ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
患者の脳病変が消えた。新たな担当講師となった男性からの難問に学生たちは……。第11回ミステリーズ!新人賞受賞作
(公式HPより)
<感想>
舞台はとある医大の講義室。
其処で講師はある患者について語り出す。
彼女には脳病変があったのだが、ある日を境に消えてしまったと言うのだ。
果たして、何故、消えたのか―――その謎に学生たちが挑む!!
その真意とは!?
そんな本作は「第11回ミステリーズ!新人賞」受賞作です。
・「第11回ミステリーズ!新人賞」受賞作発表!!栄冠は浅ノ宮遼先生『消えた脳病変』に!!
第11回は応募総数592編、佳作が選ばれなかったので票が割れることなくその頂点に立った作品と言えるでしょう。
事実、選評を読んでみても選考委員の票が本作に集中していたことが分かります。
その専業的なテーマと登場人物たちが討論することによって生じる『毒入りチョコレート事件』的な二転三転する真相が高い評価を受けた様子。
ロジックも精緻であったとの評もありました。
実際、読んでみるとかなり完成度が高い。
西丸豊―――この名前、シリーズ化されそうですね。
作中の榊同様に「覚えておかねば」と言うべきでしょう。
さらに、辻村も。
おそらく、本作が単行本化される際には西丸が探偵役で辻村がワトスン役の連作短編になるのかもしれない。
今後も要注目です!!
なお、『消えた脳病変』は単品で電子書籍でも発売されているようなので、興味をお持ちの方はチェック!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
辻村:医学部の学生。
榊:医学部講師。
西丸豊:???
医学部の学生・辻村たちが講義を待つ教室に、新たな担当講師・榊が杖を突きつつ現れた。
榊は医学生の心得を教えるとして、ある女性患者について語り出した。
その患者には大きな謎があるらしい。
榊が担当した患者には脳病変があった。
患者には姉が居り、いつも付き添っていた。
ところがある日、患者が1人で榊を訪れて来た。
不審に思いながらも榊が検査を行ったところ、事態が急変する。
採血検査の直後に患者が倒れてしまったのだ。
もしや脳病変が原因なのか……これを機に調べたところ確かにあった筈のソレが消えてしまったのだ。
榊はこの謎を解き明かすよう学生たちに告げた。
辻村を始め、学生たちは様々な意見を述べて行く。
手術ではないか?
もしや、脳病変を上回る腫瘍ではないか?
あるいは、新技術・ガンマ線治療による成果ではないか?
しかし、榊は学生個人の外見的な特徴を取り上げ揶揄しつつ、それらすべてに首を振る。
そもそも患者には手術などが行われた形跡はないらしい。
やがて、皆が皆、当初の雰囲気とは打って変わって押し黙って行った。
そして、諦めムードが漂い始めた。
そんな中、1人の学生が口を開いた。
彼は告げる―――もしかして、先生は人の顔が認識出来ないのではありませんか、と。
榊は杖を突いている。
過去に脳卒中を患っているのだ。
しかも、わざわざ1人1人学生の外見的な特徴を取り上げていた。
あれに意味があるとすれば……榊は人の顔が区別出来ず特徴で辛うじて判断していたのだ。
これに満足げに頷く榊。
学生は続ける。
だとすれば、榊には女性患者の顔も見分けられていなかったことになる。
もしかして、患者が入替っていたのではないか。
つまり、榊が人の顔を見分けられないことに気付いた患者の姉が騙りを行ったのだ。
狙いは障害年金だったと言う。
患者本人は受給を拒否していたが、家族は本人の為にも受給すべきと考え申請手続きを行う為に成り済ましたのだ。
ところが、血液検査が行われると聞いた姉は驚き慌てた。
何しろ妹ではない、与えられた薬を飲んでいないのだ。
其処で慌てて薬を飲んだ為に、飲みなれない薬に影響が出て倒れてしまったのだ。
そして、検査が行われ自然に脳病変が消えるとの不可思議な事態に繋がったのだ。
榊は正答に辿り着いた学生に名前を問う。
学生は「西丸豊です」と答えた。
これに「覚えておく」と応じる榊。
続いて榊は語る。
今回の問いは医者として患者を想い、諦めることなく最後まで考えることの大切さを説いたものだったのである。
これを聞かされた辻村は西丸に対し、羨望ともつかない嫉妬を覚えるのであった―――エンド。
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