2014年11月05日

『金曜に彼は何をしたのか』(米澤穂信著、集英社刊『小説すばる 2014年11月号』掲載)

『金曜に彼は何をしたのか』(米澤穂信著、集英社刊『小説すばる 2014年11月号』掲載)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<感想>

米澤穂信先生「僕と松倉シリーズ」第3弾、短編です。
ちなみに、個人的に「僕と松倉シリーズ」と呼んでいましたが正式には「シモンズシリーズ」だそうです。
シリーズには『913』や『ロックオンロッカー』の2作があり、本作『金曜に彼は何をしたのか』はその第3弾になります。

『913』(『小説すばる 2012年01月号』掲載、米澤穂信著、集英社刊)ネタバレ書評(レビュー)

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それにしても、この『金曜に彼は何をしたのか』とのタイトルが巧妙ですね。
読後、このタイトルに込められた「彼」と「何をしたのか」の意味がじわじわと来ます。

そして、僕と松倉の仲に亀裂が入りつつあるようです。
すべて知っているように思えた友人の意外な一面。
そもそも人と人がすべてを理解し合える筈がない以上、こうなるのは必然だったのか。
ある種、この点では「小市民シリーズ」や「古典部シリーズ」を思い出すなぁ。

松倉の行動は自分に正直であはるけど、あくまで自己満足の領域なんだよなぁ。
本当に助けたいのならば、最後まできちんと面倒を見るべきだし。
この辺りが推理と犯人告発に留まり、事後には関知しない名探偵と同じ資質を感じた。
まさに松倉は名探偵と言えるのかもしれない。

さて、僕と松倉の仲はどうなるのか?
いずれ松倉と対決する日が来るのか!?
おそらく、一冊の本になるにはあと2話ほど必要な筈。
シリーズ次回にも注目です!!

<ネタバレあらすじ>

ある金曜日の放課後、今日も今日とて松倉と喋っていた僕こと堀川。
その日、松倉は「青い鳥」について語り出す。
それは彼がその日経験した事柄に関連していた。

なんでも、授業中に校舎内に飛び込んで来た緑の鳥を振り払って撃ち落としてしまったらしい。
あんなことってあるんだなぁ……と気まずそうに語る松倉。
鳥に被害を及ぼしたことに申し訳なさそうであった。

そして週明け月曜日。
僕らのもとへ後輩の植田が相談にやって来た。
助けて欲しいらしい。

なんでも、先週の金曜日の夜に何者かが校舎の窓を割ったのだ。
学校側は迫るテスト問題を盗み出そうとした者の犯行と見込み、素行の悪い植田の兄を疑っているようだ。
この状態が続けば植田の兄は退学を余儀なくされてしまう。
其処で、植田は兄を救って欲しいようだ。

これを引き受けた僕と松倉。
手掛かりをもとに植田の兄の当日の行動を追い、彼が離婚した父親の見舞いに訪れていたことを突き止める。
家族の手前、言い出せなかったようである。

とはいえ、明確な証拠は無い。
これを学校側に認めさせることが出来るかは不透明であった。

そして、僕には気になっていることがあった。
植田の兄が犯人でないとすれば、窓を割った人物が他に居ることになる。
それは誰なのか!?

僕には心当たりがあった。
松倉だ。
僕はそっと松倉に確認する。

これに松倉は悪びれもせずに応じた。
金曜日、松倉は緑の鳥を振り払って撃ち落としてしまった。
松倉は弱った鳥を校外に逃がそうとしたが、鳥は野性により彼を避けた。
仕方なく鳥を校外へと逃がすことを諦めた松倉だったが、此処で意外な行動に出た。
鳥の為に逃げ道を用意して置こうと思ったのだ。
其処で逃げられるように窓を割ったのである。

これに僕は異を唱える。
何しろ、松倉の行動により植田の兄が不要な疑いを受けたのだ。
しかも、その窓から鳥が逃げたかどうかも分からない。

これに松倉は「だからどうした?」と平然と答える。
松倉にとって植田の兄の疑惑が晴れるかどうかはまた別の事。
そして、鳥が実際に逃げたかどうかもまた別の事なのだ。
あくまで、自分が逃げ道を用意してやったことが重要らしい。

これまでに見たことのない松倉の姿に、僕は言葉を失うのであった―――エンド。

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