2014年10月12日

『有限と微小のパン』(森博嗣著、講談社刊)

『有限と微小のパン』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

日本最大のソフトウェアメーカー「ナノクラフト」。長崎県に本社を構え、その傍で大規模なテーマパークを経営していた。社長の塙理生哉は事業の中心となる非常に優秀なプログラマであり、また萌絵が幼い頃の許婚でもあった。研究室のゼミ旅行の先乗りで長崎を訪れた、萌絵と2人の友人。しかし、彼女らを待ち構えていたかのように続発する奇妙な事件。意味深なメッセージ。一方犀川はナノクラフト製のゲームに現れる不可思議な演出の話を聞き、予定を変更して即座に長崎に向かう。現実離れした出来事、質感の伴わない相手との対話。一連の出来事の背後に見え隠れするある存在。すべては、あの天才によるものなのか、それとも……。
(公式HPより)


<感想>

「S&Mシリーズ」最終作。
遂に、犀川と四季との間に一様の決着がもたらされます。

終盤、哲学的かつ観念的な問いにまで達し、生と死、存在の現実・非現実について語られる。
まさにシリーズの集大成。
物語は如何なる結末を迎えるのか……読むべし!!

ちなみに、「シキ」と言う名の「キャラクター」と耳にすると『空の境界』の「両儀式」か本シリーズの「真賀田四季」が浮かぶくらい印象の深い登場人物。
それ故に、管理人は「S&Mシリーズ」は真賀田四季の物語だと断ずる。
こう述べるとシリーズファンの方には怒られるだろうか。
だが、そう思うのだから仕方がない。

とはいえ、シリーズ中で四季が登場する作品は限られている。
それでも四季の物語と言えるのかと問われる方は居るだろう。
だが、その不在中も犀川や萌絵に与える影響は計り知れない。
彼女は犀川や萌絵の思考や言動に反射されて常に表に現れる。
その意味で、彼女は不在の在となっている。

また「S&Mシリーズ」は「犀川&萌絵」の意味だけでは決してないと思う。
だって、何で犀川は苗字で萌絵は名前なのだろう。
これならば「犀川&西之園」で「S&Nシリーズ」でも良い筈だ。
あるいは「創平&萌絵」でも良い。
ああ、これでも「S&Mシリーズ」となるだろう。
しかし、敢えて「S&Mシリーズ」は「真賀田四季(イニシャルSM)」の物語だと言いたい。

例えば苗字で並べれば「犀川&真賀田」すなわち「S&M」。
そして名前で並べれば「四季&萌絵」すなわち「S&M」。
四季はシリーズ中で何度となく犀川と萌絵に影響を与え続けている。

そもそも「真賀田四季」の姓名だけでも「S&M」が成立する。
他にも「四季&ミチル」でも「S&M]だ。

どうだろう、かように四季は本シリーズを支配している。
実は管理人は未だに「S&M」も含めた全シリーズ(「Vシリーズ」「Gシリーズ」「Xシリーズ」など)が「四季の想像」説を捨てられない。
犀川や萌絵自体が四季の空想の産物、あるいは彼女の多重人格の一部なのではないかと思っていたのだ。
もっとも、S&Mシリーズ最終作『有限と微小のパン』にも萌絵視点でこれに近いことが語られ、即座に否定されている以上、ありえないのだが。

とはいえ、それほど四季の印象は強い。
その四季が犀川との間にある結論を設けるのだから、本作を読まざるを得ないではないか!!

ちなみに「ネタバレあらすじ」はまとめ易いように一部に改変を加えた上にかなり端折ってます。
本作を正確に味わうには、本作それ自体を読むべし!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
犀川創平:国立N大学建築学部の助教授。
西之園萌絵:犀川の恩師の娘にして犀川の教え子。犀川に好意を抱いている。
塙理生哉:ソフトウェアメーカー「ナノクラフト」の社長。萌絵の元婚約者。
藤原:「ナノクラフト」副社長。経営方針で塙と揉めている。
新庄:塙の秘書。
松本:「ナノクラフト」の社員。
反町愛:萌絵の親友。医学部在学中。
儀同世津子:犀川の異母妹。
瀬戸千衣:世津子の隣人。
真賀田四季:まさに天才の名に相応しい天才の中の天才。神出鬼没。


親友である医学部生・反町愛らと共に長崎へ赴いた萌絵。
其処には幼い時分に親から婚約者とされていた塙理生哉が居た。
塙はソフトウェアメーカー「ナノクラフト」の経営者、実は萌絵は「ナノクラフト」の大株主でもある。
「ナノクラフト」はテーマパーク事業も営んでおり、近く画期的な新技術を実用化する予定であった。

