ネタバレあります、注意!!
<あらすじ>
2015年 第13回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作 選考委員も驚いた!
教室内で起きた激しい権力闘争は、やがて予想もできないラストへ!
二度読み必至!伏線の張りめぐらされた学園ミステリー。
片田舎の小学校に、東京から美しい転校生・エリカがやってきた。エリカは、クラスの“女王”として君臨していたマキの座を脅かすようになり、クラスメイトたちを巻き込んで、教室内で激しい権力闘争を引き起こす。スクール・カーストのパワーバランスは崩れ、物語は背筋も凍る、驚愕の展開に――。伏線が張りめぐらされた、少女たちの残酷で切ない学園ミステリー。
(宝島社公式HPより)
<感想>
第13回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。
「第一部 子供たち」「第二部 教師」「第三部 真相」の3章から成り立っている長編作品。
なお、同回の優秀賞には辻堂ゆめ先生『いなくなった私へ(受賞時タイトル「夢のトビラは泉の中に」改題)』、神家正成先生『深山の桜』がある。
・第13回「このミステリーがすごい!」大賞が決定!!栄冠は『女王はかえらない』に輝く!!
ちなみに作者である降田天先生は鮎川颯先生と萩野瑛先生の二人からなる作家ユニット名。
お2人は早稲田大学の同級生で共に30代の方、プロットを萩野先生が、執筆を鮎川先生が担当されているそうです。
そして、萩野先生と鮎川先生は「降田天」名義以外にも「鮎川はぎの」と「高瀬ゆのか」2つのユニット名で活躍中。
まず「鮎川はぎの」名義では「聖グリセルダ学院シリーズ」などライトノベル系作品を、続いて「高瀬ゆのか」名義にて漫画や映画のノベライズ作品(『今日、恋をはじめます』『花にけだものシリーズ』)を世に送り出しています。
つまり、既にプロとして活躍されている方です。
そんな本作『女王はかえらない』。
これは……ミステリとしてかなり完成度の高い作品との印象。
トリックとしては○○トリックなのですが、章立て(第一部から第三部)がきちんと意味を持っている点が素晴らしい。
此処から敢えてネタバレしてしまうが……。
この先で本作のトリックについて触れています、注意!!
普通の読者は第三部に至るまで視点人物が次のように変更しているように思う筈だ。
第一部:ぼく(オッサン)
第二部:真琴
第二部まででは生徒視点と教師視点で成立しているように見える。
ところが、第三部にてオッサン=大崎真琴であることが分かる。
そう、本作では時間こそ経過しているが視点人物は大崎真琴で一貫しているのだ。
これが何を意味するか―――本作は「大崎真琴」が主人公なのである。
同時に「ぼく(オッサン)」が女性になったことで「メグ」の性別が反転することに。
それにより「メグがマキの机にしていたこと」の意味合いも変わって来る。
結果、「ホワイダニット」も浮上して来るのである。
この構成が上手い。
さらにタイトル『女王はかえらない』のトリプルミーニング。
それは「(生きて)帰らない」であり「(女王の座に)返らない」であり「(卵が)孵らない」でもある。
是非、本作をご覧頂きこの意味について考えて欲しい。
ちなみにネタバレあらすじはまとめ易いように改変しています。
興味をお持ちの方は本作をお読みになることをオススメします。
<ネタバレあらすじ>
・第一部 子どもたち
「元気いっぱい 夢いっぱい
ぼくらのクラスはナンバーワン」
こんな学級歌がある針山小学校3年1組には1人の女王が君臨していた―――その名は「マキ」。
マキには誰も歯向かえない。
それは「通称・オッサン」こと「僕」も同じだ。
マキは何者にも縛られないクラスの女王、彼女の言葉はクラスの総意。
皆、彼女に気にいられようと必死だった。
そんなある日、クラスに転校生がやって来る。
彼女は「エリカ」。
彼女もまた「マキ」同様に女王の風格を漂わせる少女であった。
早速、クラスはマキとエリカに派閥が分かれ争うことに。
だが、この勝負はエリカの勝利に終わる。
エリカは新女王となり、マキは敗者として虐げられ始めた。
そんな中、僕は恋心を抱いていたメグがマキの机に何かをしているところを目撃する。
翌朝、机の上に書かれた落書きを目にしたマキは逆上する。
しかし、誰も彼女に助けようとはしない。
マキはエリカや裏切ったクラスメートたちへの憎しみを募らせる。
やがて、積もりに積もった鬱憤が爆発。
エリカとマキが掴み合いの喧嘩を始めることに。
周囲がその迫力に怯える中、メグが2人の間に飛び込む。
と、同時にエリカとマキが転落した。
そして、僕は驚愕の光景を目にする。
死亡したエリカと、そんなエリカを嘲笑うマキの姿を―――第一部了。
・第二部 教師
真琴は教師である。
夫・雅史との仲は良好だが、未だ子供に恵まれていなかった。
そんなある日、担任していたクラスの生徒である鈴木絵梨佳が行方不明になる。
森園真希や雪野めぐみは何かを知っているようなのだが……。
数日後、真希に伴われためぐみが真琴のもとを訪れる。
彼女は絵梨佳行方不明の真相を知っていたのだ。
めぐみが打ち明けた内容は意外なものであった。
絵梨佳はSNSで知り合った人物と遊びに出かけたところ、戻って来なかったそうなのである。
この情報をもとに調べたところ、監禁された絵梨佳が救出される。
もっと早く訴えていれば……と後悔するめぐみ。
そんなめぐみを必死に庇う真希。
これを見ていた真琴は自身らの罪に恐れ戦く―――第二部了。
・第三部 真相
真琴はあの日の出来事を振り返っていた。
自身らが3年1組の生徒であった頃の出来事を。
真琴の苗字は大崎。
当時、「オッサン」と呼ばれ「僕」を名乗っていたのは彼女である。
そして、その夫・雅史。
今でこそ婿入りして大崎雅史だが、旧姓は恵雅史。
彼こそが「メグ」であった。
あの日、エリカが転落死した。
マキはこれを嘲笑うと裏切ったクラスメートたちを再び支配しようとした。
これに「僕」が反発した。
地面に落ちていた石を拾い上げると学級歌を口ずさんだ。
それがクラスの仲間に波及した。
彼らは女王に反旗を翻したのだ。
それは革命であった。
「元気いっぱい 夢いっぱい
ぼくらのクラスはナンバーワン」
