ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
「何でも知ることのできる不思議な鏡」をつかって小さな探偵事務所を営む女子中学生・襟音ママエ。自分の頭ではまったく推理をせず、鏡の力に頼りきりのママエだったが、ある事件がきっかけで、悪がしこい名探偵・三途川理(さんずのかわことわり)に命を狙われることになってしまい――!?
(講談社公式HPより)
<感想>
「名探偵 三途川理シリーズ」第2弾。
単行本時タイトルは『スノーホワイト 名探偵三途川理と少女の鏡は千の目を持つ』。
本作はその名の通り「白雪姫」がテーマ。
何しろ、鏡も登場するし、継母が敵役だし、毒りんごも出るし、食べたあの人が眠っちゃうし。
そして本作は「第14回 本格ミステリ大賞」を受賞作です。
・第14回本格ミステリ大賞(小説部門、評論・研究部門)発表!!栄冠はどの作品!?
シリーズには他に『キャットフード 名探偵三途川理と注文の多い館の殺人(文庫時「キャットフード」に改題)』と『踊る人形 名探偵三途川理とゴーレムのEは真実のE(2014年12月時点では未文庫)』の2冊がある。
・『キャットフード』(森川智喜著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
第1弾『キャットフード』もそうでしたが、今回も「如何にしてルールの裏をかくか」がポイント。
そのルールが今回は「不思議な鏡の使い方」になっています。
すなわち、制限のある鏡の使い方に工夫を凝らす三途川こそが見所。
その為に、前半ではママエによる鏡の使い方が示され、これと比較するように後半に三途川の使用法が配されているのでしょう。
それにより鏡の有用性が劇的に向上する。
まさに、道具は使う人間次第といったところか。
それと、三途川理と緋山燃の因縁がさらに深まる点も見逃せない。
世界観はバッチリ、キャラも魅力的とバランスも良いので是非読んで欲しい作品です。
ちなみに、毎度のことながらネタバレあらすじにはかなり改変を加えています。
すなわち、あくまでエッセンスを伝えるに留まっています。
本作の本質を楽しむ為には原典を読むことをオススメします!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
襟音ママエ:探偵事務所を開く少女
グランピー・イングラム:ママエの助手で小人。七人兄弟の末っ子。
三途川理:天才探偵。驚異的な知力で相手を常に翻弄する。しかし、緋山にだけは……。
緋山燃:天才探偵。三途川の天敵。
ダイナ・ジャパーウォック・ヴィルドゥンゲン:ふしぎな国の王妃
襟音ママエは中学生。
幼い時分に母親を亡くし、母の知人であった小人のグランピー・イングラムと共に暮らしている。
そんなママエが探偵業を始めることに。
実はママエには「世の中のすべてを見通す不思議な鏡」があったのだ。
これさえあればどんな事件もすぐに犯人が分かるのだから万全である。
とはいえ、グランピーは不安を拭えなかった。
まず、「不思議な鏡」といえど完璧では無い。
過去の事は分かるが未来の事は分からない。
例えば、既に起こった事件の犯人を問うことは出来る。
だが、これから起こるであろう事件の犯人を問うことは出来ないのだ。
そして、「不思議な鏡」の存在は公言することが出来ない。
それはママエやグランピーなど「不思議な国」の人間以外には明かせないのだ。
その為、仮に「不思議な鏡」を用いてママエだけに犯人が分かっても「何故、ママエが犯人だと分かったか」を説明できないのだ。
しかも、「不思議な鏡」は「不思議な国」の王家に伝わる秘宝。
世界には王家にあるオリジナルとママエのもとにある2つしか存在しないのだ。
これはママエ自身も知らないことだが、彼女は王家の正当後継者だったのである。
グランピーはお目付け役だったのだ。
とはいえ、ママエがグランピーの諫言を聞く筈がない。
グランピーとしては不本意ながら、ママエに押し切られる形で使用を許すことに。
ママエは「不思議な鏡」を用いて次々と事件を解決。
その解決法に疑問はあったが、一躍有名探偵の仲間入りを果たす。
そんなある日、ママエはある大金持ちから依頼を受けた。
何でも殺人予告が届いたそうで、犯行を未然に防ぎ犯人を突き止めて欲しいらしい。
早速、依頼人宅を訪れたママエ。
すると、其処には他に2人の探偵が雇われていた。
1人が三途川理、もう1人が緋山燃である。
ママエが見る限り、2人は犬猿の仲。
とはいえ、互いに実力を認めているらしく、ママエそっちのけで理路整然と事件について検証し始めた。
こうなると面白くないのはママエである。
グランピーが止めるのも聞かず、ママエは「不思議な鏡」を用いて犯人を突き止める。
その犯人とは……三途川理であった。
なんと、探偵による自作自演だったのである。
三途川は事前に依頼人宅に自分を売り込んでおき、その上で脅迫状を送り付け自分を雇わせたのだ。
とんでもない奴である!!
