日本で100番目に早い(たぶん)、「相棒season13」第3話「許されざる者」(10月29日放送)ネタバレ批評(レビュー)。
<ネタバレあらすじ>
「ミステリーでしょ、ねっ、ミステリーでしょ」
その日、朝イチから米沢が熱心に繰り返していた。
その視線の先では、右京(水谷豊)と甲斐(成宮寛貴)が「ふむふむ」と頷きながら立っている。
米沢が先程から「ミステリーだ」と主張しているモノとは一体!?
話は先夜にまで遡る。
出版社に勤める長谷川重徳(夙川アトム)という男性がマンションの自室で殺害された。
死因は絞殺、死亡推定時刻は同夜21時から23時の間と思われた。
その遺体には左頬に傷が残されていたが、これは数日前の傷で死亡時のものではないことが確認されている。
なお、現場は激しく荒らされており、一部には物取りによる犯行説も囁かれていた。
さて、ミステリーなのは此処からであった。
長谷川殺害現場のマンションが大きな密室となっていたのだ。
表口からは防犯カメラにより出入りが監視されている。
裏口からは合鍵が作れない鍵でしか入れない。
ところが、いずれにも部外者の出入りが確認されなかったのだ。
つまり、犯人は煙のように出入りを行ったことになる。
さらに右京の興味を惹く事柄があった。
長谷川重徳の名に聞き覚えがあったのである。
それもその筈、長谷川は3年前に発生した強盗殺人事件の容疑者であった。
しかし、長谷川は裁判の結果により無罪となっていた。
3年前の強盗事件、その被害者は山本可奈という女性。
可奈は現場付近の花屋で働いていた。
その日も仕事を終え帰宅しようとしたところを何者かに襲われたらしい。
その現場からバイクで逃げ去る長谷川の姿が目撃されていたのだ。
これにより長谷川が逮捕された。
この弁護を引き受けたのが人権派で知られる女性弁護士・永井多恵(片岡礼子)。
若年ながらもやり手な人物である。
多恵により証言の曖昧さが指摘され、長谷川の容疑は引っ繰り返された。
これにより長谷川は無罪となったのだ。
その後、付近で病死した堀内なる男性の所持品から可奈の腕時計が見つけ出されたことで、堀内こそが犯人だと目されていたが……。
早速、殺害現場となった長谷川宅を訪問した右京。
まるで何かを探し回った跡のような現場の様子に、甲斐は眉を顰める。
そんな中、右京は灰皿のような奇妙な器、海外不動産について書かれた雑誌、さらに長谷川自身が3年前の事件について出版した本などに目を留める。
次いで長谷川が働いていた出版社の上司・佐野を訪問した右京たち。
佐野によれば「長谷川の左頬の怪我は階段から転落した際に出来たもの」だそうだ。
そう語る佐野の拳には青黒い腫れが……。
今度は永井多恵弁護士のもとへ。
多恵は裁判後も長谷川と交流があったらしい
21時から23時のアリバイを尋ねたところ、秘書の高木によれば事務所に居たとのことだが……。
右京は3年前の事件こそが今回の事件の発端だと断定。
犯人とされた堀内の所持品を調べる。
すると、堀内の遺留品であった新聞紙が千葉版であることが判明。
日付から堀内に可奈殺害は不可能であることが分かる。
堀内を知る人物によれば「堀内は腕時計は拾った物」と語っていたそうだが、どうやら事実だったようだ。
3年前に可奈が勤務していた花屋を訪れた右京たち。
すると、其処には長谷川宅に置かれていた灰皿のような奇妙な器が……。
その正体は灰皿型の花のアレンジメントであった。
此の店のオリジナル品らしい。
これにより、右京は長谷川と可奈に接点があったと断ずる。
だとすれば、長谷川が可奈殺害の真犯人である可能性が高くなった。
当然、可奈の遺族による復讐殺人の可能性も浮上することに。
右京は可奈の遺族である父親に注目。
山本宅を訪問する。
これを聞かされた多恵は右京たちに同行を申し出る。
可奈の父・山本は麻痺を患っており、松葉杖生活を余儀なくされていた。
右京から長谷川こそが真犯人である可能性を伝えられた山本は「犯人を無罪にしたのかぁ」と多恵に憤ることに。
多恵は言葉もない。
矢先、長谷川の携帯から通話履歴が復元された。
其処からサンデー出版の編集者の電話番号を見出した右京。
確認したところ、長谷川のある企画が却下されていたことが分かる。
