2014年10月14日

『アガサ・クリスティー賞殺人事件』(三沢陽一著、早川書房刊)

『アガサ・クリスティー賞殺人事件』(三沢陽一著、早川書房刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

第三回アガサ・クリスティー賞受賞第一作
被害者は有栖川有栖。 探偵役は某著名ミステリ評論家。 そして犯人は……

作家志望の青年は、新人賞に落ち続けることに絶望し、人生最後の旅に赴く。名前を棄て、家族を棄て、友人を棄て、わずかな金と数枚の黒い服、数冊の愛読書を黒いトランクに詰め込んだ。金田耕一、明田五郎、神沢恭一、星川龍一……古今の名探偵にちなんで名乗った偽名ゆえか、青年は行く先々で奇妙な事件に出会う。恐山山中の密室殺人、盛岡の名刹を飲み込んだ謎の炎、大曲の蛇神に兄を祟り殺された妹、山形でマスコミを騒がせた少年の首なし死体――そして、旅が終わりを告げるかに思われた東京・信濃町のアガサ・クリスティー賞授賞式の会場でも悲劇は起きた! 三沢陽一、有栖川有栖、東直己、森晶麿、青柳碧人、千街晶之、笹川吉晴等々、関係者が実名で登場する授賞パーティの最中に起きた殺人事件の真相とは? 『致死量未満の殺人』で正統派本格の新鋭として好評を得た第3回アガサ・クリスティー賞作家が贈る、5篇収録の本格ミステリ連作集。
(早川書房公式HPより)


<感想>

表題作『アガサ・クリスティー賞殺人事件』と『柔らかな密室』『炎の誘惑』『蛇と雪』『首なし地蔵と首なし死体』の計5篇からなる連作短編集。

とはいえ、連作短編部分と表題作部分とが乖離している印象。
正直、連作短編部分の経験があって表題作の動機に繋がるのか……と思ったのだけど、どうも動機が先にあったようだし。
表題作によれば、旅に出たのは動機を果たす為に標的に近付こうとして賞に応募していたが上手く行かず絶望したことが理由のようだし。
なので、連作短編の渦中で有栖川先生の作品が登場すること以外には密接には関連していない印象かなぁ。
また、表題作でそれまでの夢と現実が反転する構成かと言えばそうでもないし。
この辺りがとても勿体なく感じた。

とはいえ、連作短編部分に比べて表題作がかなり面白かった。
何しろ、次の面々が登場する豪華な短編なのだから。

三沢陽一先生、有栖川有栖先生、東直己先生、森晶麿先生、青柳碧人先生、千街晶之先生、笹川吉晴先生とまさに錚々たるメンバー。
これだけでも読む価値はある。

それと表題作は肝心の動機が面白かった。
この動機には「完成してしまえば後は滅びゆくのみ。故に敢えて不完全な状態に置く」―――との日光東照宮のエピソードを思い出しました。

ちなみに「ネタバレあらすじ」はまとめ易いように一部に改変を加えた上にかなり端折ってます。
本作を正確に味わうには、本作それ自体を読むべし!!

<ネタバレあらすじ>

・『柔らかな密室』

青年は新人賞に落選し続けたことに絶望し、あてのない旅に出た。
まず訪れたのは恐山。

其処で親切な親子と出会った青年は彼らに誘われ泊まり込むことに。

親子は3人家族。
父親と兄弟2人だ。
しかし、どうやら兄弟が財産を巡り反目している様子だが……。

そんなある日、勧められ山を登った青年は内側から密閉されたテントの中に背中を刺された様子の人間を発見する。
顔こそ確認出来ないが、体格からそれは兄弟の1人であった。
どうやら、既に絶命しているらしいがテントの中には他に誰も居ない―――密室殺人であった。

青年は慌てて下山すると警察と共にとって返すことに。
すると、テントの窓が内側から裂かれ何者かが逃げ出した痕跡が残されていた。
先程、覗き込んだときはこんな痕跡は無かったのに……頭を抱える青年。
しかし、密室の謎は一向に解けない。

