ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
最強の『このミス』大賞作家、書き下ろし4編!豪華作家陣で贈る、ミステリー・アンソロジー。
TBS系にて豪華ドラマ化!『このミステリーがすごい!ベストセラー作家からの挑戦状』
2014年12月29日(月)よる9時〜案内人:又吉 直樹(ピース)×樹木 希林
歴代大賞作家4名×映画監督の豪華コラボレーション!
(宝島社公式HPより)
<感想>
ドラマ化や映画化もされた「バチスタシリーズ」で知られる海堂尊先生による短編です。
12月29日にはTBS系にてドラマ放送が決定されている。
・「チーム・バチスタの栄光」(2008年、日本)ネタバレ批評(レビュー)
・「ジェネラル・ルージュの凱旋」(2009年、日本)ネタバレ批評(レビュー)
タイトルから一見、鉄道ミステリーかと思いきや、一読して思い出したのは我孫子竹丸先生『探偵映画』(講談社刊)や米澤穂信先生『愚者のエンドロール』と言ったタイトル。
例として上げたタイトルに比べると本作はミステリ的なロジックが弱いですが、雰囲気含め個人的に割と好みの作品です。
二転、三転するエンドロールに息を呑むことは必至でしょう。
・『愚者のエンドロール』(米澤穂信著、角川書店刊)ネタバレ書評(レビュー)
恐るべしは女優の業。
ラストに驚嘆せよ!!
ちなみにあらすじはまとめ易いように改変されています。
興味を持たれた方は本作それ自体にチャレンジを!!
<ネタバレあらすじ>
その日、「カシオペア」の車内で殺人事件が発生した。
被害者は「貴婦人探偵シリーズ」で知られる映画監督の道明寺である。
「貴婦人探偵シリーズ」は本格ミステリファンからも熱烈な支持を集める作品。
道明寺を含めたスタッフはシリーズ最新作「カシオペアの悲劇」の撮影を終えたところであった。
ところが、当の道明寺が追加の撮影を行うとして「カシオペア」を貸し切っていた。
どうやら道明寺は前作「滝に消えた貴婦人」にて興業的に失敗しており今回に賭けていたようだ。
また、当日の「カシオペア」は道明寺組の貸切となっていたことから、容疑者は道明寺の関係者に絞られる。
当日の状況を説明しよう。
乗車していたメンバーは次の通り。
まず、「貴婦人探偵」を演じるベテラン女優・望月ゆかり。
そして、今回ダブルヒロインに抜擢された樫村愛菜。
脚本家の尾藤。
これに加納警視正とシリーズのファンであった玉村警部などだ。
そして遺体発見には奇妙な経緯も加わっていた。
最初、スタッフの1人が道明寺の部屋で倒れ伏す道明寺を発見。
これを別の場所に共に居たゆかりと愛菜らに伝えた。
ところが、ゆかりらが現場に駆け付けたところ、死体は忽然と消えていたのだ。
ゆかりらによるとこの時点では道明寺監督の悪戯を考えていたらしい。
道明寺はこの手の悪戯をよくしていたようだ。
それから暫くしたが道明寺が姿を現す様子が無い。
不安に思ったゆかりらが玉村警部に事態を報せた。
其処で玉村警部が足を運んだところ、死体が再び現れたのであった。
最初の発見時点ではゆかりらにアリバイがはっきりしており、不可能犯罪の状況を呈していた。
ところが、捜査に乗り出した加納はあっさりと真相を看破する。
加納はこの犯行には本人の協力が不可欠として道明寺自身の共謀を主張する。
最初に発見された道明寺は生きていたのだ。
殺害された演技をしていたのである。
その後、スタッフに発見され騒動となった隙に隠れた。
其処を頃合いを見計らった真犯人に殺害されたのである。
もちろん、共謀とは言っても道明寺自身は演技のつもりであり、その後に殺害されるとは思っても居なかった筈だ。
「カシオペアの悲劇」の追加シーンを撮影するとしていた道明寺。
おそらく道明寺は自身が死体を演じることで生じるスタッフたちの様子を撮影し追加することでリアルな作品を目指したのだろう。
ところが、犯人にこれを利用された。
犯人は被害者自身を利用することで、自身のアリバイトリックを成立させたのだ。
これにより、道明寺の殺害時刻が最初の発見時よりも前と思われることでアリバイが生じる人物が犯人となる。
さらに犯人の動機について触れる加納。
ヒントは「貴婦人探偵シリーズ」の前作「滝に消えた貴婦人」のクレジットにあった。
脚本協力としてシリーズの脚本家である尾藤以外の名があったのである。
前作の失敗はこの協力者の責任とされていた。
だが、本当にそうだろうか。
そもそも、尾藤は何故、脚本協力を必要とするのか?
それは彼女がトリック面での構成力に欠けたからである、
実は尾藤はミステリが苦手であった。
其処で脚本協力にサポートを求めていたのである。
ところが「カシオペアの悲劇」は加納が読んでもかなりの傑作である。
到底、尾藤の手によるものだとは思えない。
だが、クレジットに協力者の名はない。
これが意味するところは何か?
