2015年03月02日

『Bハナブサへようこそ』(内山純著、東京創元社刊)

『Bハナブサへようこそ』(内山純著、東京創元社刊)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

僕――中央(あたりあきら)――は、大学院に通いながら、元世界チャンプ・英雄一郎先生が経営する、良く言えばレトロな「ビリヤードハナブサ」でアルバイトをしている。
ビリヤードは奥が深く、理論的なゲームだ。そのせいか、常連客たちはいつも議論しながらプレーしている。いや、最近はプレーそっちのけで各人が巻き込まれた事件について議論していることもしばしばだ。
今も、常連客の一人が会社で起きた不審死の話を始めてしまった。いいのかな、球を撞いてくれないと店の売り上げにならないのだが。気を揉みながらみんなの推理に耳を傾けていると、僕にある閃きが……。
この店には今日もまた不思議な事件が持ち込まれ、推理談義に花が咲く――。
第二十四回鮎川賞受賞作。
(公式HPより)


<感想>

「第24回鮎川哲也賞」受賞作。

「第24回鮎川哲也賞」受賞作決定!!栄冠は内山純先生『Bハナブサへようこそ』に!!

まず、『Bハナブサへようこそ』との印象的なタイトルが目を惹きます。
「Bハナブサ」とは「ビリヤードハナブサ」を示しており「英」が経営するビリヤード店を指す。
まさに、この「Bハナブサ」こそが全ての舞台となっています。

その内容は『バンキング』『スクラッチ』『テケテケ』『マスワリ』の4作からなる連作短編集。
この各短編タイトルは、いずれもビリヤード用語である。
本作では各短編のタイトルに沿ったロジックが用いられているのが特徴。
すなわち、ビリヤードが本作の根幹を支えるツールとなっており、これを知る方であればより本作を楽しめる。

テーマ的には「ビリヤード」の他に「大なり小なりの異文化交流が生み出す認識の相違」を謎として扱っているのかな。

例えば個人同士の趣味の無理解(『マスワリ』)。
例えば地域間の習俗など(『テケテケ』)。

此の点は異文化交流そのものを扱っていた『叫びと祈り』に近いかもしれない。

『叫びと祈り』(梓崎優著、東京創元社刊)ネタバレ批評(レビュー)

中でも本作で特にテーマ性の強いのが『マスワリ』。

被害者と加害者がそれぞれ趣味(文化)を持っているのだが、それを互いに全く理解しようとしなかったことから起きた悲劇を描いている。
この場合は「被害者:ビリヤード文化」、「加害者:ペット文化」と言った具合だ。
まず、被害者が加害者のペット文化に対し理解を怠った為に揉めるもととなった。
次いで、加害者の被害者が行っていたゲームへの無理解から誤解が生じ、結果として殺人事件にまで発展してしまう。
この対比が上手かった。

此の点にも注目して読んで欲しい。

なお、ネタバレあらすじはかなり改変しています。
興味のある方は本作それ自体を読むべし!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:
中央(あたりあきら):主人公。Bハナブサのバイト。
英雄一郎(はなぶさゆういちろう):Bハナブサのオーナー。
ご隠居:本名佐藤。Bハナブサ常連客の1人。
小西:喫茶店経営。Bハナブサ常連客の1人。
木戸の姉さん:永遠のマドンナを自称する。Bハナブサ常連客の1人。
日下:中央の同級生、遊び人。


「中央」、あなたはこの字をどう読むだろうか?
ちゅうおう?
残念ながらそれはこの場に限ってはハズレだ。
正解は「あたり・あきら」。
人によればひっかけ問題だと怒られるかもしれないが、それが彼の名前である。
かなり独特な名前と言えるだろう。

それだけに、中央はその名前をきちんと呼んで貰えたことがないことがコンプレックスであった。
そんな中央が英雄一郎と出会った。

英雄一郎……えいゆう・いちろうではない。
「はなぶさ・ゆういちろう」である。

同じようなコンプレックスを感じさせる名前の持ち主2人が出会ったとき、2人は恋に……落ちはしないが、共感を抱いた。
こうして、中央は英雄一郎が経営する「ビリヤード ハナブサ」にてアルバイトすることとなった。

「ビリヤード ハナブサ」にはオーナーである英雄一郎の人柄もあってか多くの常連が居る。
例えば「ご隠居」こと佐藤老人、喫茶店経営の小西、永遠のマドンナを自称する木戸の姉さんたちだ。

そもそも、英雄一郎は元ビリヤードの世界チャンプであった。
それだけに人気も高い。

やって来た客は思い思いに球を撞く。
そして、談笑する。

中央はそんな客たちの会話から、意外な結論を見出すことに長けていた。
いつしか、客たちは中央の推理を聞く為に話を始めることに。
これは、そんな物語。

・『テケテケ』

中央の友人・日下にせがまれ、常連客の1人で高名な科学者である霞ヶ浦が自身が体験した事件について語り出した。
霞ヶ浦は成功を収める前、若かりし日に参加したヨーロッパで行われた研究会での出来事に触れる。

