2014年12月20日

『裁きを望む』(柚月裕子著、宝島社刊『このミステリーがすごい!2015年版』掲載)

『裁きを望む』(柚月裕子著、宝島社刊『このミステリーがすごい!2015年版』掲載)ネタバレ書評(レビュー)です。

ネタバレあります、注意!!

<あらすじ>

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(宝島社公式HPより)


<感想>

佐方シリーズ2014年12月時点での最新短編が『このミステリーがすごい!2015年版』に掲載されました。
その名は『裁きを望む』。

【2014速報】「このミステリーがすごい!2015」発表!!

筒井との後の訣別を予感させるラスト付近での遣り取りも含めて、個人的にはシリーズ中ベストの出来ではないかと思います。
それほど良かった。

ちなみにシリーズには既刊が3冊存在。

まず、作中時系列的には最も未来の出来事となる『最後の証人』。
これは検事を退職し弁護士となった佐方の物語。

『最後の証人』(柚月裕子著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

続いて、「第15回大藪春彦賞」を受賞した短編集『検事の本懐』。
こちらは捜査検事時代の佐方を描いた作品。

『検事の本懐』(柚月裕子著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

そして、公判検事となった佐方を描いたのが第3弾『検事の死命』。

『検事の死命』(柚月裕子著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

この3冊に、本作『裁きを望む』が続くワケです。
当然、本作はシリーズファン必読の作品と言えそうです。
次作にも注目です!!

<ネタバレあらすじ>

登場人物一覧:

佐方:検事
筒井:佐方の上司、副部長
増田:佐方の担当事務官

橋沼渉:今回の事件の被告人。
郷古勝一郎:故人で渉の実父。
本橋次席:佐方や筒井の上司。
井原弁護士:『死命を賭ける』(『検事の死命』収録)に登場した弁護士。
南場署長:『樹を見る』(『検事の本懐』収録)に登場した署長。


佐方は調べ上げた結果、橋沼渉の起訴が誤りであったことを認めざるを得なかった。
これは佐方の敗北のみならず、組織全体の敗北である。
だが、それでも、佐方は自身の信念に基づき冤罪を許せなかったのだ。
こうして、法廷にて争われていた橋沼渉の窃盗事件は無罪で確定した。

事件の経緯は次のようなものになる。

被告人は橋沼渉。
彼は郷古勝一郎の葬儀の席でその家に侵入し、書斎から500万円相当の腕時計を盗んだとされていた。

この事件が複雑化したのは橋沼渉と郷古勝一郎の関係性にある。
橋沼は郷古勝一郎の隠し子だったのである。

郷古勝一郎は妻子に隠れて、息子の家庭教師と不倫。
結果、渉が生まれていたのだ。

当時の郷古勝一郎は渉を認知しようと奔走。
だが、妻や子供たち、果ては親戚からも大反対を受けてこれを諦めていた。

これを恨みに思った渉が腕時計を故人の葬儀の席で盗み出したと思われていたのだが……。
なんと、佐方の調べにより腕時計が故人の生前に渉へと譲られた物であることが判明したのだ。

渉によればホテルで郷古勝一郎と密会。
その際に譲り受けたらしい。

裏付け捜査を行った佐方はホテルの従業員からこれが事実であることを確認した。
その日、渉は郷古勝一郎にコーヒーをぶち撒けてしまい、その上着をクリーニングに持ち込んでいたのである。

こうして渉は無罪になった。
収まらないのは郷古勝一郎の本妻と息子たちだ。

特に勝一郎の妻は「勝一郎の物忘れが酷くなり金庫の暗証番号まで上着に常備していた手帳にメモしていた」と故人を偲びながらも裏切られたと激しく憤慨していた。

一方、佐方にとって腑に落ちない点があることも事実であった。
最初から渉が譲り受けたことを明かしていれば、そもそも起訴されなかったのだ。
何故、渉は起訴後にこの事実を明かしたのか?

佐方は継続調査の必要性に駆られ、事務官の増田と共に調査を続けた。

そんなある日、耳寄りな情報が寄せられた。
情報提供者は『樹を見る』(『検事の本懐』収録)以来、佐方と懇意になっている南場署長だ。
南場は渉の取調べを行っており、この際に携帯の通話履歴から意外な事実を発見したと言う。
なんでも、逮捕直前に渉が本橋次席と頻繁に連絡を取り合っていたらしい。

かなり妙な話である。
さらに調べたところ、本橋の娘が万引きで捕まっていたことが判明。
その万引き先が渉の勤務先の書店だったことも明らかに。
本橋の娘の万引きは両親が謝罪したこともあり、不問に付されていた。
もしかして、渉がこの事実を以て本橋を脅迫したのではないか?
だとすれば、何を要求したのか?