加納が犯人として指名したのは愛菜であった。
実は愛菜の叔母こそが「滝に消えた貴婦人」が失敗した原因とされる協力者であった。
しかし、これには事情があったのだ。
本来ならば高い完成度を誇ったトリックを、仕掛けを理解していなかった尾藤に骨抜きにされてしまったのである。
にも関わらず全責任を背負わされた愛菜の叔母は自殺してしまった。
愛菜は叔母の力を理解しており、正当に評価されるべきだと考えた。
其処で別に遺されていた叔母の傑作を尾藤に送り付けたのだ。
ところが、尾藤はこれを盗作してしまった。
それが「カシオペアの悲劇」である。
尾藤の行為を批判したいが、拙いことに愛菜には証拠が無い。
あまりのやり口の汚さに怒りを覚えた愛菜は復讐を決意。
叔母を死に追いやったモノへの復讐として道明寺監督とそのスタッフを破滅させる計画を立てた。
其処で道明寺に、より完成度を高める方策として例の演技を提案し実行。
これを殺害し「カシオペアの悲劇」を放映中止に追い込むことにしたのだ。
ゆかりの提案で愛菜の告白は録画された。
さらに、ゆかりの手で道明寺監督の死と愛菜の自供を加えた完全版「カシオペアの悲劇」が完成。
後日、ゆかりが強行し試写会が行われることとなった。
恐らく事情が事情だけに公開はされないであろう幻の傑作に人々は試写会に群がった。
その中に加納と玉村も居たのである。
完全版「カシオペアの悲劇」を鑑賞した加納は、すべてがゆかりにより仕組まれていたと指摘する。
果たして道明寺監督は愛菜の提案を誰にも洩らさなかったのだろうか。
いや、主演女優であるゆかりには伝えていたのではないか。
ゆかりはこれを聞いた時点で愛菜の真意に気付いていた。
その上で放置したのである。
すべては「カシオペアの悲劇」の完成度を高める為。
同時に女優として才能を発揮していた愛菜を排除する為。
だからこそ、愛菜の自供を録画し完全版「カシオペアの悲劇」としたのである。
言わば、道明寺が監督を務めたのが「カシオペアの悲劇」。
これに、愛菜が黒幕となり道明寺の死を加えたものが「カシオペアの惨劇」。
最後に、ゆかりが黒幕となり愛菜の自供を加えたものが「カシオペアの散華」とでも呼べるべき作品だったのである。
だが、加納にはゆかりの罪を裁く術がない。
世に恐るべきは女優の業かな、そう呟く加納であった―――エンド。
2014年12月30日追記:
2014年12月29日にドラマ版が放送されました。
ネタバレ批評(レビュー)はこちら。
・「このミステリーがすごい!〜ベストセラー作家からの挑戦状〜 天才小説家×一流映画監督がコラボした、一夜限りの豪華オムニバスドラマ!味わいの異なる4つの謎=各25分の濃密ミステリー!又吉×希林の他では見られないコントも!」(12月29日放送)ネタバレ批評(レビュー)
追記終わり
◆関連過去記事
・『黒いパンテル』(乾緑郎著、宝島社刊『このミステリーがすごい!四つの謎』収録)ネタバレ書評(レビュー)
・『ダイヤモンドダスト』(安生正著、宝島社刊『このミステリーがすごい!四つの謎』収録)ネタバレ書評(レビュー)
・『残されたセンリツ』(中山七里著、宝島社刊『このミステリーがすごい! 四つの謎』収録)ネタバレ書評(レビュー)
◆海堂尊先生関連過去記事
【原作映画】
・「チーム・バチスタの栄光」(2008年、日本)ネタバレ批評(レビュー)
・「ジェネラル・ルージュの凱旋」(2009年、日本)ネタバレ批評(レビュー)
【原作ドラマ】
・チーム・バチスタSP2011〜さらばジェネラル!天才救命医は愛する人を救えるか〜「ICUに殺人予告!!愛する人を救えるか?チームジェネラルVS完全犯罪」(1月2日放送)ネタバレ批評(レビュー)
・NHKドラマ10「マドンナ・ヴェルデ」第1話(第1回)「希望の卵」(4月19日放送)ネタバレ批評(レビュー)
【ネタバレ書評(レビュー)】
・「マドンナ・ヴェルデ」(海堂尊著、新潮社刊)ネタバレ書評(レビュー)
【その他】
・海堂尊さん講演会!!
・海堂尊さんに110万円賠償命令下る
・フジテレビにて放送中「ジェネラルルージュの凱旋」で知られる海堂尊さんを巡る名誉棄損訴訟結論出る!!
・海堂尊先生が教える文章のまとめ方とは?
・海堂尊先生原作「マドンナ・ヴェルデ」がNHKドラマ10枠にてドラマ化!!
・「バチスタ」シリーズ遂に完結!!『ケルベロスの肖像』発売される!!
・【ドラマ】海堂尊先生原作『極北ラプソディ』、『極北クレイマー』ドラマ化!!
・海堂尊先生原作『螺鈿迷宮』(角川書店刊)が「バチスタシリーズ第4弾」としてドラマ化!!
【関連する記事】
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