状態で、彼らが知る真賀田四季博士の遺体が発見されたのである。
しかし、「レッドマジック」のログにも四季の隔離区画に侵入した者の形跡は無い。
まさに、密室である。
果たして、何者が彼女を殺害したのか?

そんな中、新藤所長がヘリコプターで帰島する。
新藤は1人の女性を連れていた。
その名は真賀田未来、四季の妹だそうである。

ところが、直後に新藤までもが殺害されてしまう。
さらに、副所長の山根も謎の死を遂げることに。
危険を感じた犀川は萌絵を除く生徒たちを離島させることに。

一方で、ある仮説に辿り着く。
新たに入室した者が居ないのならば、初めから其処に誰かが居たのではないか?
そもそも、四季は1人で隔離区画に居たのだろうか?
もしかして、四季が隔離された15年前から其処には2人居たのではないか?

だが、誰ももう1人の存在を知らない。
そんなことが有り得るのか。
これに犀川はさらに大胆な仮説を提示する。

なんと、隔離された当時の時点で四季が妊娠していたと言うのだ。
四季は隔離区画でその子供を出産し、育てていたのではないか。
そして、その子供に自身が親を手にかけたように四季自身を殺害させたのではないか。

さらに「レッドマジック」のコードを確認したところ「トロイの木馬」を発見。
コードが「FFFFF」になると同時に仕掛けられたプログラムが起動する仕組みである。
どうやら、四季の手によりプログラムが組まれた時点で15年後の今日この時に一時的にプログラムが機能を喪失するよう仕組まれていたようだ。
そう言えば、四季の子供もまた「トロイの木馬」のようなものであった。
事件は「トロイの木馬」に彩られていたのだ。
天才である四季は彼女独自の天才であるが故の発想で今日この時の事件を自ら演出していたのだろう。

こうして、四季の娘・ミチルの存在を確信した犀川たち。
ところが、真相はそれをさらに上回るものであった。

彼らが四季として知る人物は、そもそも四季では無かったのだ。
それこそ、彼女の娘・ミチルであった。
四季は数年前から自身の対外的な露出を控え、モニター越しに成長したミチルを当たらせていた。
これにより、対外的にはミチル=四季との思い込みが生まれていたのだ。

つまり、四季として殺害された女性こそミチルであった。
遺体の両腕が切断されていたのは指紋を採取されることで四季と別人であることが露見することを怖れたからであった。
両足を切断したのは両腕の切断を不審に思われないようにする為だ。

四季は犀川の仮説通り、ミチルに自身を殺害させようと決めていた。
四季は死こそが人の永遠(現実世界)であり、生は一時的な物(仮想世界)に過ぎないと考えていたのだ。
其処で、永遠に回帰すべくミチルに自身を殺させようとしていた。

だが、ミチルは四季と異なり天才では無かった。
当然、ミチルには四季の思考は理解出来ない。
それ故に、四季殺害を拒否してしまう。
これに計画変更を余儀なくされた四季はミチルを四季として殺害した。
そして、「レッドマジック」のプログラムにより脱出したのだ。

とはいえ、島外には逃げられない。
其処で四季が採用した手段は存在しない妹・真賀田未来を装うことであった。

四季は騒ぎに乗じてヘリポートに赴くと、帰島した新藤のヘリに紛れ込んだ。
そして、新藤と共に島外からやって来たように偽装したのだ。
ならば、新藤がこれを訴えなかったのは何故か?

そう言えば、ある大きな謎がある。
そもそもミチルの父親は誰だったのか?
それこそ、新藤であった。
当時、14歳の四季は新藤と関係を持ち妊娠したのだ。

これに四季の両親は面食らった。
両親は常識に従い四季を批難する。
だが、四季は天才であった。
両親が怒る理由が分からない。
其処に新藤がやって来た。
新藤は四季に刃物を握らせると彼女の手を背後から支えつつ、両親を殺害させたのだ。
15年前の四季の犯行は新藤によるものだったのだ。

新藤は四季が隔離区画内で出産したミチルの存在を知っていた。
四季は秘密裏に新藤と連絡を取り合うと、当初から予定していたミチルの脱出計画を持ちかけた。
すなわち、新藤もまた四季の本来の計画を知っていたのだ。
ところが、ヘリポートに現れたのはミチルでは無く四季であった。
驚く新藤を四季は用意していたナイフで刺した。
これは致命傷では無い。
しかし、新藤の命をじわりじわりと奪う傷であった。
だが、事態を察した新藤は咄嗟に四季を庇った。
その後、1人になったところで新藤は落命してしまったのである。

山根殺害は彼が「レッドマジック」内の「トロイの木馬」の存在に気付いてしまったからであった。
四季は脱出に要する時間を稼ぐ必要があった。
ところが、山根は四季の想定よりも1時間早く事態に気付いてしまったのだ。
その為に殺害されたのであった。

これに犀川らが気付いた頃、当の未来―――いや、四季は既に島を脱出し姿を消していた。
離島する学生に紛れ込んでいたのだ。
そう、これこそが四季が状況の推移の中で見出した新たな脱出方法であった。
犀川は完全に裏をかかれたのである。
四季の天才を理解しつつも実感できていなかったことを悟った犀川は、四季に強く興味を抱くのであった。

その数日後、大学図書館で資料を漁る犀川の前に四季が現れた。
大胆不敵な四季の行動に驚く犀川。
どうやら、犀川が四季に興味を惹かれたように、四季もまた犀川に興味を持っているらしい。

だが、犀川はこの四季の軽挙を残念がり首を横に振る。
何故なら、犀川の周囲には刑事による監視網が敷かれていたからである。
事あるを予期し、既に人員が配置されていたのだ。
こうして、犀川の目の前で四季は黒服の男たちに連行されて行った。

ところが―――。
数十分後、萌絵と落ち合った犀川は彼女の口から意外な事実を知る。
犀川に付けられていた監視が今日付けで解かれていたのだ。
なんでも、四季らしき人物が東京に現れたとの情報を得た為らしい。

これを聞いた犀川は大声で笑い出す。
何の事は無い、軽挙と思っていたのは犀川の早合点であった。
すべて四季の掌の内だったのだ。
彼女を連行した人物もおそらく仲間だったのだろう。
四季は未だ捕まっては居ないのである―――エンド。

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