集英社刊『週刊ヤングジャンプ』に特別読切として掲載されていた本作。
読んでみたところ、何と言うのでしょうか、こう……琴線に触れるものがありました。
こうなれば、管理人が語るしかないでしょう!!
琴線に触れたもの、その正体については感想にて熱く語ってます。
と、その前に、本作における一人称視点でのネタバレあらすじにチャレンジしてみました。
ちなみに本作は「私小説」テイストの作品。
それ故に、大筋こそ忠実ですが敢えて一人称にアレンジしてます。
こちらに目を通してみて世界観に共感された方は、是非、本作それ自体にも目を通してみて下さい。
また、既に本作を読んでいる方はこのアレンジに注目頂くことで、どの点が管理人の琴線に触れたのかも分かるのではないでしょうか。
まるで、私小説のような本作。
決して見逃すなかれ!!
というワケで、ネタバレ批評(レビュー)です。
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
僕(福島マコト):福島家の長男。2人の姉に苛められて育った気弱な男子生徒。
坂東:僕が苦手とする同級生の男子生徒。筋骨隆々の偉丈夫。
小百合:僕が女装した姿。儚げな美少女。
此処はとある田舎に存在する地方都市。
其処では大正時代そのままに羽織袴で生活が行われていた。
そんな町で僕・福島マコトは裕福な家の長男として生まれた。
ただ、長男と言えど上に姉が2人居る。
この姉がなかなかに勝気な人で自身の主張を譲らない。
共に育つうちに僕は卑屈にならざるを得なくなってしまったんだ。
そんな僕に、いつしか2人の姉は女装させて楽しむようになった。
素材が良いのだろうね。
正直、女装した僕は姉2人よりも美しい自信がある。
とはいえ、それを素直に喜ぶワケもない。
だから、僕は2人の姉が大の苦手だ。
苦手と言えば、僕が通う学校にも苦手な者が居る。
筋骨隆々、偉丈夫を体現したかのような男―――坂東だ。
僕は細面で小柄だからまさに対照的な存在。
坂東は性格面でも対照的で卑屈な僕に対し堂々としている。
まさに、僕を陰とすれば彼は陽だろうね。
だから、僕は坂東の顔をまともに見た事が無い。
それほど彼が苦手だった。
そんなある日、僕は今日も自宅で姉2人の玩具にされていた。
ひとしきり遊ばれた後、飽きたのだろうか……放置された。
今日は特に入念に弄ばれたようだ。
服だけではなく、化粧まで施されている。
たぶん、そのときの僕はどうかしていたんだと思う。
(いつになったら終わるんだろう……)
僕はぼんやりとそんなことを考えながら、縁側に足を運んでしまったのだ。
縁側は道に面していた、外からは丸見えなのに。
そして外を歩いていた奴―――坂東と目が合ったんだ。
もしも、女装のことを周囲に言いふらされたら一貫の終わりだ。
マズイ……僕は思わず硬直した。
そんな僕に坂東は頬を赤らめたのさ。
戸惑う僕に坂東は静かに頭を下げると体躯に似合わずいそいそとした足取りでその場を去って行った。
何が何やら分からなかった僕だけど、どうやら坂東が僕に気付かなかったことだけは理解出来た。
ほっと胸を撫で下ろしていたんだけど……。
その翌日、坂東が学校で声をかけて来たんだ。
まさか、と思ったね。
ところが、坂東は僕にこう聞いて来たんだ。
「昨日、君の家に少女が居ただろう?あれは誰だい」ってね。
此処で僕はピンと来た。
坂東が僕に一目惚れしたんだってね。
これに僕は大きな自信を得たんだ。
僕は咄嗟にこう言ったよ。
「あれは僕の従兄弟の小百合だよ、都会から遊びに来てるんだ」とね。
案の定、坂東は「小百合さん、小百合さん」と口をもごもごさせると何やら目を細めたんだ。
僕はこれは面白いと思った。
だから、翌日から僕は小百合に変装しては坂東が居る弓道場に足を運んだ。
おや、言ってなかったかな?
