2014年10月10日

『数奇にして模型』(森博嗣著、講談社刊)

『数奇にして模型』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

模型交換会会場の公会堂でモデル女性の死体が発見された。死体の首は切断されており、発見された部屋は密室状態。同じ密室内で昏倒していた大学院生・寺林高司に嫌疑がかけられたが、彼は同じ頃にM工業大で起こった女子大学院生密室殺人の容疑者でもあった。複雑に絡まった謎に犀川・西之園師弟が挑む。
(公式HPより)


<感想>

「S&Mシリーズ」第9弾。
今回は犀川と萌絵が思わぬ「フーダニット」と「ホワイダニット」に挑むことに。

それにしても犯人の思考がまさに独特。
完璧を目指しつつ、その破壊にも魅力を覚える。
これこそが芸術家だとすれば、彼もまた芸術家だったに違いありません。

ただ、これはラストの事実にて反転する。
ラストの描写は「紀世都はすべてを知っていた」ことを示すのでしょうね。
ジオラマに人形を置いたのはどう考えても紀世都なんだろうし。
手紙の件も伏線になるのか。
もしかすると、紀世都こそが暗に黒幕となっていたのかもしれません。

だとすれば、萌絵が感じた犯人の二律背反的な思考も説明がつく。
1人の思考だと考えるから二律背反となるワケで。
犯人自身と黒幕の意志だとすれば矛盾も解消されるのだ。

こうなると、それこそ2人が好きな行動を取っていたとなる。
だからこそタイトルが『数奇にして模型(好きにしてもOKのもじり)』なのかもしれない。

ちなみに「ネタバレあらすじ」はまとめ易いように一部に改変を加えた上にかなり端折ってます。
本作を正確に味わうには、本作それ自体を読むべし!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
犀川創平:国立N大学建築学部の助教授。
西之園萌絵:犀川の恩師の娘にして犀川の教え子。犀川に好意を抱いている。
筒見:M工業大学教授。
筒見紀世都:筒見の息子。芸術家。
筒見明日香:筒見の娘。モデル。
寺林高司:M工業大学大学院生。
上倉裕子:M工業大学大学院生。


事件は奇妙な形で始まった。

模型交換会会場の公会堂にて、モデルである筒見明日香の遺体が発見されたのだ。
ところが、奇怪なことに明日香の頭部は切断されていた。
しかも、現場は鍵も内側から施錠された密室だったのである。
さらに、現場には寺林高司なるM工業大学大学院生が気絶していたのだ。
寺林は何者かに気絶させられたらしい。

当然、犯行が可能な寺林に容疑が向かうことに。
寺林は明日香殺害を否定するが……。

しかし、奇妙な点はこれだけではなかった。
同時刻、もう1つの殺人事件が発生していたのだ。

こちらはM工業大学の研究室で発生した上倉裕子殺害事件。
裕子は閉め切られた部屋の中で、何者かに絞殺されていたのだ。
出入り口には施錠が施されていた。

ところが、この部屋の鍵を寺林が所持していたのである。
こうして、寺林は裕子殺害容疑もかけられることとなった。

この謎に犀川と萌絵が挑むことに。
まず、犀川は合理的に考えて自身に容疑が向かうような状況で殺害は実行しないだろうと寺林の容疑を否定する。
その上で浮かび上がったのは明日香の兄で奇矯な振る舞いで知られる芸術家・筒見紀世都であった。

矢先、紀世都が焼死することに。
これにより彼こそが犯人だと思われたのだが……。

その頃、萌絵は紀世都犯人説に疑問を抱き寺林と共に真相を追っていた。
ところが、寺林が豹変し萌絵に襲い掛かる。

其処に駆け付けた犀川。
そう、真犯人は寺林だったのだ。

犀川によれば、一見無謀に見える寺林の行動もそれなりの理由があるらしい。
それを紐解くには彼の動機が大きなキーとなるのだ。

だが、動機の前に事件が錯綜した原因が1つある。
これを述べねばならない。
それは、明日香殺害は寺林によるものではないと言うことだ。
裕子と紀世都殺害は寺林の犯行だが、明日香は別の人物により殺害されたのだ。
しかし、頭部切断は寺林の犯行であった。

