2015年05月16日

『名探偵の証明 密室館殺人事件』(市川哲也著、東京創元社刊)

『名探偵の証明 密室館殺人事件』(市川哲也著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

気がつくと密室館と呼ばれる館にいた日戸涼は、他に七人が閉じこめられていることを知らされる。一大ブームを巻き起こした名探偵・屋敷啓次郎に心酔しているミステリ作家・拝島登美恵が、取材と偽って密室館に監禁した男女八名。顔を兜で隠した人物や何事にも無気力な人物など曰くありげな人々に加え、名探偵として誉れ高い蜜柑花子までいた――!! 館内で起こる殺人のトリックを論理的に解くことができれば解放される、と拝島は言うが果たして? 出口のない館の中で次々に起こる殺人事件。トリックの解明に挑む蜜柑花子の苦悩と渾身の推理、さらに“名探偵の宿命”をフレッシュな筆致で描く《名探偵の証明》シリーズ第二作。
(公式HPより)


<感想>

「第23回鮎川哲也賞」受賞作『名探偵の証明』のシリーズ第2弾。
前作にて「名探偵の証明シリーズ」は三部作構想と述べられていた通り、前作のテーマを受けての本作となっています。

『名探偵の証明』(市川哲也著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)

そんな第2弾の主人公は日戸涼。
彼は「ある事情」により「名探偵」を憎む男性。
そんな彼を待ち受ける数奇な宿命とは!?

さらに『名探偵の証明』に登場した「もう1人の名探偵・蜜柑花子」が活躍する。
さらに本作では「3人目の名探偵」も登場。
但し、この人物は一筋縄では行かなかった。

ちなみに、日戸の蜜柑への憎悪は名探偵への期待の裏返しなんだよなぁ。
蜜柑が期待した通りの活躍を見せてくれないことに苛立ちを募らせているワケだし。
しかし、これがある事情を知ることで反転する。
此処が本作のポイント。

これを踏まえた上で本作のテーマは2つ。

まず1つ目は名探偵たる蜜柑の孤独か。

事件発生後から事件に関わる為に常に後手となる名探偵。
そして、全てを見通した時には全てが終わっている。

これは「人に見えない物を見出す名探偵ではあるが、それにも限界がある」ことを示している。
同時に「気付かずに居られたことを気付いてしまう」ことも。

それもまた名探偵の宿命である。
それゆえに蜜柑は孤独に苦しむ。

また、言い換えれば「探偵とは犯人が創造した事件を紐解く存在に過ぎず、あくまで犯人の敷いたレールの上を走らされているに過ぎない」とも言える。
この事実を最も知っているのも当の名探偵である。

だからこそ、蜜柑を凌駕する名探偵の資質を持つ「あの人」はこれに反発し「世界を創造する」地位を望んだ。
それはすなわち「物語を紡ぐ者=探偵に謎を投げかける犯人」のポジションだ。

そして本作2つ目のテーマ。
それが名探偵と共に在り続ける「助手の宿命」。
助手は名探偵があって輝き、名探偵なくしては存在し得ない。
前作でも触れられていたことだが、それが今作ではさらに強調されている。
日戸視点で描かれた本作は「助手の宿命」について触れた作品とも言えるのである。

前作『名探偵の証明』が「探偵の宿命」。
今作『名探偵の証明 密室館殺人事件』が「助手の宿命」。
そして、今回登場した「あの人」の本質から考えれば次作のテーマは「犯人の宿命」か。

まとめると三部作はこんな感じになりそう。

第1弾『名探偵の証明』:名探偵たるものの宿業を描く。
第2弾『名探偵の証明 密室館殺人事件』:名探偵との触れ合いを通じ助手の誕生を描く。
第3弾『名探偵の証明 ???』:名探偵を通じ、犯人の破滅を描く。

三部作とは、こういった構想なのかもしれません。

なので、本「名探偵の証明シリーズ」は「名探偵の宿命」を描きつつ「名探偵」、「助手」、「犯人」の業をも描き切るシリーズになるのかもしれません。

それと前作に続き、此処まで強調されているところを見ると『天空城事件』も何かのキーになりそう。
第3弾では、『天空城事件』がモチーフとなりそうな予感。
それを以て、屋敷、蜜柑、あの人の終幕に相応しい結末を迎えるのではないでしょうか。

なお、ネタバレあらすじはかなり改変しています。
興味のある方は本作それ自体を読むべし!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
蜜柑花子:今をときめくアイドル探偵。
日戸涼:蜜柑を憎悪している男性。
恋:涼が好意を抱いた女性。
拝島登美恵:今回の犯人。密室館に関係者を招いた。
屋敷啓次郎:往年の名探偵。前作で非業の死を遂げた。
武富竜人:屋敷の相棒。元警察官。


日戸涼は名探偵を憎んでいる。
いや、正確には蜜柑花子を恨んでいる。
何故なら、蜜柑が彼の家族を救えなかったから。
にも関わらず、蜜柑はそんな失敗をおくびにも出さず「名探偵でござい」と今も偉そうに凄んでいる。
だから、日戸は蜜柑が憎い。
殺したいほど彼女を憎んでいる。