坂東は弓道部に所属しているんだ。
聞くところによると、かなりの腕だそうだよ。
坂東は僕を見ると驚いたように呆けていたね。
あれは傑作だった。
何なら見せたいぐらいだよ。
そして、慌てて取り繕うように弓を射始めたんだ。
でも、坂東は心の平静を欠いたのか、まったく当てることが出来ない。
これまた僕を楽しませたね。
こうして、その日の坂東は最後まで彼らしさを発揮することなく終わったんだ。
僕はこれに味を占めて、毎日足繁く弓道場に坂東を訪ねるようになった。
ところが、最初の頃は動揺していた坂東もいつしか微動だにしなくなった。
慣れてしまったんだろうか……不安に駆られた僕は坂東を振り向かせるべくさらに女装に力を入れることにした。
可愛らしい服を集めた。
化粧道具も揃えた。
技術ももちろん磨いたさ。
ところが、坂東は全く動じなくなってしまったんだ。
そうこうしているうちに、僕の女装が父親にバレてしまった。
父親は烈火の如く怒ったよ。
危く勘当されるほどだった。
でも、例の姉2人が責任を感じて必死に執成してくれたので今回ばかりは許されることになったんだ。
まぁ、これがちょうど良い機会だろう。
僕は女装から訣別することにした。
それから数日、意外なことが起こったんだ。
坂東が日に日に精彩を欠いて行ったのさ。
もう小百合は居ないのにね。
あんなにしょぼくれた坂東を見たのは、後にも先にもあのときが最後だ。
それに比例して坂東の弓も精度を欠いて行った。
同時に、それまで黙っていた弓道部の連中が坂東を貶し始めるのを耳にした。
あいつらも坂東に不満を抱いていたんだね。
畏怖している内は黙っていたんだけど、最近の坂東に対する反動なのか……まぁ、出るわ出るわ坂東への不満ばかり。
あれは全く見ていられなかったね。
そのうちに「坂東はもう駄目だ」とまで言われ始めた。
何でも昇段試験を控えているらしい。
そのギリギリでこの状態だから……ということなんだろう。
誰も彼もに見放され、焦りからか何かを探し求めるように周囲を見回す坂東。
そのとき、僕はまた気付いたんだ。
坂東が探しているのは他でもない小百合であることに。
何時の間にか、坂東は小百合に見られることで集中出来るようになってたんだね。
これに気付いた僕は「誰かが彼を応援してやらねば」と義憤に駆られたんだ。
だとすれば、もちろん小百合の出番さ。
でも、考えて欲しい……僕は父と約束したんだ。
もう2度と女装はしない、と。
この約束を破れば勘当されかねない。
けれど、今此処で動かないと駄目な気がした。
昇段試験の日、僕は姉の服と化粧道具を黙って拝借すると小百合になった。
そして、昇段試験会場に駆け付けたんだ。
それまで青白かった坂東の顔が、此の僕を見るなり上気して行くさまは見物だったね。
まさに坂東は活き活きとし始めたんだ。
それからのことは多くを語るまい。
僕は声が枯れるほど坂東を応援し、坂東はそれに応えてくれた。
嬉しかったね。
ただ、その夜、僕は父親にこっぴどく叱りつけられたんだけどね。
約束通り勘当だ!!とまで宣言されたんだけど、此処でも姉2人が必死に説得してくれて事無きを得た。
あれに懲りたのか、以来、姉たちは僕に女装を強要することは無くなった。
そう言えば坂東だけど、あれから何度か彼は小百合について僕に尋ねて来た。
その度に僕は曖昧に答えたものさ。
彼は知らないけど、小百合とはもう永遠に会えないだろう。
でも、彼は彼なりに何処か嬉しそうだった。
そして、僕もようやくそんな坂東の顔を真正面から見ることが出来るようになったんだ―――エンド。
<感想>
本作は僕の成長物語。
如何にしてコンプレックスから脱却したかが描かれる。
僕が苦手とするあいつも実は部内で浮いていたことにより、僕だけじゃないと仲間意識を持つことが出来た。
これこそがコンプレックスを脱却出来た理由。
つまり、完璧と思えた相手に思わぬ瑕疵があり其処に親近感を抱くことでようやく対等になれたのです。
とはいえ、本作の肝はそれだけに非ず。
何と言っても、大正ロマンを舞台に描かれた倒錯的な関係性にある。
姉2人よりも美しい僕、どの男よりも男らしい坂東。
そんな坂東が僕と知らずに僕に恋する。
そして、僕はそんな坂東を心の中で密かに嘲笑し、卑しいプライドを満足させていた。
だが、坂東は何処までも本気だった。
それを知った僕は坂東を傷付けないように振る舞い、彼を応援するようになる。
まさにこの「僕の手弱女ぶり」と「坂東の益荒男ぶり」こそが良い。
序盤から中盤にかけて丹念に描かれたアンバランスな関係が、このラストに収束する構成こそが素晴らしいのだ。
私小説をコミカライズしたらこんな感じになるんだろうな……と思わせる空気感や、これを後押しする絵柄なども奏功し非常に完成度の高い作品に感じました。
このタッチで夏目漱石『こころ』をコミカライズしたら凄いことになりそうだなと思ったりもする。
それくらい良かった。
『週刊ヤングジャンプ』は連載はもちろん、読切もレベルが高いと確認出来た作品ですね。
◆関連過去記事
・やがて来るであろう第二部に向けて……「東京喰種」を考察してみる
・「カコとニセ探偵」(光永康則作、集英社刊「週刊ヤングジャンプ」掲載)ネタバレ批評(レビュー)
・「スキップ!山田くん」(大場つぐみ作、ろびこ画、集英社刊『週刊ヤングジャンプ』掲載)ネタバレ批評(レビュー)
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・今週(2012年4月5日)の「へ〜せいポリスメン!!」(稲葉そーへー著、集英社刊ヤングジャンプ連載)がかなり面白かったのでネタバレ批評(レビュー)
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どれも本作に近いテイストで、傑作ぞろいです。
年末に単行本化されるとのことですので楽しみにしております。
こんばんわ!!
管理人の“俺”です(^O^)/!!
福島先生の読切は今回「私と小百合」が初めてだったのですが、凄く心を揺さぶられました。
他にも読切があり、これまた本作同様の傑作揃いとのこと。
さらに、年末に単行本化とは!!
教えて頂きありがとうございます。
管理人も単行本を楽しみに待ちたいと思います(^O^)/!!