右京が向かった先は佐野のもとだ。
右京は長谷川の左頬の傷が佐野に殴られたものだと指摘する。
佐野の指に腫れがあったのは此の為だったのだ。
つまり、佐野が長谷川を殴りつけるような出来事があったことになる。
これを指摘された佐野はポツリポツリと事情を明かし始める。
長谷川は佐野に「自身が真犯人だ」との内容を本にする企画を提案していたらしい。
やはり、長谷川こそが犯人だったのだ。
だが、もはや長谷川は一事不再理により裁かれることはない。
これを知った上で長谷川は大金を欲しており、これを告白本として出版しようとしたのだ。
長谷川は可奈殺害について次のように語っていたと言う。
花屋で働いていた可奈を見初めた長谷川。
其処でデートに誘おうと声をかけた。
曖昧に断った可奈だが、佐野は可奈が同僚と身体を寄り添わせている光景を目撃する。
長谷川はこれに裏切られたと逆上、可奈を殺害してしまったのである。
長谷川の無実を信じ応援していた佐野は衝撃を受けた。
そして、怒りのあまり殴ってしまったのである。
直後、伊丹たちが佐野の身柄を拘束する。
何でも長谷川が殺害される前日に自宅前にて何者かと揉み合っていたとの証言が得られたのだそうである。
その際に「やっぱりお前だったのか、殺してやる!!」と男が叫んでいたらしい。
其処で佐野が疑われたのだ。
しかし、佐野はこれを否定。
右京もまた佐野が犯人ではないと指摘する。
犯人は「やっぱりお前だったのか」と長谷川に告げている。
佐野ならば数日前に既に知っている以上、この言葉は該当しない。
これに佐野は「ある人」に真相を伝えたことを打ち明ける。
長谷川を許せなかった佐野は可奈の父・山本に真相を教えたのだ。
山本が400万円を何者かに支払っていたことが判明する。
「殺してやる!!」との声の主は山本であった。
佐野から真相を聞いた山本は長谷川に詰め寄った。
だが、長谷川は開き直り山本を軽くあしらった。
半身が不自由な山本では長谷川を殺せない。
其処で山本は闇サイトで殺し屋を雇ったのだ。
こうして事件は山本の雇った殺し屋の犯行として幕を下ろそうとしていたが……。
事情を右京から聞かされた多恵は「なるほど、そういったプロの方なら合鍵が作れない扉でも開けてしまう方法を知っていたんでしょうね」と感想を口にしつつ、弁護士を辞めると洩らす。
これに右京の表情が動いた。
数時間後、右京は「犯人は本当にマンションに出入りしたのだろうか」と疑問を挙げていた。
其処にこそ密室トリックを解くカギが隠されているらしい。
さらに右京は当日の防犯カメラの映像に注目。
其処には外から帰宅した長谷川が映っていた。
その靴は光を反射している。
しかし、現場から押収された靴は光を反射しないものであった。
翌昼、右京たちは多恵を呼び出した。
防犯カメラの映像に映っていた長谷川は反射材を使用した靴を履いていた。
しかし、現場から押収された靴は反射材を使用していない。
つまり、長谷川は自宅で靴を履きかえたのだ。
長谷川は表口から帰宅すると、靴を履きかえカメラを避けつつ裏口からこっそりと抜け出したのである。
そう、犯人がトリックを弄しマンションを出入りしたのではない。
被害者である長谷川こそが人目につかないようにマンションを出入りしたのだ。
犯人は外で長谷川を殺害後に、裏口から遺体を現場に運ぶだけで良かった。
長谷川は何故、このようなことをしたのか。
長谷川は海外不動産を購入すべく大金を欲していた。
告白本もこの為である。
其処で犯人は長谷川に上手い話があると窃盗を持ちかけた。
長谷川は自身のアリバイ作りの為にこっそりと行動したのだ。
この犯行が可能なのは長谷川から信頼されており、彼を騙し得る人物―――すなわち多恵である。
多恵は長谷川宅の裏口が合鍵が作れないタイプの扉であることを知っていた。
これは彼女こそが犯人だったからである。
右京の告発に多恵は犯行を認める。
数日前、長谷川は佐野に殴られたと多恵に相談を持ちかけた。
其処で長谷川は大胆にも可奈殺害を認めたのだと言う。
反省する様子もない長谷川の態度に多恵は「とんでもないことをした」と後悔した。
其処でトリックを用いて長谷川を殺害したのだ。
多恵の自宅から長谷川の毛髪が検出され、多恵の犯行が明らかになった。
