ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
明らかになる偽証。いま、真犯人が告げられる――。現代ミステリーの金字塔、堂々完結。
ひとつの嘘があった。柏木卓也の死の真相を知る者が、どうしてもつかなければならなかった嘘。最後の証人、その偽証が明らかになるとき、裁判の風景は根底から覆される――。藤野涼子が辿りついた真実。三宅樹理の叫び。法廷が告げる真犯人。作家生活25年の集大成にして、現代ミステリーの最高峰、堂々の完結。
(新潮社公式HPより)
<感想>
『ソロモンの偽証 第3部 法廷 下巻』(新潮社刊)にボーナストラックとして収録された中編。
・『ソロモンの偽証 第1部、第2部、第3部』(宮部みゆき著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
事前情報として、本編終了後から20年経過し弁護士になった藤野涼子が新たに遭遇した事件が描かれることが明かされていました。
さらに、『ペテロの葬列』後の杉村三郎が登場することも伝えられていましたが……。
・宮部みゆき先生『ソロモンの偽証』に続編『負の方程式』が登場!!其処にはあの人も……
読んでみて驚いた。
この『負の方程式』、藤野涼子が主人公の作品ではありません。
確かに涼子もキーキャラとはなっていますが、厳密には「杉村三郎シリーズ」の一編と言えるでしょう。
主人公は杉村三郎となっています。
・『ペテロの葬列』(宮部みゆき著、集英社刊)ネタバレ書評(レビュー)
果たして『ペテロの葬列』後の杉村はどうしているのか?
そんな読者の疑問に答えている作品と言えるでしょう。
しかも、涼子のその後も分かるように。
なんと、涼子はあの人と結婚して子供が居る様子。
さらに、あの人は学者になっていました。
今後の杉村と涼子の共闘も期待出来そうだし、重要な中編になっているのかもしれない。
これは……読むべし!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
杉村三郎:『ペテロの葬列』後に探偵となった。秋吉の依頼で事件を調査することに。
藤野涼子:『ソロモンの偽証』から20年後の涼子。弁護士となっている。
火野教諭:涼子の依頼人なのだが……。
瑛子:火野の妻。火野とは再婚である。
育司:火野の連れ子。
三好:火野を告発した中学生集団のリーダー。
下野:三好の仲間。
秋吉:三好の仲間。彼の父が杉村の依頼者である。
杉村三郎が探偵となり2年が経過していた。
当初こそ目的の為に嘘を吐くことに抵抗があった杉村だが、今ではそれも板に付き「嘘も方便」と割り切れるほどになっていた。
もはや、杉村にとって探偵業は天職と呼べるものであった。
そして、杉村は別れた妻とも今でも連絡を取り合っている。
話題はもっぱら娘のことである。
娘は過去の妻に似て病弱気味なところがあり、それが杉村にとって不安であった。
そんな杉村に新たな依頼が舞い込んだ。
依頼主は秋吉なる中学生の父親である。
秋吉は私立中学に通う生徒であったが、ある事件以来精神のバランスを欠いていた。
これを不安に思った父親が事件の真相を調べて欲しいと依頼して来たのだ。
事件は学校主催の合宿中の出来事であった。
この合宿は担任教師の火野が責任者となり行われた。
参加者は三好、下野、秋吉らである。
ところが、その夜に事件が起こった。
下野が合宿所を逃げ出したのだ。
そして、親に助けを求めたのである。
下野によれば次のようなことがあったらしい。
その夜、火野が三好らの部屋を訪れた。
そして「もし、この場で何かが起こって誰かが犠牲にならなければ他の皆が助からない場合に誰を犠牲にするか考えておけ」と言い残して去ったらしい。
最初は火野の性質の悪い冗談だと思った三好たちだが、本気だった場合に備え答えを用意することに。
その中で選ばれたのが下野だったのだ。
これに下野はショックを受け逃げ出したのだそうだが……。
これが問題視されることとなった。
火野の言葉は冗談にしろ、本気にしろ大問題である。
当然、火野に対し普段から快く思っていなかった学年主任が先頭に立って糾弾する動きに繋がった。
ところが、火野はこれを否定。
そもそもそんな言葉を口にした覚えがないと主張したのだ。
しかし、学年主任はこれを信じなかった。
何しろ、下野以外にも三好や秋吉らその場に居た生徒全員がこれを認めたからだ。
どうやら主任と火野の間には軋轢があったようである。
結局、火野は主任を殴ってしまい退職することとなった。
今では、弁護士を雇い係争中である。
ところが、それから秋吉が塞ぎ込むようになり遂に自殺未遂まで引き起こしたのであった。
もしかして、火野の言葉こそが真実では無かったか……秋吉の父は事件の真相を確認すべく杉村に依頼したのである。
そして、杉村が乗り出したのだ。
学校関係者らに聞き込みを行う杉村。
彼特有の洞察力と此処2年でさらに培われた人間観察力によって、どうやら火野が差別意識の強い教師であったことが判明する。
生徒の学力によって依怙贔屓をしていたようなのだ。
しかも、嫌った生徒に対しては徹底的に嫌がらせを繰り返していた。
そんな中、杉村は火野の弁護士・藤村涼子と出会う。
なかなかのやり手ぶりを発揮する彼女にタジタジとなる杉村。
しかし、彼女もまた真実を求めていることを知り共闘することに。
杉村はさらに調査を進めて行く。
火野には妻があった。
名は瑛子、火野とは共通の恩師の紹介で知り合ったそうだ。
瑛子は再婚で育司という男の子を連れ子していた。
どこか塞ぎがちな瑛子の様子に不審を覚える杉村。
どうやら、火野は家庭人としても問題を抱えていたようだ。
さらに杉村は三好を目にして彼こそが事件の核心に居ると察する。
どうやら、三好が下野と秋吉らの火野への反感を煽り立て事を起こしたようだ。
つまり、下野の事件は三好らによる狂言だったことになる。
だが、三好自身にはもう1つ何かが隠された動機が存在するように思われた。
杉村はある物を目にしたことで三好の隠された動機に目星を付ける。
矢先、秋吉が家出してしまう。