怒ったママエは「犯人だ」と三途川を指摘するが、その理由を上手く説明できない。
様子を見ていた緋山が助け船を出すのだが、狡猾な三途川に止めを刺すには至らない。
そうこうしている内に、依頼人から3人ともクビにされてしまった。
なんとか三途川の思惑を阻止し満足したママエ。
だが、当の三途川はママエに深い恨みを抱くと共に、何か秘密があると疑い始めた。
同じ頃、不思議な国では王が没し後継者を巡り騒動が勃発していた。
有力だったのは先王の後妻であるダイナ・ジャパーウォック・ヴィルドゥンゲン。
ところが、ダイナがオリジナルの「不思議な鏡」に「もっとも次の王に相応しい者」を尋ねたか、さぁ大変。
此処にママエの存在が露見してしまうことに。
焦ったダイナはママエ抹殺を目論み暗躍し始める。
ママエに恨みを持つ者を探し出したところ、出て来たのは……三途川だったのである。
こうしてダイナは三途川と共謀しママエ抹殺を企むことに。
一方、「不思議な鏡」の存在を知った三途川はダイナをも出し抜き、これを手に入れようと画策し始めた。
三途川はその悪魔的な頭脳で「不思議な鏡」の革新的な使用法を見出した。
制限のあった鏡の使用法を「たら、れば」を用いて拡大したのだ。
例えば、リアルタイムに起こる遠隔地の出来事を映し出すこと。
本来ならば、これもまた制限されることであった。
だが、「もしも、ママエの事務所に盗撮カメラを仕掛けたら映し出される映像を見せろ」と命じることでこれをクリアした。
さらに、本来は不可能だった未来の出来事についても「もしも、こうしたら……」とシミュレーションの形で表現させることでクリアした。
もっとも、これはあくまでシミュレーションなので命じた時点の情報に基づいた分析となるがその精度は驚くほど高い。
もはや、死角はない状態である。
この状態で三途川はママエ暗殺計画を実行に移す。
毒林檎を送り付けたのである。
予定では、ママエが食べて落命する筈であった。
ところが、此処に三途川の仇敵・緋山燃が現れる。
緋山は先のママエの推理に不審な点があったことに興味を持っており、探偵業の先輩として忠告に訪れたらしい。
思わぬ闖入者に狼狽える三途川。
そんな彼の気も知らず、緋山は毒林檎を口にして倒れてしまう。
緋山は意識不明の重体に陥るが、一命を取り留めることに。
さぁ、こうなっては困るのは三途川だ。
もしも、ママエが「不思議な鏡」に「毒林檎事件の犯人」を尋ねてしまえばダイナと共謀していることがバレてしまう。
そうなれば、ママエ殺害は不可能になる上、こちらの世界では裁かれないかもしれないが「不思議な国」で裁かれてしまう。
さらに、緋山が回復すれば同様の真相に辿り着くのも時間の問題だろう。
焦った三途川はママエの持つ「不思議な鏡」と緋山の排除を狙うことに。
真っ先に狙ったのは「不思議な鏡」である。
ママエの事務所を訪問した三途川は隙を見て、何やら叫ぶと鏡を割ってしまう。
ママエの持つ「不思議な鏡」の周辺には割れた鏡の破片が散乱し、何も映さなくなってしまった。
ショックを受けるママエ。
一方、グランピーは三途川の様子に気付き、彼がダイナと通じているのではと疑いを持った。
其処で「不思議な国」に居る兄たちに助っ人を求める。
小人であることを利用したグランピーたちは三途川周辺を調べ「ダイナと繋がっていること」、「次の狙いが緋山であること」を確認する。
しかし、オリジナルの「不思議な鏡」を用いる三途川により確認したことを知られてしまう。
三途川はグランピーたちを警戒し、ダイナにも計画を伏せて動き出す。
ところが、ダイナはどうにも三途川が信用出来ない。
何かを隠しているように感じられたのだ。
もっとも、この感覚は正しい。
なにしろ、三途川は事後にダイナから「不思議な鏡」を奪う方策を企んでいたのだから。
気になって仕方がないダイナは三途川の隙を突き「不思議な鏡」を用いて計画の詳細を知ろうとする。
とはいえ、小人も警戒せねばならない。
其処で「不思議な鏡」に幾つか尋ねることに。
まず、緋山が入院中であることを確認。
続いて、病院の部屋数を確認し7部屋あるらしいことも突き止めた。
次いで、病室すべてに小人が詰めていることも確認した。
7部屋に7人の小人!!