それは多国籍な集まりで、日本からは霞ヶ浦と同僚の綾瀬が参加していた。
霞ヶ浦は外向的な性格、反面、綾瀬は内向的な性格で霞ヶ浦は周囲に溶け込んだものの、綾瀬は孤立していた。

この研究会、参加者にはある程度の実績が求められるものであった。
終了日までに成果を出すことが必要とされていたのだ。
当然、それぞれのプレッシャーも大きい。
霞ヶ浦は仲間と共に研究を進めたが、綾瀬は部屋に引きこもってしまいコミュニケーションも取れない状態が続いた。

そして研究会の終了日が近付いたある日、会議室にて綾瀬の死体が発見されたのである。
その日は仲間が集まり各自の研究成果を持ち寄る筈の日であった。

他殺の可能性も検討されたが、会議室の入退室データからこれは否定された。
綾瀬は1時間も前に会議室に入っており、また以降に扉が開閉されたデータが残されていなかったからである。
周囲は綾瀬が研究に行き詰り自殺したと結論付けた。

その後、霞ヶ浦は研究者として大成功を収めることとなったのだ。

これを聞いていた中央は犯人に気付いてしまった。
中央が犯人として名を上げたのは当の霞ヶ浦であった。

コミュニケーション能力が高かった霞ヶ浦。
コミュニケーション能力が低かった綾瀬。
だが、コミュニケーション能力の高低が、すなわち研究者としての実力ではない。

綾瀬が引き籠っていたのは、彼が天才肌で独自の研究を進めていたからであった。
そして、霞ヶ浦こそが行き詰まりを見せていたのだ。
そして、綾瀬死後の霞ヶ浦の躍進の理由。
こうなると、事件は180度様変わりする。

もしかして、霞ヶ浦は綾瀬の研究成果を奪ったのではないか?
此処に霞ヶ浦に綾瀬を殺害する動機が生じた。
では、霞ヶ浦はどうやって綾瀬を殺害したのか。

綾瀬の時計は1人だけサマータイムにより1時間進んでいたのだ。
そして、綾瀬はこれに全く気付いていなかった。
だから、会議室に1時間早く入ってしまったのだ。

霞ヶ浦はこの綾瀬の勘違いを助長しつつ、共に早入りした。
そして、扉止めを用いて退室時まで扉を開けておいたのだ。
だから、入退室データに履歴が残らなかったのである。

こうして、霞ヶ浦にも犯行可能であることが明らかとなった。
霞ヶ浦は中央の推理の大半を認めつつ、これに補足を加える。

最初から綾瀬を殺害するつもりは無かったらしい。
2人きりになったところで霞ヶ浦は綾瀬に研究論文を共同研究にしてくれないかと頼み込んだ。
だが、綾瀬はこれを蔑むように笑って拒否したと言う。
逆上した霞ヶ浦と綾瀬は揉み合いになり、何時の間にか綾瀬が死亡したのであった。

告白したことで長らくのつかえが取れたようだと笑顔を浮かべた霞ヶ浦。
その後、出頭することとなった―――エンド。

・『マスワリ』

ペット関連事業で有名な香山社長が殺害された。
この第一発見者となったのが英だったからさぁ大変。

英から事情を聞いた中央は早速、推理に乗り出すことに。
香山社長には秘書の宮沢が居たが、最近は揉めていたらしい。
さらに、香山社長の遺体がキャロム台に寝かされていたと聞いた中央は犯人を指摘する。

キャロム台にはヒーターが入っている。
犯人はこれを知っており、死体を温めることで殺害時刻を誤認させようとしたのだ。
だが、実際にはキャロム台のヒーターに其処までの温熱効果は見込めない。
つまり、ビリヤードに多少の知識は持つがそれほど詳しくない人物が犯人となる。
香山社長の周辺でこれに該当するのは宮沢しか居ない。

殺害当夜、宮沢は香山社長に解雇を言い渡され、これに談判していた。
香山はペット事業を営みながらペットへの愛情に無理解であった。
逆に宮沢はペットに愛着を抱くタイプ。
此処で感情的な行き違いが生じ、解雇にまで発展していたのだ。

必死に解雇の撤回を主張する宮沢。
その前で香山は淡々とキャロム台でのプレイを続けマスワリ(完全試合)を達成した。
しかも、ゴキブリショット(台を這うようなショットのこと)でだ。

此処で香山は興奮のあまり宮沢の目の前で「ゴキブリ、ゴキブリ」と連呼してしまった。
しかし、宮沢はこれを知らない。
てっきり、香山社長から「ゴキブリ」と罵られたと勘違いし殺害してしまったのである。

こうして宮沢が逮捕され、英は無実が証明されたのであった―――エンド。

◆関連過去記事
「第24回鮎川哲也賞」受賞作決定!!栄冠は内山純先生『Bハナブサへようこそ』に!!

「Bハナブサへようこそ」です!!
Bハナブサへようこそ





こちらはキンドル版「Bハナブサへようこそ 第24回鮎川哲也賞受賞作」です!!
Bハナブサへようこそ 第24回鮎川哲也賞受賞作



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