これ自体は杉村が出て来たことに不安を感じた秋吉が善後策を検討するべく三好を頼ったものであったが……。
狼狽した秋吉の父が瑛子に「息子の家出」について連絡を入れてしまう。
火野自身は実家に逃げ帰っていたのだが、これを聞いた瑛子が何やら驚き慌てることに。
それから翌日、杉村は逃げた火野を追いその実家へ。
ところが、どうも様子がおかしい。
火野の母は必死に杉村を追い返そうとしているようだ。
さらに、瑛子に連絡を取ったところ、育司によれば瑛子は昨夜から帰宅していないと言う。
これは……まさか……。
薄々感じていた危機に気付いた杉村は涼子に連絡を入れ、火野の実家を調べるよう依頼する。
一方で、育司のもとへ向かうことに。
数十分後、育司と合流した杉村に涼子から連絡が入った。
火野の母を振り切り、家内を調べたところ瀕死の瑛子が保護されたのだ。
涼子によれば、瑛子は火野に散々殴りつけられた後にボロ布のように部屋の隅に捨てられていたと言う。
杉村の依頼が無ければ命を落としていたらしい。
ちょうど、其処に火野が戻って来た。
隠れて様子を窺う杉村。
瑛子について尋ねる育司に「あいつはどこかへ行った」と吐き捨てる火野。
火野は自身で瑛子を瀕死の状態に追い込んだことを隠そうとしている。
これが意味するところは1つである。
火野は瑛子を殺し、死体を隠すつもりなのだ。
火野のただならぬ様子に気付き問い詰める育司。
そんな育司に火野が牙を剥く。
これを咄嗟に庇う杉村。
思わぬ第三者の介入に車でその場を逃げ出す火野だが、慌てた為かコントロールを失い事故を起こしてしまう。
火野は入院することに。
おそらく瑛子の傷害事件でも逮捕されることになるだろう。
これを見て「天罰だ」と呟く杉村であった。
数日後、入院中の瑛子を三好が訪れた。
これを杉村と涼子が呼び止める。
杉村たちは三好に真相を問うことに。
杉村は三好が所有していた中身だけのゲームと、育司が所有していた同タイトルの初回限定盤専用の箱だけに注目していた。
中身は三好が所有し箱だけを育司にプレゼントしたのだとすれば、もしかして2人には前から交流があったのではないか……此処からは簡単であった。
なんと、瑛子は三好の小学校時代の恩師だったのだ。
火野と瑛子は教師同士の結婚だったのである。
瑛子は火野の意向で再婚後に退職していた。
この事実を三好は最近になって知ることに。
其処で瑛子の様子を育司から聞き、下野の事件を仕組んだのだ。
瑛子は火野から虐待を受けていたのである。
もちろん、瑛子自身は事件に全く関与していない。
ところが、事情を知るにつれ真相に気付いた。
複雑な想いを抱えていたところ、秋吉の家出を聞かされた。
これ以上、事態が混沌とするのは避けねばならないと判断した瑛子は火野に打ち明けたのだ。
其処で火野に激怒され、瀕死の状態に追い込まれたのであった。
しかし、事態は瑛子が考えていたよりもさらに複雑であった。
三好は瑛子が恩師である為に救おうとしたワケでは無かった。
なんと、瑛子を愛していたのだ。
つまり、取られた昔の恋人を取り返す為に仕組んだことであった。
三好としては火野が失職すれば瑛子が離婚すると思い込んでいたようである。
だが、三好は子供であった。
例え火野が失職しようとも瑛子が離婚したかどうかはその限りでは無いのだ。
これに涼子は三好の遣り方を手厳しく非難する。
今回のような罠を仕組まなくとも、確かに火野は教師として不適切な行動を行っていたのだ。
これを正当な方法で主張すれば良かったのだ、と。
火野と生徒の間は「負の方程式」であった。
何をどう計算しようとも負の結論しか生じなかったのだろう。
だからこそ、手順を正しく踏まえた上で告発すれば良かった。
涼子の目には20年前に自分たちが何とどのように戦ったかが甦っていたに違いない。
傍でこれを聞いていた杉村はそっと涼子に事情を尋ねてみた。
当時の事件(『ソロモンの偽証』の出来事)について明かす涼子。
なんでも、その中で涼子は検事役の少年(神原和彦のこと)にコテンパンにのされたらしい。
杉村はこの聡明な涼子を軽く退けた相手に興味を抱いた。
そして、涼子は近況に触れる。
なんでも、涼子はその相手と結婚し一子をもうけていた。
しかも、相手は学者となっているそうだ。
生活は涼子が支えているらしい(つまり、涼子は学者となった神原と結婚しているのだ)。
だが、そう語る涼子の顔にはこれまでに見たことのない笑顔が浮かんでいた。
そんな彼女に「あなたとなら良い仕事が出来そうだ」と再会を約し、別れる杉村であった―――エンド。
◆宮部みゆき先生関連過去記事
【書評】
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・『長い長い殺人』(宮部みゆき著、光文社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『レベル7』(宮部みゆき著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
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・『誰か Somebody』(宮部みゆき著、文芸春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『名もなき毒』(宮部みゆき著、文芸春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『淋しい狩人』(宮部みゆき著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『ペテロの葬列』(宮部みゆき著、集英社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『ソロモンの偽証 第1部、第2部、第3部』(宮部みゆき著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
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