歌が響く中、クラスメートに囲まれたマキは石で殴りつけられ絶命した。
真琴たちの目の前にはエリカとマキの死体。
真琴たちはそれをウシガエルが合唱する沼に沈めた。
2人の少女の行方不明事件は大騒ぎになったが、クラスメート全員が沈黙を保ったことで真相は闇の中となった。
当時のクラスメートはあのときの真琴の行動がクラスを救う為の物だと今も信じている。
だが、事実は違う。
あのとき、真琴はただマキを殺すことだけを考えていた。
真琴はメグ(雅史)を愛していた。
彼を手に入れる為にマキを殺す必要があったからだ。
真琴が目撃したマキの机に行っていたメグの行為とは……抱擁であった。
メグはマキに好意を寄せていたのだ。
これを知った真琴はエリカを利用しマキを攻撃させた。
マキの机の上の落書きも真琴の仕業だ。
こうして、クラスのムードをマキ排除へと向けた。
ところが、これが成功すればするほどメグはマキへの好意を深めた。
遂にはマキを救うべく、メグは喧嘩の仲裁を装いつつエリカを突き飛ばしたのだ。
マキまでもが転落したのはメグの誤算だっただろう。
真琴はマキを殺さなければメグの心が手に入らないと確信した。
そして、実行に移したのだ。
メグ―――雅史はこのことを知っている。
彼は真琴の行為を知った上で、殺人者として共に秘密の鎖で繋がれることを選んだ。
それは彼の真琴への罰なのかもしれない。
真琴の耳にあの日、沼に響き渡っていたウシガエルの鳴き声が甦る。
オタマジャクシはやがて孵化しカエルとなる。
真琴と雅史は子供を作らない。
作れないのではない、作らないのだ。
それこそが彼らの贖罪なのである。
何しろ、女王はもう孵らないのだから―――エンド。
◆「このミステリーがすごい!」関連過去記事
【第13回】
・『いなくなった私へ』(辻堂ゆめ著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
【第11回】
・『生存者ゼロ』(安生正著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
【第10回】
・『弁護士探偵物語 天使の分け前』(法坂一広著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『僕はお父さんを訴えます』(友井羊著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『Sのための覚え書き かごめ荘連続殺人事件』(矢樹純著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『保健室の先生は迷探偵!?』(篠原昌裕著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』(岡崎琢磨著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『公開処刑人 森のくまさん』(堀内公太郎著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
【第9回】
・「完全なる首長竜の日」(乾緑郎著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「ラブ・ケミストリー」(喜多喜久著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・「ある少女にまつわる殺人の告白」(佐藤青南著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
【第8回】
・「さよならドビュッシー」(中山七里著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
・『死亡フラグが立ちました!』(七尾与史著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
【第7回】
・「臨床真理」(柚月裕子著、宝島社刊)ネタバレ書評(レビュー)
【その他】
・第13回「このミステリーがすごい!」大賞が決定!!栄冠は『女王はかえらない』に輝く!!
・第12回「このミステリーがすごい!」大賞が決定!!栄冠は『警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官(仮)』と『一千兆円の身代金(仮)』の2作に!!
・第11回「このミステリーがすごい!」大賞が決定!!栄冠は『生存者ゼロ(仮)』に!!
・第10回「このミステリーがすごい!」大賞が決定!!栄冠は「懲戒弁護士」に
・第9回「このミステリーがすごい!」大賞が決定!!栄冠は「完全なる首長竜の日」に
・2012年(2011年発売)ミステリ書籍ランキングまとめ!!
・2011年ミステリ書籍ランキングまとめ!!
・2010年ミステリ書籍ランキングまとめ!!
◆「このミステリーがすごい!」関連書籍はこちら。
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- 『陰の季節』(横山秀夫著、文藝春秋社刊『陰の季節』収録)
歯噛みをするくらい胸が痛くなり、自分が過去にあったいじめや耐えられないくらいな短くも永い時間を思い出し、何度も読み返しました。
教室という小さな嵐の中を生き抜くのはとてもエネルギーが要るものですし、やり過ごす程狡猾に生きれない。ジレンマの繰り返しです。
きっとまだ繰り返し読むと思います。
こんばんわ!!
管理人の“俺”です(^O^)/!!
本作は作品自体に仕掛けられたサプライズもさるものながら、描かれた内容もかなりセンセーショナルでしたね。
特にご指摘の通り、教室という一種の閉鎖空間における描写は生々しささえありました。
其処には1つの世界が広がり、その世界特有の法が優先される。
その法は時に「教室の女王」であり、時に「集団」だったりする。
さらに本作では、1つの教室を構成する様々な立場の人物が登場しています。
これにより読者がそれぞれの立場から作品世界に挑むことが出来たのも、印象的な作品となっている一因なのかもしれません。
此の点でも再読に耐え得る作品だと思います。