ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
・上巻
2011年8月。八王子郊外で尾木幸則・里佳子夫妻が惨殺された。血まみれの廊下には、犯人・山神一也が書いた血文字「怒」が残されていた−−。事件から1年後の夏、物語は始まる。整形をし、逃亡を続ける山神はどこにいるのか? 房総半島で漁師をする槙洋平・愛子親子の前には田代と名乗る男が、東京で広告代理店に勤めるゲイの藤田優馬の前にはサウナで出会った直人が、母とともに沖縄の離島へ引っ越した小宮山泉の前には田中という男が現れる。それぞれに前歴不詳の3人の男。
・下巻
山神を追う刑事の北見壮介、彼の捜査でわかってきた山神の不思議な生い立ちや80年前に山神の生地で起こった凄惨な事件なども織り込まれ、衝撃のラストまでページをめくる手が止まらない。『悪人』から7年、吉田修一の新たなる代表作。
(中央公論新社公式HPより)
<感想>
「喜怒哀楽」と評されるように「怒り」は人間にとって自然な感情の1つである。
とはいえ、「怒り」とはどのようなときに生じるものだろうか!?
また、その激しさは何処で分かたれるのか!?
それを例示するように、タイトル通り作中には様々な「怒り」が登場します。
自身の不遇への怒り。
自身を認めない世の中への怒り。
世の不条理への怒り(田代)。
最後まで相手を信じられなかった怒り(優馬)。
自身を信じてくれなかった相手への怒り(北見)。
そして、最後に登場するのが「信じていた者に裏切られた怒り」(辰哉)。
ラスト、辰哉は相手を問い詰めることなく刺した。
それは泉を守りたいとの想いはもちろん、信頼を裏切られたとの激しく強い「怒り」からだった。
表に出せる怒りはそんなに大きくない。
裏に隠れる怒りこそがもっとも強く大きい。
辰哉の「怒り」は簡単に解消されるものではなく、根の深いモノ。
それ故、ああいった形でしか表現出来ない種類のモノだったのか……。
このように怒りは人に様々な行動を取らせる。
反発、逃避、諦め、贖罪、排除など。
同じ「怒り」から生じたにも関わらず、その行動を選ばせた理由は何か!?
様々な「怒り」の形と、それに伴う結論の数々。
それが導くのは「怒り」の正体。
きっと本作には「読んでその正体に想いを馳せて欲しい」との願いが込められている筈だ。
なお、ネタバレあらすじはまとめ易いように改変しています。
特に意図的に北見や山神の背景を端折っているので此の点注意。
興味をお持ちの方は本作をお読みになることをオススメします。
ちなみに本作『怒り』は『悪人』同様に映画化が予定されています。
公開は2016年予定とのこと、注目です!!
・吉田修一先生『怒り』(中央公論新社刊)が映画化とのこと!!
<ネタバレあらすじ>
登場人物一覧:
山神一也:夫婦2人を殺害した犯人。
北見壮介:山神を追う刑事。
美佳:北見の恋人、暗い過去を背負っている。
直人:優馬の前に現れた男。
藤田優馬:同性愛者。
田代:愛子の前に現れた男。
槙洋平:房総半島の漁師。
槙愛子:洋平の娘、田所を愛している。
田中:泉の前に現れた男。沖縄の民宿でバイトを始める。
辰哉:田中のバイト先の民宿の息子。
小宮山泉:辰哉の同級生。
尾木幸則:山神の被害者。
尾木里佳子:山神の被害者。
世間はあるニュースに震えていた。
尾木幸則、里佳子夫妻殺害の報である。
犯人は山神一也なる男。
山神は現場に「怒」なる血文字を残し姿を消した。
早速、捜査が開始され山神の行方が追及された。
だが、逃亡した山神は杳として発見出来なかったのである。
それから1年、未だ山神は逮捕されていなかった。
刑事の北見は謎多き恋人・美佳を交際しつつ、山神を追っていた。
そんな中、漁師の槙洋平の娘・愛子が田代と恋に落ちる。
洋平は経歴も定かではない田代との交際を危惧するが……。
同じ頃、藤田優馬は直人という男性に興味を惹かれる。
実は優馬は同性愛者だったのだ。
そして、直人も同じであった。
2人は互いに愛し合う。
沖縄の離島へと引っ越して来た小宮山泉は民宿の息子・辰哉と親しくなった。
さらに離島で暮らす男性・田中と出会う。
ある夜、泉は地元で暴行されそうになったところを何者かの叫びにより救われる。
これを知った辰哉は泉を守ろうと決意。
そんな辰哉に、田中は泉を救った叫び声を上げたのは自分だと告げ信頼を勝ち取る。
田中は辰哉の民宿でバイトをすることに。
一方、山神の公開捜査がテレビで行われることとなった。
番組を見ていた優馬と愛子はそれぞれに不安を抱く。
すなわち、優馬は直人を、愛子は田代を山神ではないかと疑ったのだ。
これを察したのか直人は優馬のもとを去った。
愛子はと言えば田所を告発するが、当の田代は姿を消した後であった。
数日後、辰哉は田中への信頼を深めていた。
そんなある日、辰哉は田中の落書きを目にし驚愕する。
其処には泉の暴行事件を揶揄する下卑た文句が並んでいたのだ。
叫び声を上げたのは田中では無かったのだ。
彼は事件を楽しんでいた傍観者に過ぎなかったのである。
そして……裏切られた辰哉は田中を刺殺した。
公開捜査の結果から、山神が田中と名を変えていることを突き止めた北見は沖縄へ。
ところが、一足遅く山神は辰哉に刺殺されてしまっていた。
泉は辰哉の犯行動機に気付き、これを北見に告げる。
だが、当の辰哉は「そんなのは関係ない」と繰り返すばかり。
一方、山神刺殺のニュースは全土を駆け巡った。
これに優馬は直人が山神では無いことを知り後悔することに。
直人について調べた優馬は彼が病死してしまったことを知らされショックを受ける。
実は直人は施設出身者で常に孤独に苛まれていた。
さらに、心臓にも持病を抱えていたのだ。
そんな中で優馬を愛し、それ故に姿を消したのである。
優馬は今は亡き直人に向け謝罪する。
愛子と洋平も田代が山神では無いと知り後悔していた。
実は田代は父からの負債を背負い債権者から追われていた。
それ故に逃亡生活を余儀なくされていたのだ。
これを聞いた洋平は田代を支援することを決意し、愛子に田代との生活を認める。
こうして、田代は愛子のもとへ戻ることに。
北見は謎多き恋人・美佳との交際にけじめをつけるべく結婚を切り出す。
だが、美佳は北見を信じることが出来ず去ってしまう。
泉はと言えば、辰哉を救うべく暴行未遂について打ち明けた為に引越しすることに。
周囲からの興味本位の視線に耐えかねたのだ。
それでも、泉は辰哉に申し訳ない気持ちでいっぱいであった。
泉は逮捕された辰哉に手紙を送り続けた。
そして、遂に辰哉から泉に手紙が届いた。
其処には辰哉の率直な気持ちが記されていた。
辰哉が山神を刺殺したのは何よりも彼の裏切りが許せなかった為であり、泉が責任を感じる必要はないこと。
そう綴られていたのだ―――エンド。
◆関連過去記事
【吉田修一先生著作関連】
・『悪人』(吉田修一著、朝日文庫)ネタバレ書評(レビュー)
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・あなたも「悪人」の登場人物に!?JR佐賀駅南口のロータリーに足跡出現!!
・吉田修一先生『怒り』(中央公論新社刊)が映画化とのこと!!
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