グランピーは7人兄弟だから、ダイナたちを監視する者は誰も居ない。
ほっとしたダイナはついつい鏡に計画を尋ねてしまう。
それは鏡により緋山の担当医師の声を再生し、電話で看護師に偽の指示を与え毒殺するものであった。
途端、ダイナの傍から小人が飛び出して来た。
小人が急を報せたことで緋山はまたも命を拾うことに。
これを知った三途川は大激怒。
ダイナに二度と口出しするなと言い含める。
7部屋に7人の小人が詰めている筈なのに、何故、もう1人小人が監視していたのか?
実は4号室が存在しなかったのだ。
ダイナは「不思議な国」の住人ゆえに知らなかったが「4」は「死」を連想させる為に病室として利用されていなかったのである。
すなわち、部屋数は7部屋でも病室は6部屋。
全部屋に小人が詰めていても、6人しか居ないのだ。
残る1人がダイナを監視していたのであった。
此処に三途川は最終計画を発動することに。
一方、緋山の回復まで彼を守り抜こうと病室前に集まったママエと小人たち。
そんな彼らに、どこからか三途川の声が響く。
それは何時の間にか廊下に飾られていた鏡から響いていた。
そう、その鏡こそ「不思議な鏡」だったのだ。
三途川はママエたちに最終計画の内容を明かす。
この「不思議な鏡」。
使用者との意志疎通の為にディスプレイ機能と発声機能が備わっている。
三途川は其処に目を付けた。
「不思議な鏡」は音量と光量を最大に設定することで「鏡爆弾」になるのだ。
あまりにも勿体なさ過ぎて誰も考え付かなかった悪魔の手法である。
後は三途川が一声唱えるだけで病院は崩れ落ちるのだ。
恐怖のあまりガタガタ震え出すママエたち。
グランピーがもっと三途川を警戒すべきだったと後悔した頃、三途川が息を吸い込んで声を……。
と、此処で鏡が割れた。
とはいえ、三途川の「鏡爆弾」が炸裂したワケではない。
間一髪、目覚めた緋山がその場の状況を察し手にしていた林檎を鏡にぶつけたのだ。
割れてしまえば、鏡は機能を喪失する。
こうして、またも三途川は緋山に敗北を喫するのであった。
それから数日後、「不思議な国」では新女王の戴冠式が行われていた。
玉座に就いたのは……ママエだ。
その傍にはグランピーも居る。
そして、恩人として緋山が紹介された。
さらに、其処には何故か失われた筈の「不思議な鏡」もあったのだ。
緋山はこの事情を説明する。
三途川の性格をよく知る緋山は彼が鏡爆弾を使用したことが不自然だと考えていた。
三途川ならば「不思議な鏡」を欲しがる筈なのだ。
ママエに倒れていた間のことを尋ねたところ、ママエの鏡が割れたくだりに目を止めた。
其処で割れたとされるママエの鏡を手に、元に戻るよう命令を下したのだ。
すると……劇的な変化が訪れた。
なんと、鏡は割れる前同様に目の前の物を映し出したのである。
実は三途川は鏡を割ったように見せかけ、鏡にこう指示を下したのだ。
「周囲の物を映し出せ」と。
これにより、鏡は鏡としての機能を喪失したように偽装されたのだ。
三途川はオリジナルを「鏡爆弾」に用いた後で、こっそりとママエの鏡を回収するつもりだったようだ。
こうして、鏡を取り戻したママエは緋山を英雄として讃える。
ちなみに、三途川とダイナにはそれ相応の処分が下されるようである―――エンド。
◆関連過去記事
・『キャットフード』(森川智喜著、講談社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『半導体探偵マキナの未定義な冒険』(森川智喜著、文藝春秋社刊)ネタバレ書評(レビュー)
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