さらに、佐方のもとを井原弁護士が訪れた。
井原は『死命を賭ける』(『検事の死命』収録)にて佐方と対決した弁護士である。
彼は佐方を高く評価している。

井原は郷古勝一郎の顧問弁護士をしており遺言状についても相談を受けていたと言う。
そして、勝一郎宅の書斎の金庫から出て来た遺言状が古い物であると指摘したのだ。
その遺言状には渉を認知すると書かれていたそうである。

井原は続ける。
遺言状自体は本物である。
だが、勝一郎から相談を受けた際に家族の為にも認知は取り止めるよう説得。
最終的に勝一郎は別の遺言状を残していた筈らしい。

これを聞いた佐方が渉の狙いを見抜いた。
すべては一事不再理だったのだ。

次の日、佐方は渉が郷古家に侵入するには手引きした者がいる筈と家政婦を呼び出し事情を尋ねた。
当初は渋っていた家政婦だが、やがて仕方ないと言った様子で事情を明かした。
何でも、病床の勝一郎本人から依頼されたのだと言う。
どうやら渉が勝一郎に「日陰の身ゆえ葬儀に出られないがせめて父の思い出の部屋で偲びたいと書斎の鍵を開けておくよう依頼した」らしい。
それの何が悪いのか……と口にする家政婦。
だが、彼女は知らないのだ渉の真の目的を。

今や佐方は真相を看破していた。

あの日、渉が勝一郎の書斎に侵入したのは父の死を偲ぶためでも、腕時計を盗む為でも無い。
金庫の中に保管されていた最新の遺書を前のソレと摩り替える為だったのだ。

渉の認知に拘る様子を見せていた勝一郎。
井原の説得で認知を諦めた彼はどうするか。
おそらく、自身の誠意を伝える為に破棄する予定の遺言状を腕時計と共に渉に譲ったに違いない。
その折に、金庫の中に新しい遺言状が仕舞われていることも明かしたのではないか。

この際、渉はある計画を思いついた。

郷古勝一郎は物忘れが激しく金庫の番号を上着に入れた手帳に控えていた。
渉はわざと勝一郎の上着にコーヒーを零しクリーニングに出すとの口実を作ると、上着から手帳の中身を盗み見たのだろう。
そして、事前に書斎の部屋へ忍び込む手筈を整えると決行したのだ。

では、これに本橋次席はどう絡むのか?
此処で一事不再理だ。

渉が問われた罪は窃盗と家宅侵入だ。
罪は重い物により裁かれる。
この場合は窃盗罪で起訴されることになる。
だが、腕時計は盗んだ物ではないとして無罪となった。

此の時点で家宅侵入も罪に問えなくなるのである。
当然、遺言状の摩り替えについても罪に問えない。

渉は一事不再理を勝ち取る為に一度は起訴される必要があった。
其処で本橋を脅迫し起訴させた上で、冤罪だと指摘できる検事を公判検事にするよう求めたのだ。
これに本橋は佐方を適任としたのだろう。

真相が分かった以上、佐方は渉の罪は正当に裁かれるべきと考えた。
まず、遺言状の摩り替えだが、これについては井原に民事訴訟での無効申立てを依頼した。
次いで、刑事事件としては渉から本橋への脅迫罪を問うことに。

ところが、此処で筒井から「待った」がかかる。
筒井は「罪をすべて裁くことが必ずしも正しいとは限らない」と主張。
もしも、佐方の言う通り脅迫罪で渉を起訴すれば、本橋の娘の万引きも明らかになり傷付くとしたのである。

代わりに筒井は本橋に辞職を促すことを提案。
渉については民事訴訟により遺言状が無効になった時点で狙いが果たせなくなるだろうと告げる。

筒井によれば、渉の動機にも見当が付くと言う。
そもそも、渉が本当に認知して欲しいだけならば、こんな回りくどいことをする必要は無かったのだ。
それこそDNA鑑定による真っ向勝負でも充分であった。

では、渉の動機は何か。
おそらく父を亡くすと知り、急に寂しくなったのだろう。
そして、父親から息子として認めて貰いたいと考えた。
だから、渉からの申し出ではなく勝一郎からの認知が必要だったのだ。

これを聞いた佐方は自身の渉の心情を慮ると共に、自身の視野の狭さを恥じた。
佐方は筒井の意見に従うことに。

そんな佐方を筒井は飲みに誘う。
もちろん、増田も一緒である。

佐方は筒井への尊敬の念を新たにした。
そして、増田はそんな佐方のもとで働けることに満足していた―――エンド。

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【佐方シリーズ】
『最後の証人』(柚月裕子著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)

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【その他】
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【ドラマ版】
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