もしかして、テントの柔らかさを利用しテント内に予め残したナイフをテント外から拾い上げ犯行に及んだのかとも思ったが、それならば残る筈の返り血などがテントの壁には残されていなかった。
つまり、このトリックではないのだ。

悩むうちに眠りについた青年は遂にトリックを見破る。
犯人は被害者の父親と兄弟であった。

彼らは2人で偽のテントを用意した。
中には死体に偽装した父親が横たわっていた。
青年が見たのはコレである。

青年は警察を呼ぶべく下山する。
この隙にテントを片付け、本物の被害者を殺害したのだ。

青年が親切にも招かれたのは、彼が携帯電話を持っていないよそ者だったからだった。
土地の者では、このトリックが成立しないのである。

利用されたことに気付いた青年は此の地を後にする―――エンド。

・『炎の誘惑』

盛岡に流れ着いた青年は其処で円空仏なる仏像を所有する寺に宿泊することに。
円空仏は門外不出とされ滅多に拝観できない重要なモノ。
これを巡り、寺では古美術ディーラーが暗躍していた。
しかし、毅然たる態度で断りを入れる和尚の好空。
それは幾ら積まれようとも揺るがぬ好空の強靭な意志を示しているようであった。

そんな好空に青年は尊敬の念を抱く。
その夜、青年は和尚である好空の好意により円空仏を拝観することが出来た。
しかし、どこか円空仏はよそよそしい印象であった。

その夜、円空仏を収めた堂から火が出た。
火は瞬く間に燃え広がり、円空仏は消失してしまうのだが……。

青年はまたも夢で真相に辿り着いた。
そもそも青年が見た円空仏は本物だったのだろうか。
もしも、あれが「焼けたお堂に円空仏があったと証言させる為の偽物だった」としたら。

実は円空仏は数年前に盗難の憂き目に遭っていた。
しかし、管理を任された好空としてはこれを公表することは出来ない。
其処で偽物を作り、美術品に疎い素人相手に特別に拝観させてやることで誤魔化していたのだ。

ところが、古美術ディーラーが本格的に円空仏を狙いだした。
彼らはプロだ。
一目見れば偽物を見抜くだろう。
其処で好空は焼失騒動を起こすことで盗難の事実を隠蔽しようとしたのであった。

青年はまたも利用されたことを知り、此の地を後にする―――エンド。

・『蛇と雪』

大曲を訪れた青年は凛という女性から声をかけられる。
青年は凛の兄・仁にそっくりらしい。
当の仁は蛇神様を信仰しており、謎の死を遂げていたが……。

その死に疑問を抱いた青年は凛の周囲を調べた。
当時、凛は恋人がいたのだが、彼女に異常な愛情を抱く仁に妨害され別れたらしい。
凛には仁を殺害する動機があったのだ。
だが、犯行当日の凛にはアリバイがあった。

これを聞いた青年は夢の中で凛が仁を追い込んだことを突き止める。
執拗な仁の監視下から逃れたかった凛は、仁が蛇神様を信仰していることを利用した。
階段に蛇神様を模した雪像を並べたてたのだ。

信仰心の篤い仁は蛇神様を足蹴に出来ず階段が降りられなくなった。
同時にそれほどまでに凛に憎まれていることを知り、自殺したのであった。

だが、凛はこれを後悔していた。
其処で何処か兄に似ている青年に声をかけてしまったのである―――エンド。

・『首なし地蔵と首なし死体』

山形を訪れた青年は其処で少年・博一の首なし死体事件に遭遇する。
首なし地蔵の傍に転がっていた博一の首なし死体……センセーショナルなソレは当地の話題をさらっていた。
しかも、博一の父・忠による犯行とされていたのである。
何故、このような残虐な行為に及んだのだろうか?