こうして、今度こそ事件が解決したかに思われたが……。
右京は多恵が嘘を吐いていると指摘する。
多恵が長谷川を殺害したのは別の動機があると言うのである。
長谷川宅は必要以上に荒らされていた。
あれは何かを探していたからに違いない。
そう告げた右京は多恵の狙いが告白本の原稿にあると断言する。
さらに右京は懐からメモリーカードを取り出す。
なんでも長谷川はサンデー出版に既に原稿を届けていたらしい。
右京は其処にとんでもない記述を見出したと述べる。
なんと、多恵は初めから長谷川の犯行を知っていたのである。
その上で、長谷川を無罪にするように立ち回ったのだ。
これが暴露されれば、多恵の人権派弁護士としての看板に傷がついてしまう。
だからこそ、多恵は長谷川の告白本出版阻止を余儀なくされたのであった。
「あなたは法律の専門家でありながら、守るべき法を破ったんですよ」
右京の一喝に多恵は肩を落とすのであった。
その夜、花の里。
右京の手には長谷川がサンデー出版の担当者に渡した筈のメモリーカードが握られていた。
「それ、杉下さんのだったんですか!?」
「ええ……非常手段ですよ」
驚く甲斐に、悪戯っ子の表情を浮かべる右京。
右京は多恵の自供を引き出す為に証拠だと偽ったのだ。
花の里の夜は淡々と過ぎて行く―――第3話了。
<感想>
シーズン13第3話。
脚本は金井寛さん。
サブタイトルは「許されざる者」。
「許されざる者」は長谷川かと思いきや……実は多恵でした。
いや、正確には2人ともだから「許されざる者たち」こそが正しいか。
そして「犯人がマンションに出入りしたのではなく、被害者がマンションを出入りした」との逆転のロジックも面白かったですね。
麻耶雄嵩先生のあの作品を思い出しました。
そして逆転と言えば「法を破るなんて!!」と多恵を諭していた右京こそが「捜査のルールを破っていた」との諧謔的な結末も意外性がありました。
ある意味、許されざるは右京でもあるのか……。
それにしても「相棒」界の人権派弁護士にまた1人加わるかと思われた多恵でしたが、こんな形で退場するとは。
元祖・武藤弁護士、弁護士に転身した瀬田に続くことは出来ませんでしたね。
そう言えば「弁護士」、「冤罪事件」、「そう思わせて実は真犯人」との流れで「相棒シーズン1」8話「仮面の告白」を思い出した。
他にも「法曹界」、「冤罪事件」、「秘密の隠蔽」と言えば「相棒シーズン4」9話「冤罪」にも近いかもしれないな。
いずれも薫ちゃんが活躍するエピソードでしたが、本作はその甲斐享版と言えるのかもしれない。
ただ大筋や流れ自体は面白かったんだけど、細かい点に不満も残る。
特に良く分からないのは「反射材使用と未使用による靴のロジック」。
あれ、長谷川が履いて帰宅したからには反射材使用の靴も土間にこそ無くても靴箱にはある筈。
だとすれば、単に「帰宅後に明日を控えて靴を入替えただけ」の可能性も残るのではなかろうか。
あれにより、秘密裏に抜け出したとは言い切れない気がする。
そう言えば、外部犯が難しいとなった時点でマンション住人による内部犯行説が検討されなかったのも不満が残るか。
少なくともこの可能性が潰されていれば、上記の靴と「他に方法は無い」との消去法で「秘密裏に抜け出した」もアリだとは思うけど。
他にも「裏口の鍵が複製不可を知っていたから多恵が犯人」も無理。
そもそも多恵は長谷川と交流があったとの設定だし、聞かされてた可能性も残る。
殺害前日に引越ししてその話題を耳にする時間が無かったとかでもない限りは断定出来ない筈。
同様に「長谷川に指示することが出来るのが多恵しかいない」とも言い切れない。
それこそ、長谷川は大金を欲していたワケだし金額次第で動く可能性も残される。
などなど「犯人ではなく被害者が犯行現場を出入りした」との大筋自体は面白かっただけに、それを活かす伏線が弱い点が本当に勿体ない。
それ以外のロジックについても同様に伏線が弱い(論理の飛躍)が多い印象かなぁ。
もう少し繊細にロジックを詰めてくれれば……もっと良かったと思う。
とりあえず、今週はきちんと視聴出来たことが何より嬉しい。
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