塙に招かれ「ナノクラフト」を訪れた萌絵。
塙は萌絵の能力を欲し「ナノクラフト」への参画を希望する。
どうやら、塙は萌絵を諦め切れておらず公私共にパートナーにしたいらしい。
塙の秘書・新庄はそんな萌絵に同性として敵意を向けるが……。

一方、犀川は異母妹である世津子のもとを訪れていた。
犀川の来訪に、世津子と共に居た女性は舞い上がった様子でその場を後にする。
世津子によれば、彼女の名は瀬戸千衣。
隣人にして、友人らしい。
なんでも、犀川のファンなのだそうだが……。

その頃、萌絵は「ナノクラフト」に「あの人」の存在を嗅ぎ取る。
そう、真賀田四季博士だ。

矢先、そんな萌絵の勘が正しかったことを証明するように事件が発生。
突如、響き渡った新庄の悲鳴を聞き付けた萌絵と愛たちが現場へ駆け付けると、「ナノクラフト」の社員・松本が死亡していたのだ。
驚く萌絵の傍らで医学知識がある愛は松本の脈を探るが虚しく首を横に振る。
萌絵は警察に通報するのだが……その僅かな隙に松本の死体が消えてしまう。
もはや、空にでも消えたとしか考えられない状況であった。

次いで、新庄が密室で倒れ臥し、さらに「ナノクラフト」副社長・藤原が萌絵の目の前で刺殺されてしまう。
萌絵の知るだけで都合3名の被害者が出たのだ。

この状況に四季の関与を察した犀川も長崎へ駆け付ける。
さらに、犀川たちの前へ姿を現した四季。
そんな四季に対し、犀川が導き出したこの事件の結論は驚愕の物であった。

なんと、すべては芝居だったのだ。
ただし、一部に真実が存在していた。

塙は萌絵を公私共にパートナーにしたかった。
其処で「ナノクラフト」に興味を抱かせようと考えた。
こうして用意したのが最新のヴァーチャルリアリティーシステム(VR)であった。
死体消失など、すべての不可解な事象はこれに起因していた。
もちろん、被害者である松本や藤原もこれを了承していたのである。
駆け付けた警官も「ナノクラフト」の人間であった。

ところが、これを利用した人物が居たのである。
新庄だ。

詳しいことこそ不明だが、新庄は松本や藤原との間にトラブルを抱えていた。
其処でこの機に乗じて非現実を現実化することにしたのだ。

まず、VRを演じる一方で松本を本当に殺害し死体を隠した。
次いで、自身が殺害されたような演技をする。
そして、藤原を殺害したのた。

泡を食ったのは塙である。
藤原が殺害された段階で新庄が実際に犯行に及んでいることに気付いたのだが、どうしようもない。
彼女を糾弾すれば、この奇妙なイベント自体を明かさなければならなくなる。
そうすれば「ナノクラフト」のイメージダウンは必至だ。
それだけは避けたかった。

こうして塙は新庄を庇わざるを余儀なくされた。
松本と藤原殺害について、改めて本物の警察へ通報を行うも新庄の存在を伏せることに。
これが事件の全貌であった。

再会した四季は犀川と萌絵に人としての生の意味について語りだす。
四季にとって生こそは非現実、死こそが現実なのだ。
自身は既に死んでいると述べる四季は犀川を自身の世界に誘うのだが……。

その理論に一定の理解を示す犀川であったが、彼は生きることを望む。
犀川は現実と非現実の差を「煙草が吸えるかどうかに過ぎない」としつつ、四季と決別したのである。

これに四季は姿を消した。
この四季もまたVRの産物だったのだ。
本物の四季は何処か別の場所に居るのだろう。

翌日、犀川は瀬戸千衣を訪ねた。
何故なら、彼女こそ四季の変装だったのだ。
「瀬戸千衣(せとちい)」は逆から読めば「いちとせ」。
すなわち「一年=四季」を示していたのだ。
四季は新たな世界に旅立つことを犀川に告げ、その場を去るのであった―――エンド。

◆関連過去記事
・シリーズ第1弾。
『すべてがFになる』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)

・シリーズ第2弾。
『冷たい密室と博士たち』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)

・シリーズ第3弾。
『笑わない数学者』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)

・シリーズ第4弾。
『詩的私的ジャック』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)

・シリーズ第5弾。
『封印再度』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)

・シリーズ第9弾。
『数奇にして模型』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)

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posted by 俺 at 12:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評(レビュー) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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