青年は調べ始めた。
すると、其処に複雑な事情が横たわっていることに気付く。

博一の母は律子といい、美しい女性らしい。
過去、この律子を巡り2人の男が争っていた。

1人は資産家の忠、もう1人が色男の譲だ。
律子は資産家の忠のもとに嫁ぎ、博一を生んだ。
だが、忠は律子と譲の不倫を疑い譲を殺害してしまった。
そして、逮捕され刑に服していたのである。
博一殺害は忠が刑務所を出た直後の出来事であった。

ちなみに、博一は黒い瞳の可愛らしい少年。
朝夕に何やら律子からおまじないを受けていたらしい。

このおまじないに注目した青年は夢で真相に辿り着く。
律子は朝夕のおまじないと称してコンタクトレンズを博一の目に嵌めていたのだ。
特に博一の視力に難があったワケでもないに関わらず。
何故か!?

そのコンタクトは視力を矯正する目的では無く、目の色を隠す為のカラーコンタクトだったのだ。
博一の目は父親とされる忠の色とは異なっていた。
博一本来の目の色は青色だったのだ。
そう、博一は律子と譲の不義の子であった。

犯人は律子であった。
打算から資産家の忠と結婚した律子。
だが、譲と不倫を続け博一を生んだ。
忠は譲との不倫を疑いはしたが、博一が自分の息子ではないことまでは疑わなかったのだ。
そうこうしているうちに忠が譲を殺害し服役した。
ところが、刑期を終えた忠が時期に戻って来ることに。

これまでは何とか誤魔化し続けて来たのだが、忠が戻ればもはや誤魔化しきれないと判断した律子。
其処で資産家の妻の地位を守るべく博一を殺害することを選んだのだ。
だが、目の色から事実が露見することを怖れ頭部を持ち去ったのであった。

何とも言えない結論に後味の悪さを覚える青年。
ところが、ふと新聞を目にした青年は其処に自身の名と第3回アガサ・クリスティー賞受賞の記事を発見する。

・『アガサ・クリスティー賞殺人事件』

青年こと三沢は第3回アガサ・クリスティー賞を受賞した。
授賞式当日、三沢と会った人々は彼のボタンの外れかけた服装やどうにも統一感のない名刺に狼狽える。

そして、授賞式―――選考委員の1人・有栖川有栖から激賞を受けた三沢は「授賞式を舞台にミステリを書く」と宣言する。
三沢は有栖川の「学生シリーズ」の大ファン。
それだけにとても喜んでいた。

直後、トイレの個室から有栖川有栖が死体で発見されることに。
個室の壁には「死体あり」と大書されていた。
この落書きを目にした時刻から犯行時刻が推定され、三沢にはアリバイが生じたが……。

果たして誰が有栖川有栖を殺害したのか!?
授賞式に参加していた千街は笹川に真犯人の名前を伝える。
それは三沢本人であった。

三沢には「不完全な美」を愛する癖があった。
だからこそ、敢えてボタンの外れかけた服装や統一感のない名刺を好んだのだ。
そしてファンである筈の三沢が有栖川有栖を殺害したのもコレが動機であった。
彼は自身の愛する「不完全な美」を自身が好む「学生シリーズ」にも求めたのだ。
つまり、シリーズが完結されることを怖れ作者を殺害したのである。

例の「死体あり」はやはりトリックであった。
透明なペンで時間が経過すると色が浮き出る物を使ったのだ。
千街によれば、授賞式で宣言したミステリを書く為の時間稼ぎらしい。

その頃、千街の言葉通り『アガサ・クリスティー賞殺人事件』を書き上げた三沢は自身の信ずる「不完全な美」を締め括るべく自殺を遂げようとしていた―――エンド。

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「アガサ・クリスティー賞殺人事件」です!!
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これを読めばあなたもアガサ・クリスティー通!!
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こちらもアガサ通必読の書!!
「アガサ・クリスティ大事典」です!!
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こちらは「名探偵ポワロ 全巻DVD-SET」です!!
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アガサ・クリスティを語るには下記の3作は必須!!
是非、この機会に一読を!!

「そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)」です!!
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「アクロイド殺し (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)」です!!
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