此処で寺林の動機に戻る。
ポイントは明日香の頭部が切断されていたことにあった。
寺林はずっと紀世都の等身大人体模型を作りたいとの欲望を抱えていた。
だからこそ、妹である明日香に近付いた。
それが明日香の死体を発見し爆発したのだ。

あの日、寺林は明日香の遺体を発見した直後に何者かに襲われ昏倒した。
目覚めたところ、先程と変わらず明日香の遺体が倒れている。
此処で寺林は考えた。

明日香と紀世都は兄妹として背格好が似ている。
失敗の許されない本番を前に明日香で実験を行ってはどうだろうか。
其処で一番複雑な頭部で型取りを試したのである。

此処からは寺林の立場になって考える必要がある。
寺林としては明日香の遺体の頭部を切断する必要がある。
相当な時間がかかる筈であった。
だが、切断を行うことで殺害まで疑われることは避けたい。

寺林は研究室に裕子を訪問することでアリバイを作ることを考えた。
こうして裕子を訪ねたのだが当の裕子は異常な反応を示した。

寺林はすべてを察した。
明日香を殺害し、寺林を襲撃した犯人は裕子だったのだ。
裕子は寺林を愛しており、明日香と彼の関係を疑い明日香を殺害してしまったのである。
其処に寺林が現れた為に、彼をも襲ったのだ。

裕子は寺林を殺害したと思い込んでいた。
それ故に生きて現れた彼に過剰な反応を示したのだ。

逆上した寺林は裕子を殺害してしまう。
我に返った寺林はこれで予定が狂ったことに気付いた。
何とか紀世都の型取りを行うまでは捕まりたくない。

其処で弄した策が件の殺害現場で倒れ込むことだったのだ。
疑われるだろうが、あまりにも怪し過ぎる故に牽制出来るかもしれないと考えた。
寺林にとっては時間が稼げれば良い程度の策であったが奏功することに。

ちなみに、研究室の鍵を所持していたのは裕子の遺体発見を少しでも遅らせる為である。
何故なら、寺林には明日香の頭部を型取りする作業が控えていたからだ。
寺林は公会堂で倒れ込んだのは作業を終えた後である。

これが最初の事件の全貌であった。
次いで、疑われつつも決め手に欠けるが故に自由となっていた寺林は急ぎ紀世都の型取りに乗り出した。
同時に、紀世都に罪を着せることに。

だが、犀川や萌絵が紀世都の犯行に疑惑を抱いたことで危機感を募らせたらしい。
其処で萌絵を襲ったのだ。

犀川の登場に思わぬ抵抗を見せる寺林だが、逮捕された。
後に彼はそれが当たり前とでも言うように動機について素直に述べることとなる。

そんな寺林を犀川は殺人自体が目的に転じつつあったのではないかと分析。
本来、萌絵殺害未遂は不必要な事件であった。
これは既に型取りから殺害に目的が移行していた為に起きたものだと考えたのである。

萌絵は犀川の分析に頷きつつ、寺林の犯行が何処か刹那的であることに気付く。
寺林は自身の犯行を芸術としつつ、これを破綻させるような行動を常に見せていたのだ。
究極を求めつつ、それを破壊することにも喜びを覚える―――それこそが芸術家の性なのかもしれない。
だが、何処か腑に落ちない萌絵であったが……。

一方、2人の子供を一度に失った筒見教授。
彼は自宅に置いてあるジオラマを眺めて、2体の人形に気付く。
1つは立った男性、もう1つは頭部が切断された女性を模したもの。
共に筒見には覚えのない人形であった―――エンド。

◆関連過去記事
・シリーズ第1弾。
『すべてがFになる』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)

・シリーズ第2弾。
『冷たい密室と博士たち』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)

・シリーズ第3弾。
『笑わない数学者』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)

・シリーズ第4弾。
『詩的私的ジャック』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)

・シリーズ第5弾。
『封印再度』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)

・シリーズ第10弾(最終巻)。
『有限と微小のパン』(森博嗣著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)

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こちらはコミック版「冷たい密室と博士たち (幻冬舎コミックス漫画文庫 (あ-01-02))」です!!
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