2014年09月23日

『坂道の家』(松本清張著、新潮社刊『黒い画集』収録)

『坂道の家』(松本清張著、新潮社刊『黒い画集』収録)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

身の安全と出世を願う男の生活にさす暗い影。絶対に知られてはならない女関係。平凡な日常生活にひそむ深淵の恐ろしさを描く7編。
(新潮社公式HPより)


<感想>

以前に書評(レビュー)した『強き蟻』同様に男女の機微を描く点で、これまた松本清張先生の真骨頂的な作品と言えるでしょう。

若いりえ子に溺れる吉太郎。
しかし、綺麗なモノには棘がある。
その棘により傷付けられた吉太郎はりえ子への妄執に囚われてしまった。
こうして繰り広げられることとなった愛憎劇は、やがてカタストロフを迎えることに。

強かな女性・りえ子こそが勝者だったのでしょうか?
それとも、本来ならば年齢的に吉太郎よりも後の世に残り山口と共に我が世の春を謳歌する筈だったりえ子を命と引き換えに道連れにした吉太郎が勝ったのか?
それとも、いずれも勝者では無かったのか?

本来、恋愛に勝敗や強弱は存在しない筈なのですが、こればかりは気にかかって仕方がありません。
まずは読むべし!!

<ネタバレあらすじ>

・登場人物一覧
吉太郎:小間物屋の店主、質素倹約をモットーにこつこつやって来たのだが……。
りえ子:吉太郎の前に現れた若い女。
山口:りえ子の情夫。

吉太郎は小間物屋の店主である。
質素倹約をモットーに商売を続け、それなりの成功を収めていた。
彼は妻にも節約を強いて、ひたすら堅実に生きて来た。

ところが、そんな彼の人生観を一変させる女性が現れた。
その名はりえ子。
キャバレー「キュリアス」のホステスである。

りえ子は何処か儚げな様子で生活にも困っているようであった。
そんな彼女が醸し出す雰囲気に吉太郎はやられた。
吉太郎は「彼女を守ってやらねばらない。それが出来るのは自分だけだ」と入れ揚げた。

たちまちのうちに吉太郎の蓄えは「キュリアス」での遊興費とりえ子への支出に消えて行った。
ところが、りえ子の生活が向上した様子は全くない。

不思議に思った吉太郎が調べたところ、りえ子にヒモが居ることが分かった。
その名は山口。
吉太郎も彼の顔を知っていた。
何故なら、りえ子に弟と紹介された男だったからだ。
どうやら、りえ子は吉太郎に愛を囁きつつ、山口に貢いでいたらしい。

吉太郎はりえ子に騙されていたことを知り激怒した。
この頃には吉太郎は店の金にまで手を付けていた。
もはや引き返せないところにまで来ていたのである。

吉太郎はりえ子に山口と別れ、店も辞めるように迫った。
自分1人のモノにしようと考えたのだ。

吉太郎は坂道の家を購入すると、其処にりえ子を住まわせる。
そして、貢ぎ続けつつも裏切ったら殺すと脅しつけた―――飴と鞭である。
さらに、よしんば殺すことに失敗しても硫酸で顔を焼いて二目と見られぬ顔にしてやると繰り返したのだ。
その表情からは余裕が失われており、明らかに常軌を逸しつつあった。

だが、りえ子はそれでも山口との逢瀬を続けたのだ。
吉太郎は激怒し、りえ子に暴力を奮い始めた。
カタストロフは静かに近付いていた―――。

その日、医師のもとにりえ子の隣家の主人が飛び込んで来た。
何でも、隣家の男性(吉太郎のこと)が急死したらしい。
慌てて、医師が駆け付けると彼の言葉通り吉太郎が死亡していた。
りえ子によれば、酒に酔って風呂に入っていたところ急に苦しみだし死亡したのだそうだ。
りえ子の言葉通り、湯船にはお湯がなみなみと貼られており、炊き付けに使ったのだろうか―――おが屑が浮いていた。
りえ子の言葉に嘘はないとすれば、死因は心臓麻痺と思われた。

とはいえ、突然死に変わりはない。
吉太郎の遺体は検死解剖されることとなった。
これに何故か動揺するりえ子であったが……。

それから数日後、吉太郎の死に刑事が動き出していた。
検死解剖自体に不審な点は出ていない。
彼らが動いたのはある証言からであった。

りえ子に興味を抱き彼女を盗み見ていた近所の学生が「あの日に限って夜遅くに風呂が沸かされていた」と証言したのだ。
吉太郎は普段、日中にしか入浴していなかったのである。

これに疑惑を抱いた刑事は最初に立ち会った医師に不審な点がなかったか執拗に問い質した。
其処でおが屑が風呂に浮かんでいたことを聞き出した。

さらに吉太郎の死後、りえ子が銭湯に通っているにも関わらず毎日風呂を沸かしていることも突き止めた。
なんとも妙な行動であった。

これらに不審を抱いた刑事たちはりえ子の同僚・さゆりから山口の存在を聞き出すと共に、吉太郎の死亡当日に山口が自転車を知人に借りていたことも調べ上げた。
山口の知人によれば、返却後の自転車は荷台が濡れていたのだそうだ。

刑事たちは集めた証言をもとに、次の仮説を立てた。

りえ子は情夫である山口と共に吉太郎を謀殺したのではないか。
まず、山口は知人に借りた自転車で氷を運んだ。
これを水を張った風呂桶に浮かべたのだ。
其処に酩酊状態の吉太郎を放り込んだ。
吉太郎は心臓に負担がかかり急死する。
その後、氷水が湯になるように沸かしたのではないか。
この日に限って夜に風呂が沸かされたのは、日中だと山口が目撃される可能性を怖れてのことと思われた。

これに沿って、りえ子と山口が取調を受けることに。
りえ子はあっさりと罪を認めたと言う。

供述調書によれば、りえ子は次のように語っている。

もともと吉太郎さんのことは好きではありませんでした。
でも、お客である以上、無碍には出来なかったのです。
そのうちに、お金を貢いでくれるようになりました。
自分の店を出す資金が欲しかったので、その好意に甘えたところ、それに漬け込むように関係を迫って来たのです。
仕方なく彼に従ったところ、有頂天になった彼は私を拘束し始め、自分を裏切ったら殺すと脅迫まで始めました。
おそらく、あのままではいずれ私が殺されていたに違いありません。
身を守る為には仕方が無かったと理解しています。

ちなみに、りえ子が吉太郎死後に風呂を沸かしながらも銭湯へ通っていたことについては、風呂を沸かさないことで周囲から不審がられることを避けたかったからだそうである。
しかし、この工作こそが逆に疑惑を招いたのは皮肉なことであった―――エンド。

2014年12月7日追記

本作のドラマ版が放送されました。
ドラマ版の批評(レビュー)はこちら。

「松本清張サスペンス 悪女の事件・第一夜 坂道の家〜魔性の女が招く連続殺人の罠!美しい理容師に全財産を奪われた初老の男!!嫉妬と憎しみの殺意…浴室の氷のトリック(松本清張二夜連続ドラマスペシャル 坂道の家)」(12月6日放送)ネタバレ批評(レビュー)

追記終わり


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【その他】
・『眼の壁』から出題がありました。
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【特報】松本清張先生、未収録短編発見さる!!その名も『女に憑かれた男』!!

『坂道の家』が収録された「黒い画集 (新潮文庫)」です!!
黒い画集 (新潮文庫)





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