そんな中、日戸は彼の本願を達成出来る場に立ち会うこととなった。

名探偵・屋敷を尊敬していたというミステリ作家・拝島登美恵の手により、彼女の自宅「密室館」に監禁されたのだ。
それも、蜜柑を含む別の7人と共に。

登美恵は日戸たちに宣言する。
これから発生する殺人事件のトリックを4日の間に解明出来れば解放する。
だが、出来なければ……と。

これは日戸にとってチャンスであった。
登美恵の犯行に偽装し、蜜柑を殺害してしまえば誰にも分からないのだ。

だが、同時に日戸の理性がこれを押し留める。
それは卑劣な手段である。
人として許される物ではない。

矢先、登美恵の宣言通りに殺人事件が発生。
脱出を賭けて蜜柑が調査に乗り出す。

これが日戸を苛立たせた。
またも、蜜柑は事件発生を阻止出来なかった。
これのどこが名探偵と呼べるのか!?
そもそも、名探偵とは何なのか!?

共に閉じ込められている恋の可憐な態度を見るにつけ、日戸の中で苛立ちが募る。
恋に惹かれ、彼女を守りたいと決意する日戸。
一方で、不甲斐ない蜜柑への憎悪を膨らませて行く。

やがて、日戸は蜜柑を殺そうと襲撃してしまう。
だが、日戸は蜜柑の手首にリストカットの痕跡を発見し犯行を思い留まる。
蜜柑もまた、名探偵としての能力を持ちながら事件を未然に防げないことに苦しんでいたのだ。

これを知った日戸は蜜柑に謝罪し、彼女への協力を約束する。
そして、蜜柑が辿り着いた事件の真相とは―――。

蜜柑は登美恵に指摘する。
そもそも登美恵は環境を整えただけで何もしていない、と。

登美恵は日戸と蜜柑のように「憎む者」と「憎まれる者」を4組揃えた(計8人)に過ぎない。
その彼らに対し登美恵が犯行を宣言することで心理的に便乗犯が生まれるように誘導したのだ。
後は放置しておくだけで良い。

さらに、蜜柑はこの犯行に至った登美恵の動機を告げる。
登美恵は屋敷のように実際に起こった事件を作品とすることで大ヒットを狙ったのである。

動機までも見抜かれた登美恵は敗北を認め、蜜柑たちを解放する。
後日、登美恵の遺体が発見され事件は終わりを告げた。
これは自殺と思われた。

数日後、蜜柑は日戸と共に恋を呼び出す。
恋が待ち合わせ場所に指定したのは崖の上であった。

まるで2時間サスペンスのラストを思わせる其処で、蜜柑は登美恵の背後に暗躍した存在を明かす。
それこそ……恋であった。
蜜柑は恋が自分よりも早くに登美恵の思惑を看破していたにも関わらず、殺人を阻止するでもなく寧ろ煽っていたことに気付いたのだ。

日戸と親しくなったことで彼の蜜柑への憎悪を知った恋。
恋自身の置かれた状況も合わせれば、事件の全体像を察することは容易であった。
特に、恋ならば……。

蜜柑は恋が自身や屋敷と同じ「名探偵」であると指摘する。

これを恋は悪びれもせず認める。
蜜柑の指摘通り、恋もまた名探偵の才を持って生まれた人物であった。
だが、恋は屋敷や蜜柑と異なり、その才を己の欲の為に用いていた。
今回は、犯人役を演じて見たくなったのだと言う。

だから、日戸の自身への気持ちを知りつつ利用した。
日戸は知らず知らず恋に煽られ蜜柑に襲い掛かったのである。

恋は此処で高らかに笑う。
その意味に蜜柑は気付いていた。

恋は実際に手を下していない。
彼女の罪を問うことは出来ないのだ。

颯爽と去って行く恋。
それを止めることが出来ない蜜柑は無力感を噛み締める。
そんな蜜柑に、日戸は「屋敷にとっての武富竜人のように助手として支える」と宣言することに。

一方、恋は今回の結末に満足していた。
蜜柑が告発に失敗し日戸が助手宣言することまで、すべて計算通りである。
もちろん、蜜柑がある推理を誤る点さえも。

蜜柑の推理はある一点で誤っていた。
恋が登美恵の作った状況を利用したのではない。
すべてがそもそも恋の仕掛けたものだったのだ。
恋は登美恵の虚栄心を煽り、事件を仕組んだ。
登美恵は最初から最後まで恋に利用されていたに過ぎず、それすら理解していなかった。
だから、恋の手で退場させられたのである。

恋は今、登美恵に代わり「密室館」での出来事を小説にまとめている。
これを発表すれば大きな反響があるだろう。
触発されて同様の行為に及ぶ者も出るかもしれない。
だが、それこそが恋の望みであった。

何故なら、すべて恋が敷いたレールの上にある出来事だからである。
作中の犯人を操るのは、物語の作者である創造主の御業だ。
だから、「密室館」に触発された犯行が起これば、その瞬間に恋は彼らの創造主となる。
そう、恋は登場人物の枠を脱し創造主の域に立とうとしていたのだ。

そして、物語の犯人には対決する名探偵と助手が必要だ。
その役割こそ、恋が蜜柑と日戸に割り振ったものだったのだ。

「さぁ、遊びましょう」
呟く恋の前には次なる彼女の作品が―――エンド。

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